332、自由の町デネブ 〜ジョブボードを確認する
「はい? なぜ、そんなスキルが? 神官のスキルって……神官は、ジョブしか存在しないんですよね?」
僕は、ゼクトさんに言い返すような強い口調で、尋ねてしまった。からかわれていると感じたんだ。
「だから、レアだと言っただろ。ジョブボードを見てみろよ」
ゼクトさんは、ニヤニヤと笑っている。そして、また、神官様を呼びつけているんだよな。
彼女は、神の像の真下で、教会にいる人達に、さっきの僕達の行動や、断罪草についての説明をしていて忙しそうなのに。
僕は、人の少ない端へと移動した。ゼクトさんは、なぜか面白そうな顔をして、ついて来る。
ゼクトさんは、神矢ハンターだから、スキルについての情報は、熟知しているはずだ。そんな彼が、スキルについて、嘘をつくわけはないか。
ジョブの印に触れて、ジョブボードを表示してみると……。
◇〜〜◇〜〜〈ジョブボード〉New! ◇〜〜◇
【ジョブ】
『ソムリエ』上級(Lv.5)New!
●ぶどうの基礎知識
●ワインの基礎知識
●料理マッチングの基礎知識
●テースティングの基礎能力
●サーブの基礎技術
●ぶどうの妖精
●ワインの精
【スキル】
『薬師』超級(Lv.4)New!
●薬草の知識
●調薬の知識
●薬の調合
●毒薬の調合
●薬師の目
●薬草のサーチ
●薬草の改良
●新薬の創造
『迷い人』上級(Lv.3)
●泣く
●道しるべ
●マッピング
『魔獣使い』極級(Lv.Max)
●友達
●通訳
●従属
●拡張
●魔獣サーチ
●異界サーチ
●族長
●覇王
『道化師』超級(Lv.3)
●笑顔
●ポーカーフェイス
●玉乗り
●着せかえ
●なりきりジョブ
●なりきり変化(質量変化、半減から倍まで)
『木工職人』中級(Lv.10)New!
●木工の初級技術
●小物の木工
『精霊師』超級(Lv.1)
●精霊使い
●六属性の加護(超)
●属性精霊の憑依
●邪霊の分解・消滅
●広域回復
●精霊ブリリアントの加護(極大)
●デュラハンの加護(超大)
『釣り人』上級(Lv.10)
●釣りの基礎技術
●魚探知(中)
●魚群誘導
『備え人』上級(Lv.3)
●体力魔力交換
●体力タンク(1倍)
●魔力タンク(1倍)
『トレジャーハンター』中級(Lv.1)
●宝探知(中)
●トラップ予感
『神官』下級(Lv.3)New!
●祈り
【注】三年間使用しない技能は削除される。その際、それに相当するレベルが下がる。
【級およびレベルについて】
*下級→中級→上級→超級
レベル10の次のレベルアップ時に昇級する。
下級(Lv.10)→中級(Lv.1)
*超級→極級
それぞれのジョブ・スキルによって昇級条件は異なる。
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まずは、ソムリエのレベルが、毎年上がっていることに、ホッとする。ジョブの印も、陥没の兆しはない。だけど、そろそろ本当にヤバイよな。
とりあえず、胸を撫で下ろしつつ、レモネ家のワイン講習会だけじゃなくて、他にも何かしておく方が良いかという気になる。
気のせいかもしれないけど、ジョブの印が薄くなっている気がする。僕は、カラサギ亭で会った若い男の陥没した印を思い出し、ぞぞっと背筋が冷たくなった。
薬師のレベルも上がってる。だけど、超級のままだ。やはり超級なんだよな。うーむ、極級でも難しいという断罪草を一発で作るには、圧倒的に力不足だ。
あっ、木工職人が、中級レベル10になっている。ここしばらくは、この町に来たときは、泥ネズミ達の遊び場を作っていたからかな。かなり木工作業にも、慣れてきた気がする。
釣り人は、お魚ハンターとも呼ばれる。ハンターの種類に分類されるんだ。リースリング村近くで、ときどき釣りはしていたのに、レベルは上がっていない。次のレベルアップ時には、超級になるからか。
トレジャーハンターも、少し使ったのに……しかも中級なのに、レベルが上がってない。お宝探しを真剣にしないと、ちょっと使う程度では、上がらないのか。
ん? 別に何も増えてないじゃないか。
もう一度、上からサーッと見て……あっ、見つけた!
