366、ボックス山脈 〜新たなスキル
「まぁ、見てみろよ」
ゼクトさんに促され、僕は、ジョブボードを確認することにした。彼が見てみろと言うってことは、上がっているんだよな。
僕は、ジョブの印に触れて、ジョブボードを表示してみる。
◇〜〜◇〜〜〈ジョブボード〉New! ◇〜〜◇
【ジョブ】
『ソムリエ』上級(Lv.5)
●ぶどうの基礎知識
●ワインの基礎知識
●料理マッチングの基礎知識
●テースティングの基礎能力
●サーブの基礎技術
●ぶどうの妖精
●ワインの精
【スキル】
『薬師』超級(Lv.4)
●薬草の知識
●調薬の知識
●薬の調合
●毒薬の調合
●薬師の目
●薬草のサーチ
●薬草の改良
●新薬の創造
『迷い人』上級(Lv.3)
●泣く
●道しるべ
●マッピング
『魔獣使い』極級(Lv.Max)
●友達
●通訳
●従属
●拡張
●魔獣サーチ
●異界サーチ
●族長
●覇王
『道化師』極級(Lv.2)New!
●ポーカーフェイス
●玉乗り
●着せかえ
●なりきりジョブ
●なりきり変化(質量変化、無制限)
●喜怒哀楽
『木工職人』中級(Lv.10)
●木工の初級技術
●小物の木工
『精霊師』超級(Lv.2)New!
●精霊使い
●六属性の加護(超)
●属性精霊の憑依
●邪霊の分解・消滅
●広域回復
●精霊ブリリアントの加護(極大)
●デュラハンの加護(極大)
『釣り人』上級(Lv.10)
●釣りの基礎技術
●魚探知(中)
●魚群誘導
『備え人』上級(Lv.3)
●体力魔力交換
●体力タンク(1倍)
●魔力タンク(1倍)
『トレジャーハンター』中級(Lv.3)New!
●宝探知(中)
●トラップ予感
『神官』下級(Lv.3)
●祈り
『薬草ハンター』上級(Lv.10)New!
●薬草の知識
●毒薬草の知識
●薬草のサーチ(中)
【注】三年間使用しない技能は削除される。その際、それに相当するレベルが下がる。
【級およびレベルについて】
*下級→中級→上級→超級
レベル10の次のレベルアップ時に昇級する。
下級(Lv.10)→中級(Lv.1)
*超級→極級
それぞれのジョブ・スキルによって昇級条件は異なる。
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うわっ! 『道化師』が極級になっている。レベル2? 極級にもレベルがあるのか。『魔獣使い』が極級になったとき、レベルMAXだったから、極級にはレベルがないのかと思ってた。
変化の質量の制限が無くなっている。だから、あんなにぴょーんと伸びる姿にも化けられるようになったのか。
うん? 喜怒哀楽? 変な技能が加わっている。説明を表示してみようか。
●喜怒哀楽……観客の喜怒哀楽を司ることができる。技能『笑顔』は、これに統合される。
あっ、笑顔の技能が消えている。喜怒哀楽を司るって……よくわからないな。まぁ、いっか。
あとは、精霊師がひとつ上がっている。あれ? なぜかトレジャーハンターも上がっている。
うわぁあ! 薬草ハンター! しかも上級レベル10じゃん。全然、気づかなかった。あっ、そういえば、薬草を集めていたとき、何かが刺さったような感覚があったっけ。
だけど、薬草ハンターって、薬師となんだか重複している感じだな。うん? 毒薬草の知識? 薬ではなく、別の使い方に関する詳細かな。
「ヴァン、惜しいな。薬草ハンターは、もうちょっとで超級だったんじゃねぇか?」
「ゼクトさん? 見えてるんで……覗いてたんですか」
僕の背後に立つ彼は、ニヤリと笑った。
普通、他人がジョブボードを開けていても、本人の目にしか見えない。だけど、ゼクトさんには、いろいろなスキルがある。
それに、ゼクトさんは捨て子だったらしいけど、神官家の生まれだから、ジョブボードを見る技能が、備わっているのかもしれないな。
ゼクトさんのジョブ『神矢ハンター』は、神官家にしか現れないジョブなんだから。
「しかし、必須選択のハンターは、さっぱりだな。まぁ、デュラハンの加護がMAXだから、そっち系を狙うか?」
デュラハンの加護? あっ、いつの間にか、極大になってる。超大だったよね。全然気づかなかった。
「ゼクトさん、極級ハンターの条件って、必須選択を含めて、5種類の超級を揃えなきゃならないんですよね? 必須選択って何ですか?」
「必須選択は、候補の中から、1つ以上必ず取得しなければならないスキルだ。候補は、しょっちゅう見直される。今は、魔獣ハンター、ドラゴンハンター、悪霊ハンター、魔石ハンター、トレジャーハンターの5つだな」
「あっ、トレジャーハンター、ありますよ」
「ヴァン、しょっちゅう見直されると言っただろ? トレジャーハンターは、よく外される。最初の3つは固定だな」
今ならいけるけど、見直されたら、必須選択じゃなくなるのか。
「じゃあ、固定の、魔獣ハンター、ドラゴンハンター、悪霊ハンター……うん? ドラゴンハンター?」
ちょっと待った。チビドラゴンが、僕を信じられないものを見るような目で見ている。
「ククッ、おまえの場合は、お友達がたくさんいるから、魔獣ハンターもドラゴンハンターも、厳しいだろ。魔獣使い持ちは、その二つとは折り合いが悪い」
た、確かに。ドラゴンハンターなんて、特に、竜神様に叱られそうだ。竜を統べる者だと認められているのに。
「そ、そうですよね」
「修羅の道だが、選ぶ奴の少ない悪霊ハンターが、狙いやすいだろう。魔石ハンターは、屍を漁ることも多いが、魔石持ちを討つ力も必要だ。おまえには、やはり厳しい」
修羅の道?
