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306、商業の街スピカ 〜冒険者ランクアップ

 僕は、カラサギ亭を出て、冒険者ギルドにやってきた。中央の冒険者ギルドは、時間に関係なく、人が多い。


 入り口で案内をしている職員さんに、声をかけた。


「あの、自由の町デネブの畑の件で来たんですが、担当はどちらに?」


「冒険者ギルドカードをお持ちですか?」


「はい、あります」


 僕は、魔法袋から、ギルドカードを取り出した。久しぶりだから、3枚のどれが冒険者ギルドカードか、わからない。今、思えば、工業ギルドの登録は不要だったかもしれない。神官様が、3つすべての登録手続きをしてくれたけど。


 神官様……。はぁ、考えるのはやめよう。


 僕は、冒険者ギルドカードを職員さんに渡した。


「えっ! 青ノレアのヴァンさん!? ちょ、ちょっとお待ちください」


 職員さんは、僕のカードを持って行ってしまった。ギルドカードを取られては、帰るわけにもいかないよな。人質、いやモノ質のつもりか。




 しばらくミッションの貼り紙を見ながら、ぼんやりと待っていた。冒険者ギルドなのに、修理系のミッションが多い。


 僕の知らない様々な場所で、ゲナードは爪痕を残していたことがわかった。


 そうか、ここに出ているミッションは、工業ギルドのミッションを受けた人達の護衛も多いんだな。魔物が多い危険な場所に、職人だけで行かせるわけにはいかない。




「ヴァンさん、奥にお願いします」


 戻って来た職員さんに、奥の事務所へと案内された。ヴァンという名前は、珍しくはないけど、奥へと言われたことで、順番待ちをしていた冒険者達の視線が突き刺さる。


 ヒソヒソと、いろいろ言われるのは、慣れないな。


 悪く言われているわけではないけど、青ノレアだとか、薬師だとか、ヤバイ技能持ちだという声が、嫌な雑音に聞こえる。


 僕自身は、冒険者の中では戦闘力が低い。それなのに、大げさなことを言われると、心が痛い。ダメだな……なんだか、気分が後ろ向きだ。メンタルがめちゃくちゃ弱っているのかもしれない。


 僕は、いろいろと振り払うように首を振った。だけど、振り払えるものじゃないね。でも、とりあえず、切り替えなければ。僕は仕事の依頼で来ているんだ。




 コンコン


「ヴァンさんをご案内して参りました」


 そう言うと職員さんは、立派な扉を開けた。中は広い応接室になっている。しかも、絵が飾られている。ちょっとした貴族の応接室のような雰囲気だ。


「ヴァンさん、お待ちしていましたよ。このたびのゲナード討伐の件、どのような感謝の言葉を尽くしても足りません。この世界の危機を救っていただき、本当にありがとうございます」


 立派な服を着た中年の男性は、椅子から立ち上がると僕に向かって、深々と頭を下げた。


「い、いえ。たまたまですから……僕自身にはたいした力はありません」


 そう、僕は、その辺の冒険者より弱い。神官様を守る力がないんだ。だから彼女は、暗殺者ピオンを選ぶと言ったんだ。


「おやおや、そんなに、そこまで謙虚な方だとは……あはは、驚きましたな。だからこそ、あのような扱いにくい奴らを従えることができるのですね」


 やめてくれ。おだてられても、逆に僕は自分がみじめになるだけだ。


 僕は、適当な笑みを返しておいた。


「なるほど、ヴァンさんが、話題の暗殺者ピオンだという噂も、事実のようだ。今は、傷心中でしたか……」


「さぁ、どうでしょう」


 この男性は、『情報屋』タガーさんの記事を読んだのか。ピオンが失恋したとか書いてたもんな。



「ギルマス、そういうことは、思っていても、口に出さないようにしてください。命の保証は、できませんよ?」


 聞いたことのあるような声が聞こえた。


 振り返って、僕は、少しホッとした。ファシルド家の近くの冒険者ギルドの所長をしているボレロさんだ。


 彼は、僕の担当者でもあるんだ。


「おいおい、やめてくれよ、ボレロ。冗談に聞こえない」


 ギルマスと呼ばれた男性は、初めて見る顔だ。ギルドマスターは、もっと近寄りがたい雰囲気の人だったのに、代わったのか。


「ヴァンさん、ギルマスは、ついこないだ交代したばかりなんですよ。前任者がちょっと怪我をしましてね」


 怪我をしたくらいで、配置換え?


