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337、自由の町デネブ 〜六精霊の分身が宿る壺

『ドゥ教会の神官ちゃん、それでいいわねっ』


 神官様をビシッと指差す光の精霊様。だけど、神官様は戸惑っているようだ。だよね、意味不明な役割だもんな。


「おい、光の精霊、むちゃくちゃじゃねぇか」


『天兎は、黙ってなさいっ。あたしがリーダーなんだからねっ』


「は? オレは関係ねぇだろ」


『ヴァンが呼び出したときは、あたしがリーダーなのっ。あんたも呼び出されたでしょ』


 なぜか、光の精霊様は堕天使ブラビィに、対抗心を燃やしているみたいだ。


 いや、ブラビィが挑発しているのか。ほんと、精霊や妖精をからかうのが好きだよね。




「何がありました?」


 教会の入り口から、冒険者ギルドの仮所長ボレロさんの声が聞こえた。研修中のギルマスも一緒だ。


 堕天使ブラビィが、ニヤッと笑った。ブラビィが、彼らを呼んだのか。


「おまえら、入ってこい。そこに居たら見えねぇだろ」


「いえ、精霊様が、たくさんいらっしゃるのはわかりますよ。いろいろな光が見えます」


 さっきブラビィは、キラキラした何かを使って精霊を見えるようにしたと言っていたけど、教会内に何か仕掛けをしたのだろうか。



 ボレロさんは、教会に一歩入ると立ち止まった。変な顔をしている。


「これは……」


 すると、火の精霊様が、教会の入り口にいるボレロさんの側へと、一瞬で移動した。


『おう、ボレロ。久しぶりだな』


「えっ? 火の基本精霊……いや、あれ? 名前を得たのですか? なぜそんなに……」


『名前なんて得ていない。俺は火の基本精霊のトップだから、下位の火の精霊を守るという役割がある。これは、精霊召喚だ。呼び出した精霊師の力によって、俺達は影響を受けるからな』


「まさか、王宮の精霊師がいるのですか?」


『ふっ、ヴァンだよ。まだ超級だが、精霊師は上位職だから、下級で精霊使い極級と同じだからな』


「こんなに違うのですね……それで、六精霊が……あれは、風の精霊シルフィ様? 彼女は、普段どおりに見えます」


『ヴァンが召喚したわけじゃない。シルフィは、他の誰かの呼びかけで、ここに来たようだ』


 火の精霊様とボレロさんのやり取りから、召喚する者の影響で、精霊の力が変わるということを知った。


 精霊ブリリアント様が、六精霊を召喚しろと言ったのは、精霊師が召喚すると、チカラが増すためかもしれない。


 だけど、六精霊が必要だったのかな。光の精霊様だけでも……。




『ヴァン、いま、その場所には六精霊が必要だよ』


 えっ? 精霊ブリリアント様? 


『光の精霊だけしか精霊に見えないということは、堕ちた神獣に関わった証だよ。六精霊達は、今、チカラを隠している。これで、人間がどんな影響を受けているかがわかるんだ』


 そうなんですね。それを見極めるために六精霊様を……。


『この教会に、六精霊が分身を置かせるよ。そうすることで、ここに来れば、洗脳者の選別ができる。ノレアの坊やも、王宮に選別所を作っているからね』


 ノレア神父も……。


『だけど、教会で選別できる方がいい。ノレアの坊やは、地下牢に選別所を作ったからね。罪人として捕らえてから調べるのは、おかしいだろう』


 確かに、無実かもしれないですもんね。フラン様のことも、王宮の兵が捕らえさせようと……。


『それは、神官家の根深い問題だね。だからこそ、ここに六精霊の分身を置くことにした。世話好きな、お気楽うさぎもいるからね』


 あ、いや……ブラビィは、世話好きというより、精霊や妖精をからかって遊んでいるというか……。


『ふふっ、みんな楽しそうだよ。お気楽うさぎに関わると、妖精達は特に元気になるね』


 たぶん、怒らせて遊んでいるんです。困ったやつです。


『だけど、彼は、妖精や精霊の闇落ちを防いでいるよ。偽物だとはいえ、闇属性の神獣だったからね。堕天使の役割は、彼にぴったりだ』


 精霊ブリリアント様は、そう言うと、気配を消した。ブラビィのことを信頼しているみたいだな。




「ヴァン、ちょっと来て」


 神官様に呼ばれた。光の精霊様が、彼女の近くで何かしているみたいだ。


 入り口のボレロさんが気になりつつも、奥へと戻っていく。僕が通ると、兵は僕を恐れるかのように、道を開けていくんだよな。


 教会に居た人達は、神官様の方に集まっていた。



「はい、どうされました?」


「あの、光の精霊様がね……」


 何をしてるんだろう? 土の精霊様も?


