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30、ボックス山脈 〜再会

「それに坊やが、まさか、ハンターから俺達を守ろうとしてくれるなんて、驚いたぞ」


 驚いているのは、僕の方だ。魔物が普通にしゃべっている。当たり前のことのように……どういうことなんだ?


「あの人が言っていたビードロというのは、キミ達の種族の名前なの?」


「そうらしいな。人間は、ワシらのことをそう呼ぶ」


「どうして急に普通に話せるようになったの?」


「なぬ? ワシは何も変わってはおらん。強いて言えば、ふと、坊やが仲間のように思えてきたがな」


 やはり、友達の技能が発動してしまったんだ。だけど、対話をすることなんて、できないよね? 太刀を持ったあの男が、何かしたのかもしれない。


『なぜ、アイツだけが話しているんだ?』


『わからん、子供を乗せているからか?』


『子供は、何を言っている?』


 他の魔物達には、僕のスキルの効果は現れていない。あの淡い光は、僕を乗せる個体だけに吸収されたからか。


「なんだと? おまえら、この子の言葉がわからないのか?」


『わからねぇよ。おまえ、何かされたんじゃないのか』


『操られているのか? そんな子供に』


「いや、特に操られているような感覚はない。そうか、この子を乗せているからかもしれんな。この子供が、さっきのハンターを追い払ったんだぞ」


『なんだって? なぜそんなことを』


『人間同士じゃないのか?』


「あれはハンターだ。殺すことが楽しくてたまらない狂人だぞ。この子供にも、殺意を向けていた。途中で気が変わったらしいがな」


 さっきの男は、ハンターなのか。


 荒野へ一緒に行った魔物ハンターや薬草ハンターとは、全然違う雰囲気だった。まるで全身を氷の刃で覆っているかのような……心までが凍っているかのように感じた。


 見逃してくれたのも、僕が説得したからじゃなくて、ただ面倒になっただけかもしれない。



 ドォゥゥン!


 あっ、あの音って、さっきの男の剣技の音?


『崖が崩れるぞ』


「坊や、しっかり掴まっていろ」


「えっ? あ、うん」


 僕は、乗せてくれているビードロの耳をつかんだ。すると、魔物達は、一気に駆け出した。速い! ちょ、コワイ。



 ガラガラガラガラ

 ズゥウ〜ン!



 すごい土煙だ。土砂崩れというより、爆発で崖の一部が吹き飛ばされたように見える。さっき僕達が居た場所まで、崩れた土砂が押し寄せていた。


 人の足では逃げられないところだった。僕の背中を、冷や汗が流れた。 


「ありがとう、また助けられた」


 僕がそう言うと、僕を乗せた個体は驚いたようだ。


「そんなことを言う者に会ったのは初めてだ。坊やは、やはり人間じゃないんだな。天から落ちたゴミを拾っていたが、天の子か」


「えっ? いえ、僕は人間ですよ。そのゴミって、矢の形をしたものかな?」


「人間? そうか。ん? あぁ、弓矢とは違う短い矢だ。厄介なんだ。不意に踏むと足が裂けてしまう」


「あぁ、神矢は魔法を使っても燃えないみたいだし……そっか、刺さると足が裂けてしまうんだね」


「ここんとこ、ゴミが増えて怪我をする奴が増えたんだ。だから、坊やが傷薬を作ってくれたんだろう?」


「えっ? あ、いや、神矢で怪我をしたのは知らなかった」


 そもそも、怪我をしていたかさえ、知らないんだけど。


 そうか、神矢がこの辺に、まだ落ちているということだな。人が入れなさそうな場所だから、拾われていないのか。こんな場所だから、強くない魔物、ビードロの縄張りになっているんだ。


 じゃ、マルクと一緒に、神矢を……。



 僕は、ハッとして崖の方を見上げた。マルクは、崖の上にいる。今の爆発に巻き込まれていないだろうか。


 右手の手袋に触れ、マルクの居場所を表示した。あぁぁ……やはり、あの付近にいる。今は動いていない。怪我をしたんじゃ?


