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352、漁師町リゲル 〜水辺の魔物ウォーグ

「きゃー! あ、あわわわ」


 スキル『道化師』の変化へんげを使った僕の姿を見て、近くにいた人達が、腰を抜かしている。


 もう少し、離れてから使うべきだった。


「大丈夫ですよ。これは、彼のスキルです」


 マルクがそう説明すると、人々は頷いている。変化を使う瞬間を見ていたはずだから、それはわかっているだろう。


 おそらく、彼らは、僕に自我が残っているかを心配しているんだろうな。



 漁師町リゲルからも、僕の姿は見えるらしい。町の門近くにいた人達が逃げていく。


「マルク、僕、何に化けてる?」


 僕は、少しとぼけたような口調で、マルクに尋ねた。僕が、魔物になったわけじゃないと、僕を見て震える人達に知らせるためだ。


「それは、海に浮かぶ竜神様の姿だね。陽炎かげろうのようにも見えるけど、不思議な細長い竜だよ」


「ふぅん、そっか」


 そう返事をしたものの、僕は、海の中で泳ぐ竜神様を見たことがない。


 僕が見たときは、だいたい、どの竜神様も、半透明な虹色に光る小さなトカゲの姿なんだよな。



「ヴァン、派手にいこうぜ!」


「うん、わかった」


 マルクは、浮遊魔法を使って、ふわりと空に浮かび上がる。僕も、マルクについて行こうと意識……しなくても、浮かんでるじゃん。


 悪戯っ子のような笑みを浮かべ、マルクは、何かの術を唱えた。門の近くに逃げてきた人達を、バリアで覆ったようだ。



「皆さん、侵略者には近寄らないでください。悪意ある人達からは、いまの皆さんは見えませんからね」


 マルクがそう言うと、人々は、マルクを拝むかのように頭を下げている。空に浮かぶマルクは、神々しく見えるのかもしれない。


 そして、マルクは、漁師町の中へと飛んでいく。僕も、マルクの後を追った。



 ◇◇◇



「うわぁあ〜、な、何だ」


 僕達が、空を飛んでいると、漁師町は騒然となった。いや、もともと、北の大陸から攻めてきた人達のせいで、あちこちに激しい戦乱の跡が見える。


 剣を交えていた人達も、空を見上げている。


 僕達が、広い漁師町の空をゆっくりと飛んでいくことで、一瞬で、戦乱は停止しているようだ。


 ただ、北の大陸から連れてきた魔物は、僕達に気づいていない。木造の民家が並ぶ地区で、大暴れしている。見た目からして、水辺の大型の魔物のようだな。



 マルクは、漁港付近にも飛んでいく。すると、海の中には、海竜が集まっているのが見えた。


 僕達が通ると、白き海竜がふわりと空に浮かんだ。マリンさんだ。すっごい存在感だよな。



「うわぁ、白き海竜! ということは、空を飛ぶ虹色のアレは、竜神様だ!!」


「竜神様の前を飛ぶ男は、竜神様の使者じゃないか!? あの輝きは、竜のウロコの魔導ローブだ!」


 マルクは、そんなすごい魔導ローブを身につけているのか。さすが、商人貴族ドルチェ家。きっと、フリージアさんが買い付けてくるんだろうな。



「ヴァン、白き海竜が登場してくれたおかげで、面白いくらいに上手くいってる。俺が話すから、ヴァンは、このまま空を周回していて」


「うん、わかった」


 僕が返事をすると、マルクは、海岸に何かの魔法を放った。


 バリバリッ!


 弱く見えたのに、すごい雷撃音だ。めちゃくちゃ派手だな。強引に、降りる場所を作ったみたいだ。


 その海岸で、剣を交えていた人達の剣は、雷撃で吹き飛んでいる。いや、雷が落ちるから自ら手放したのか。



 そして、マルクは、その場所へと降り立った。


 僕は、言われたとおりに、空をゆっくり飛んでいる。鳥とは違って、風の抵抗を受けないんだよな。だからといって、強い海風に流されることもない。


 くるりと向きを変えると、僕の身体の一部が見えた。確かに、太陽の光を浴びて、いろいろな色に輝いている。まるで、本物の竜神様みたいだ。



「漁師町リゲルを襲撃してきた者たち、北の大陸に戻りなさい。王からの命で、この国を追放されたのでしょう?」


 マルクは、拡声魔法を使って、声を届けているみたいだ。広い漁師町の、マルクの姿が見えない場所にいる人達は、空をゆっくりと飛ぶ僕の方を見ている。


 まるで、僕が話しているように見せているのか。姿なき声は、幻覚だと感じるのを防ぐためなのかな。



 マルクが、語りかけた襲撃者達は、当然だけど、はいわかりました、とはいかない。口々に、いろいろなことを言っている。僕が上空を通ると、みんな黙るんだけどな。



 ドォォン!



