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380、自由の町デネブ 〜雷獣のチカラ

 白く輝く一角獣は、竜神様の子達を背に乗せ、精霊の森の中を歩いていく。少し離れても、一角獣が淡く輝いているから、暗い夜でもよく見える。


 ゼクトさんは、彼らの散歩を、目を輝かせてジーッと見ているようだ。なんだか少年のような顔をしている。


 さっきゼクトさんは、一角獣が光の中から生まれるのを初めて見たと言っていた。しかも、竜神様の子達がつくりだしたんだ。この一角獣は、竜神様の眷属けんぞくのひとつ、雷獣らしい。


「キュ〜ッ!」


「キュキュ〜」


 竜神様の子達の言葉は、僕にはわからないけど、一角獣が進む方向を指示しているみたいだ。精霊の森の中を、精霊や妖精達に見せびらかすかのように、歩いていく。


 ゼクトさんは、一角獣を雷獣だと言うけど、頭に大きな角があって神秘的に白く輝く姿から、僕には雷獣だとは思えない。


 僕のイメージの雷獣は、雷撃で辺りを焼き払う、怒りに狂った獣だ。背で楽しそうにポヨンポヨンと飛び跳ねる子が落ちないように、ゆっくりと静かに歩く姿は、あまりにも印象が違う。




 精霊の森の散歩が終わったのか、竜神様の子達を乗せた一角獣は、僕達の方へと戻ってきた。


「キュ〜ッ!」


 白い不思議な奴らは、一角獣の背から飛び跳ね、僕にダイブしてくる。1体ならまだしも、3体が同時に飛び込んでくるんだから、僕は、受け止めきれない。


 当然、勢いよく尻もちをつく。


「もうっ! 楽しいのはわかったから、みんな一緒に飛び込んでこないでよ。重いんだからね」


「キュ〜キュキュー」


 僕が転んだことが楽しいのか、僕の腹の上でポヨンポヨンと飛び跳ねる。地味に苦しいんだけど……。



『はわわわ、我が王が、お腹ゲフゲフでございますですよ〜』


 泥ネズミのリーダーくんが、竜神様の子達を叱ってくれているけど、全く伝わっていない。はぁ、もう仕方ないな。


 でも、僕がガツンと叱ると、言うことを聞くけど、拗ねるんだよな……。僕が甘やかしすぎたんだと思う。ブラビィの悪影響かもしれないけど。



 ふと、竜神様の子達の動きが止まった。僕の腹の上で、何かをジッと見ている。


 僕は、その隙に起き上がり、白い奴らを腕の中に捕獲した。だけど、いつものように嬉しそうにゴソゴソしない。ジッと何かを見ている。


 その視線の先には、何もないんだけどな。




「ヴァン、この辺の浅い地下水脈を浄化したからか、あっちの井戸から出てきたみたいだぜ」


 ゼクトさんは、貴族の別邸が並ぶ山側の方を見ているようだ。出てきたって、悪霊? おかしいな……僕は精霊師なのに、なぜ?


「僕には、見えないんですけど」


「だろうな。おまえは影の住人が見えないからな」


「えっ? ボックス山脈の……」


 以前、マルクと一緒にボックス山脈で遭遇した、異界の番人や神の使いと言われる巨大な奴らを思い出した。


 それと同時に、魔法袋が引き裂かれるんじゃないかという恐怖を感じた。魔法袋は、異界から見えるらしい。引き裂かれ、中身が異界に落ちたら、せっかく集めた超薬草が……。



「ボックス山脈だけにしか、接点はなかったはずだが、あの大きさなら、北の大陸から自由に出入りできるらしいな」


 あっ、井戸から出てきたって言ったっけ。ボックス山脈で遭遇した奴らは、木々の何倍かの大きさがあったから、異界の番人ではないんだ。


「ゼクトさん、小さな人なんですか」


「人ではない。影の世界にいる蟲のようだ。こっちの世界を漂う悪霊に惹かれて来たみたいだが……なるほどな」


 ゼクトさんは、険しい表情で、何かを納得したみたいだ。僕には、さっぱりわからない。



「ヴァン、やはり、ベーレン家だ。だから、ノレアの坊やは、冒険者を北の大陸に近寄らせないんだ」


「えっ? ベーレン家? もう、かなり縮小されて……」


 北の大陸をつくり、漁師町を襲った人達は、竜神様が海に沈めたから、悪霊になったりはしない。


「あの蟲は、ベーレン家が創り出したものと似ている。竜神が、おまえらに北の大陸を何とかしろと言ったのは、アレの存在に気づいていたからだ」


「漁師町が襲われる前のことですか?」


「あぁ、漁師町を襲った奴らは、竜神が始末したんだろ。悪霊になったり、ましてや影の住人にはならない。それ以前に、殺されたベーレン家だ」


 僕には、正確な情報は伝わってこないけど、各地で、堕ちた神獣ゲナードによって影響を受けた人達は、いろいろな形で大勢が命を落とした。


「以前に殺されたレピュール……」


「マナが汚れる原因がはっきりしたな。悪霊が汚しているにしては、おかしいと思っていた。ノレアの坊やは、王宮の神殿教会の神官達を、北の大陸に派遣している。悪霊だけなら、とっくに制圧できているはずだ」


