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379、自由の町デネブ 〜白く輝く一角獣

「ちょ、おまえら、何をしてくれてるんだ?」


 黒い兎が現れた。後ろ足で立ち、不機嫌そうな顔だ。まぁ、いつもブラビィは、不機嫌そうにしているけど。


『たたた大変なのでございますですよ〜』


 泥ネズミのリーダーくんは、お気楽うさぎから逃げるように、僕の足元に隠れている。なんだか、リーダーくんがやらかしたみたいに見えるよな。


「ブラビィ、これって、悪霊ホイホイなの?」


「は? 何だそれ?」


 あれ? ブラビィが命名したんじゃないのか。それなら、下手なことは言わない方がいいな。どうせ、僕の頭の中を覗いてるんだろうけど。


「今、ゼクトさんと追っていた地下水脈に潜んでいた悪霊が、教会の井戸から地上に上がってさ〜」


「チッ! 悪霊がオレの桃を真っ黒にしたのか」


「ブラビィ、これってどういう状態?」


「あぁ? 究極の多重ルートの迷路を作っていたのに、悪霊が、桃に喰われてるぞ。せっかくの迷路がパァだぜ」


 なるほど、この穴ぼこは迷路になっていたのか。だけど、ブラビィの闇のオーラを桃が吸収して、だんだん穴が塞がるみたいだけど?


 リーダーくん達が、何かの役割を果たしていたのかもしれないな。穴ぼこを維持しろとでも、ブラビィから命じられていたのかもしれない。



 すると、ゼクトさんが魔法袋から、新しい巨大な桃のエリクサーを取り出した。


「ヴァン、これを渡してやれ」


「あ、はい、ありがとうございます。ブラビィ、これで、新たに……あっ」


 僕の言葉を待たずに、黒い兎は、僕から巨大すぎる桃を奪っていく。なんだか、桃がぴょんぴょんと飛び跳ねていくように見えるんだよね。


 そして、僕達から離れた場所に桃を置くと、ぴょんぴょんと戻ってくる。



「この悪霊は、どうするんだ? コイツは、この町を害する目的で来てるぜ」


 お気楽うさぎが、僕ではなくゼクトさんにそう言った。


「誰かが命じているのか?」


「ふん、おまえ、悪霊が命令に従うとでも思ってるのか? あぁ、伝説のハンターのくせに、悪霊ハンターのスキルは低いらしいな」


 ブラビィは、人間のスキルが見えているのだろうか? 


 元闇属性の偽神獣だし、討たれて悪霊化したから、どんな能力があるか、僕にもわからない。今は、黒い天兎、堕天使だから、天兎のチカラも備わっている。


「俺は、神官家系の血が邪魔して、悪霊ハンターは極められねぇんだよ。極めていれば、おまえを消滅させられたかもしれねぇがな」


 ゼクトさんも、負けてないんだよな。でも二人は、意外に気が合うみたいなんだけど。


「ふん、狂人、オレを誰だと思ってるんだ?」


 また、狂人って言ってる。


「ちょっと、ブラビィ! ゼクトさんのことをそんな風に呼んじゃダメって言ったよね?」


「あぁ? 忘れた」


「じゃあ、もう一度言うよ。ゼクトさんは僕の恩人なんだ。狂人なんて呼んじゃダメだからな」


「それは命令か?」


「命令だよ!」


「チッ! 御意」


 あっ、引き下がった。まぁ、命令かと尋ねてきた時点で引き下がる気だったのかな。



 泥ネズミ達は、オロオロして、僕達の様子を見ている。竜人様の子達は……退屈で、寝ちゃったみたいだな。


 ゼクトさんは、ククッと笑いながら、口を開く。



「おい、ブラビィ、コイツはなぜ、この町を害するつもりで来たんだ? 誰かに命じられたわけじゃないなら……」


「は? きょ……フン! おまえ、バカだろ。命じても動かねーが、悪霊なんて簡単に誘導できる。コイツくらいの力のある悪霊は、多少の知能もあるからな」


 ブラビィは、狂人って言わないように踏ん張っている。だけど、これ、いつまで続くかな? まぁ、仕方ないか。


「王都絡みだな?」


「あぁ、人間の個体名は知らねーけど、王都に屋敷があって、ここに屋敷のない魔導系の貴族だ。北の海から王都まで行かなくても、その手前に、もっといい場所があると教えたらしいな」


「ふん、やはり、そうか。流行病が見つかったばかりの頃に、治療方法がわからずに、貴族が何人かミイラ化して死んでいる。その死んだ奴らが悪霊化して、北の海から、仲間を連れてきたってことか」


