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369、ボックス山脈 〜スフィアの事情

「じゃあ、ノレアの坊やが失敗すれば、貴方達が動くのね? すぐに解決できるのかしら」


 黄色いリボンの神殿守スフィアさんは、可愛らしい顔に似合わず、ニヤニヤと、ずる賢そうな笑みを浮かべている。


「まぁ、しばらく先のことだろうがな」


 すると彼女は、ガクリと脱力したようだ。なんだか様子がおかしい。もしかして、深刻な状態なのだろうか。


「そ、そう……ノレアの坊やは、プライドが高すぎるからなのね。失敗しても、なかなか非を認めないタイプだわ」


 彼女の表情は、さっきまでとは全く違う。絶望感さえ漂っているんだよな。



「この泉に沸き上がる付近だけなら、地下水脈の浄化はできるぜ?」


 ゼクトさんがそう言うと、神殿守スフィアさんは、少し表情が明るくなったように見える。


「ですが、一時的なことでしょう?」


「あぁ、だが、おまえは、浄化のために力を使わなくて済む。神殿守が、守るべき場所を崩したということは、そういうことだろ?」


 神殿守スフィアさんは、ゼクトさんをキッと睨んだ。図星のようだ。そういうことって……チカラを失っているということ?



「私は、チカラを失っているわけではありませんわ。回復に時間がかかるだけです」


 彼女の反論に、ゼクトさんは、フンと鼻を鳴らした。


「どうにもならなくなったから、ロックドラゴンの子竜を騙して、俺達を呼びつけたんだろ。おまえがそんな性格だから、神殿跡は崩れたんだぜ」


「私の性格と、神殿跡の崩壊には、何の関係もないわ」


 やけに、ムキになるんだよな。


「他の天兎を頼れば良かったんじゃないのか? 巡回する天兎からも隠れて、結界を張って引きこもっているからだ。不自然に広い果樹園の下に、神殿跡のがれきが埋まっているんだろ」


「保存しているのよ。いつか、私に……」


「ふん、その性格のままだと、いつかは来ない」


 ゼクトさんは、ピシャリと彼女を叱った。ゼクトさんの言葉は、正しいのだろう。黄色いリボンが、しょんぼりと垂れ下がっているように見える。




『白い人! チビの薬をもらえばいいんだぞ。あっ、この甘い果物で、作ればいいんだぞ』


「キュッ、キュ〜!」


 チビドラゴンが白い人と呼ぶのは、天兎のことだ。エリクサーで、回復できるようなことなのだろうか。


 ちなみに、竜神様の子達が何を言っているのかはわからない。だけど、おそらく、何もわかってないよな。チビドラゴンの真似をしているだけのようだ。



「ふっ、子竜の方が、おまえよりもよっぽど、神殿守にふさわしいんじゃないか?」


 ゼクトさんが、からかうようにそんなことを言っても、神殿守スフィアさんの耳には届いていないようだ。


 彼女は、僕の方を見て、ジッとしている。何かのサーチをされているのだろうな。



「精霊師、なぜ、そんなスキルがあるの? あり得ないわ」


 いまさら、何?


「どのスキルのことですか」


「黒い天兎が隠していたのね。なんて性格が悪いのかしら」


 僕の質問に答える気はないらしい。


「ヴァン、こいつは、ジョブボードなんて見えていない。おまえの記憶を覗いているだけだ」


「僕の記憶?」


「おそらく、間抜けなオールスの断罪草だろうな」


 あー、あれには僕も驚いた。ゼクトさんが助けてくれなかったら、自分ひとりでは厳しかったな。



「神殿守、その身体を覆うバリアを外せ。そうすれば、オレの主人はおまえの治療薬を考える」


 黒い兎が、神殿守スフィアさんをからかうように、彼女の周りを飛び跳ねている。あー……嫌な予感がする前に……。


 白い不思議な子達も、ポヨンポヨンと彼女の周りを飛び跳ねている。誘われたのか、メリコーンも飛び跳ねているんだよな。


「キュッ?」


「キュ〜ッ!」


 あの子達の言葉は、神殿守スフィアさんには理解できるようだ。一瞬、驚いた顔をしていたけど、ふわりとやわらかな笑顔を浮かべた。


『にゃっ、お姉さんは、元気な方が、かわいいのぉ〜!!』


 ふぅん、励ましてるのか。




 神殿守スフィアさんを覆っていたキラキラとしたベールのようなものが消えた。そして、彼女は、僕を真っ直ぐに見ている。バリアを外したのか。


 僕は、軽く頷き、薬師の目を使った。


 だけど、何も見えない。ちょ、どういうこと? さらに見ようと目にチカラを入れる。見えろ見えろと、祈るような想いだ。


 突然、パッと、目の奥に何かが見えた。ドゥ教会の輝く神の像? あー、僕は、スキル『神官』の祈りを使っているのか。


 その次の瞬間、神殿守スフィアさんの身体の状態が見えた。見たことのない模様が、彼女を覆っている。何なんだ?



