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354、自由の町デネブ 〜 不思議な白い魔物

「あ、あの……」


 僕が言葉選びに迷っていると、竜神様は姿を変えた。一瞬、海竜の子供かと勘違いするような土色の竜だ。


『ワシの子を宿した魔物が、3体も死んだようだな。いま、取り出すから、おぬしが責任を持って育てるのじゃぞ』


「へ? あ、あの……」


 竜神様は、ふわっと移動し、淡い光を吐いた。土色の竜の足元には、魔物ウォーグが倒れている。さっきの戦闘で死んだのか。


 生き残った魔物達は、マルクが乗っている個体も含めて、6体か。竜神様の様子をジッと見ている。



 しばらくすると、死んだ魔物の腹を裂くようにして、白い何かが出てきた。ウォーグとは全く違う外見だ。それに竜神様でもない。


 太短いヘビのようにも見えなくはないけど、いや、ヘビじゃないな。白くてモチモチしたような、なんだか不思議な生き物だ。


 うさぎくらいの大きさだが、皮膚に毛はなく、頭と身体のバランスが悪い。二頭身か?



「キュ〜ッ」


 竜神様に向かって、鳴いている。かわいい!


『親を喰っておくのじゃ。記憶と能力の引き継ぎができる』


 竜神様がそう言うと、子供達は、大きく口を開けて、自分の何百倍、いや何千倍の巨大な魔物にかじりつき……まるっと飲み込んでしまった。


 その瞬間、太短い身体が、ぴょーんと風船のように膨らんだ。そして、すごい勢いで消化しているのか、だんだん、元のうさぎサイズに縮んでいく。


 これって、めちゃくちゃ危険な魔物なんじゃないか。



『竜を統べる者、おぬしが、親を失った子供達の親となれ。他の子供達とは、少し違う個体になってしまうからな』


「えっ、危険な魔物では?」


『ワシの子を魔物と呼ぶのか! そもそも、おぬしが勝手にワシの子を増やしたではないか。責任を持つべきじゃろ』


「は、はぁ、いや、あの……」


 ダメだ、上手い言い訳が思い浮かばない。



『竜を統べる者、近いうちに、北の小島の黒き氷を除去せよ。異界との通り道になっておる。闇の精霊に封じさせよ』


「えっ? それは、北の大陸の……あー」


 僕が、確認しようとしたときには、竜神様は、スーッと消えてしまった。


 なんだか、大変な仕事を言いつけられてしまった。勝手に、竜神様の子を増やしたから? いや、そんな、本当に子を授けたなんて……。



「キュ〜ッ!」


 気づくと、僕の足元には、3体の不思議な魔物がいた。さっき、親を丸呑みする姿を見たばかりだから、足元にいるだけで、ちょっとヒヤリとする。


「キュ〜ッ!!!」


 な、なんだか、僕の頭の中を覗いて、抗議をするかのように、僕に体当たりしてくるんだよな。


 だけど、ポヨンと跳ね返り、地面に転がっている。めちゃくちゃ弱いんじゃないか。まぁ、生まれたばかりだからな。


「キュ〜〜ッ」


 はい? ひっくり返ったときに、仰向けで砂に埋まって、起き上がれなくなった個体がいる。なんだよ、コイツ。鈍臭すぎるんじゃないのか。


 仕方なく起こすと、また、僕に体当たりだ。学習しない子だな。


 言葉がわからないけど、下手に従属を使うのもマズイよな。竜神様の子なんだから。




 竜神様が姿を消すと、マルクが近寄ってきた。住人達をまとう淡い光も消えているようだ。


「ヴァン、一体、どうなってんの?」


「マルク、僕にもイマイチよくわからないんだけど……。竜神様が、襲撃者達を海の底に沈めたみたいだ」


 海を見ると、いくつもの渦潮ができている。海竜のチカラなのだろうか。誰一人として、浮かび上がってくる人はいない。


「ヴァンが、竜神様を呼んだの? いや、まさか、そんな……。それに、このウォーグを丸呑みした小さな魔物は何?」


 マルクも、少しビビってるよな。


「竜神様の子……らしいよ」


「へ? なぜ突然?」


 マルクは、思いっきりポカンとしている。


「うーん、僕のせいらしいんだけどさ。だから、親が死んだ3体は、僕が育てろって」


「はい? ちょ、全然理解できない」


「だよね。あ、その魔物ウォーグ達のお腹にも、竜神様の子がいるみたい」


「魔物ウォーグって、竜神様とそういう関係の魔物なのか? 聞いたことないけど」


 どうしよう。海賊や住人達が集まってきた。町の外に逃げていた人達も、戻ってきている。


「うーん、うまく説明できないけど、竜神様って、声だけで、子を授けることができるみたいで……魔物ウォーグみんなが、妊娠したようで……」


