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33、ボックス山脈 〜薬師学校の女性達に囲まれて

 僕は今、ボックス山脈のひとつの山のふもとにある、小高く見晴らしのいい場所にいる。ここは、魔物よけの結界が張ってあるそうだ。だから、たくさんの冒険者のテントがある。


 小さな湖がある付近は人気で、もう既に満員だった。だから僕達は、丘の上の方にいるんだ。


 マルクが、僕達と一緒に入山した冒険者達に話を聞いている。一応、湧き水がないか気をつけてくれていたらしいが、濁りの原因はわからないみたいだ。


 僕は、話はマルクに任せて、薬草を集めている。農家の技能は便利だ。取りすぎないように気をつけながら、引き抜いて、そして正方形のゼリー状ポーション作りをしているんだ。




「あら、坊や、何をしているの?」


 突然、見知らぬ冒険者に声をかけられた。三十歳前後に見える武闘系っぽい女性だ。ポーションだとは言わない方がいいよね。


「えっと、こんばんは。ちょっと、薬草を集めています」


「もしかして、薬草ハンターなの!?」


 勢いよく話に加わってきた人は、僕と同じくらいの女の子だ。大きな目をクリクリさせて、なんだか小動物みたいな子だな。あ、他にも何人かいる。女の子ばかりの冒険者パーティなのだろうか。


「いえ、違います」


「じゃあ、どうして薬草を見分けられるの?」


「えっ、えっと……」


 どう答えればいいかわからない。知らない人に、素性を明かすのは危険だもんな。


「クリスティ、初対面の人をいきなり質問攻めにするのは、はしたないわよ」


 僕に声をかけてきた人が、そうたしなめている。はしたない? 貴族のご令嬢なのかな。


「ごめんなさい!」


 えっと……貴族なら、こんな風に簡単に頭を下げないよな。でも、お嬢様っぽい子なんだけど。


「いえ……」


「坊やは、薬師なのでしょ? こんな場所に入る許可があるようには見えないけど」


 ちょっと嫌な言い方だな。思わず反論しそうになったけど、これって、わざとだよね。その手には乗らない。


「さぁ、どうでしょう? あの、何か僕にご用ですか」


「あら、用心深いわね」


 彼女は、冒険者パーティらしき他の女の子達を手招きしている。ちょ、まだ他にもいたの?


「なぁに? 先生〜」


「しぃっ、外では名前で呼ぶようにと教えていたでしょ」


 先生? 学校の先生なのか。この女性以外は、みんな十代に見えるもんな。叱られた子は、口を押さえている。なんだか見た目よりも、幼い印象を受けた。



「坊や、いろいろとごめんなさいね。私は、スピカという街で、薬師をしているの。彼女達は、薬師志望でね、今日は実習でボックス山脈に来ているのよ」


「そうですか。僕もスピカの学校に通っています。今は休み期間だけど、秋からまた授業が始まるので」


 スピカの街で、薬師? そういえば、スピカには薬師学校もあったな。小さな家の貴族がよく通っているって、誰かが言っていた。確か、卒業すると下級薬師のスキルが得られるらしい。だから学費は高いけど、とても人気があると聞いたことがある。そっか、学費が高いから貴族ばかりなんだな。


「あら、どこの学校かしら?」


「なぜ、それを知りたいんですか」


 そう聞き返すと、彼女は笑ってる。生意気なガキだと思ったかな。


「坊やが……坊やは失礼ね。私はレミーよ」


 これは、名乗れということか。


「僕は、ヴァンといいます」


「うふっ、ヴァンくんね。ヴァンくんは、家の名は何かしら?」


「僕は貴族ではありません。親は農家ですから」


 そう答えると、取り囲んでいた女の子の何人かは、少し離れていった。正直なんだな。そういえば、スピカの街の薬師学校は、良い結婚相手を探すための学校だとも噂されていたっけ。貴族って、大変そうだな。


 レミーさんは、誰が離れていったのか、しっかりと見ているようだ。僕に話しかけたのは、彼女達の反応を見るためなのかな。


 目をクリクリとさせた、クリスティさんは、僕が農家だと言っても興味津々な様子だ。


「じゃあ、貴族のしがらみに惑わされなくて済むわね。よかったね、ヴァン」


「えっ? あ、いや……まぁ、そうですね」


 クリスティさんは、天然なのだろうか。よかったねって言われても……。それに、ヴァンっていきなり呼び捨てだ。


「クリスティ、いきなり、ヴァンくんを呼び捨てにするのはどうかと思うわよ。いくら農家の子だからって」


「ごめんなさい!」


「いえ、大丈夫です……」


「先生、ヴァンが大丈夫って言ってるよ」


「クリスティ、外では名前を呼ぶようにと今、他の人にも注意をしたばかりですよ」


「ひゃー、しまった」


 彼女は、頭を抱えてその場に座り込んだ。ふっ、変な子だな。会話の様子から考えても、らしくないけど貴族のお嬢様だよね?



