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382、王都シリウス 〜王立植物研究所

「ヴァン、起きなさい。ゼクトさんが来てるよ」


 食卓の近くのソファで仮眠していると、フラン様の声が聞こえた。まだ、ほとんど寝た気がしない。


「う〜、はいぃ……」


 重い身体を引きずるようにして起き上が……れない。


 バチッと目を開けると、僕の腹や胸の上には、白いプヨンプヨンした奴らが……。


「ふ、フラン様、起き上がれ……ません」


「うん? 重くなったのかな?」


 覗きに来て、ケラケラと笑ったのに……彼女は助けてくれない。寝返りもうてない絶妙な乗っかり方をする竜神様の子達……。はぁ、退いてくれよ。



「おい、ヴァン、起きろって言われただろ。さっさと、レモネ家に行くぞ。あぁ? おまえ、何やってんだ?」


「ゼクトさん、絶妙に乗っかられていて動けないんです」


「は? ぶっ飛ばせばいいだろう?」


「ダメですよ。最近は、この子達が拗ねると、しつこいんです」


 するとゼクトさんは呆れ顔で、ポイポイと白い不思議な生き物を床に放り投げてくれた。


 竜神様の子達は、その勢いのまま、ポヨンポヨンと跳ねているけど、眠っているらしい。


「あん? なんか、コイツら変わったか?」


「えーっと、重くなりましたけど……」


 ゼクトさんは、しばらくジッと見ていたけど、まぁいいかと首を傾げ、僕をソファから強制的に引っ張りだした。


「じゃあ、フラン。こいつ、借りていくぜ」


「ヴァン、ごはんは?」


「おまえ、過保護な母親かよ。まぁ、テキトーに餌やりはしておいてやる」


「ちょっと、ゼクトさん! あなたねー」


 ゼクトさんが彼女をからかっている。でも、神官様は、からかわれていることに気づかないんだよな。


「フラン様、本気にしなくていいですよ。ゼクトさんの言葉は、半分は冗談ですから」


「ヴァン、あなたねー、もう少し自覚を持ちなさいよ? 餌やりとか言われてヘラヘラしてどうするの!」


 なぜ、叱られる?


「はぁ、もう、いちゃこらすんなよ。ヴァン、間抜けなオールスが珍しく起きて待ってる。行くぞ」


「あぁ、はい」


 ゼクトさんは僕の腕をつかむと、転移魔法を唱えた。



 ◇◇◇



「あれ? ここはどこですか?」


 レモネ家の屋敷に行くのかと思っていたら、見たことのない整えられた庭園のような場所だ。


「ここは、王都にある、なんちゃら学校だ」


「えっ? 王都? レモネ家に行くぞって……」


「それは、フランが居たからだろーが。本当の行き先を言ったら、また、グダグダ言われるじゃねぇか」


 ゼクトさんは、庭園のような場所を歩いていく。学校というイメージではない。どこまでも広く、美しく整えられた公園?


 少し移動すると、白い屋根の建物が見えていた。だけど壁は、土壁や木ではない。透明なガラスでできているように見える。


 そのため、建物の中が丸見えだ。


 建物の中には、たくさんの植物が植えられているようだ。植物園という感じだろうか。


 天井は、非常に高そうだ。背の高い植物に配慮されているようだ。壁が透明なのは、日光を取り込むためなのかもしれないな。



 ゼクトさんは、その建物の中へと入っていく。


 僕もついていくと、ムワッとする湿気に驚いた。この湿度を保つために、こんな建物を作ってあるのだろうか。


 扉を閉めると、外の音が全く聞こえなくなった。防音バリアか結界を張ってあるのかもしれない。


 ゼクトさんは、さらにズンズンと奥へ歩いていく。


 まるで、熱帯の樹林に迷い込んだかのような感覚になってくる。上を見上げなければ、ここが建物の中だということを忘れてしまいそうだ。


 しかし、静かだな。そういう結界なのだろうか。なんだか、方向感覚も狂ってくる。



 草が生い茂る先には、不思議な色の池があった。見る角度によって色が変わるようだ。強いマナを感じる。


 ゼクトさんは、その池にかかる橋を渡り……フッと消えた。


 えっ!? どこへ行ったんだ?


 僕も焦って、橋を渡ると、途中でストンと落下するような感覚を感じた。



「痛っ!」


 僕は、穴に落ちたらしい。お尻を強打し……うん?



