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329、自由の町デネブ 〜神官様のドゥ教会

『ヴァン、超薬草は見つかったか?』


 ゼクトさんから、念話が届いた。左手首の随分と昔にもらった通信用の魔道具が光ったんだ。それに触れると、応答することができる。


『はい、いま、ちょうど素材が揃ったところです』


『じゃあ、教会で集合だ』


『えっ? ゼクトさんもついてきてくれるんですか』


『ふっ、俺は、オールスを運ぶために必要だからな。ここから教会までの距離でも、通常の転移魔法は、アイツには負担が大きい。だから薬ができたら、パーティのリーダー召喚を使う』


『あー、なるほど、わかりました。教会に向かいます』


 そう答えたものの、転移魔法と召喚魔法の違いなんて、当然、僕にはわからない。


 なんとなく、知ったかぶりをしてしまったように思えて、気持ちがモヤモヤした。


 このまま、ずっと知ったかぶりもできないよな。今度、マルクに尋ねようか。


 なんだろう? 僕のこの感覚……。


 マルクになら、無知だと思われても、笑ってごまかせる気がする。だけどゼクトさんには、少しは成長したと思われたいんだよな。




 教会への道を歩きながら、僕は、だんだんと足が重くなっていくことに気づいた。


 別に、何かの攻撃を受けているわけでもない。坂道がつらいのかな。そうか、うん、坂道がつらいんだ。


 教会が見えてくると、胸がズキンと痛んだ。


 あれから神官様とは会っていない。僕は、無様に逃げ出したんだ。はぁ、でも……神官様は誰かと結婚したんだよな。僕がずっと逃げていたこの数ヶ月の間に……。


 おめでとうを言うべきかな。お祝いの品を持っていくべきだろうか。


 いや、そんなことをされても気持ち悪いか。あぁ、僕はどうすればいいんだ。


 足がさらに重くなってきた。はぁ、坂道はつらいなぁ…………平坦な道だけど。




 教会には、中庭にたくさんの人がいた。花壇を整えているみたいだ。子供が多いな。仕事を手伝う奴隷かと、一瞬、ベーレン家の宿泊施設を思い出し、嫌な気分がわいてくる。


 神官様には、そんなことはしてほしくない。この町は、奴隷だった人達が、自由に暮らせる町を目指して造られたんだ。


「こんにちは〜」


「こんにちは、ドゥ教会へようこそ」


 花壇を整えていた子供達は、僕に声をかけてきた。あれ? 何人か見たことのある子供もいる。無料宿泊所にいた奴隷の子供だ。


 だけど、彼らは僕には気づかない。王都では、魔道具メガネをかけ、別人に変装していたもんな。


「こんにちは。あの、ドゥ教会っていうんですか? アウスレーゼ家の神官様の教会では?」


 するとニコニコした表情で、作業の手をとめて何人かが立ち上がった。



「この教会の神官様は、アウスレーゼ家の生まれですが、独立して、ドゥ家という新たな神官家を立ち上げられました」


「ドゥ家は、神官三家とは違って、特別な役割がないので、神官様は、アウスレーゼ家の仕事とベーレン家の仕事を両方しているんです」


 ベーレン家の仕事? あぁ、教会はそもそも、ベーレン家の役割だからな。


「へぇ、そうなんですね。キミ達は、ここで働いているのですか?」


「はい! 交代でここで働いています。仕事のない日は、レモネ家の学校に行っています」


 あー、レモネ家。僕も、そこでワインの講習会をしなきゃいけないんだった。


「僕は、さっき、レモネ家に行ってきたんですよ。まだ、日程は決まっていないけど、ワイン講習会を担当することになりました」


「えっ! ワインの講習会もあるんですか! わぁっ、この町ってすごぉい!」


 子供達は、顔をキラキラと輝かせている。


 まだ、ジョブの印は現れていないだろうけど、子供の間に習得した知識は、技能として使える。僕も、農家の技能をいくつも使えるもんな。


「いろいろな講習会が、これからも増えると思いますよ」


「わぁっ、楽しみです〜」


 いい笑顔だな。僕も、なんだか嬉しくなってくる。


 神官様の教会では、ベーレン家のようなやり方はしていないんだ。奴隷だと、こんな笑顔はできないよな。



「あっ! 神官様だ」


 子供達の声に、僕はドキッとした。子供達の中には、明るい笑顔で手を振る子もいる。彼女は慕われているんだな。僕は、ホッとした反面……どうしよう。


 背後から、足音が近づいてくる。


 あー、もう、どうしよう……。どうやって振り向くんだっけ? 首が、身体が、動かない。



「あら、楽しそうね」


 ドキッと、心臓が跳ね上がる。


「お兄さん、この人がこの教会の神官様だよ」


「すっごく綺麗なの」


 あぁ、知っている。その前に、どうすれば、僕の首が後ろを向けるかを教えてくれ。


「ちょっと、ヴァン! 何をビクビクしているの? まさか、この子達に変なことを教えてないでしょうね」


 あっ! 神官様が、ヴァンと呼んだ。僕のことを、ヴァンさんじゃなくて、ヴァンと呼んだ!!


