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330、自由の町デネブ 〜薬草の改良

 教会の中は、以前来たときとは、随分と雰囲気が変わっていた。まぁ、あのときは、まだ何も揃ってなかったもんな。


 魔導学校の近くにある教会よりも、広く感じる。天井が高いから、そう思うのかもしれない。


 高い場所にある窓は、様々な色ガラスになっている。とても綺麗だ。これは、神官様の趣味なのだろうか。僕以外にも、窓を見上げている人がチラホラいるんだよね。



 入ってすぐの場所には、行列ができている。これは、どこも同じだ。神官見習いの人が、いろいろな悩みを聞いてくれるんだ。


 列の先は見えないけど、かなりの人気だな。あまり教会では見かけないような、荒っぽい雰囲気の人も並んでいる。まぁ、移民の町だから、ということなのかもしれない。


 もしかしたら、神官見習いの人が、とても可愛い女性なのかもしれないな。いや、違うか。女性もたくさん並んでいる。


 新しい町だから、相談したいことが多いのかもしれない。みんな、きっと不安を抱えているのだろう。



 奥の方に目を移すと、神父様が話をするステージの前には、それを聞く人が座る長椅子が並んでいる。これも、どこも同じだな。


 あっ、神父様という呼び方でいいのかな。この教会は、神官様が独立して、建てられた教会だ。彼女は、女性なのに神父様?


 そういえば、中庭にいた子供達は、彼女のことを神官様と呼んでいた。ということは、神官様と呼べばいいのか。


 僕には、その知識はない。マルクなら知っているだろうか。うーむ、なんでもマルクに頼りすぎかな。



 そのステージ横の天井近くに飾られた神の像は、キラキラとやわらかな光を放っている。こんな神の像は、見たことがない。まるで、その場所に神がいるかのような、不思議な感覚を感じる。


 そうか、これが、神の祝福なんだ。


 神の像の下では、たくさんの人が必死に祈っている。特に、何かが起こっているわけでもなさそうだけど、人々は、満足そうなんだよな。



 断罪草は、超薬草を掛け合わせることで生まれる草だと、神獣ヤークは言っていた。神の祝福を得る場所で、稀に創ることができると……。


 あんなに、人が集まっているなら、今は難しいか。でも、こうしている間にも、ギルマスは苦しんでいるんだよな。


 ゼクトさんは、薬ができたらギルマスを、ここに召喚すると言っていた。


 でも、彼が動けないなら、薬を持って行ってあげればいいのに、なぜ、パーティのリーダー召喚を使うと言っていたのだろう。




「おい、フラン、なんとかしろよ」


 ゼクトさんは、神官様に無茶振りをしている。僕が、キョロキョロしている間に、打ち合わせをしていたみたいだ。


 神矢ハンターは、神官家の血筋に生まれるジョブだ。ゼクトさんは、幼い頃に捨てられて、親の顔がわからないみたいだけど、神官家の血を引くんだよな。


 神官様と並んで歩くゼクトさんは、なんだか、この教会の神父様のようにも見える。神官の服を着ると似合いそうだ。


 あっ、神の像の輝きが強くなってる。神官様が近寄ったからだろうか。


「おぉ、像の輝きが増すだなんて! ワシの願いを聞き届けてくださるということかの?」


 必死に祈っていた老人が、神官様に尋ねた。


「ふふっ、神はすべての人を、あたたかく見守ってくださっていますよ。皆さん、少し、場所を譲っていただけませんか」


 神官様がそう言うと、サーッと道が開かれた。



「ゼクトさん、これでいいかしら?」


「いや、もう少し必要だな。超薬草は、たまに毒に変わる物もあるからな」


 すると神官様が、人々の間に入っていき、さらに離れるようにと頼んでいる。みんな、素直に従ってくれるみたいだ。


 ゼクトさんも、その近くで範囲指定をしているから、彼を恐れて、みんな従っているのかもしれないけど。



「あれは、狂人じゃないか? 彼が近寄ると像の輝きが増したぞ」


「なるほどな、神官様の伴侶が公表されていないのは、そういうことか。狂人が伴侶だとは言いにくい」


「だが、彼は神矢ハンターなのだろう? 神の導きのジョブだ。神官家を支える伴侶に相応しい」


「しかし、狂人だぜ? まぁ、最近は、少しマシになってきたみたいだがな」


「狂人が変わってきたのは、神官様のチカラか。美しく気高い女性だからな」



 えっ、嘘……。


 ゼクトさんが、神官様の伴侶? そんなことは、レモネ家では言ってなかった。


 もしかして、僕がいるから、言えなかったのか!?