『ヴァン! ブリリアントさまから聞いたぁ? これでいいよね〜っ。かわいいよねーっ』


 土の精霊様が作られたのだろうか。大きな花瓶のような壺だ。人の背丈ほどもある。白い陶器のようにも見えるが、不思議な光を放っているんだ。


「この壺の模様は?」


『あたしが描いたのっ。かわいいよねっ?』


 かわいいのだろうか? 子供のイタズラ書きのように、色とりどりの、ぐちゃぐちゃな線やマルが描かれている。


「白い陶器に、色とりどりで綺麗だとは思いますが、何の模様ですか?」


『うん? 模様っていうの? 人間は、絵っていうんじゃないの?』


 はい? ぐちゃぐちゃな線やマルだよね?


「ヴァン、あの、この絵は、私達を描いてくださったの」


 神官様は、これを絵と呼ぶのか。


「そうなんですか。僕には、絵のことはわからないんです」


『ヴァンってば、おこちゃまね。神官ちゃん、責任を持って、ちゃんと教育しなさいよっ』


 光の精霊様のむちゃぶりに、彼女は笑顔を返している。



「へぇ、光の精霊に、こんな才能があるのか」


 えっ……ゼクトさんまで、何を言ってるんだ?


『いまさらだわっ。あの壁にも描いてあげよっか?』


「そんなあちこちに分身を置くのか? ノレアの坊やが嫉妬して、また潰しに来るぞ」


 えっ? 分身?


『はぁぁ、ノレアの坊やってば、おこちゃま以下なのよねっ。あたし、嫌いっ』


 あらら、そんなにハッキリと……。



『ヴァン、あたし、シルフィちゃんのおうちを見に行くから。じゃあねー』


 えっ? いきなり帰るのか?


『みんな〜っ! あたし、精霊の森で遊ぶからっ。リーダーについて来なさいっ。ついでに天兎も、来なさいっ』


 光の精霊様は、そう言うと、パッと弾けるように姿を消した。他の精霊様も、苦笑いを浮かべながら、スーッと消えた。



「はぁ、仕方ねぇな。ヴァン、精霊の森にも、六精霊の分身を置くみたいだ。ちょっと世話してくる」


 堕天使ブラビィは、バサバサッと天井に飛び上がり、そのまま、天井をすり抜けていった。




「この壺って……」


「土の精霊が作った精霊の宿る家らしいぜ。これに使われているこの6色は、六精霊の分身だ。これが単色に見えるなら、洗脳されているってことだ」


「ゼクトさん、絵の具みたいなのが、すべて精霊様なんですか?」


「あぁ、光の精霊がリーダーだと威張るのは、こういう点だろうな。他の五精霊の分身を吸収して、こんなラクガキができるんだからな」


 うん? 落書き?


「さっき、ゼクトさんは、光の精霊様の絵を褒めていませんでした?」


「は? どこが絵なんだ? 俺は、他の精霊の分身を操る能力を褒めてやっただけだ」


「な、なるほど……」


 よかった。僕だけがぐちゃぐちゃに見えるのかと思った。



「精霊様が、壺をここに設置してくださったから、この教会の役割は、はっきりしたわ」


 神官様は、ホッとした表情を浮かべている。


「もう、神官三家も、変なこと言ってこないですよね」


「ええ、だけど困ったわ……」


 うん? 神官様の表情が揺れている。


「どうしたんですか?」


「あの……光の精霊様が、この壺に私とヴァンを描いてくださったそうで……この壺に触れると想いが叶うとか……」


 光の精霊様は、まだそんなことを?


「フラン様、それは光の精霊様が勝手に言ってたことです。ここは、フラン様の教会なんだから、貴女の思う通りにすればいいと思いますよ」


「でも、そうもいかないわ……」



 神官様は、周りを見回して、苦笑いしている。彼女の視線の先には、ワクワクした表情のたくさんの若い女性がいる。


「まぁ、想いが叶うかは、本人同士の問題だろ。だが、精霊の宿る家ならば、光の精霊が気まぐれに加護を与えるかもしれないな」


 ゼクトさんの言葉で、女性だけじゃなく、興味なさそうだった男性の注目も集めている。


 そっか、それがゼクトさんの狙いなんだ。


 この教会を利用する人が増えると、神官三家は手出ししにくくなる。それに、こんな噂が広がるとなおさらだな。



「そうね、恋を応援する教会というのも、悪くないかしら。新しい町には新しい出会いがあるもの」


 神官様は、教会に集まる人達に向かって、笑顔を向けた。


「皆さんの願いが叶いますように」



日曜日はお休み。

次回は、11月1日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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