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373、自由の町デネブ 〜大量の買い取り

「ちょ、ちょっと、ヴァンさん?」


 僕が床にぶちまけた薬草の量に、冒険者ギルドの所長ボレロさんは、あわあわと慌てている。いや、布の上に出して欲しかったのかもしれない。


 だけど、広げられた布には、到底、収まる量ではない。


 超薬草は、ちゃんと指定された白い布の上に出したから、文句を言われる筋合いはないんだけど。



「集まっていた皆さんが、ゼクトさんをさげすむようなことばかり言うので、僕はちょっと苛立っています!」


 僕がそう言うと、ジリジリと何人かが後退りした。だけど、ほとんどの人は、やはり馬鹿にしたような表情だ。



「結局、薬草を採ってきただけで、超薬草は無いのだろう? こんなバカげた量の草を出して誤魔化すつもりか。雑草だらけじゃないか。貴重な時間を無駄にした」


 そう言って、三流薬草商人と呼ばれていた男は、僕達を睨み、そして階段を降りていった。


 雑草と薬草の見分けもできないのか? 超薬草が見極めにくいと言うなら、わかるけど、それで薬草商人なのか?



「ヴァンさん、あのですね。この量の査定となると、魔道具を利用して半日かかりますから……」


 ボレロさんが、あちこちに気遣うように視線を走らせている。なるほど、薬草以外の雑草も混ざっていると思ってるから、みんな、こんな反応なんだ。



「嘆かわしい。皆さんが買い取らない分はすべて、私が買い取らせてもらう。所長が魔道具を使う必要はない。白い布の上のものは、すべて虹花草。そして、雑草のように床に置かれたものは、すべて薬草だ。ふっふっ、苛立って、ぶちまけましたな、お兄さん」


