360、ボックス山脈 〜超薬草の採取
僕達は今、ボックス山脈にいる。
ボックス山脈の入山の検問所では、マルクがドルチェ家の通行証を提示したことで、僕達は何も調べられずに、入山を許可された。
竜神様の子を持ち込むことを隠すために、大きな麻袋に入れていたんだけど、その心配も不要だったみたいだ。ゼクトさんが、マルクを誘ったのは、そのためなのかな。
ドゥ教会で、神官様には、ゼクトさんが話をしていた。
僕に、薬草ハンターの神矢を集めさせるから、しばらく借りると言っていたっけ。そして、半日以上、僕と竜神様の子を離れさせるわけにはいかないから、連れて行くとも言っていた。
神官様は、マルクが一緒なのを見て、安心したみたいだ。ゼクトさんの話だけでは、片眉をあげていたけど、マルクが同行すると言ったら、コロッと態度を変えたんだ。
彼女はやはり、まだゼクトさんのことは、心の奥底では狂人だと思っているのか。表情には出さないように、気をつけているみたいだけど。
ゼクトさんは、初めて会ったときとは、かなり変わってきたと思う。だけど、一度浸透してしまった意識は簡単には、変えられないんだな。
「ヴァン、そいつらを放していいぜ」
ゼクトさんは、2回転移をして着いた場所で、そう言った。だけど、コイツらを麻袋から出すと、迷い子になりそうだよな。
「ゼクトさん、この子達は、あちこちに体当たりするので、岩壁に挟まったり、穴に挟まったり……」
「ふん、それは狭い町の中だからだろ? 気にせず、放せばいい。ここは、周りを高い崖に囲まれている」
そう言われて、周りを見回すと、確かに高い崖に囲まれている。ビードロのすみかの草原ほどは広くないけど、背の高い草が多いんだよな。
「背の高い草が多いから、迷い子になりません?」
「おまえなー、どんだけ過保護なんだ? コイツらは人間じゃない、魔物だぜ?」
「はぁ……」
僕が戸惑っていると、マルクが口を開く。
「ヴァン、この範囲内なら、俺でもサーチできるよ。迷い子になっても探せるから」
なんだか、マルクは半笑いなんだよね。
「じゃあ、出します」
僕は、背負ってぃた麻袋を地面に置いて、袋を開けた。
あれ? 出てこない。さっきまでは、ゴソゴソしてたのにな。眠っているのか?
僕は、白い不思議な生き物をつかんで、持ち上げた。
「う、うわぁっ!」
僕が叫ぶと、マルクが駆け寄ってきてくれた。ゼクトさんは、チラッと見てスルーしてる。
「ヴァン、どうした?」
「干からびてる。麻袋にいれて、ずっと背負っていたから……水辺の魔物だから、まずかったんだ」
「うん? それって、脱皮した皮じゃないの?」
「違うよ、まだ、ずっしりとしてるし……いや、ぐったりとして、それに、ぴょーんと……うん?」
手に持っている白い身体が、ぴょーんと伸びている? 持ち上げると、さらに、ぴょーんと伸びて、白いものが緑の草原に、ポトリと落ちた。
「キュ〜ッ!!」
あれ? 何? なんか、怒ってる。
「よかった、生きてた」
僕は、思考停止中だ。一体、何? 僕の右手には、脱ぎたての抜け殻が……。
「キュ〜! キュッ!」
泥ネズミがいないから、何を言っているかわからない。
「ヴァン、その子、脱皮の途中だったんじゃない? 草の上に落としたから、怒ってるのかも」
あー、そういうことか。
「マルク、でも、今朝も脱皮してたよ? そんなにしょっちゅう脱皮って、するのかな」
「さぁ? 極級魔獣使いにわからないことは、俺にはわからない」
まぁ、そうだよね。
「キュ〜! キュッ!」
まだ、何か怒ってる? 抜け殻に体当たりをした。
「ヴァン、餌を返せって言ってるんじゃないの? 脱皮したそれ、食べさせてたんでしょ」
「あー、そうかも」
僕は、水魔法で抜け殻を洗い、薬師の改良を使って老廃物を変化させた。すると、奴は、あーんと口を開けている。食べさせろって言ってんの?
白い不思議な生き物の口に、抜け殻をポトリと落とした。奴は、まるっと丸呑みだ。この丸呑み、ちょっとギョッとするんだよな。
麻袋の中から、残り2体が出てきた。
「キュッ!!」
「キュキュ〜ッ!!」
な、何? 今度は何?
僕がわかっていないと察したのか、体当たりだ。何を怒ってるんだよ?
