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346、自由の町デネブ 〜二つの提案

本日より再開します。

よろしくお願いします。

「皆様、申し訳ございません。パーティの主賓の到着が遅れているようです。こちらは、先程のワイン講習会の講師をしてくださったヴァンさんです。さぁ、どうぞ」


 ちょ、まるで僕が、余興でもしなければならないような紹介じゃないか。道化師のスキルは使わないからね。


 年配の黒服は、拡声の魔道具が置かれたステージへと、僕を促した。



「皆さん、ジョブ『ソムリエ』のヴァンです。パーティの前のワイン講習会を担当させてもらいました」


 拡声の魔道具の前で、そう話しても、僕のことを知らない貴族や商人は、無視している。


「パーティにお集まりの皆さんに、提案というか、ちょっとお願いがあるのですが、僕の話を聞いていただけますか?」


 声のトーンを少し変えて話してみても無駄だった。やはり、僕の話を聞く気はなさそうだ。



 まぁ、彼らの価値観からして、そうだろうな。確かに神矢の【富】はワインだったけど、それは貴族や商人にとって、それほど重要なことではないのだろう。


 少なくとも今は、僕みたいな若いジョブ『ソムリエ』よりも、貴族や商人間の交流を深めることの方に、関心がありそうだ。


 彼らの中からは、子供達や奴隷だった人達がこの会場内に居ること自体に、抵抗を感じるという声も聞こえてくる。


 レモネ家の旦那様と話す人は、学者っぽくて上品だけど、それ以外の貴族や商人は、このパーティから何かを得ようと、貪欲に立ち回っている気がする。


 こんな人達の意識を変えさせることなんて、絶対にできない。いや……逆か。


 そうだ、そっか。


 僕の話を聞くことが、彼らの得になるなら……。



『おい、オレを使うだろ?』


 はい? 何、デュラハンさん? 使わないよ。


『じゃあ、お気楽うさぎを使うのか』


 へ? なぜ、そうなるんだよ。僕は、超級薬師だと宣言しようと……。


『甘いな、そんなことで、腐った貴族や商人が話を聞くかよ』



「皆さん、ヴァンさんのお話ができないようですので、こちらに注目していただきたいのですが……」


 年配の黒服が、僕が黙ってしまったために、気を遣ってくれている。


「は? 黒服のくせに、客に命令か? レモネ家では、一体どういう教育をしているのだ? 学者貴族なら、教育が仕事だろう」


 身なりの良い若い男性が、レモネ家の旦那様に向かって、ひどい言い方をしている。旦那様は、穏やかな表情を崩さない。


 学者貴族の仕事は、教育よりも研究じゃないのだろうか。研究しかしていない学者貴族の方が多いんだから。


 レモネ家の旦那様は、それがわかっていて、何も言わないんだな。言っても無駄だと諦めているのかもしれない。



『ふっ、やはり、オレを使うだろ? 精霊になったからパワーアップしたぜ』


 デュラハンが、ソワソワわくわくしているのが伝わってくる。腰のあたりに蹴りが入った。黒い毛玉のアクセサリーのフリをして、いつの間にかブラビーまで来ている。



「黒服のしつけもできないなら、貴族の格を下げることになりそうですな。古くからの伝統あるレモネ家が、嘆かわしい」


「当主を選定する方法が甘いのですよ。レモネ家は、何でしたっけ? 子供の相手をする暇な者でしたか? あははは」


 ひどい言い方だ。レモネ家の旦那様は、言われ慣れているのか、穏やかな表情だ。


 だけど、年配の黒服はオロオロし始めている。僕を、気遣ってしてくれたせいで、旦那様が、こんな陰口を叩かれているんだ。



 年配の黒服が、拡声の魔道具の前に立った。


 僕は、胸騒ぎを感じた。

 何かを言わせてはいけない!



 僕は、強引に、年配の黒服を押し退けて、拡声の魔道具の前に立った。やはり、彼は思い詰めた表情をしている。



「黒服さん、すみません。僕は、ちょっと呆然としてしまっていました。お気遣いありがとうございます。さすがですね。旦那様も、貴方のことを安心して見ておられるようですよ」


「えっ? ヴァンさん……私は……」


「大丈夫、僕にお任せください」


 僕は、やわらかく微笑み、拡声の魔道具に触れ、魔力を流した。



「皆さん、ちょっと黙っていただけますか? 僕の話に興味がないのは構いません。ですが、パーティの主催者をおとしめるような発言は、貴族や商人としていかがなものでしょう?」