 年配の男性がそう言うと、疑わしげな表情をしていた人達は、とたんに態度をひるがえし、ザワザワしている。


「あまりの量に驚いたな」


「さすが、狂人がいると、規格外の採取量になるのだな」


 僕達に、媚びているつもりだろうか。ゼクトさんは、慣れているのか、無表情だ。



 年配の男性は、僕達に頭を下げた。


「極級ハンター、そして、ルファス殿と薬師のお兄さん、これで助かりました。本当にありがとうございます」


 すると、ボレロさんも慌てて、頭を下げている。


「爺さん、ここに出した量は、コイツが一人で摘んだ分だ。俺は昼寝していただけだし、ルファスは、買い取りに出す気はないらしい。ドルチェ家の店で売るんだろ」


 ゼクトさんがそう言うと、年配の男性は信じられないという表情だ。まぁ、そうだよね。超薬草の群生地があるなんて、知らないもんな。


 僕は、ただ農家の技能を使って、採取しただけだ。ゼクトさんが、群生地を探し当てなければ、こんなに集められなかった。



「俺までが出すと、買い取り価格が値崩れしそうですからね。でも、ヴァン、これで全部じゃないだろ?」


 マルクは、ニヤニヤしながら、そんなことを言う。やはりマルクも、彼らの態度にムカついていたんだろうな。


 僕は、魔法袋の空き容量を確認した。ほぼ、満タンになったいたから、空き容量が、ここに出した薬草の量だ。


「ここに出した超薬草は、5キロくらいかな。薬草は150キロくらいだと思うよ」


 僕がどれだけの量を集めていたかを、マルクは知っている。


「だいたい半分だな。薬草は、俺、集めてないから、あとでヴァンから買い取らせてよ。ボックス山脈の奥地の薬草は、それだけでも売れそうだ」


 半分以上ここに出したのに、マルクは何かを煽っているのか? 慌てふためく人々の様子に冷たい視線を向けている。



「ボレロ、邪魔だから、さっさと片付けろ」


 ゼクトさんは、無表情で怒鳴った。部屋の中で怒鳴られると、ビクッとするよな。


「あー、ゼクトさん、できればこの場所で、売り先まで決めたいのですが……」


「ふん、じゃあ、この上に出すぞ」


 すると、ボレロさんは、白い布の上の超薬草を守るように、何かを被せた。


 ニヤッと笑って、ゼクトさんは、巨大すぎるオバケ桃をひとつふたつと、出していく。6つ目を出したところで、室内に空きは無くなった。


「ちょっと待ってください! ゼクトさん! 下敷きになっている薬草が潰れます! 建物の床が抜けます!」


「は? ボレロ、おまえバカじゃねぇの? 持ってみろよ」


 そう言われて、ボレロさんは、巨大な桃を持ち上げようとして、天井に放り投げてしまっている。


「うわぁあぁ! あれ?」


 床に落ちてきた巨大な桃は、ポンポンと数回飛び跳ねただけで、割れていない。まぁ、当たり前だ。果物のエリクサーは割れない。



「こ、これは?」


「ボレロ、いくらで買い取る?」


「へ? あ、ちょっとお待ちください」


 ボレロさんは、魔道具を向けた。そして、目を見開き、僕とゼクトさんを見比べるように視線をさまよわせている。


「ちょっと、成分の確認が……桃ですよね?」


「あぁ、桃だ」


「どれくらいの量で効果が発動しますか?」


「さぁ? 食ってみろよ。1個は、サンプルとして、おまえにやる」


 そう言われて、ボレロさんは一瞬、嬉しそうな表情を浮かべた。ナイフを取り出し、一口分をカットしている。


 ナイフが入ると、室内には、甘い桃の香りが広がった。うん、甘くていい匂いだ。


 ボレロさんが、ボーっとしている。カットした桃のエリクサーを食べたみたいだな。



「ヴァンさん、これは一体……」


「ちょっと事情があって作ったものです。でも、僕ひとりでは、作れません。ゼクトさんとマルクの力も必要でした。ゼクトさんなんて、作業工程で、両腕がズタズタになる怪我を負ったんですから」


 僕がそう説明すると、ゼクトさんはチッと舌打ちをしている。言ってはいけないことだったのかな。


「ゼクトさんのレア技能を複合したってことですね。強烈なレア技能は掛け合わせると、とんでもない負荷がかかります」


 ボレロさんの説明に、僕は納得した。やはり、あの地下水脈から、汚れた悪霊の混ざるマナを取り出して分解したことも、リジェネ効果を付与することができたのも、レアスキル、レア技能を掛け合わせたからだ。


 だから、奇跡の薬と、ゼクトさんは言っていたんだ。


 おそらく、僕とゼクトさん二人だけでも作れない。最後の仕上げをしたのは、マルクなんだから。



「超一流が3人揃えば、こんな奇跡の薬もできる。だが、ボレロ、これは、商業ギルドでは売るなよ。悪徳商人が買い占めるだけだ。必要とする冒険者に使わせたい」


 ゼクトさんの想いは、彼にしっかりと伝わっているようだ。ボレロさんは、大きく頷いた。



「私も、試させてもらえるかな。奇跡の薬と聞いては、黙っていられない」


 年配の男性が、ボレロさんに声をかけた。


 すると、ゼクトさんが口を開く。


「爺さんも、1個持って帰るか? 王都の極級薬師にも、これは作れないぜ」


「いや、私は、必要なときに買わせてもらう。こんな複雑なエリクサーは、初めて見た。駆け出しの冒険者には、命を守る薬となろう」


 ボレロさんから、一口大にカットした桃を受け取り、年配の男性は、口に放り込む。そして、大きく頷いた。


 この人は、何者だろう?



「ゼクトさん、買い取りは、1個金貨7枚でいかがでしょう? 一回の使用量から逆算しました。ポーションくらいの価格で、冒険者ギルドで販売したいと思います」


 ボレロさんの提示価格は、マルクが言っていた価格と同じだ。マルクも、小さくカットして、ポーションの価格くらいで、ドルチェ家の店に並べるつもりだもんな。


「あぁ、構わない。今回の報酬の中に加えて、三等分してくれ」


「わかりました」


「あっ、僕が出した薬草や超薬草も、三等分で」


 慌てて、そう付け足すと、ボレロさんは笑って頷いた。



「薬師のお兄さん、もしよかったら、ウチに来ないか?」


 年配の男性が、僕をスカウトしている?


「おい、爺さん、コイツの名前がわかっているだろう」


「あぁ、そうだったな。ヴァンさんか。その名は、ちょっと呼びにくくてな」


 僕と同じ名前の同じ知り合いがいるのか。


「ふん、謎の少年と呼ばれているファシルド家の非常勤薬師のことを言っているのか?」


「あはは、まぁね。ファシルド家には、何度も交渉しているのだが……」


 ちょっと、それって?


「ヴァン、おまえ、王都一番の極級薬師に嫉妬されているようだぜ。爺さん、コイツがその謎の少年だ。もう少年っていう歳じゃないけどな。昔はあんなに純朴で可愛かったのに、今では堕天使を従える極級魔獣使いだぜ」


 ちょ、ゼクトさん……。



 年配の男性は、目を見開き、フッと笑った。


「ファシルド家が手放さないわけですな。私は、嫉妬しているのではない。後継者を探しているだけですぞ」



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