363、ボックス山脈 〜メリコーンの長との話
瀕死の状態だった個体に、スキル『魔獣使い』の通訳、従属そして覇王を使ったけど、なんだか、効き方が変なんだよな。
メリコーンは知能が高いから、泥ネズミのようにはいかないのだろうか。だけど、覇王は、人間にも効くはずだ。
「あの子達は、キミを食べようとしたんじゃないと思うよ」
『にゃにゃっ? ぜーったい、食べようとしたのぉ』
馬系の小型魔物のメリコーンは、地団駄を踏んでいるのか、パカパカしている。ふふっ、なんだか可愛いかも。
「あの子達が食事をするときは、丸呑みするんだよ。たぶん、あの熊の魔物くらいでも、丸呑みできるんじゃないかな」
『クァッ? にゃんにゃのぉ〜!!』
メリコーンは、僕の後ろに隠れている白い不思議な生き物達から離れようとしたのか、ぴょんと跳びあがった。
うん? なんだか、嫌な予感がする。
僕が捕まえようとした時には、既に遅く……竜神様の子達は、ポヨンポヨンと、メリコーンに近寄っていった。
なんだか、嬉しそうに飛び跳ねている。
『にゃにゃにゃっ? あたしの方が高く跳べるんだからね? ヘンテコにゃくせに、偉そうにしないのぉ』
なぜかメリコーンまで、飛び跳ねているよ。
背の高い草むらから、メリコーンが次々と姿を現した。
僕が視線を移すと、頭を縦に振っている。これは、メリコーンの服従の動作か。よかった、覇王が効いているんだ。
狩猟犬より少し大きいくらいか。馬系の魔物は、農作業に利用する村もあるらしいけど、僕は、見たことがなかった。
小型だからかもしれないけど、馬系の魔物って可愛いな。メリコーンの変異種までが、僕に服従の動作をしている。
もう、襲われることもなさそうだ。
その中から、1体が、僕に近寄ってきた。普通のメリコーンのようだけど、なんだか、オーラが違う。
『人間、我々に、何をした?』
やばっ、怒ってるのか。
「僕のスキルを使いましたよ」
『我々を眷属にしたのか?』
「変な感覚なんですよね。眷属ではないですよ」
『だが、抗えない強い強制力を感じる』
やはり、自分達にかけられた術を、不快に感じているんだな。眷属を従える知能の高い魔物だから、だよな。
「アナタ達が、僕達を殺そうとしていたので、このスキルを使ったんです。じゃないと、話せないので」
『何を話す必要がある? その妙な白い魔物が、我が一族の子供を狙って狩ろうとしたから、我々は守るために集まっただけだ』
確かに、メリコーンの視点から見れば、そうだろうな。僕が、薬草を摘んでいても、出て来なかったし。
「あの子は、子供なんですね。他の子達と、大きさは変わらないように見えますけど」
『我々のような小さきモノは、生きるために身体の成長は早い。白い魔物のような悪しき魔物に、いつ襲われるかわからぬからな』
かなり、怒っているようだな。
僕は覇王を使ったから、あの個体に使った技能は、勝手に一族に拡張されるはずだ。
それなのに、文句も嫌味も言えるんだな。覇王に抗う意思の強さは、半端ない。だけど、ちょっと考えを改めさせようか。
「悪しき魔物というのは、聞き捨てならないですね」
僕が、語気を強めたからか、その個体は少し緊張したようだ。
『だが、我が一族の子供を瀕死の状態にしていた。あのような残虐な行為を、遊びだと言うのか』
あぁ、僕が遊んでいたと言ったことも、耳に届いているのか。すごい連携だな。泥ネズミ並みか。
「おそらく、狩りの練習でしょう。だけど、あの子達は、まだ赤ん坊ですよ? 生きているモノを狩る力はありません」
『しかし人間、我々に妙な術を……クッ、その光は、何だ。おかしな真似を……』
覇王が効いてきたのだろうか。
おそらく、僕が強く命じようとすれば、完全な覇王効果がこの個体にも及ぶだろう。でも、強制するつもりはない。
文句を言っていた個体は、少し苦しげな表情を浮かべているように見える。必死に抵抗しているのだろう。理不尽だもんな。一方的に、命令されるなんて。
「アナタは、一族の中で、どのような立場なんですか」
『この一族の長だ。ただの長老だがな』
やはり、そっか。メリコーンは、長く生きるほど知能が高くなる傾向がある。長老が一族の長を務めるのは、最適な選択だな。
「じゃあ、長老さん、アナタにあの子達のことを教えます」