 ゼクトさんは、地下水脈に潜る前から、わかっていたみたいに話している。事前に、掴んだ情報の証拠集めのために、地下水脈を歩いたのか。


 僕は、いきなり今日、ゼクトさんに助っ人を頼まれたから、何も聞いていなかったけど。


「死人が導いたわけじゃねーだろ。ミイラ化したからって、怨みを持つとは限らないからな。今、生きている人間が、ミイラに術を使ったみてーだな」


「ふん、生きている人間の方が、悪霊だな。この町で、桃のエリクサーを配っていることに苛立っているのか」


 ゼクトさんの言葉に、ブラビィは頷いている。


 家族を救えなかった貴族の逆恨みってことか。だけど、そもそも、禁じられている深い地下水脈から水を汲み上げていたことが、原因だ。


 その深い地下水脈の汚れの原因は、北の大陸にあるわけだけど……。それを、まだ解決できない王宮の神殿教会にこそ、責任があるんじゃないか。


 ノレア神父が、すべての冒険者に助けを求めれば……少なくとも、僕達に対するおかしな意地を捨ててくれたら……。


 きっと、まだ、ノレア神父が関わっていることを、王都の中堅以下の貴族は知らないんだ。もう数ヶ月経つのに、状況は、悪化するばかりじゃないか。



「コイツは、自分が桃に吸収されるとわかると、王都に戻りたがっている。ミイラにかけた術が、桃に喰われて消えたんだろ」


 ブラビィは、ぽつんとそんなことを言った。これは、この悪霊を助けてやれと言ってるんだよね。



「ふん、このまま放っておけば、朝には、桃がマナを分解吸収し尽くして、悪霊は消滅するはずだけどな」


 ゼクトさんは、そう言うと、手から淡い光を放った。すると、辺りに甘い香りだけを残して、桃がパッと弾けるように消え去った。


 そして、桃に喰われていた悪霊だけが、淡い光の中に浮かんでいる。


 スーッと淡い光を吸収し、悪霊の色が変わっていく。


「さぁ、どうなるかな?」


 ゼクトさんは、興味深そうにその光を見つめている。


「ゼクトさん、何をしたんですか?」


「あぁ? 桃のマナを自由に使えるようにしてやったんだ。このまま天に昇るか、この地に残るかは、コイツ次第だな」


 すごい、それって、何のスキルなんだろう? きっとレア技能だよな。ゼクトさんは、一体いくつのレア技能を持ってるんだろう。



「キュッ!」


「キュ〜キュキュッ」


 あれ? 寝ていたはずの竜神様の子達が、ポヨンポヨンと近寄ってきた。


「キューッ!?」


「キュキュ〜キュッ」


 淡い光に向かって、何か言っているみたいだ。全然、何を言っているのかわからない。



『我が王! はわわわわ』


 リーダーくんが、僕の足元で、何か慌てている。泥ネズミ達は、竜神様の子達の言葉がわかるんだよね?


 ブラビィも当然わかっているはずだ。だけど、ただジッと見ているだけだ。干渉しないようにしているのかもしれない。



「ヴァン、こいつら、何と言ってるんだ?」


 ゼクトさんは、竜神様の子達の言葉がわからないんだよね。


「僕にもわからないです。リーダーくんも、慌てているみたいで」


「ふぅん、なんか、面白いことになりそうな予感がするけどな。天に昇ろうとしていた悪霊が、思いとどまったらしい。竜神の子に何か言われて、動きが変わったぜ」


「えっ? この子達が、天に昇る邪魔をしているのですか」


 ゼクトさんは、ニヤッと笑った。肯定なんだよな。


 そんな、邪魔をして……だけど、リーダーくんが何か言おうとしたのをブラビィが制した。


 何が起こってるんだ?



「キュッ!」


「キュ〜ッ」


「キュキュキュキュキュキュ〜ッ」


 白い不思議な魔物達が、淡い光を攻撃している? 


 淡い光は、竜神様の子達から放たれた雷撃みたいなピリピリに包まれ、強く輝き始めている。


 そして……。


 光が収まると、そこには、白く輝く一角獣がいた。


「キュ〜ッ!」


「キュー」


 竜神様の子達は、互いにポヨンポヨンと、ハイタッチならぬボディタッチをしている。



「これは……何?」


 僕がゼクトさんに尋ねようとすると、彼も呆然としている。ゼクトさんにもわからないこと?


「ちょ、ヴァン……」


「はい、これは何ですか」


「コイツら、赤ん坊のくせに、眷属けんぞくをつくりやがった。竜神が従える雷獣だぜ」


「えっ? 雷獣? 人間の悪霊だったのに、獣になったんですか」


「そうみたいだな。目の前で見たのは初めてだ」


 竜神様の子達は、いつの間にか、一角獣の背に飛び乗り、楽しそうに飛び跳ねている。


 僕は、頭の中が真っ白になった。



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