表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

361/574

361、ボックス山脈 〜竜神様の子の狩り

「マルク、魔法袋を貸してくれない?」


 調子に乗って薬草を集めすぎた僕は、魔道具を操作しているマルクの方へと近寄っていった。


「魔法袋なら、大きいのを持ってるじゃん。まさかの容量不足?」


「うん、足りなくなってきた」


 僕がそう言うと、マルクは首を傾げながら、容量10キロの魔法袋を渡してくれた。だけど、これではすぐに足りなくなる。


「ヴァン、そんなに摘んだのか? でも、ヴァンが通ってきたところは、あまり摘んでないように見えるけど」


 マルクは、僕の後方へ、魔道具を向けている。


「うん、根は地面に戻したし、ゆるい生育魔法もかけたから、薬草は生えてきたみたい。超薬草は、魔法では育たないけどね」


「どれだけ集めたんだ?」


 マルクにそう尋ねられて、魔法袋を確認する。


「超薬草は、8キロくらいかな。薬草は、わからない。たぶん200キロか300キロくらい」


「へ? 俺は、超薬草だけを探しているから、まだ1キロも採ってないよ」


 マルクは、少し悔しそうな顔をしている。


「農家の技能を使って、薬草の密集地を全部引っこ抜いてから、根だけを土に戻してるんだ。そして、中身を表示する魔法袋に放り込んで、薬草は、普通の魔法袋に移し替えてる」


 僕がやり方を説明すると、マルクはポカンとしている。わかりにくかったかな。


「ヴァンには、敵わないな。そんなやり方、普通、思いつかないって。そもそも、全部引っこ抜けないし」


「農家の雑草を引き抜く技能だけどね。僕には、農家のスキルがないから、精度が低くて、使いにくいんだけど」


「あはは、でも、超薬草がそれだけ採れたら、もう十分だな。ゼクトさんの所に戻って、デネブに帰ろう。大量の薬草は、ポーションを作るの?」


 うん? 超薬草は、これで十分なのか。


「ギルドが必要なら買い取りに出すよ。超薬草だけでは、薬は作れないから、ある程度、薬草も必要なんだ。同じエリアに生えている薬草は、掛け合わせの相性がいいんだよ」


「へぇ、それにしても、その量は多すぎない?」


「調子に乗ってしまったかも」


「超薬草も、買い取りに出し過ぎると値崩れを起こすから、気をつけないとね。たぶん、1キロくらいでも、大丈夫だよ」


 マルクは、商人の顔だな。値崩れか……そんなことは考えたこともなかった。ドルチェ家での修行はキツそうだけど、いろいろな知識があって、すごいよな。



「マルク、なんか、すごい」


「はい? 何が?」


「上手く言えないけど、僕が知らないことを知ってるし」


 僕がそう言うと、マルクはケラケラと笑った。


「やはり、俺達は、二人で一人前だな」


「なんか、最近、その言葉をよく使うよね〜」


 すると、マルクは、少年のような笑顔を見せた。その理由は、わかっている。マルクは、いろいろな重責から解放される時間が嬉しいんだよな。




「みんな、こっちに来て」


 声の届く範囲にいる竜神様の子達に、そう声をかけた。だけど、僕の言葉は理解しているはずなのに、何かに気を取られているのか、言うことを聞いてくれない。


 はぁ、仕方ないな。


 ゼクトさんの昼寝場所は、ちょっと離れている。あそこまで、この子達と離れるのは、やはり不安だ。


「マルク、こいつらを捕まえて行くから、先にゼクトさんのとこに戻ってて」


「あぁ、まぁ、うん、俺も捕まえるのを手伝おうか?」


 そっか、マルクは、ゼクトさんと二人きりになるのは、辛いのかもしれない。


「普通に捕まえようとしても、無理なんだよね。コイツらは、泥ネズミと遊んでいて、なんだか反射神経が研ぎ澄まされたみたいで……」


「へぇ、泥ネズミが子守りをしているのか。あー、あのリーダーくんなら、子守りが上手そうだな」


 マルクは、泥ネズミ達の会話を聞いたんだったよな。



「うん、リーダーくんが、全力で一緒に遊んでるよ。サポートをする子が呆れてたけど」


「あはは、王宮仕えの個体かな」


「えっ? 王宮仕え? 神官家じゃないの?」


「たぶん、王宮にいる神官じゃないかな。ノレア神父の側近というか……」


「まじ?」


「あー、でも、ヴァンが知らないなら、その方がいいのかも。知ると、従属を使っている人間が、始末するかもしれない」


 やはり、そうだよな。賢そうな個体は、僕の近くにいることで、主人が生かしているような気がする。おそらく、こっそりと僕の情報を調べさせているのだろう。


「うん、知らないままでいいよ。あの個体が居なくなると困るし」


「へぇ、ヴァンって、せっかくの覇王を不思議な使い方しているよな。覇王持ちには見えない」


 マルクは、ケラケラと笑っている。ゆるい使い方をしている自覚はある。だけど、別にそれでいいと思うんだよな。




 竜神様の子達の方へ行ってみると、背の高い草の中で、何かを食べているみたいだ。


 いつもなら、巨大な口を開けて丸呑みするのに、何かをかじっている。


「みんな、何を食べて……えっ?」


 食べているのではない。魔物に食べられてるんじゃないのか?



