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371、ボックス山脈 〜特殊なエリクサーの分配

 広い果樹園を埋め尽くす大量のオバケ桃を、マルクがあちこち歩きながら、複数の魔法袋に集めてくれている。


 いつもなら、魔力を通さない白い布で集めていたけど、この大きさには、対応できないらしい。


「ヴァン、これ、軽いから魔法袋なら結構いけるよ」


「そっか、魔法袋の容量は、重さだもんな」



 ゼクトさんは、さっきから、土を使って何かをしている。勝手に果樹園の土を使うから、神殿守のスフィアさんが睨んでいるようだ。


 だけど彼女は、この巨大な桃のリジェネ効果付与のエリクサーを食べてから、表情はやわらかくなっている。


 ゼクトさんが、結局、彼女の心配ごとを二つとも改善したんだもんな。泉の底の違和感は消えているし、彼女の魔力が奪われていく影の番人を殺した呪いも、この特殊なエリクサーで、相殺される。


「よし、できた!」


 少年のように得意げな表情を見せると、ゼクトさんは、二つの壺のようなものを持って立ち上がった。


「ゼクトさん、その壺は何ですか?」


「あぁ、一種の魔道具だな。魔物は魔法袋を使えないだろ」


 うん? 確かに、人間用に作られているから、装備できないかもしれない。


「それは、魔法袋なんですか?」


「まぁ、見てなって」


 そう言うと、ゼクトさんは、壺の口を巨大なオバケ桃に向けた。すると、スポンと吸い込まれるように、オバケ桃が壺に入ったようだ。


「小さな壺に、オバケ桃が……」


「ククッ、上手くできたぜ」


 ゼクトさんは、壺を両脇に抱えて、あちこち歩き回っている。すると、果樹園を埋め尽くしている巨大な桃が、掃除されるかのようにスポンスポンと、吸い込まれていく。



『にゃんにゃのぉ〜っ!』


 ありゃ……。竜神様の子達が、巨大な口を開けて、巨大な桃を丸呑みしている。その光景に、メリコーンは、ビビっているようだ。


 僕も、初めて見たときは、ギョッとしたもんな。まぁ、あの子達が、自分の親を丸呑みしたからなんだけど。



「おい、ヴァンも遠慮せずに集めろよ」


 ゼクトさんにそう言われても困る。僕は、遠慮しているわけではないんだよな。


「ゼクトさん、ヴァンは魔法袋に空きがないんですよ。俺が後で渡します」


 マルクは、なんていいやつなんだ。だけど、マルクから借りた魔法袋には、少し拾って入れてある。


 僕も、もっと魔法袋を買っておかないとな。



 ゼクトさんは、壺がいっぱいになったのか、今度は自分の魔法袋に収納している。


 しかし、どれだけのエリクサーができたんだろう? こんな特殊な奇跡のエリクサーは、再び作ることは難しいかもしれない。


 記念に、少し置いておこうかな。


 しばらく帰っていないリースリング村に持っていくのも、いいかもしれない。病気がちなお年寄りは、きっと喜ぶだろう。


 この特殊なエリクサーは、戦闘時には使いにくい。常時回復を続けることで、長期戦には有利だと思う。でも、大きなダメージを負ったときには適さない。


 逆に、神殿守スフィアさんのような、影の世界の植物に、魔力が吸い取られる状態の人には、最適だ。


 ゼクトさんは、彼女のために、これを作ったんだ。継続効果は、何のスキルかはわからないけど、こんな風に、上手く融合させるなんて、凄すぎる。



「ヴァン、子竜とにゃんにゃのに、これを渡してやれ」


「えっ? チビドラゴンとメリコーンの分なんですね。わざわざ、そのために作ってくれたんですか! ありがとうございます!」


「あはは、なんだよ、それ。おまえ、また尻尾、振ってるぜ」


「いやいや、僕には、尻尾はないですから」


「ククッ、そうかよ。その壺は、叩き割れば中身が出てくる。移動中に壊さないように気をつけさせろ。あぁ、にゃんにゃのは、お気楽うさぎに運ばせればいいか」


 ゼクトさんは、僕の思考を通じて、メリコーンの叫び声を何度も聞いているから、あの子の名前が、にゃんにゃのにされている。


 マルクも、ケタケタと笑ってるんだよな。マルクも、何らかの方法で、聞いていたっけ。


 たぶん、僕が使ったスキル『魔獣使い』の通訳が、おかしいだけだと思うけど。リーダーくんも、なんだか変だし……覇王と合わせると、おかしくなるのだろうか。




「チビドラゴンさん、この壺を壊さないように持って帰ってね。ゼクトさんが、大きな桃を入れる容器を作ってくれたんだ」