「キュ〜ッ」
脱皮した皮を丸呑みした個体が、のんびりとした声で鳴いた。何? あー、もしかして?
麻袋の中を見てみると、抜け殻が2つ。コイツら、僕に洗えって言ってるのか。
僕は、2つの抜け殻を水魔法で洗い、そして薬師の改良を使って老廃物を変化させた。これでいいだろう。うん?
2体の子は、巨大な口を開けている。
ちょ、教会では、自分で食べてたじゃないか。はぁ、最初の1体の、あーんを見ていたんだな。どっちがどっちの皮かわからない。
僕は、一つを突き出した。すると、1体が、その落下地点に移動してきた。ポトリと落とすと丸呑みしている。
「キュ〜」
もう1体からは、催促か。同じように突き出し、ポトリと落とした。なんだか、ヒナに餌をやっているような気分だな。まぁ、ヒナなんだけど。
ふと視線を感じて、顔をあげると、マルクとゼクトさんが、同じような顔をしている。えーっと、何?
「ヴァン、おまえ、何やってんだ? 放っておけば、食いたければ勝手に食う。いちいち、解毒して洗ってやる必要はない。身体に入った老廃物は、排泄されるぜ」
「えっ……」
ゼクトさんのその顔は、呆れている?
「俺も、そう思う。過保護すぎるんじゃない? 竜神様の子だから、普通のウォーグの子より、圧倒的に生きる力は強いはずだよ?」
「うん……」
マルクも、半笑いだ。
「しかし、もう、甘やかしてしまっているから、いまさら遅いな。脱皮のペースか……おまえの体温に触れると眠るんだろうが……」
やはり、脱皮しすぎだよな? ゼクトさんは、3体をジッと観察しているようだ。そして首を傾げた。
「とりあえず、そいつらは、放っておくぞ。超薬草を探さないとな。ルファスの黒魔導士は、探知器があるな?」
「はい、採取用の魔道具があります」
「よし、手当たり次第、超薬草を集めろ。ヴァンも薬師のスキルで探せるな?」
「はい、大丈夫です」
「じゃ、おまえらは、超薬草集めだ」
「うん? ゼクトさんは、何をするんですか?」
「俺は、昨夜寝てないんだ」
「へ? ボックス山脈で昼寝するんですか。ここには、魔物は居ないんですね?」
「魔石持ちレベルの魔物はいないから、安心しろ」
そう言うと、ゼクトさんは、ゴロンと寝転がってしまった。本気で寝る気なんだ。
マルクも、ポカンとしている。だよな、あまりにも危険すぎる。それに、魔石持ちレベルはいなくても、魔物がいるってことじゃないか。
「えっ? 魔物がいるなら、あの子達……」
竜神様の子達は、僕から離れて、背の高い草むらの中を、ポヨンポヨンと飛び跳ねている。
「ヴァン、過保護すぎだよ。手分けして超薬草を探そう。ゼクトさんは、たぶん、本当に寝てなかったんじゃないか?」
「あ、うん、だよね。でも、ボックス山脈で昼寝なんて……」
「まぁ、俺達を信頼してくれてるんじゃない? というか、彼は極級ハンターだぜ? 大丈夫なんじゃない」
「うん、それならいいけど」
僕は、ゼクトさんも気になりつつ、竜神様の子達も気になる。はぁ、早く集めてしまおう。
薬師の目を使ってみると、あちこちに、超薬草が生えていることがわかった。ちょ、ここって、密集地じゃないか。
背の高い草も、雑草も多いけど、薬草の群生地がポツポツあるようだ。まるで、薬草だらけの草原を、背の高い雑草が隠しているかのようだ。
僕は、農家の技能を使って、薬草の密集地から薬草を引っこ抜き、風魔法を使って刈り取り、農家の技能を使って再び、根を大地に返した。
密集地の場合は、これが早い。
そして、刈り取った薬草を中身表示ができる魔法袋へ入れる。すると、超薬草か、ただの薬草かが、魔法袋が勝手に判別してくれる。
その魔法袋から普通の薬草を、ただの魔法袋へと移し替えた。
うん、完璧! 便利すぎる。
あっ、根をキチンと整えようか。僕は、大地に戻った根をサーッと、手で撫でていく。僕には、農家のスキルがないから、技能はかなり精度が低い。だから、キチンと土に埋まっていない根も、少なからずあるんだよな。
「痛っ」
何かが突き刺さったか。チクリと左手に軽い痛みが走った。だけど、手を見てみても、特に怪我をしたようには見えない。おかしいな。気のせいか?
僕は、白いポヨンポヨンから離れすぎないように気をつけながら、この作業を繰り返していった。




