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343、自由の町デネブ 〜【講習会】(2)ワインと料理

「ええっ! 化けちゃうのぉ〜?」


 レモネ家のシルビア奥様が、大げさに驚いている。


 あー、そっか。子供達に合わせているのか。子供達も驚き、なんだかワクワクしているみたいだ。


「はい、化けちゃうのです」


 僕がそう答えると、シルビア奥様は少女みたいに、きゃっきゃと楽しそうに笑っている。


 講習会の出席者の多くが、そんな彼女の魅力に惹かれているようだ。いやらしく、ニヤニヤしている男性もいるんだよな。




「では、今回のテーマである、赤ワインと白ワインの違いについて、皆さんにクイズです。その前に、二つの試飲をしてもらいます。なめるだけでいいですからね」


 僕は、試飲用にと用意されていたワインの中から、カベルネ村のぶどうを使った赤ワインと、いろいろなぶどうをブレンドして作られた白ワインを選んだ。


 レモネ家の黒服達が、試飲用のコップに入れたワインを配ってくれる間に、僕は、昨夜作っておいたビーフシチューを、魔法袋から取り出した。


 これは、近くの森に大量発生中のベア系の魔物を、バーバラさんが狩って保管していた肉を使って作ったんだ。ビーフシチューというより、ベアシチューか。


 この魔物は、町の中でも大量に売られている。焼いて食べると、普通に美味しいんだけど、ゲップをすると、とんでもない獣臭がするんだ。


 だから、ゲップベアと名付けられているらしい。その臭いを嫌う上品な貴族は食べないから、値段も上がらない。この町では、安いけど美味しい肉として、有名なんだ。


 昨夜、ヒート魔法を駆使して、じっくりと赤ワインベースで煮込んで作っておいた。パーティへの差し入れのつもりだったけど、この出席者数では、講習会だけで無くなりそうだ。



「ぎゃー、渋い。何、これ」


「これは、サラサラで水みたいに飲めるね」


「どちらも安価なワインだろう。飲めたものじゃない」


 いろいろな声が聞こえてくる。だいたい試飲は終わったかな。


 本来なら、試飲の前に、ティスティングの方法を教えたい。だけど、それは、別の回のテーマだろう。


 シルビア奥様は、爺の話はつまらないと言っていた。赤ワインと白ワインの製法の違いを、話されるのかな。


 ソムリエとしては、当然、必要な知識だ。下級ソムリエのスキルを得るためにも必須だろう。


 しかし、今の彼らに必要なのは、もっと使える知識だ。



 僕が、作ってきた料理を出したことに気づいた年配の黒服は、パーティ準備をしている会場から、小皿をたくさん持ってきてくれた。


 さすがだ。言わなくても気づくんだな。


「ありがとうございます。これを皆さんに、少しずつ配っていただけますか」


「かしこまりました。素晴らしいですね。料理とのマリアージュですか」


「あ、はい。クイズに使いますけどね」


 僕がそう言うと、年配の黒服は、あいまいな笑みを浮かべた。僕の意図がわからなかったかな。




「さぁ、皆さん、クイズですよ。赤ワインと白ワインの味は、確認してもらえましたね? では、今から配ってもらうシチューに合うのはどちらのワインでしょう? シチューを食べて、これだと思う色のワインを持って、ご起立ください」


 ありゃ、食べる前から、もう立っている人がいる。


 小皿のシチューを少し食べて、次々と立ち上がっていく。手に持つワインの色は、白ワインが多いようだ。


 貴族や商人も、白ワインが多いみたいだな。


 シルビア奥様は、赤ワインだ。コソコソと相談していた子供達は、半々に分かれている感じだろうか。



 これは安価な赤ワインではない。特別な高級品ではないが、しっかりとしたフルボディ、丁寧に作られている。


 カベルネ村で育てているぶどう品種は、二つある。渋みの強いカベルネ・ソーヴィニヨンと、少し渋みの柔らかなカベルネ・フランだ。


 カベルネ・ソーヴィニヨンを使った赤ワインは、十数年寝かせることによって本領を発揮する逸品が、数多く存在する。


 一方、カベルネ・フランは、単一品種で使われるよりも、他のぶどうとブレンドしたワインが多い。カベルネ・ソーヴィニヨンの親にあたる原種だが、カベルネ・ソーヴィニヨンほどの渋みはないんだ。


