348、自由の町デネブ 〜疎外感
「ルファス様、お忙しい中、当家のパーティにお越しいただき、ありがとうございます。皆様、パーティの主賓、マルク・ルファス様です。長距離の巨大な転移魔法陣を、お一人で描いてくださった大魔導士です」
年配の黒服が、別の拡声の魔道具を使って、マルクを紹介した。やはり、マルクってすごいんだな。
「ドゥ教会のフラン様も、お越しいただきありがとうございます。このパーティの後に、希望者で伺う予定をしておりましたが……」
うん? 神官様は、呼ばれていないのに来たのかな。年配の黒服が、戸惑っているようだ。
すると、マルクが口を開く。
「レモネ家の筆頭執事さん、俺は大魔導士ではありませんよ。今は、商人としての修行中ですし。フランさんは、招待客じゃなかったようですが、俺が連れてきました。ヴァンが、何か、やらかしているんじゃないかと思いましてね」
マルクは冗談っぽい口調だけど、冗談には聞こえない。会場内では、冒険者達はケラケラと笑っているけど。
「ルファス様は、ヴァンさんとお知り合いなのですね」
年配の黒服は、驚いた表情で、僕とマルクを見比べるように視線を走らせた。
「ええ、俺の一番の親友ですよ。ヴァンに命を救われたことも何度もあって、返しきれない借りがある。だけど、俺もヴァンを助けているつもりだから、まぁ、なんというか、二人で一人前って感じですね」
いやいや、マルクは、すっかり一人前じゃないか。かわいい息子もいるし。
「そ、それは、それは……」
年配の黒服が、言葉に困っている。
「俺達は、真逆なんですよ。俺が得意なことはヴァンは苦手だし、ヴァンが平気でこなせることを俺はできない。だから、二人で一人前だなって、魔導学校の在学中から、よくそんな話をしています」
マルクがそう説明をしたことで、年配の黒服は、少しホッとした笑顔を見せた。
「なるほど、魔導学校からのお友達でしたか。学ぶ場では、身分に関係なく接していらっしゃったことで、素晴らしいお友達に巡り逢われたのですね」
年配の黒服の言葉には、レモネ家のアピールが含まれているようだ。学ぶ場、と言い換えるあたりが、やはりできるよね、この人。
マルクも、それに気づいているのか、変な笑いを浮かべている。
「レモネ家の講習会には、妻は注目していますよ。今、妻はドルチェ家の後継争いをしていますから、優秀な人材が欲しいのです。商人に必要なのは、知恵とセンスだそうです。すなわち戦闘力はいらない」
マルクは、再び、スカウトモードに突入している。だけど、それを聞くテーブル席の人達は、希望に満ちた表情をしているんだよね。
「いま、このパーティに参加している子供達や、仕事を持たない人達には、是非、今後、どうしたいのかを自分の頭で考えてもらいたい」
マルクの口調が少し変わった。貴族の顔だ。
「先程は、ヴァンのせいにしたけど、それは冗談です。ドゥ教会の神官様を連れて来たのは、皆さんに、この町には選択肢が多くあるということを知ってもらうためです。もちろん、可能な限り、すべてを欲張っても構わないと思いますよ。俺も、黒魔導士であり、冒険者であり、商人でもあります」
マルクは、相変わらず話が上手い。うらやましい。僕も、講習会に出席したり、教会に働きに行ったりしたくなる。
あ、いや、教会で働くのは、僕は下級神官だから、当たり前のことなんだけど。
「そうね、ドルチェ家の商人という顔を持つ神官がいても、面白いかもしれないわ。神官三家とは違って、ドゥ家は、人生の最初には必要のない教会です。何かに失敗した者、罪を犯した者、大きな壁にぶち当たった者に、新たな出発ができるよう、導いていく役割を担います」
僕の提案を聞いていたんですよね? 神官様。
僕は、なんだか疎外感を感じる。いや、ただ、僕がひねくれているだけなんだろうけど。
「フランさん、ヴァンが拗ねてるよ。ヴァンが最初に提案していたことが、最も、早く仕事に就ける方法ですよ。派遣執事として、このパーティに雇われている人も、ヴァンの講習会を受けたいんじゃないかな」
マルクは、なんていいヤツなんだ!
僕が頷いていると、二人は同時に、ブッと吹き出して笑っている。ちょ、何なんだよ。
『二人は、おまえに対する人々の警戒心を解いているんだぜ』
なっ、何、デュラハンさん。もしかして、さっきのオーラも、わざと?