 すると、それを聞いていた町の人達が、ザワザワと騒がしくなってきた。


 生き残った魔物ウォーグ達が、僕やマルクに懐いているのも、住人達の目には、驚きの光景として映っているようだ。


 だよね、こんな巨大で凶暴な魔物が、すり寄ってくるんだもんな。僕達が魔獣使いだから、なのかな。




「皆さん、とりあえず、ここには今は住めないから、自由の町デネブに移動しませんか? 竜神様が全てを流してくださったから、数日で、この地や海は、元の輝きを取り戻すでしょう」


 マルクがそう提案すると、みんな頷いている。


 まだ地面は少し熱を帯びているから、今、何かを建てたりすると、火事になりかねないもんな。



 マルクは、町全体に、何かの術をかけた。なんだか、空気が少し澄んだような気がする。


「念のため、保護バリアを張りました。侵入者防止用です。さぁ、暗くなる前に移動しましょう」



 マルクがバリアを張ったのは、北の大陸から、また新たな者が、来るかもしれないからだよな。


 武装した一団は、海に沈んだけど、まだ北の大陸には、隠れ住む人達が、それなりの数いるはずだ。



 ◇◇◇



 自由の町デネブに到着する頃には、すっかり夜も更けていた。


 転移魔法を使わなかったのは、デネブにいる人達に、受け入れ準備をしてもらうためみたいだ。


 マルクは、途中から、魔物ウォーグに乗って移動している。魔道具を使って、いろいろな人と交信するためのようだ。


 魔物ウォーグの群れには、漁師町の人は近寄らないからだろうな。



 僕が歩くと、3体の白い魔物がついてくる。しかも遊んでいるのか、ポヨンポヨンとあちこちに体当たりしているんだ。


 ちょっと目を離すと、岩壁に体当たりして挟まってしまったり、道から転げ落ちる個体もいるから、目が離せない。首輪でも付けたくなる。


 外見は、同じように見えるけど、3体は、それぞれ少し性格が異なるようだ。共通点は、やんちゃだということかな。




「ルファス様、これはこれは、すごいですね……」


 町の門に、出迎えに来ていた商人らしき人達が、魔物ウォーグに乗ったマルクに、お世辞のような言葉を投げかけている。


 マルクは、わざと、魔物に乗ってきたのかもしれないな。おとなしい魔物だと知らせるために。


「出迎えありがとう。連絡した通りです。夜も遅いので、食事は宿で食べてもらえるようにお願いしますね」


「準備は、整っていますよ。ただ、その魔物の群れは……」


「魔物ウォーグは、俺が預かるからいいですよ」


 マルクがそう言うと、彼らは明らかにホッとしている。



 漁師町の人達は、海賊も含めて、マルクが用意した宿に全員が入れたみたいだ。


「ヴァン、その白い魔物、どうするの?」


「あー、うん、とりあえずは、小屋の裏庭かな。いや、でも、精霊の森で遭難する子がいるか……」


「ええっ? 遭難? それより、何を喰い散らかすか、わからないよ」


 確かに……。まさか、妖精を喰ったりはしないだろうけど。


「ちょっと、バーバラさんに相談してみる」


「うん? フランさんじゃなくて、土ネズミの魔女に相談するの?」


 マルクは、まさか、教会に連れて行けって言ってる?



「マルクは、魔物ウォーグをどうするの?」


「コイツらは、空き倉庫に入れておくよ」


「えー、じゃあ、コイツらも……ってわけにはいかないよね。とりあえず、教会に連れていくよ」


「町の中は、迷い子になりそうだから、気をつけて」


 確かに……。



 僕は、1体を抱きかかえた。うさぎより、かなり重いな。すると他の2体も、次々と、その上に乗ってくる。


 お、重い……。


 だけど、これなら運べるか。


「ヴァン、抱きかかえていく気? 重くない?」


「めちゃくちゃ重いけど……この方が早く運べる気がする」


「あはは、送るよ」


 そう言うと、マルクは、転移魔法を唱えた。




「ありがとう、助かった」


「あぁ、また、明日頼むね。たぶん、王宮から誰か来るから」


「やっぱり? うん、わかった」


 マルクは、なんだか意味深な笑みを浮かべて、転移で戻っていった。




「ヴァン? こんな遅くに、どうしたの?」


 教会に入ると、神官様の声が聞こえた。


 どうしたのって……なんだか寂しい。おかえりじゃないんだ。まぁ、うん、いいんだけど……。



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