 振り返り方を忘れていた僕の首は、後ろを向いた。


 そこには、片眉をあげた神官様がいた。僕がよく知る不機嫌そうな顔だ。まだ、片眉があがる謎は解けていない。でも、以前と同じ表情の彼女がいた!


「神官様、こ、こんにちは」


「はい、こんにちは。で? 何をバラしたの?」


「何もバラしてませんよ」


「じゃあ、なぜ、オドオドしてるのよ」


 それは、だって……。



「神官様、このお兄さんが、ヴァンさん?」


「ええ、そうよ。みんなの中で、何人かは会ったことあるんじゃないかしら?」


 子供達は、首を傾げている。子供を困らせてどうするんですかー、神官様。


「あら? あー、そっか。ヴァン、あのメガネは?」


「へ? あ、ありますけど」


 すると、彼女の片眉があがった。これは、魔道具メガネをかけろと言っている?


「まさか、メガネをかけろと?」


「ヴァン、この子達のことも騙し通すつもり?」


 うわぁ、怒ってる。やっぱり、めちゃくちゃ怒ってる。



 僕は、慌てて魔法袋から魔道具メガネを取り出し、メガネをかけた。


 見ていた子供達も、神官様も、目を見開いている。


「あれ〜? 暗殺者ピオ……むぐっ」


 僕をそう呼んだ子の口を、別の子が塞いだ。子供達は、この顔が暗殺者ピオンだと知っているんだ。


 この魔道具メガネは、認識阻害メインだけど、片方のレンズは、人の感情を察知し、僕に向けられた感情の色に染める。


 子供達の色はバラバラだ。怖れを感じる子、完全に怯えている子もいる。神官様は……あれ? バーバラさんと同じ色だ。好意を示す色。その好意の種類はわからないけど。


 よかったぁ〜!

 僕は、神官様に、嫌われていない。



「その魔道具、すごい性能ね。凝視していても、変化に気づかないわ。一瞬でも視線を外すと、ヴァンが消え、ピオンさんが現れたかと思ったもの」


「クリスティさんの自信作ですからね」


 僕は、魔道具メガネを外した。すると、やはり、みんなジッと僕を眺めて、目をパチクリさせている。


「すごぉい! 面白い!」


「ボクも欲しい、変身メガネ!」


 子供達には、変身メガネに見えるんだよな。まぁ、変身するから、その表現は正しい。


「みんな、この魔道具メガネは、使う人の魔力に呼応して、姿を別人に見せるものなの。魔力値が低すぎると使えないわ」


 神官様は、優しい笑顔で説明している。


「えー? 使えないの?」


「そんなぁ〜」


「ふふっ、だから、学校が大切なの。この町のレモネ家の学校では、基本的なことを学べるわ。特殊な講習会も増やすみたい。専門的に学びたいなら、レモネ家の学校を卒業してから、大きな街の学校へ進学すればいいのですよ」


「大きな街の学校?」


「でも、そんなお金……」


「王都の学校は、学費が高いけど、それ以外の街なら、それほど高くはないわ。ヴァンは、スピカの魔導学校に通っていたのよ」


「スピカ? どこ?」


「商業の街スピカだよ、知らないの?」


 子供達は、互いに確認し合っているみたいだな。ここから、スピカは遠いもんね。


「そのためにも、今は、勉強を頑張りなさい。成人になったら、ギルド登録ができるわ。そうすれば、お金を稼ぐことも難しいことではないの」


「はーい、わかった」


「ボクは、すごい冒険者になるよっ」


 子供達は、神官様の言葉を聞き、そしてキラキラと目を輝かせている。いい関係だな。安心した〜。




「ヴァン、まだ、作ってなかったのかよ?」


 聞こえてきた声に、僕は忘れていたことを思い出した。子供達は、彼の姿を見て、引きつっている。ぽそりと、狂人だという言葉も聞こえた。


「ゼクトさん、すみません。ちょっと話してました」


「ふん、まぁ、いい。おい、フラン、神の像の付近を借りるぞ」


 ゼクトさんは、威圧感がすごいんだよね。


「何をするのです?」


「ヴァンの実験だ」



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