そうか、新しいスキルは一番下に記載されるんだ。説明書の一部に見えて、見逃していたよ。
僕は、ゼクトさんの方を向いた。
「あっただろ? レベルは?」
「はい、ありました。下級レベル3です」
「ふん、レベル3か。いまの断罪草作りで、1か2上がったってことだな」
僕が神官のスキル持ちだなんて……。だけど、下級ってことは、ジョブではない。ジョブは、上級レベル1の状態で、与えられるんだ。
「まさか、『神官』下級だなんて……」
「だから、レアなんだよ。ジョブの印を陥没させても、そこまで下がらない。それより先に死ぬからな」
ジョブの印の陥没と聞いて、僕はまた、背筋が冷たくなった。
「僕のジョブの印って、ヤバくないですか? なんだか、色が薄くなってきたような気がするんです」
すると、ゼクトさんは、ククッと笑った。僕が何を恐れているかがわかっているんだ。
「ヴァン、ひとつ教えておく。ジョブの印が陥没する前には、印は浮き出てくるんだ。手に触れてもわかるくらいにな。だから、色が濃く見えるはずだ」
「そうなんですか」
「あぁ、色が薄いと感じるなら……ちょっと見せてみろ」
ゼクトさんは、僕の右手をつかみ、グローブを外した。そして、ふふんと笑っている。
やはり、気のせいなのか? でも、やっぱり少し薄く感じるんだよな。
「ヴァン、さっき、オールスの薬を作るために、増幅の印を使っただろ」
「えーっと、印は熱くなりましたけど……」
「だから、まだ、印にマナが集まっているんだ。薄く見えるのは、マナの光のせいだ。この場所が暗いから、そう感じるんだろう」
確かに、教会の端だし、少し薄暗い。そう言われてみれば、マナの印が淡い光をたくわえているようにも見える。
「それなら、いいんです……」
「ふっ、まぁ、ソムリエの仕事を、あまりしていないから気になるんだ。おまえを雇いたい貴族は、いくらでもいるだろう?」
「はぁ、そうですよね。もう少し、派遣執事をしなきゃ」
だよね、そんな気がしていた。ゼクトさんも、そう感じていたみたいだ。
「カラサギ亭のアルが、この町に店を出すと言っていたぜ。アイツも、間抜けなオールスのパーティメンバーだからな」
「えっ? マスターが店を?」
「あぁ、基本的には、スピカに居るだろうけどな。ここにも店がある方が便利だろ。客で来ていたキティという女を、店長にするらしいぜ」
キティさん? あー、荒野のガメイの赤ワインをカラサギ亭に売り込みに行ったときに会った女性だ。
確か、女性二人でカウンターに座っていて、キティというカクテルを出したら、自分の名前と同じだと言って、喜んでいたんだっけ。
キティさんの連れの女性が、マスターに惚れてるっぽかったよね。
「その女性客なら、覚えています。とても話し好きな明るい人ですよね」
「さぁ、知らん。カウンターで、この町に店を出そうという話をしていたときに、その女が、やりたいって言ってきたんだよ」
キティさんは、カラサギ亭の常連客なんだな。
「なるほど、それで店長を?」
「あぁ、まぁ、この町の店は伝言用だからな。盗賊なら念話も使える。悪くない人選だ」
「盗賊? キティさんが?」
「ジョブかどうかは見極められねぇけどな。いろいろな隠匿系の技能持ちだ。見るたびに違うジョブに見えるんだがな」
スキル『道化師』のなりきりジョブを使っているのかな。
「へぇ、ゼクトさんでも見抜けないなんて、よほどですね」
「だから、アルが店長にすると決めたんだろ。とりあえず、間抜けなオールスが少し落ち着いたら、出店すると言っていたから、準備を始めるんじゃねぇか」
それは、幸運かもしれない。
「じゃあ、僕も、たまに店を手伝わせてもらおうかな。カベルネ村は、すぐ隣だから、ワインを扱ってくれますよね?」
「はぁ? まぁ、それはアルに言えよ。だが、そんなことをしてていいのか? 店長は、女だぜ?」
ゼクトさんがニヤリと笑った。僕が神官様に、片想いをしていることを、知っているからだよな。
「別に、それは関係なくないですか?」
「フランに聞いてからにしろよ」
はい? なぜ……あっ、神官のスキルがあると、盗賊と関わってはいけないのかな。
「おい! フラン、こいつが女の店で働くとか言ってるぞ」
なぜか、ゼクトさんが叫んだ。すると神官様は振り向き、こちらへと歩いてくる。
「ゼクトさん、なぜ、神官様に」
「ヴァン、なぜ、おまえが神官のスキルを得たか、わかってるか? その条件が揃ったからだぜ?」




