345、自由の町デネブ 〜解毒薬を教える
後書きに、更新連絡を追記しました。【11月10日、11日、12日、14日】
レモネ家のパーティは、そろそろ中盤に差し掛かる頃だろうか。まだ、主賓だという客は来ていない。
慣れない酒を飲んで酔った人が、飲み物カウンターで黒服に絡んでいる。まぁ、よくある光景だ。
子供達や奴隷だった人達のテーブル席でも、少し酔った人が現れ始めた。
僕は、魔法袋から薬草を取り出し、簡単な解毒薬を作った。すると、奴隷だった人達が気を利かせて、酔った子供達に飲ませてくれている。
「うわぁ、にがぁい」
簡単な解毒薬なら、苦くない物も作れるが、作り方の工程が増える。僕は、あえて、薬師のスキルがない人でも作れる簡単な解毒薬を作ったんだ。
「でも、一気に酔いが覚めたよ。すごぉい」
子供達は、目を輝かせた。お酒に酔ったくらいで、解毒薬なんて飲まないもんな。
「お兄さん達も、ほろ酔いの人は、解毒薬を飲んでください。今から、作り方を教えるので、酔っていては出来ませんから」
僕がそう言うと、奴隷だった人達の何人かは、解毒薬を飲んだようだ。ほんと、遠慮がちというか、指示をしないと薬を飲まないんだよな。
貪欲に、ガツガツされても困るけど、彼らに普通を教えるのは難しい。
でも、ビクビクおどおどしていると、それだけで、人との関係では不利に働くことがある。自然に堂々としておく方が、変な人に絡まれないんだけどな。
僕は、魔法袋から、加工しやすい薬草を取り出した。
「じゃあ、ゆっくりと作るから、まずは見てください」
そうは言っても簡単な魔法だ。薬草からポーションを作るよりも、圧倒的に簡単だし、魔力もほとんど使わない。この薬草は、このまま食べても解毒作用があるんだから。
「すぐに解毒薬になるんですね」
「薬草を器に入れ、液化しようとイメージして、魔力を放てばいいんです。薬師のスキルが得られたら、調合した薬の保存容器も一緒に作れますが、まずは、解毒薬だけを作る練習をしましょう」
子供達はワクワクしているけど、奴隷だった人達は、不安そうだ。失敗すると叱られると感じているのか。
「やってみたい人には、順にサポートします。薬草と小皿を手に取ってください」
すると子供達よりも先に、奴隷だった人達が薬草に手を伸ばした。やはり命令だと感じているみたいだ。
僕は順に、彼らの手に、僕の右手を添えて解毒薬を作り、魔力の使い方を伝えていく。
一度、そうやって教えると、みんな自分ひとりで、できるようになるようだ。
彼らが作った解毒薬を、薬師の目で見てみると、薬師のスキルがないわりには、上手くできている。酔い覚ましくらいなら、これで十分だ。
「すごい、薬ができた!」
「ちゃんと、解毒薬になってる?」
子供達も、次々と成功している。まだ、魔力がほとんどない子には、さすがに使えない技能だけどね。
「薬師が作る薬ほどの効果はないですが、皆さん、上手くできていますよ。軽い毒消しなら、その薬で大丈夫です。猛毒にやられたときも、毒がまわるのを遅らせる効果がありそうですよ」
僕がそう説明すると、奴隷だった人達も嬉しそうな表情を浮かべた。
「この薬草は、六ツ葉草という名前です。加工がしやすいので、簡単な調合なら失敗はしません。商業ギルドで、ひと束、銅貨1枚くらいで売ってます」
「薬草って、買うんですか?」
「僕は、自分で探して摘みますが、薬師か薬草ハンターのスキルを持っていないと、探しにくいと思います。似た毒草もあるから、間違えてしまうと命に関わりますから、商業ギルドで買う方がいいです」
「あっ、それって、儲かりますよね」
なぜか、人懐っこい子供が嬉しそうだ。何をひらめいたのだろうか。
「うん? 儲かる?」
「はい! だって、薬草を買って、解毒薬を作って売ったら、解毒薬の方が高く売れるから」
賢い子だな。商人の才能がありそうだよね。
「確かに、儲かるかもしれませんね。だけど、こうして作った解毒薬は、保存容器がないから、あまり日持ちしませんが」
「じゃあ、保存容器を買うと……あまり儲からない」
ありゃ、ニコニコしていた子供は、ガクリとうなだれてしまった。やる気を削いでしまったか。
「ジョブの印が現れて成人になれば、いろいろなスキルが身につくから、儲けられるようになるかもしれませんね」
「じゃあ、薬師は少ないけど、薬草ハンターの神矢を拾ったら儲かりますね!」
なんだか、解毒薬専門店でもできそうな勢いだな。何人もの人が、目を輝かせている。
「薬は、調合を失敗すると、命に関わります。だから、薬を売って儲けたいなら、やはり薬師のスキルが必要ですよ。でも、簡単な解毒薬を作れる使用人は、重宝されると思います」
