表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

335/574

335、自由の町デネブ 〜告白、そして邪魔者

 神官様が、神官らしくない言葉を、普通の女性のように叫ぶと、教会にいた人達は、一気に騒がしくなった。


 僕は、いろいろな感情で、頭の中が大混乱中だ。


「ふっ、やっと、まともな告白ができたな」


 ゼクトさんがそう言うと、パラパラと拍手が聞こえてくる。そして、いつしか教会の中にいる全員に、拍手の波が広がっていった。



 近くにいた人が、僕の背中を押した。


 ちょ、ちょっと……。


 ズイズイと、僕は、彼女のそばへと、押しやられていく。この拍手は、僕達を祝ってくれているのだと感じた。


 まずいな、顔が熱い。


 そんな僕の方を見て、神官様は、口を押さえて真っ赤な顔をしている。


 どうしよう、かわいい。


 だけど教会で、しかも、たくさんの人の前で、そんな無防備な顔をしていていいのか? 


 神官らしくない彼女の表情に、教会にいた人達は、口々にいろいろなことを言っているみたいだ。


 だけど、みんな、にこやかな笑みだな。神官様が未熟だとか思われていないかな。大丈夫なのだろうか。



「ヴァン、黙っていて、ごめんなさい」


「いえ、僕の方こそ、いろいろと……。あの、いつから、僕は伴侶になったんですか」


「えっ? あ、あの、前に、この場所に来たときよ。ヴァンが、その……想いを私に告げて、あの……」


 彼女は、真っ赤な顔をしてうつむいてしまった。話しにくいことなのかな。たくさんの人がいるからか。



「ヴァンさん、ここでフラン様に告白したのですか」


 近くにいた若い女性に尋ねられた。


「あ、はい。まだ、建物の外観しか出来ていなかったときですが……」


「きゃーっ、素敵だわ」


「ほんと、憧れちゃう」


「私も、彼を連れて来ようかしら、きゃっ」


 なんだろう? 若い女性が盛り上がっている。


「神の像の下で、愛を告白して、相手がそれを受け入れると、稀に神の祝福が得られるのよね」


「言葉にしなくても、キスをすればいいのよね。素敵だわ〜」


 えっ? もしかして、あの時、神官様が涙を流したのは……。


 彼女の方に視線を移すと、居心地が悪そうに、なんだかモジモジしている。いつも凛としているのに、こんな顔をするなんて……。



「フラン様……」


「な、何よっ」


 ぷくりと膨れっ面をする彼女。まだ、顔が赤い。照れているのだろうか。


 なんだか、こんな彼女って……。


「貴女を愛しています。僕と結婚してください」


「ちょ、もう、伴侶になってるって知ってるでしょっ」


 ぷいっと横を向く彼女。ほんと、素直じゃないんだよね。バレバレですよ? 頬がさらに赤くなってる。


「貴女の言葉で聞きたいんです。僕と結婚してくださいますか?」


「もうっ! バッカじゃないの。結婚してあげるに決まってるでしょ!」


 僕は、思わず、彼女を抱きしめた。


 そして……。


 真っ赤な彼女の顔に、僕の顔を近づけて、そっとキスをした。


 ポワンとした表情をしていた彼女だけど、すぐに人目があることを思い出したみたいだ。


「ちょっと、ヴァン! あなたねー」


「はい、なんですか?」


 僕が、ジッと見つめると、彼女は僕の腕をほどこうと、ジタバタし始めた。


「もうっ!」


 今度は、彼女の方から、僕の唇に彼女の唇を重ねた。



「きゃ〜っ、素敵だわ〜」


「神の像が、すっごく輝いてるぅ」


 若い女性は、きゃーきゃー騒ぎながらも、めちゃくちゃガッツリ見てるんだよな。


 再び、自然に、パチパチと拍手が起こった。



 まさか、夢じゃないよな? 


 僕は、ついに、僕は!!



 神の像を見上げると、キラキラと輝いている。神の祝福かぁ。本当に、本当なんだよな?


 腕の中の彼女に視線を移すと、彼女も神の像を見上げていた。


 僕は、彼女をキュッと抱きしめた。





『我が王! た、た、大変でございますです〜』


 はい? リーダーくん?