『ほへ? こんなに小さな入れ物には、入らないんだぞ』


「特殊な道具なんだよ。取り出すときには、割れば中身が出てくるから、チビドラゴンさんのお家に帰るまでは、割れないように気をつけて」


『あの、おっかない人間の臭いがするんだぞ。でも、チビがそう言うなら、気をつけるぞ』


 ロックドラゴンの子竜は、強い人のことがわかるんだよな。マルクのことも、コワイ魔法使いって言ってるし。



「メリコーンさんも、これ、持って帰って。長老さんに、渡してあげてくれる?」


『にゃっ!? あたしにもくれるのぉ?』


「うん、みんなで分けるんだ。チビドラゴンさんとメリコーンさんが、この子達の世話をしてくれていたから、無事に薬を作ることができたからね」


『うにゃにゃっ? 甘い薬、みんな喜ぶと思うのぉ〜っ』


「うん、ほんの少しだけで効くから、怪我をした人に使ったらいいよ。長老さんなら、上手く管理してくれるから」


『わかったの〜。でもぉ〜、この子達は、どうするのぉ?』


 メリコーンは、白い不思議な子達に視線を移した。巨大な桃を丸呑みしたり、吐き出したりして遊んでいる。はぁ、コイツら、何をしてるんだ?


 メリコーンも、心配そうに見ている。


「この子達は、僕の住む町に連れて帰るよ。ここには、薬草を集めに来ただけだから」



『チビは、たまに来るから、また遊べばいいんだぞ。ぼくは、賢いから、チビがまた来るって知ってるんだぞっ』


 ふふっ、チビドラゴンがいつものふんぞり返りポーズをしている。相変わらずの決めポーズだ。




「おい、天兎、ここの結界を外せ」


 ゼクトさんは、神殿守のスフィアさんに向かって、叫んだ。


「ちょっと、あなたねー。まだ、全然片付いてないじゃないの! 巨大な桃で、足の踏み場がないわよ」


 まぁ、確かに、まだ半分くらいは残っているように見える。何万個だろうか。数えられる気がしない。だけど、マルクもゼクトさんも、もういいみたいだ。


「これは、おまえにやる。知っているだろうが、エリクサーには、マナのベールがかかっている。だから、強い魔力のあるものの側では保管できない。気をつけろ」


「ちょっと、これ、いくつあるのよ? 一つで、私なら1年は効果が継続するのでしょう?」


 確かにすごい量だ。天兎の寿命は知らないけど、さすがに何万年も生きることはないよな。



「おまえなー、独り占めするつもりか? 他の天兎を呼びつけたときに、渡してやればいいだろ。他にも、影の世界とケンカして、呪いにかかってるバカも居るだろ」


「ちょっと、何なの? 嫌な言い方ね」


「引きこもり兎に、進むべき道を示してやっているんだよ。さっさと、結界を外せ。ここからなら、一度の転移で帰れる」



 黄色いリボンが揺れた。たぶん、怒って……ない。あれ? スフィアさんが、泣いている?



「じゃ、ヴァン、まず、帰還妨害を外すぜ」


「あ、はい。チビドラゴンさん……あー」


 声をかけようとしたときには、チビドラゴンは消えていた。僕が呼び出していたから、本来なら、メリコーンの草原から戻るはずだったもんな。


「それから、メリコーンは、お気楽うさぎに言って、送らせろ。俺達が送り届けると、性悪リボンは、もうここを使わせないだろうからな」


 性悪リボンって……。ちょっと、泣いていた彼女が、キッと睨んでいるじゃないか。



「わかりました。ブラビィ、あれ? 何してんの?」


 黒い兎は、巨大な桃に食べられている。


「は? バカか。オレが食ってんだよ!」


「そう? なんか、桃に食われているみたいに見えるよ。うん?」


「キュッ?」


 巨大な桃から、ブラビィを引き抜こうとしたら、白いぷにぷにしたものが出てきた。


 なるほど、トンネルを作って遊んでいるのか。いや、ブラビィが食べ進む後をついていっただけかもしれないけど。


「ブラビィ、メリコーンを送り届けてよ」


「オレ、いま、忙しい」


 はぁ……精神年齢が、竜神様の子達のレベルまで下がってるじゃないか。



「ヴァン、そろそろ行くぞ」


 僕は、ブラビィが食べ進めていた巨大な桃を取り上げた。黒い兎は、草原に転がる。


「ちょ、おまえなー」


「これは、教会に……ふふっ」


『にゃんにゃのぉ〜!』


 堕天使は、メリコーンと壺を掴んで、スッと消えた。



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