 そういえば、神官様のことを呼び捨てにしているし、神官様は、ゼクトさんと呼んでいる。以前は、狂人とは言わなかったけど、あの人呼ばわりだったよな。


 うわぁあぁ!!


 僕は、足が止まってしまった。ゼクトさんが、そんな僕に気づいて、手招きしている。


 そうだ、ギルマスの薬を作らなければいけない。


 だけど……胸が痛い。



「おい、ヴァン! 胸を押さえて、何をしてるんだ? ビビってる場合か。どうせ、失敗する。一度で出来るとは思っていないから、気楽にしろ」


 僕は、断罪草を作ることに、ビビっているわけではない。


「ヴァンってば、肝心なときに逃げ癖があるのよね。断罪草は、王宮の極級薬師でも、なかなか成功できない特殊な薬草よ。失敗を恐れる必要はないわ」


 神官様も、わかってない。それに、逃げ癖って……。


 僕は、今すぐ逃げ出したい気分になった。だけど、さすがにそれはできない。多くの人の祈りを中断させてしまったんだ。


 足が重い。どうやって歩くんだっけ?


「おい、ヴァン! おまえにしかできないことだ。逃げるなよ。オールスが待っている」


 そ、そうだ。ギルマスが、きっと期待して待ってくれている。僕は、重い足を動かした。



 はぁ……。二人は、お似合いに見える。


 でも、変な貴族と伴侶になるより、ゼクトさんを選んだ神官様は、適切な判断をしたんだと思う。


 そうだ、強欲な貴族に比べればゼクトさんは何倍も、いや何十倍もカッコいいんだ。こうやって並んでいると、絵になる。やっぱ、お似合いだ。


 そんな二人の方へと、僕は必死で歩いた。




「一応、余計なマナが入り込まないように、ゆるい結界を張ってある。万が一、毒が噴出したときには、封鎖バリアに変えるから、安心しろ」


 ゼクトさんは、神の像の真下に、術を使ったみたいだ。床に一瞬、魔法陣が現れた。


「あら、聖魔法の結界を張れるのですね」


「当たり前だ。俺は、神の下僕ジョブだぜ」


「まぁっ、そんな言い方は、良くないわよ」


 二人は、仲がいいみたいだ。はぁ、まぁ、その方がいいよね。僕は、ダークな感情を振り払う。


 憧れの神官様と、憧れの極級ハンターのゼクトさんだ。僕の好きな人同士の恋愛を、僕が応援しないでどうするんだ!?


 パンパンと、自分の顔を叩く。


 よし! もう、大丈夫だ。ギルマスのためにも、なんとか断罪草を作らなければ!




 僕は、念のため、木いちごのエリクサーを口に放り込んだ。わりと回復する感覚。あれ? 魔力が減っていたのか?


 お気楽うさぎに、魔力ドロボーをされたか。精霊の森に、何かチカラを使ったのかな。いや、レモネ家にいたときに、僕の頭の中を中継したアレかもしれない。


 そう考えていると、少し落ち着いてきた。


「じゃあ、始めます」


 僕がそう言うと、二人は僕から少し離れた。たくさんの人が取り囲むように見ている。いや、祈りを邪魔したからだよね。早く、作らなきゃ。



 僕は、魔法袋から、さっき精霊の森で摘んだ超薬草を取り出した。うん、まだ、精霊の力を感じる。そして、スキル『薬師』の薬草の改良を使った。


 まずは、この虹花草の一部を別の超薬草へと変化させる。断罪草を作るには、超薬草を掛け合わせることが必要だ。


 罪なき者に背負わされた罪を軽減したい。


 そのための素材として適切な超薬草へと念じる。すると虹花草は、まさかの諸刃もろは草へと変化した。


 諸刃草は、そのままなら傷薬として使えるが、熱を加えると毒薬草に変わる。超薬草の中では、価値の低い薬草だ。


 普通に超薬草を集めるなら、僕は、絶対に諸刃草は選ばない。だけど、この場所で、これに変わったということは……。



 僕は、上を見上げた。神の像は、強い光を放っている。これでいいと、神がおっしゃっているのかな。


 よし、これで、やってみよう。



 諸刃草と虹花草をつかみ、魔力を込める。祈りを込めているという方が適切か。ギルマスを治すための、断罪草に変わってくれ!


 手が燃えるように熱くなってきた。薬草の改良で、こんな現象は初めてだ。何か、間違えていないか。


 上を見上げる。


 神の像は、変わらず輝いている。きっと大丈夫だ。


 僕は、さらに魔力を注いだ。



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