「坊や、崖の上には親がいるのか」


「親じゃなくて、僕の友達なんだ。どうしよう、今の爆発に巻き込まれたかもしれない」


「じゃあ、見に行こう」


「えっ? でも、崖には登れないんじゃ?」


「あれだけ崩れたら、坊やを乗せていても余裕で崖の上に登れる。それに、崖の上のトカゲが全滅したみたいだからな」


「そんなことがわかるの?」


「ん? 坊やは目が悪いのか?」


「僕には見えないよ」


「そうか、人間は不便だな。さっきのハンターがトカゲを狩って、持っていった。トカゲの肉は旨いからな。狩った後に解体するハンターもいるんだが、アイツは丸ごと持っていきやがった」


「大きな魔法袋を持っているんだね」


「なんだ? それは」


「不思議な袋なんだ。僕にも仕組みはわからない。たくさんの物を収納して持ち運ぶ魔道具なんだ。あ、難しいよね? ごめん、うまく説明できない」


「いや、そんな説明をしてくれる人間も初めてだ」


 そっか。魔獣使いは、魔物にそんな話なんてしないよね。




 僕を乗せてくれている魔物は、崩れた崖に向かって駆け出した。他の魔物達もついてきている。集団行動をする種族なのかな。だけど、あの男に、かなりの数が吹き飛ばされていたよね。半分以上は殺され……あれ? 


「キミ達の仲間は、さっき吹き飛ばされたのに無事なの?」


「あぁ、坊やの傷薬が効いたようだぜ」


 振り返ると、魔物達の声が聞こえてくる。後方からついてくるのは、さっき吹き飛ばされた奴らのようだ。土臭いポーションなのに、役に立ってよかった。


「坊や、崖を登るからしっかり掴まっていろ」


「うん、わかった」


 僕を乗せた個体は、ポーンと跳躍した。えっ、ゲッ、うわ〜、ちょ、ちょっと登るって言いながら、飛んでるじゃないか!


 魔物は、ポンポンと、飛び跳ねながら、だんだんと高い場所へ進んでいる。ちょ、コワイんだけど。落ちたら確実に死ぬよね。


 最後にポーンと高い跳躍をすると、魔物は足を止めた。振り返ると、ビードロ達が同じように、崖を飛び跳ねながら上がってくる。


 やっと崖の上だ。すごい高さを僕は滑り落ちたんだな。崩れた場所以外は、断崖絶壁だ。崩れた所も、人は降りられそうにないけど、魔物なら行き来できるみたいだな。




 僕は、手袋に触れ、マルクの位置を探した。後ろか。僕が振り返ると、そこには、今まさに魔法を発動しようとしているマルクがいた。


 あっ、魔物が現れたからだ。


「マルク! ちょっと待った!」


「えっ?」


 マルクは、驚いたみたいだ。僕が見えていなかったのか。彼はとっさに放つ方向を変えた。茂った木々が、ドドンと倒れた。


「ヴァン!? 生きていたのか? 嘘……グローブの反応が消えたのに」


「僕の手袋は、マルクの位置を示しているよ? マルク、怪我は? ハンターの攻撃に巻き込まれなかった?」


「よかった、ヴァン、生きていて……。そっか、魔獣使いのスキルを持って……」


 そう言いかけて、マルクはバタリと倒れた。


「マルク!」


 僕は慌てて駆け寄りたいのに、ビードロから飛び降りられない。降りようとして崖から落ちたら笑えない……。


「地面に降ろして。崖が怖くて降りられない」


 僕がそう言うと、僕を乗せていた個体は、背中をポンと弾ませ、僕を放り投げた。ちょ、雑すぎる!


 地面に着く直前に服をくわえられ、そっと地面に降ろされた。あーびっくりした〜。


「あ、ありがとう」



 僕は、マルクに駆け寄った。


「マルク、しっかりして!」


「ヴァン、ちょっと失敗した……ハハッ」


「すぐに薬を作るから」


 マルクは、やはり毒を受けている。服がひどく破れている。トカゲに攻撃されたらしい。怪我が治っているのは、ぶどうのエリクサーを食べたからだな。でも、そのせいで、血が流れないから毒も流れ出ないんだ。


 僕は、摘んでおいた超薬草と薬草を取り出した。そして、マルクの毒をて、それに効く解毒薬を作った。


「マルク、飲んで!」


 マルクの口に、ドロリとした解毒薬を流し込んだ。


「うぇー、にがいな……」


 毒はこれでいい。ただ、毒のせいでかなり体力も奪われている。僕は、正方形のゼリー状のポーションを取り出し、マルクの口に放り込んだ。


「口直しだよ。食べて」


「う、うん? 何これ? グミ? にしては甘くないというか、あれ? ポーション?」


「そう、ポーションだよ。瓶入りは使いにくいから、魔法袋から出してすぐ食べられるものを作ったんだ。死にかけている状態で、瓶のフタなんて、開けられないから」


 僕がそう言うと、マルクは、ポカンとしていた。えっと、何を呆けているんだよ。まだどこか調子が悪いのかな。でも、毒も抜けたし、体力も大丈夫。魔力切れの症状もない。うーん?



 少し経って、ポカン顔から復活したマルクが口を開いた。


「ヴァン、俺に隠し事をしているよな?」



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