「ヴァンくん、ジョブは尋ねてもいいかしら? 私のジョブは『薬師』。だから、もう気づいていると思うけど、薬師学校で講師をしているの。ヴァンくんのジョブも同じなら、講師にスカウトしたいのよ」


 えっ? まさかの講師? 僕はまだ十三歳なんだけど。


「僕のジョブは『ソムリエ』です。それに、ジョブの印が現れたばかりなので、講師なんてとんでもないです」


「あら、珍しいジョブね。それに、落ち着いた話し方をするから、十代後半かと思ったわ。もしかして、十五歳くらい?」


 何? 僕って老けてるの?


「いえ、十三歳です」


「えーっ? 嘘! ヴァンってば、私より年下なのぉ?」


 大きな目をクリクリさせて、クリスティさんが叫んだ。そして、パッと口をふさいでいる。さすがに、今のはマズイと思ったんだね。


「ヴァンくん、それだと今は講師にはスカウトできないわね。薬師学校では、講師は十五歳以上と決められているのよ。極級や超級なら、そんな制約はないんだけどね」


「そうですか。では、僕はこれで……」


「ちょっと待って。ヴァンくんは、なぜ薬草を一気に集めることができるのかしら。薬草ハンターの技能よ」


 レミーさんは、なぜか、やたらと絡んでくる。僕、こんな大人の女性の扱い方はわからないよ。


 マルクに助けを求めたいのに、マルクはまだ、冒険者の人達と話をしている。


「農家の技能です。雑草を引き抜く代わりに、薬草をターゲットにしただけですから」


「へぇ、生産職の技能も持っているのね」


「家の手伝いをしているだけですよ」


 彼女は、僕のことを探っているみたいだ。僕が十五歳になったら、講師にしようと考えているのかな。


「先生! じゃなくて、レミーさん、ヴァンを講師にするんですか」


「クリスティ、話を聞いていたわよね? ヴァンくんは十三歳だから、無理よ」


「でも、ヴァンみたいに、カッコいい男の子が講師をする方が、みんなちゃんと学校に来ると思うの」


 カッコいい? 嬉しいけど、そんなこと言われたことないよ。


「私が講師ではダメかしら?」


「先生のことじゃないよ。偉そうな変な爺ちゃん先生ばっかりだから、息がつまるもの。代わりの講師が見つからないから、辞められないんでしょ」


 そっか、爺ちゃん先生が嫌なだけなんだな。




「ヴァン、何してんの? 羨ましすぎるハーレムなんか作っちゃって」


 来たー! 救世主マルク!


「薬草を摘んでたら、声をかけられて〜」


 マルクは、彼女達に上品な笑顔を向けた。うん、貴族っぽい。


「お嬢様方、ヴァンを返していただいても構いませんか? 今から、他の冒険者との打ち合わせがあるんですよ」


「あ、ええ、もちろん。ヴァンくん、またスピカで会えたら、ぜひ声をかけてね」


 レミーさんはそう言うと、彼女達を連れて湖の方へと歩いていった。人気の場所を確保できてるんだな。


「マルク、助かったよ〜」


「あの人、薬師学校の人だろ。スカウトされた?」


「うん、でも僕が十代後半だと思ってたみたい」


「はい? あはは、確かにヴァンって、年齢不詳っぽいな」


「ちょ、それ、老けて見えるってこと!?」


「いいじゃないか、その方が。貴族と関わるときは尚更だ。じゃ、テントを張って、飯食って寝よー」


「あれ? 冒険者の打ち合わせは?」


「終わったよ」


 さっき、これから打ち合わせって言ってたよね。嘘ついたんだ。




 マルクは、魔法袋からテントを取り出した。


「結界を張るから、先に中に入って」


「うん、でも、この辺って安全なんじゃ?」


「ボックス山脈に安全な場所なんてないよ」


 そして、マルクから携帯食を渡されて、一緒に食べた。外でバーベキューをしてる人もいるんだけど。


「ヴァン、外での調理は危険なんだ。さっさと寝るぞ」


「うん、わかった」


 僕達は、そのまま、簡易ベッドに入った。外の賑やかな笑い声が、微かに聞こえる。マルクの結界って防音効果も付与されているんだな。



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