『ククッ、一部の住人達は、おまえを抑えられる人間がいないんじゃないかと恐れている。だから、落として、上げてるんだ』
意味がわからないんだけど。
『会場内にいる人間の顔を見てみろよ。おまえをバケモノとして見る視線は、減っただろ。それと同時に、ドゥ家の格が爆あがりだぜ』
そ、そうかな。よくわからない。
『マルクが、おまえがバケモノ扱いされてウジウジしていることを気にしていたからな。パーティで失敗させて叱られる姿を見せれば、親近感がわくんじゃねーかって、教えてやったんだ』
ちょ……それって。
僕が反論しようとすると、デュラハンの気配は消えた。はぁ、なんだよ、逃げたのかよ。
「神官家の役割のバランスは変わるのでしょうか?」
会場内に意識を戻すと、貴族や商人が、神官様を見つめていた。あ、いや、何かの話の途中なんだよな。
「大きくなりすぎていたベーレン家は、ゲナードの影響を受けた者達を追放したようですから、半減することになるでしょう。ですが、教会の数は、変わらないと思いますよ」
レピュールに関わっていた人達か。レピュールも、かなり規模を縮小したという噂を聞いている。残るのは、純粋に、冒険者としての活動をしている人達なのだろう。
やっと、ゲナードに関するゴタゴタも、終息しそうだ。
「本来の役割から逸脱した部分が、削ぎ落とされただけか。これまでの地位も、変わらないのだな」
「統制のトロッケン家、成人の儀を司るアウスレーゼ家、そして、民の声を聞き広く支えるベーレン家、そこに新たに、再出発のドゥ家か」
「確かに、ベーレン家では、人生のやり直しについては否定的だ。失敗した者は、死ねという考えだからな」
「死んで蘇生されて、新たなジョブを得ることが、唯一の救いの道だと思っていたが、ジョブの印に異変があれば蘇生魔法は使えないからな」
貴族の人達は、ドゥ家を認めているようだ。
独立した神官家は、自分達より下に見ていたようだけど、今は、神官様に向ける視線に、彼女を卑下するようなものはない。
ふと、神官様と目が合った。
えっと、何? 何かを僕が言わなければならないのか。無理だ。
僕は、早くパーティがお開きになって、神官様と今後のことを話したい。そんな自分のことしか考えていないんだから。
今夜、僕の小屋に来るのかな? もしくは、僕が教会奥の屋敷に行くべきだろうか。そんなことを考えていると、頬がゆるみそうになる。
そんな僕に、ため息をつき、神官様は口を開く。
「皆様、この町は、新たな町です。先程、私の夫が言っていたように、この町では、生まれや地位に関係なく、その個人の能力をみて、様々な判断をしていただきたいと願っています」
あっ、これを言えという合図だったのか。
すると、マルクも口を開く。
「皆さん、この町は特殊ですからね。いっそ、別の国だと考えてもらう方がいいでしょう。王宮の兵が警備をしていますが、それは、ここを守ることが、奴らから王都を守ることになるからです」
うん? 奴ら?
「この町を守っているのは、精霊シルフィ様と、堕天使です。人間が守る町ではない。ですから、この町では、権力を振りかざすような行動は謹んでください」
マルクの言葉は、何かの警告に聞こえたのだろうか。貴族や商人達は、その表情を引き締めた。
『我が王! 我が王! 入ってはいけないのです〜』
うん? リーダーくん? 何?
キョロキョロと見回すと、窓の外で飛び跳ねる何かが見える。僕の考えも、この距離だと読み取れないのか。
あれ? 姿が消えた。気のせいかな。
「ヴァン、上陸して来たみたいだよ」
マルクが小声で意味不明なことを言う。
「マルク、何?」
そう尋ねると、マルクは苦笑いを浮かべた。そして神官様と目を合わせて、何か頷いている。
バタバタと走ってくる足音が聞こえる。
「こちらに、ヴァンさんはいらっしゃいますか!?」
顔見知りの、王宮の魔導士だ。彼はステージの端に僕がいるのを見つけると、安堵したように大きく息を吐いた。
「奴らが、上陸しました! 手を貸してください」
はい? 奴らって、誰?
皆様、いつもありがとうございます♪
明日、11月第3木曜日は、ボジョレヌーボーの解禁日ですね。いつもなら、私はデパ地下へと出向くのですが、今年は、さすがにやめておきます(´・д・`)←まだ変な頭痛が
ボジョレヌーボーは、フランス南部のブルゴーニュ地方にあるボジョレ地区で、ガメイという品種のぶどうから作られます。物語の中でも出てきたガメイです。
現実世界には、ぶどうの妖精は存在しませんが、ぶどうの妖精の性格は、そのワインの特徴の参考になるように描いています。
なので、生意気なガメイ(笑)は、若くやんちゃな男の子として描いております。
ボジョレヌーボーは、フレッシュな果実感を感じるライトで爽やかな赤ワインです。赤ワインが苦手な方は、少し冷やすと飲みやすくなります。氷を入れたり、ジュースやジンジャエールで割るのもアリかも。
あぁ……こんな時期にワクチンを打つんじゃなかったぁあぁ(;ω;)
あ、ちなみに、ヌーボーは、新酒という意味なのだそうですよ。