「は? ガキが何を偉そうに。神矢の【富】がワインになっている今だけだぞ!」


「そんなことを言っても、あんな子供には理解できないでしょう。ワイン生産者の子でしょう? 学のない平民ではありませんか」


 さっきは無視したくせに、文句は言うんだな。だけど、僕の話を聞く気はなさそうだ。身なりのよい人の中にも数人が、ハラハラした様子だ。僕のことを知っているのか。


 ふと、ラプトルのディックさんと目が合った。やってやれという仕草をする。彼は冒険者だから、貴族のパーティでは、場をわきまえた行動をしているようだ。



 そうだね、やってやろうか。



 僕は、デュラハンの加護を強めた。僕をまがまがしいオーラが包み、そして、広い会場内に一気に広がっていく。


 僕が怒っているためか、デュラハンが張り切っているのかはわからないが、強烈な畏怖のオーラだ。


 デュラハンが精霊になってパワーアップしたという意味がわかった。畏怖を与える相手を選別しているようだ。


 僕に敵意を向けていた人達の表情は引きつり、一方で、僕を知っている人は、まがまがしいオーラにただ驚いただけのようだ。僕の見た目が、鎧騎士に変わったから、びっくりしたのかもしれない。


 そう考えていると、デュラハンがフフンと鼻を鳴らした。実際に鼻があるのかは知らないけど。



「きゃー!」


 話し始めようとすると、テーブル席の方で悲鳴があがった。いや、悲鳴というよりは……。


「カッコいい!」


「うわぁ、すごぉい!」



 なぜ、あんなとこにいるんだよ?


『ククッ、対抗心かもしれねぇな』


 デュラハンさんが、煽ったんじゃないよね? 何あれ。翼で、オーラを弾くふりしてない?


『一応、弾かれてるぜ』



 突然、テーブル席の前に現れた堕天使に、デュラハンの畏怖のオーラで引きつっていた人達は、絶望的な表情を浮かべている。


 僕の正体がわかったんだな。彼らは、その僕の怒りを買っていると感じたか。


 お気楽うさぎは、そのために現れたのかな。だけど、僕は呼んでない。



「ちょっと、ブラビィ、何、突然現れてんの?」


「は? おまえが、まがまがしいオーラを放つから、お子ちゃま達を守ってやったんじゃねーか」


「このオーラは子供達には、畏怖を与えないよ。怖がっている人達がいるから、姿を消して」


「何だよ、それ。命令か?」


「命令だよ!」


「チッ、御意」


 舌打ちをして、僕にわざとらしく一礼し、堕天使はスッと消えた。


 そして、僕の腰に戻ってきて、2〜3発、蹴りが入った。僕の言い方が気に食わなかったんだろう。


 ブラビィとしては、堕天使が、僕に従うことを見せたかったのかもしれないけど。



 デュラハンさん、加護を弱めて。


『いや、このままの方がいいぜ』


 どうして? もう、僕がゲナード討伐に関わったヴァンだということが知られたよ?


『いや、ククッ、このままの方がいいぜ』


 まぁ、確かに、僕に向けられた敵意はわかるから便利だけど。姿が違うのに……。あ、でも、クールなイケメンなんだっけ?


 ちょっと複雑な気分のまま、僕は、拡声の魔道具の前に立った。



「すみません、お騒がせしました。会場内には、デュラハンのオーラが広がってしまいましたが、身体に害はありません。デュラハンは、闇の精霊ですから」


 僕が話し始めると、シーンと静かになった。



「僕から皆さんに提案したいことが、二つあります。まず一つ目は、講習会に参加する人達への提案です」


 テーブル席の方へ、柔らかな表情を向けた。


「僕は、今後もレモネ家の講習会の担当を続けます。その講習会に参加し一定の知識を身につけた人には、修了証を渡します。それを持っていけば、商業ギルドに登録し、派遣執事の仕事を受注できるようにしたいと考えています」


 奴隷だった人達の表情が、少し明るくなったようだ。うん、悪くない提案だよな。


「そして、二つ目は、貴族や商人の方々への提案です。この町では、生まれや身分に関係なく、その個人の能力で、様々な判断をしていただけませんか。急には無理かもしれませんが、そういう努力を……」



「ちょっと、ヴァン! 何をやっているのかしら。まがまがしいオーラは、引っ込めなさい!」


 突然、神官様が部屋に入ってきた。マルクもいる。



 えっ? な、何?



「聞こえなかったの!? 神官が民を脅すようなことをしてどうするの!」



皆様、長いお休み、ごめんなさい。

待っていてくださって、ありがとうございます♪(*´-`)

まだ、ちょっと副反応は残っていますが、頑張っていきたいと思います。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 待ってました〜!! いや〜ヴァンさん、妻に怒られてますね笑 明日はお説教かなぁ?楽しみです!
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