 確かに、そうだ。時間がかかりすぎている。もう、あれから半年くらい経過したのに。



「じゃあ、もしかして、深い地下水脈には、大量の異界の蟲が入り込んでいるのでしょうか」


「わからん。もう、何がなんだか、俺にはお手上げだ」


 ゼクトさんが、悔しそうに地面を蹴った。その彼の行動で、僕は、嫌な汗が流れる。ゼクトさんがお手上げだなんて……。



 あれ? この町で普通に利用される浅い地下水脈へ、あの悪霊は、どこから入ったんだ? 北の海には、深い地下水脈しかない。北の海には、悪霊が集まるというけど……。


 僕は、一角獣に視線を移す。


 巨大すぎる桃の、悪霊ホイホイに捕獲されていたけど、チカラの強い悪霊だ。その素性は、流行病で死んだ魔導系の貴族。だけど、本人の怨みで悪霊になったのではなく、残した家族がミイラ化した遺体に術を使ったらしい。


 奴は、操られてこの町を害する目的で、浅い地下水脈を漂っていた。一体、どこから、浅い地下水脈に入ったんだ? 



「キュ〜ッ!!!」


 僕の足元にいた竜神様の子が、叫んだ。


 その直後、ゼクトさんは、閃光弾を使った。異界を照らす閃光弾だ。


 うわぁ……。


「チッ! お気楽うさぎ、何とかしろ!」


 ゼクトさんが叫んだ。でも、ブラビィは、動かない。動けないのか?


「バカか、オレがやる必要ねーだろ」


「ちょ、ブラビィ!」


 黒い兎は、素知らぬフリだ。


「ブラビィ、命令だよ、町を埋め尽くしている蟲を……」


「おまえ、よく見ろ」


 僕は、怒りを感じつつ、ブラビィが指差し方に視線を移すと……えっ? どういうこと?



「キュ〜ッ! キュッキュキュ〜!」


 一角獣が、半透明になっている。そして……。


 一本角から、閃光弾の明かりの何倍も強い光が、異界に、ほとばしる。


 音は聞こえない。


 だけど、とんでもない威力の雷撃だ。町の空を覆い尽くしていた蟲の大群が、跡形もなく消え失せている。


「キュ〜ッ」


 竜神様の子が何か言うと、一角獣の色は元に戻った。もう半透明ではない。白い淡く輝いている。




「雷獣……やべぇな」


 ゼクトさんは、半笑いで呟いた。


「や、やばいですね。おとなしい一角獣なのに……」


 白い不思議な子達は、ポヨンポヨンと一角獣に近寄っていき、また、背に飛び乗ったり、飛び跳ねたりしている。


「アイツらが命じたみたいだな。蟲の駆除」


 ゼクトさんも、言葉はわからないはずだけど、うん、それしか考えられない。



 僕は、また、頭がチカチカしてきた。


 こんな強烈な眷属けんぞくを従える竜神様の子達……。僕は、あの子達を育てるようにと、竜神様から託された。だけど、甘やかしすぎたのか、わがまま放題だ。


 あの子達がこのチカラを、マズイ方向に使うようになったら、僕はどうすればいいんだろう。




 竜神様の子達を乗せた一角獣が近寄ってくる。一角獣は、僕の方を見ているんだよな。一応、話しかけておこうか。竜神様の子達は、僕の言葉を理解する。きっと、僕の言葉を伝えるだろう。


「雷獣さん、ありがとう。助かったよ」


「たいしたことは、していません」


 しゃべった!!


 僕だけじゃなく、ゼクトさんも驚いた顔をしている。


「雷獣さん、僕達の言葉がわかるんだね」


「当然です。私は、人間だった」


 あー、そっか。確かに当たり前だ。


「貴族だったんですよね」


 僕は、思わず言葉遣いを変えた。


「ふっ、過去のことです。それに、貴族は私を利用した。だから、この方達の申し出をありがたく受けたのです。貴方は、我が主人の父。そのような言葉遣いは、無用です」


「あー、そう、だね。雷獣さんには、聞きたいことがあるんだ」


 僕がそう言うと、一角獣は、頷いた。


「悪霊だった時の記憶はある? 操られていたみたいだけど」


「完全ではないが、覚えています」


「浅い地下水脈へは、どこから入ったの? 深い地下水脈なら悪霊がたまる北の大陸から入れるようだけど」



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