僕がそう話すと、奴隷だった人達は複雑な表情を浮かべた。酷い扱いを受けてきたのか。もう、どこかに勤めるのは、怖いのかもしれない。
それなら、マルクに……いや、違う。マルクだけに頼っても、解決にならない。
そうか、やはり、貴族の意識を変えさせなければ、奴隷だった人達は、この町でも、奴隷のように扱われかねないんだ。
はぁ、目立つことはしたくないけど……。
たぶん、ラスクさんだけじゃなく、レモネ家の人達も、僕に、それを望んでいるのだろうな。
年配の黒服が、こちらのテーブル席の様子を見に来ている。薬草から解毒薬を作る練習をしているから、迷惑だっただろうか。
「ちょっと、遊びながら、酔い覚ましの薬を作ってもらっています」
「おや、料理とワインの相性実験は、終わったのですか」
そうだった。
だけど、講習会ほどの、組み合わせの悪い料理を見つけられないんだよな。だから子供達は、どの組み合わせも悪くないという判断をしている。
「ワインの選定が優れていますからね。なかなか、ギョッと驚く組み合わせは、発見できないようです」
「ふふっ、嬉しいですね。そして、これは、酔った人への実習ですか。なるほど、こういう技能がある使用人は、貴族の屋敷に必須ですね。ですが、ヴァンさん、技能を教えるだけでは何も変わりません」
年配の黒服は、意味深に微笑んだ。はぁ、やはり、レモネ家の狙いは、それなんだ。
僕の予想は、確信に変わった。
「そうですね。僕も、そんな気がしていました。ただ、その方法が……」
すべてを見透かしたかのように、年配の黒服は優しい笑みを浮かべて、口を開く。
「ヴァンさんの講習会は、これからも、何回か続けていただけるのですよね?」
「へ? あ、はい。ずっとレモネ家には、ワイン講習会の契約を更新していただいていますし、ご依頼とあらば、当然、担当させてもらいます」
「ルーミント様の見立てどおりでした。ヴァンさんの契約更新を、必死に勝ち取ってきた努力が報われます」
勝ち取った?
「もしかして、以前からの壮大な計画だったのですか」
「ええ、ルーミント家のように、また、当家のように、後継争いの殺し合いもなく、すべての使用人が当主を慕い、そして長く仕えたいと願う……この町は、そんな理想を実現できるのではないかと、旦那様は考えておられます」
最後は、上手くごまかしたみたいだな。さすが、できる黒服は違う。
神矢の【富】がワインだったことから、チャンスだと考えたのだろう。ソムリエのスキルを持つ人は少ない。だから、貴族は、素性のわからない孤児でも、奴隷だった人でも、ワインの知識があるなら、使用人として雇いたがる。
だけど、神矢の【富】としてワインが選ばれてから数年経過した。彼らは、変えようとしたけど、変わらなかったんだ。
彼は、僕に何かを提案させたいんだよな。継続して講習会にくる子供達や奴隷だった人達に、何かの付加価値を与えることか。
いや、それなら、こんなパーティの場で、この話はしない。わざわざテーブル席に来たのは、僕が動かないからだ。
仕方ないな。
「黒服さん、少しお時間をいただいても?」
そう尋ねると、彼は僕を案内しようと手を広げた。やはり、僕に、何かを喋らせたいんだな。
彼は、拡声の魔道具の方へと、僕を案内する。この人は、僕の考えを覗く技能を持っているのかな。ただの勘なら、あまりにも優秀すぎる。
「ヴァン、がつんと頼むぜ」
「えっ? ディックさん、どこに隠れていたんですか」
「おまえが離れたら、護衛として近寄る予定だった。獣人は、この町でも、まだまだ厳しい。せっかく逃げてきた意味がない。頼むぜ」
ハンターパーティ、ラプトルのディックさんは、ニヤッと笑って、テーブル席の方へと近寄っていく。
彼らにも、託されてしまった。
よし、ガツンと! できるかなぁ……。
【11月10日追記】
皆様、いつもありがとうございます♪
大変申し訳ないのですが、昨日夕方に接種したワクチン2回目の副反応がひどく、落ち着くまで少しお休みします。
昨日は、大丈夫だろうと思っていたので、急なご連絡になり、申し訳ありません。
【11月11日追記】
今日も更新できません。ごめんなさい。
明日から再開できるよう準備します。
よろしくお願いします。
【11月12日追記】
ごめんなさい。画面が見ていられない別の副反応が出てきてしまいました。今日も更新できません。
日曜日か月曜日くらいには、更新したいのですが……。
お待たせしていて、申し訳ありません。
【11月14日追記】
明日から、更新を再開したいと思います。
大変お待たせしていて申し訳ありません。
よろしくお願いします。