「あはは、ヴァン、何をやってる? 道化師スキルを発動中なのか?」


 声のした方を見ると、元ギルマスのオールスさんがいた。両足はまだダメだけど、右腕はすっかり元通りのようだ。思いっきり手を振ってくれている。



「あぁ、ギルマス。えーっと、ゼクトさんは?」


「狂人は、あっちにいるぜ。回収を頼まれていたキタナイ何かを持っているよ。あぁ、一応、近寄らない方がいいぜ」


 昨夜、浅い地下水脈で見つけた容器か。見たことのない人達と、話をしているようだ。


「あの、ここって、王都のどこですか」


「何も聞いてないのか。ここは、王立植物研究所、簡単に言えば植物学者の実験施設だな。レモネ家の当主ビンセントが所長をしているよ」


「へぇ、ゼクトさんからは、レモネ家に行くぞとしか聞いてなくて……」


「まぁ、ここは、一般人は立入禁止だからな。植物大学の研究者か学者貴族しかいないぜ」


 だからゼクトさんは、なんちゃら大学って言ってたのか。



「ギルマス、ここで何を?」


「一応、表向きには、バカでかい桃についての参考人として、俺達は招かれている。だが集められた理由は、地下水脈の件だ」


 表向き? ということは、ここにはコッソリ来ているということか。誰かにバレないように……。


「もしかして、王宮のあの人を避けるために?」


「プハハ、そうそう。あの坊やは、この施設が嫌いだからな。精霊を完全に排除した植物の実験施設だから、絶対に近寄ってこない。まぁ、何かあれば、連絡はすぐに回るだろうがな」


「あっ、精霊がいないから、建物内は静かだったんですね。そういう結界かと思っていました」


「は? 特別、静かだとは思わなかったが……ふぅん、ヴァンは、普段から騒がしい中にいるようだな。精霊や妖精が騒がしいのか」


「そうかもしれません。なんだか、変な感覚でしたよ」




 話を終えたのか、ゼクトさんがこちらに近寄ってきた。数人の見知らぬ人がいる。少し遅れて、レモネ家の旦那様も、こちらへ向かってきた。


「間抜けなオールス、ヴァンに餌やりをしてくれたか?」


 ちょ、ゼクトさん。


「あぁ? そんなこと、聞いてねーぞ。飯なら、こんな地下じゃなくて、美味い飯屋に行こうぜ」


 二人は、いつも通りだな。だけど、見知らぬ人達は、今にもぶっ倒れそうな、ひどい顔をしている。



「ヴァン・ドゥさん、初めまして。私は、ファスト家に生まれたケール・ロッシと申します。植物大学で学長をしております」


 一瞬、僕に挨拶されたとは気づかなかった。ドゥ家の名をつけて呼ばれるのは、まだ慣れない。


「初めまして。普通にヴァンで大丈夫です。学長さんは、ファスト家から、ロッシ家に入られたのですね」


 家の名前を言う相手には、必ず、その話題を振るようにと、マルクから教えられている。


「はい。私は、ファスト家の当主の弟に当たります。古代魔導系のファスト家も、他の貴族と同様に政略結婚をさせますのでね。なぜ商人貴族のロッシ家に入った者が、植物大学の学長をしているのかと、不思議に思われたでしょう?」


 興味はないんだけどな……。


「そうですね。ロッシ家と聞き、ちょっと耳を疑いました」


 僕がそう答えると、学長さんは満足そうに頷いている。


「貴族とは、実にくだらんものですよ。私は純粋に学問に惹かれ、そして植物学の奥深さを知り……」


「あー、もうわかったから、本題に入れや。ヴァンが腹減りで倒れてしまうぞ」


 ゼクトさんが、彼の話をぶった切ってくれた。キッと睨まれても、ゼクトさんは涼しい顔だ。



 すると、レモネ家の旦那様が口を開く。


「ヴァンさん、昨夜の件は、ゼクトさんから伺いました。商人貴族間のドロドロとした争いもあるのです。


 そういえば、あの管は、ファスト家の分家にあたる商人貴族の屋敷の地下にあるんだよな。学長さんの屋敷なのだろうか。


「もしかして、学長さんのロッシ家は、自由の町デネブに屋敷がありますか?」


 つい、直球で尋ねてしまった。


「ヴァン、それはロッシ家ではない。ファスト家の分家だ」


 ゼクトさんがそう言うと、学長さんは、目を見開いている。知らなかったのか。


「デネブにあるファスト家の分家は、私の娘の……」


 学長さんは、すべての話が繋がったのか、顔を手で覆っている。


 もしかして、僕は失言をしてしまったのでは?


 ゼクトさんがニヤニヤしている。失言というか、僕が思わずバラしてしまうことを想定していたのか?



「地下室に、浅い地下水脈と深い地下水脈を繋ぐ管が埋めてあるのを確認した。ストロング家の地下室だ」



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