「ゼクトさんは、わかっているんですか?」


「あぁ? 俺には見えねぇぞ。ただ、魔力の減り方からして、何かの呪いを受けていることはわかる」


「呪い……。見たことのない模様が、彼女を覆っているんです。葉っぱの葉脈のような感じです」


「始点と終点は、見えるか?」


 はい? 何それ?


 僕は、さらに目にチカラを入れる。すると、その模様が動いていることがわかった。ドクンドクンと脈打つような規則正しい動きだ。


「始点って何……うん?」


 僕を見るゼクトさんの目が、琥珀色になっている。何かの術を使っているみたいだ。



「天兎、おまえの自業自得らしいな。影の世界に何をした? 影の世界の植物に絡みつかれているようだが」


 別の世界の植物? 


「果樹園を荒らす魔物に制裁を与えただけよ」


「影の番人を殺したか」


 神殿守スフィアさんは、返事をしない。影の番人なんて、殺せるのか? 僕は、背筋がヒヤリとした。


 ゼクトさんの目の色が、元に戻った。



「ヴァン、もういいぜ。おまえの視覚を借りて、呪いの状態を見た。これは、さすがに手遅れだ。神殿跡と同じく、近いうちに、この天兎も魔力が尽きて消滅する」


「えっ……手遅れ?」


 ゼクトさんの言葉に、神殿守スフィアさんは、青ざめた。だけど、どこかでわかっていたらしい。悟りきった表情にも見える。


 僕は、もう一度、薬師の目を使って見てみた。始点と終点の意味はわからないけど、葉脈のドクンドクンと流れる何かは見える。


 影の世界の植物に、魔力を吸い取られているのか。呪いの意味もわからないけど、こんな植物に絡みつかれていること自体が、呪いなのかもしれない。


 彼女の魔力回復の方が、吸い取られるより、僅かに早いんだ。だけど、これが逆転してしまうと、ゼクトさんが言うように、魔力切れで倒れるだろう。



「効くか確認したいので、食べてみてください」


 僕は、ぶどうのエリクサーを渡した。


 木いちごのエリクサーは、ストックまで回復してしまう。僕は、直感で危険だと判断した。彼女に絡みついている植物に、どう影響するかわからない。


 でも、神殿守スフィアさんは、少し疑っているようだな。



『白い人! チビの薬は甘いんだぞ。母さんは、いつも疲れたときに食べるんだぞ』


 チビドラゴンにそう言われて、彼女は、僕の手から、ぶどうのエリクサーを受け取り、口に放り込んだ。


 一瞬、目を見開き、そして彼女は、ふわりと微笑みを浮かべた。こういう表情は、赤いリボンのラフィアさんに似ている。


「一晩眠ったくらい回復したわ。だけど魔力量が増えると、奪われる量も増えるわね」


 ゼクトさんは、僕の方を見て、頷いている。


「ヴァンの判断は、正解だ。これが、あのイマイチなやつなら、植物がさらに急成長するから、消滅を早める危険があったぜ」


 やはり、そうか。木いちごのエリクサーは、こんな呪いのある人が使うと危険だな。


 ゼクトさんの言葉を聞いて、神殿守スフィアさんは、少し引きつった表情をしている。彼女は、エリクサー自体のことも、わかってないみたいだもんな。




「じゃあ、天の導きのジョブの貴方、地下水脈の浄化をしなさいよ」


 魔力がだいぶ回復したのか、彼女は、また強気な表情に戻っている。


「だが、その行き先は……あぁ、ヴァン、マナ溜まりができたら、すぐにエリクサーを作るんだな?」


「へ? あ、はい」


「汚れたマナでも、可能か?」


 ちょ、意味がわからない。僕は、マルクの方に視線を移す。するとマルクは、やはりというような顔をしている。


「ゼクトさんは、マナの分解ができますよね。分解してもらったら、属性は何でもいいです。俺がヒート魔法で、不純物は消し去りますから」


「ヒート魔法で消し炭にするのか? ルファスの黒魔導士は、おっかねぇな」


 ゼクトさんは、ニヤニヤしている。ちょっと子供っぽい表情だ。ワクワクしているのかな。



「じゃ、始めるか。天兎、果樹園の果物を使う。おまえが泣いて喜ぶ薬のためだ」


 何か、煽ってない?



皆様、いつもありがとうございます♪


日曜日はお休み。

次回は、12月13日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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