 この赤ワインは、カベルネ・ソーヴィニヨンから作られた上質なワインだ。白ワインの方は、安価な辛口のテーブルワインだけどね。




「皆さん、正解は、手に持つワインを飲んでみるとわかります。一斉に飲んでみましょうか。せーのっ」


 なぜか、光の精霊様のような言い方になってしまった。



「うぎゃぁぁあ、く、くっさ〜い!」


「口の中が、獣くさくなったぞ」


「ゲップベアのシチューか? ゲップをしていないのに、強烈だな」


 白ワインを飲んだ人達は、涙目になっている。



「あれ? 渋くないわ」


「さっきは、渋くて飲めたものじゃなかったのに、なぜだ?」


「シチューの後に赤ワインを飲んだら美味しいかも」


 赤ワインを飲んだ人達は、驚きの表情だ。



「皆さん、ワインと料理の相性の違いを知ってもらえましたか? シチューを口に含み、もう一方のワインも飲んでみてください」


 再び、騒がしくなる室内。


 子供達も大騒ぎだけど、奴隷だった人達も近くにいる人と、自然と話しているみたいだ。



「じゃあ、皆さんに、また、ポーションを配ってもらいますね。正解だった人へは景品として、残念だった人にはダメージを受けた補てんです」


 レモネ家の黒服は、僕が話し終わる前に、配り始めてくれた。


 正方形のゼリー状ポーションを受け取って、すぐに口に入れている人もいる。本当にダメージをくらったのかな。


 僕なら絶対に、クセの強い肉料理に、あの辛口のシャバシャバな白ワインは合わせない。甘口の濃厚な白ワインなら、悪くはないと思うけど。



「皆さん、肉料理などの味が濃いものには赤ワイン、魚や野菜などのさっぱりした料理には白ワインが合うと言われています。ですが、必ずしも、絶対ではありません。肉料理に合う白ワインもあるし、魚料理に合う赤ワインもあります」


 僕が説明を始めると、少しずつ静かになってきた。


「そして、逆に相性の悪いものもあります。食べてもらったシチューの後に、シャバシャバな辛口白ワインを飲むと、口の中が大変なことになりましたよね? ですが、この白ワインは、鳥の塩焼きなら、とても合うと思いますよ」


 ポカンとしている人が多い。話が難しいか。


 すると、シルビア奥様が手を挙げた。なるほど、彼女は、講習会の進行をサポートしてくれているんだ。



「ヴァン先生〜、なぜ、鳥は良くて、ベアはダメなの?」


「ダメじゃないですよ。シチューは、赤ワインとの相性が良いんです。互いに、高め合ってくれるんですよ」


「白ワインじゃ、役不足なの?」


 ありゃ? 本気で質問していらっしゃる、かも。



「それは、合わせる料理によりますよ。赤ワインと相性の悪い料理もあります。この後のパーティで、いろいろ試してみてはいかがですか?」


「えぇ〜、口の中が大変なことになったら、大変じゃない」


「失敗は成功のもとです。今日、口の中が大変なことになった人は、今後、絶対、ベアのシチューに、シャバシャバな辛口の白ワインは合わせないはずです」


 シルビア奥様は、勢いよく頷いていらっしゃる。彼女だけではない。多くの人が頷いている。


「思わず悶絶しちゃったわよ。ヴァンく……ヴァン先生のグミポーションがなかったら、大変だったわ」


「では、皆さんのお口直しに、ワインを使ったカクテルでも作りましょう」



 僕がそう言うと、レモネ家の黒服達が慌て始めた。材料を揃えようとしてくれているのか。


 僕は、魔法袋から、オレンジジュースの大きな瓶を取り出した。かなり甘いジュースだ。他にも、バーバラさんが用意してくれたジュースや果物を取り出した。


 そして、レモネ家の黒服達が用意してくれたグラスに、適当にカットした果物を放り込み、適当にワインを入れ、その上からジュースを注いでいった。


 僕が、適当なのがバレたのか、黒服達は、ポカンとしている。あっ、安くない赤ワインは、使わない方がいいか。白ワインにしよう。



「皆さん、よかったらどうぞ。こちらが赤ワイン、他は白ワインを使いました」


 みんな、悩みながらも、グラスを手に取っている。そして、恐る恐る、口をつけた。さっきのアレで懲りたのかな。



「わっ、甘ぁい。美味しい」


「ワインを、こんな飲み方をするのは邪道ではないか」


 げっ、叱られた。


「飲みきれなかったワインは、翌日に、こんな風にして飲んでもらったら、多少劣化していても美味しく飲めますよ。皆さんも、お試しください」



日曜日はお休み。

次回は、11月8日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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