「マルク! 来て」


 僕が叫ぶと、マルクはすぐに駆け寄ってきてくれた。そして、竜神様の子達の様子を見て、あぁと呟いた。


 いや、あぁ、じゃないだろ。


「コイツら、魔物に食われてる」


「ヴァン、狩りをしているんだよ。食われてるわけじゃない。噛まれているように見えなくもないけど、口を塞いでるんじゃない?」


「そ、そうかな。でも……」


「これも、この子達には必要な経験だよ。手出ししちゃダメだよ? 過保護すぎる」


 また、過保護だと言われた。だけど、この魔物は、猛毒を持っている。ボックス山脈に棲む小さな魔物は、たいてい毒持ちなんだけど……。



 あれ? ちょっと待った。この魔物って……確か、メリコーンだよな。僕は、魔獣使いの知識を探る。


 メリコーンは、馬系の小型の魔物だ。そのツノに猛毒を持つ。ボックス山脈では群れを作り、互いに助け合う知能の高い魔物だ。


 特に危険なのは、他の魔物を従える点だ。自分よりも強い魔物であっても、特殊な猛毒を使って、眷属けんぞく化してしまう、


 それに、敵に襲われたときには、群れを呼んだり、眷属を呼んだり……。嫌な予感がする。



「キュッ?」


 白い不思議な生き物達は、パッと僕の近くに駆け寄ってきた。口には、緑色の液体がべっとりと付いている。


 まさか、そんなので体当たり……するんだよね。


 だけど、いつものふざけた体当たりではない。ポヨンと跳ね返ると、慌てて近寄ってくる。



「ヴァン、なんだか、囲まれてるけど……」


 マルクが、僕の前に立った。そして、木いちごのエリクサーを食べたみたいだ。


「うん、この子達が、メリコーンを狩ろうとしたみたいだから……」


「えっ? アレってメリコーンなの? ちょ、ヴァン、マズくないか。ここは、ボックス山脈だよ」


「ヤバイと思う。この子達は、囲まれたのがわかって、怖がっているみたいだ。メリコーンの緑色の血を、僕にべっとり塗りつけてくれてるんだよね……」


 マルクは、僕の服に水魔法をかけ、風魔法で一気に乾かしてくれた。だけど、無駄だと思う。すぐに、別の子が体当たりしてくる。


「ヴァン、その子達を洗える? 俺がやると攻撃だと勘違いするからさ」


「表面は洗えるけど、口の中までは洗えないから、無駄だと思う。それに、もう手遅れかな」


「だよな。どうしようか……ゼクトさんは寝てるよな」


 そうだ、ゼクトさんは昼寝している。メリコーンに襲われてしまわないかな? 離れているから、大丈夫か。



 クォォン!


 竜神様の子達がさっき噛み付いていた、瀕死のメリコーンが鳴いた。


 メリコーンは、背の高い草に隠れるほどの大きさしかない。風もないのに、草むらが揺れる。


 それに……。


 ドォォン!


 ちょっと、待って。あんなに高い崖の上から、何かが飛び降りてきた。その衝撃で地面が揺れた。


 グガァァァッ!


 巨大な熊系の魔物だ。見た瞬間、頭の中がチリチリしてきた。コイツはヤバイ。絶対にヤバイ!



「ヴァン、あのバケモノは魔石持ちだ。まさか、あんなのを眷属化しているのかよ」


「どうしよう、ゼクトさんを起こさないと。あのバケモノがこっちに向かってくる途中に……」


 ゼクトさんの昼寝場所がある。


「だけど、動けないだろ。竜神様の子達を放っておくわけにもいかないし……」


 だよな。マズイ……。


 あの魔石持ちの巨大な熊系の魔物は、マルクひとりでは無理だ。ボックス山脈の魔石持ちは、その辺の魔石持ちなんて比較にならないほど強い。


 マルクは、魔石持ちの魔物を見ると、いつもなら嬉しそうな顔をするけど、今は違う。全く余裕のない表情だ。


 ど、どうしよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