僕は、戦闘力が低い。それに、やはり、魔獣使いを極めてしまっているから、矛盾するか。
「スキルが増えてくると、いろいろな制約も出てきますね」
「ククッ、純朴なヴァン少年も、少しは成長したらしいな」
「ちょっと、ゼクトさん! からかってます?」
「フフッ、さぁな?」
ゼクトさんは、無邪気な少年のように笑っている。絶対、僕のことをからかっているよな。
だけど、初めて会った頃とは、全然違う。こんな顔を見せてくれるようになったのは、信頼されているからだと思ってもいいんだよね?
「じゃあ、そろそろ、デネブに帰るか」
ゼクトさんは、草原にいるメリコーンを見回している。
馬系の小型の魔物達は、まだ、僕達のことを呆然と見ているんだよな。あ、いや、僕が恐れられているのか。覇王を使ってしまったから、ただでさえ、畏怖を与えているからな。
『あ、あの……人間……いえ、我が王! 我々の地を守っていただき、ありがとうございます』
メリコーンの長である長老が、僕に頭を下げている。覇王効果に抗っていたのに……覇王に負けたのかな。
「長老さん、僕達は、この薬草の群生地を守りたかっただけですよ」
『これまでの数々の非礼、お許しください』
いやいや、どうしちゃったんだよ?
「別に、気にしなくて大丈夫ですよ。メリコーンは知能の高い魔物なのに、逆に変な技能を使ってごめんなさいね。だけど、取り消せないんだ」
覇王の取り消しはできないもんな。
『我が王の従属となった子供を経由して、我が王の偉大さを他の従属の方々から伺いました。それに、竜神様から子を預けられ、さらには竜神様の姿を借りる力……我々を下僕として選んでいただいたことは、光栄の極みでございます』
なんだか、大げさなことになってないか? だけど、変に否定するのも、おかしいか。はぁ、難しい。
「そんなに堅くならなくていいですよ。僕は、あまりボックス山脈には来ないけど、何かあれば、他の従属に言ってください。従属同士、仲良くしてくれると嬉しいので」
『はい、我々の一族の子には、しっかりと……』
『うにゃっ? にゃんにゃのぉ〜っ!!』
従属のメリコーンの絶叫が、長老の話をぶった切った。ふふっ、長老さんは、ガクリとうなだれているようだ。
飛び跳ねているメリコーンに視線を移すと、チビドラゴンと何か話しているようだ。
「ククッ、おまえ、道化師のスキルを使わなくても、笑わせてくれるじゃねぇか」
ゼクトさんは、メリコーンの話も聞こえているみたいだな。マルクにも教えているようだ。
「はぁ、何を叫んでるのかな?」
僕が視線を向けると、チビドラゴンがいつものふんぞり返りポーズをするんだよな。
『チビ、甘い果物で、あの不思議な薬を作るといいんだぞ。母さんが、もう無くなったって言ってたんだぞ』
チビドラゴンが帰らないと思っていたら、そういうことか。召喚したときは、用事が済むと元の場所に戻るはずなんだけどな。
チビドラゴンが戻ってしまわないように、誰かが、何かしているのか。
「ヴァン、俺も、そろそろエリクサーを補充したいよ」