「ボレロさん、お久しぶりです。初めて見た顔だと思っていました」


「お久しぶりです。ギルマスは、まだ研修中なんで、大目に見てやってください」


 僕は、そんな偉そうな人間じゃない。また、ドンヨリしそうになり、慌てて意識を上方修正する。


「着任されたばかりだと、いろいろと大変ですね。僕は、たいした冒険者でもないので、そんなにお気遣いなく」


 そう言うと、ギルマスの表情が固くなった。あー、もしかして、嫌味だと受け取られたのか。面倒くさいな。


「じゃあ、いつも通りでいきましょう。あ、ギルマス、ヴァンさんは貴族じゃないですから、深読みしてビビる必要はないですよ。冒険者の言葉は、大抵、そのままの意味です」


「そ、そうか。ふぅ、焦ったよ。あはは」


 僕が怒ったとでも思ったのか。まだギルドに慣れていないみたいだな。



「僕は、新しい町、自由の町デネブの畑の件で、お邪魔したんです。あの町にも、冒険者ギルドが出来ると聞いたのですが……」


 話が既に伝わっていたらしく、二人は頷いている。


「ヴァンさん、とりあえず、このボレロが仮所長をすることになりました。ギルマスにも、研修を兼ねて、あの町の冒険者ギルドに常駐してもらうつもりです」


 ボレロさんが所長か。この人、いろいろな面倒な所長をやらされているよな。それほど、信頼されているということだ。


「ボレロさんが所長なら、相談しやすいです」


 僕がそう言うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。




「ヴァンさん、未精算だったミッションと、このたびのゲナード討伐の件を加算して、カードを作り直してあります。ゲナード討伐の報酬は……」


「えっ? ミッションとしてやったわけじゃないから、そんなのいらないですよ」


 そう反論すると、ボレロさんはニヤッと笑った。


「そう言われると思ってました。ギルドとしても、報酬額の算定が難しく困っていたところです。そこで、提案ですが、今後のヴァンさんの畑のミッションについての依頼料に当てさせてもらっていいですか」


「えーっと、はい。畑の依頼料の支払いは不要だということですね」


 そっか、働いてもらう人への報酬は、僕が出さないといけなかったんだ。


「はい、そんな感じです。それと、こちらが新しいカードです。魔獣使いを加えさせていただきました」




『冒険者ギルドカード』


 名前:ヴァン(16歳)

 ジョブ:ソムリエ

 登録スキル:薬師、精霊師、魔獣使い

 冒険者職種:薬師

 冒険者ランク:Sランク

 冒険者ギルドポイント:129,200

 所属冒険者パーティ:青ノレア

 特記事項:特殊技能あり


 担当職員:ボレロ



 あれ? Aランクじゃないの? まだまだSランクになんか上がらないはずなのに、ギルドポイントがこんなに増えている。それに、特殊技能って……。



「ボレロさん、いろいろと、ツッコミたい点が……」


「あはは、勝手にすみません。ですが、特殊技能持ちは特記事項なんですよ。ランクアップに伴い、青ノレアの保護下という文言は削除しました〜」


 なんだか、めちゃくちゃ楽しそうに話すんだよね。


「まだ僕は、Aランクじゃないんですか? ギルドポイントが、突然とんでもなく増えているんですけど」


「ゲナード討伐で、ドーンと10万ポイントを加算してみました。本当は15万ポイント加算してSSランクにしちゃいたかったんですけど、きっとヴァンさんが嫌がられるかと思って、控えめにしておきました」


 いや、全然、控えめじゃないよな。確か、54,000ポイント以上でSランク、その3倍の162,000ポイント以上でSSランクだ。


「多すぎますよ……」


「それほど、誰にもできないミッションだということです。SSランク冒険者だと、新人の指導が義務になりますから、遠慮してSランクにしておきましたよ〜」


 ボレロさんは、ドヤ顔なんだよね。まぁ、いっか。Sランク冒険者なら、様々な制約は無くなる。


 僕は、苦笑いを浮かべるしかなかった。



「新しい町には、ギルドは3種とも同じ建物に入ることになりました。冒険者パーティの支店もいくつか申請があるようですよ」


「そうなんですね。奴隷になっていた人達の移動の補助は、されますか?」


「そ、そこまでは考えてなかったです。ですが確かに、必要ですね。ギルマスの初仕事は、それにしましょう」


 ボレロさんにそう言われ、ギルマスは苦い顔をしていた。



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