 民家が立ち並ぶ地区で暴れている魔物は、海に光を照らす灯台を倒したようだ。灯台を足場にしたせいで、倒れたのか。


 そして、マルクがいる海岸の方へ向かっている。魔獣使いが、魔物を操っているんだ。操られているから、僕が空を飛んでいても、それを危機だとは感じないのか。



 キュアァアァア〜!!



 僕は、威嚇するつもりで咆えてみた。何だよ、この声。大きいけど、かわいらしすぎる高い声だ。


 だけど、魔物達には、効果があった。


 僕に気づき、空を見上げている。僕が、巨大な水辺の魔物の方に視線を移すと、なぜか魔物は、その場にバタバタと倒れていく。


 何? 何もしていないんだけどな。


 それに、魔物達の様子がおかしい。腹を見せてパタパタと前足を動かしている。こんな行動は見たことがない。


 僕は、魔獣使いの知識を探った。極級だから、魔獣に関する知識はすべてあるはずだ。だけど、この行動の意味はわからない。



『ヴァン、うふふっ、理由が知りたい?』


 マリンさんの声だ。振り返っても、彼女の姿はない。離れた漁港の空に、白き海竜は浮かんでいる。


『この距離では、お話できないわね。大丈夫よ、いま、ヴァンの頭の中を覗いているから』


 はぁ、僕の従属って、みんな、僕の頭の中を勝手に覗くんだよね。ブラビィの悪い影響じゃない?


『うふふ、私は、お気楽うさぎがバケモノだった頃から、ヴァンの頭の中を覗いてるわよ。従属は、みんな不安なのよ。気に入った主人に、捨てられたくないじゃない?』


 そうなの? 泥ネズミ以外は、みんな僕より強いじゃないか。


『強くないわよ〜。ヴァンの方が強いんだから』


 うーん? 何? なんだか、マリンさんにそう言われると、別の意味に聞こえるよ。


『きゃはは、もう、ヴァンってば〜。私としては、まだ20年くらい先の方がいいわ。今のヴァンって、ヘビ化するとカッコいいんだけど、ちょっと若すぎるのよね〜』


 あはは、まぁ、なんだか変な方向に話が……。


 これって、きっと他の従属も聞いてるよな。僕が返事に困っている様子を、絶対おもしろがっているはずだ。


『うふふ、ヴァンは、私達の憧れの可愛い主人だもの』


 ちょ……やっぱり、からかってるんじゃん。


『うふっ、楽しい〜。あら、そうね、うふふ』


 マリンさんは、誰かと会話をしているのか。そんな様子を僕に念話してこなくていいのに。


 いや、こうやって僕が文句を言うからだよね。絶対、誰かが、喜んでる。



『ヴァン、あの魔物達をどうするの?』


 うん? 別に、殺すつもりはないよ。ただ、漁師町からは出て行って欲しい。この町に魔物が棲みついたら、漁師達は船を出せないよ。


『あら、それは違うわよ。あの魔物ウォーグは、もう、ここでは暴れないわ。それに……うふふっ』


 ちょ、マリンさん、変な笑い声に聞こえるんだけど。


『だぁって、ヴァンが、あの魔物達をみんな妊娠させちゃうんだもん。面白くって〜』


 はい? 僕は、何の行為もしてないですよ?


『でもヴァンが、自分に従うかって言って、忠誠を誓うなら子を授けるって言って、アツイ視線を送ったじゃない? 私も近くに行こうかと、迷っちゃったわ』


 ちょ、マリンさん、何を言ってるんですか。僕は、威嚇しようと思って咆えただけです。


『うふふっ、きゃぁあ、やだっ』


 何なんだよ? 見ただけで子供ができるわけないじゃないか。それに、みんな妊娠って……普通、メスだよね? 子供を産むのって。


『ウォーグは、両性よ。みんなお母さんになっちゃう。あははは』


 マリンさんは、笑いが止まらないらしい。


 僕がゆっくりと空を飛んでいると、魔物達の視線を感じる。ずっと、空を泳ぐ不思議な竜を眺めているんだよな。




 魔獣使いらしき男が、強く光った。げっ、あの光は、覇王か。まさか、僕を従属化しようとしている?


 あ、いや、魔物達に使っているのか。


 魔物達は、その男をチラチラと気にしているようだ。覇王で強制的に動かす気だな。


 マズイかもしれない。


 魔物達が、海岸の方へ移動を始めた。ちょ、コイツらが漁港で暴れたら、船も壊されてしまう。



 僕が、海岸のマルクの方へ移動すると、魔物達の移動速度が上がった。や、やばい……。



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