 その声は、僕にしか聞こえない。みんな、僕達を祝ってくれている。


 僕が下を向くと、ゼクトさんが何か気づいたみたいだ。足元には居ないな。


『た、た、た、た、たぁいへん……ふぎゃっ』


 リーダーくんが蹴られたのだろうか。キョロキョロと辺りを探していると、神官様が変な顔をしている。


 だよね。突然、キョロキョロしていると不審だよな。


「ヴァン、何?」


「あ、はい、ちょっと声が聞こえて……」


「まさか、神の声?」


「いえ……」



 すると、ゼクトさんが口を開く。


「偵察している従属か?」


「あ、はい。気のせいかな……あっ」


 頭の上に、ポテッと何か柔らかいものが落ちてきた。


『我が王! 大変なのでございますです〜』


 僕が手を出すと、手の上に乗ってきた。すると、その手を狙ったかのように、もう一体が降ってきた。



「フラン様、気のせいじゃなかったみたいです」


「お祝いに来てくれたのかしら?」


「いえ、何も考えていないかと……」


 すると、賢そうな個体が、神官様に一礼している。リーダーくんも、慌てて真似をしているんだよな。



『我が王! た、たたた大変たたた……げふっ』


 リーダーくんって、興奮すると、喋れなくなるよね。だけど今の声は、なんだか、すごく耳に響いた。


 リーダーくんは、お腹を押さえて、僕の手のひらでうずくまっているよ。


『我が王! 大切な場をお邪魔してしまい、申し訳ありません。火急の報告でございます』


 賢そうな個体は、キリッとした顔で話している。でも、妙に声が響くんだよな。教会だからかな。


「どうしたの?」


『はっ、王都から、この教会に神官家の人間が来ます。この教会が、神官三家に対して謀反を起こす危険な集会所となっているため、排除すると』


「えっ? 教会を排除?」


『この教会を潰し、神官を処刑すると……もう、来ます。この町に着きました』


「わかった、ありがとう。キミ達は、精霊の森を守って。精霊シルフィ様が、恐れないように」


『御意!』


 返事をすると、リーダーくんの頭を殴り、賢そうな個体は、床へ飛んだ。


 僕は、リーダーくんに正方形のゼリー状ポーションを渡して、そっと床に下ろした。すると、ポーションを抱えて、スタタタと壁の方へと走り去った。元気じゃん。



 立ち上がり、この件を神官様に伝えようとすると……彼女は、顔面蒼白で立ち尽くしていた。


 それに、教会にいる人達も、様子がおかしい。



「ヴァン、誰かが泥ネズミの声を流してたぜ」


「えっ? 聞こえたんですか。あっ、だから音が響いてたのか」


 ブラビィか。なぜ、そんな……いや、この件については、みんなに知らせる方がいい。


 この教会が謀反の集会所だなんて、そんなことは、言いがかりでしかない。


「さっきの暗殺者が失敗したからだな。俺が居るとわかっていて狙ってくるとは、いい度胸をしているじゃねぇか」


 ゼクトさんは、なんだか少し楽しそうに見える。


「もしかしたら、ゼクトさんも……」


 僕は、そう言いかけて、言葉を飲み込んだ。教会の入り口に、兵が次々に現れたんだ。




 教会にいる人達は、引きつった表情をしている。だけど、兵の登場に、それほど慌てているわけではない。やはり、事前に知らせておいたブラビィの作戦は、正解だな。


 神官様は、必死に平静を装っているけど……震えている。


 これまでにも、何度も命を狙われてきたんだ。その恐怖がよみがえってきたのかもしれない。


 せっかく独立できたのに、潰そうとするか? しかも、神官様を処刑するだなんて、誰が黒幕なんだ?


 まさかとは思うけど、彼女の表情からして、アウスレーゼ家なのか?




 コツコツと、靴音を鳴らして、兵が入ってくる。兵だけじゃないな。魔導ローブを身につけた神官らしき人もいる。


「こちらの教会の神官は?」


 兵の問いかけに、神官様が数歩前に進んだ。


「私ですわ。教会に入るときには、鎧は遠慮してくださいますか」


「それはできぬ。神官三家への謀反を企てるドゥ家の主人フラン、おまえを捕らえよとの王命が下った」


 王命? 怪しいな。


 チラッと神の像に、視線を移すと、わずかに点滅したような気がした。その意味はわからない。だけど、神が、兵の言葉を否定したような気がした。


 ゼクトさんが動こうとしたのを、僕は視線で制した。


「それは誤解ですわ。この教会は、この町の移民の不安を取り除くためのもの。神官三家とは役割が異なります」


 神官様は、少し震える声で、だけど凛とした態度で、兵の言葉を否定した。


「王命に逆らうというのか?」


 おかしいな。この場には、僕がいることも、知られているはずだ。彼女を捕まえたいなら、逆に僕やゼクトさんが居ない時を狙うはず。


 ということは、やはり狙いは、僕か……。



 僕は、彼女の前に出た。


「えっ、ヴァン?」


「ここは、僕にお任せください。おそらく、真の狙いは、僕の方でしょう」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ヴァンカッコいい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