僕がそう言うと、その個体は、一瞬、戸惑っているように見えた。いや、驚いているのか。
覇王を使っているから、僕は、自分を卑下する言葉は使えないけど、対等に接することはできる。
『白い魔物のこと……』
「そうです。今、怪我をさせた子と仲良く遊んでいるようですけどね」
僕がそう言うと、その個体は振り返って、自分の目で確認しているようだ。ぴょんぴょん飛び跳ねている様子を見て、少し表情がやわらいだようにも見える。
『確かに、今は遊んでいるようだが……』
また襲われると、警戒しているのか。
「あの子達は、僕の考えや行動を理解しているから、もう狩りの練習はしないですよ」
『なぜ、幼き魔物が人間の……。あの白い魔物にも、我々と同じ術を使っているのか』
「いえ、何も使ってません。だから、あの子達の言葉は、僕にはわからない」
するとメリコーンは、少し警戒したようだ。
あー、違うか。ゼクトさんとマルクが、あの熊系の魔石持ちを倒したんだ。
『我々の眷属を潰すとは……』
「あの魔石持ちの魔物は、危険なんですよ」
『だから、我々の眷属とした。そして、この草原から追い出したのだ』
追い出すために、眷属化するのか。
「アナタ達の護衛じゃないのですか」
『ふむ、まぁ、たまたま近くにいたから、下りてきたのだろう。我が一族の子供が呼んだからな。あの子は、別の眷属を呼んだつもりらしいが』
そんなに多くの眷属がいるのか。
「呼んだということは、褒美を与えねばなりませんね」
『ここに餌があると呼んだだけだ。我が一族が、何かの宝を持つわけではない』
うん? あー、僕が何かを要求していると感じたのか。
「別に、僕は、アナタ達から何かを奪うつもりはないですよ。ここに来たのは、薬草が欲しかっただけです」
僕がそう言うと、明らかにホッとしている。
『それで、その白い魔物がどうした?』
あっ、興味が出てきたのか。
「あの子達は、片親を亡くしたんですよ。それで、もう一方の親から、あの子達を育てるようにと託されました」
『群れで育てればよいのに、なぜ、人間に託す必要があるのだ?』
「僕も、よくわからないんですけどねー。群れの中には居られない特殊な子に育つからじゃないかな」
『人間に託す理由にはならない。群れから、引き離す方が問題だろう』
メリコーンは、変異種だらけだもんな。
少し表情が変わってきた。僕に対する警戒心というか、敵対心が薄れてきたのか。
「あの子達は、竜神様の子なんですよ。死んだ親の胎内から、竜神様が特殊なチカラを使って出されたので……」
『うにゃっ!?』
えっ? 長老は、変な叫び声をあげて、ピョンと跳び上がった。めちゃくちゃ驚いたらしい。
メリコーンは、こんな変な言葉を使うのか。いや、通訳がおかしくなるのかな。
「長老さん、大丈夫?」
ピョンと跳び上がり、着地に失敗したのか、ペチャリと腹が大地についている。脚から力が抜けたのだろうか。
薬師の目を使ってみたが、特に異常はなさそうだ。
『竜神様の……竜神様の子……竜神様が取り出されたということは、育つと死んだ親とは別のモノに……だから、人間に託された……』
なんだか、ぶつぶつと呟いている。大丈夫か? 衝撃が強すぎて、ショック死しないよな?
『クァッ? にゃんにゃのぉ〜!!』
離れた場所から、従属を使った瀕死だった個体の、絶叫が聞こえる。あの子にも、伝達されたみたいだな。
だけど、竜神様の子達は、何も気にせず、ポヨンポヨンと跳躍勝負を続けているようだ。何かにハマると、飽きないんだよな。
『我が一族の子供が、竜神様の子と、遊んでいただくなどと……』
メリコーンの長は、まだ混乱中だな。
他のメリコーン達も、動揺しているようだ。長老の混乱が伝わっているのか。
「おい、ヴァン、何やってんだ? お友達とお話し中か?」
ゼクトさんとマルクが、僕の方へと近寄ってきた。僕が覇王を使ったことが、わかっているんだな。
「ゼクトさん、やはり、魔石持ちはメリコーンの従属でしたよ」
「ふぅん、そーかー。ルファスの黒魔導士が、魔石コレクターだとは知らなかったぞ。気持ち悪いほど、ニヤけている」
確かに……マルクは気持ち悪いくらい、ニヤニヤしていた。
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