表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/574

3、リースリング村 〜美しくて怖い神官様

「ヴァン、用意はできているかい?」


「はい、村長様」


 僕は、今、緊張でガクガクしながら、村の集会所の仮設祭壇に立っている。リースリング村には教会がない。だから、神官様をお招きするときには、集会所が教会を兼ねることになっている。


 集会所には、ほとんどの住人がいる。神官様が来られるときには、こうして皆が集まるんだ。今日は、僕のために集まってくれている。だからこんなに、緊張するのかな。



「神官様がいらっしゃったぞ」


 村役場の人達に連れられ、神官様が集会所へ入ってきた。


 僕は、思わず息をのんだ。


 神官様は、あまりにも僕のイメージとはかけ離れた人だった。いつも来るオジサンではない。まるで聖女のような、可憐で美しい少女だった。少女は失礼か。見た目は僕よりも少し年上に見える。


 トントン、トントン


 美しい所作で、静かに祭壇に上がってきた聖女のような神官様は、あまりにも美しすぎて、僕は、顔をあげることができなかった。めちゃくちゃドキドキする。こんなに綺麗な人がこの世にいるなんて。


「アナタが、今日、十三歳の誕生日を迎えた人かしら?」


「は、はい、神官様」


 彼女の声は、凛としていてよく通る。


「顔をあげて、こちらを向いてくださる?」


「は、はい」


 僕は顔をあげた。あれ? 聖女のように見えた神官様は、僕を面倒くさそうな顔で見ている。


 目が合うと、ニコリと微笑まれたが、目の奥は笑っていない。こんな田舎に来たくなかったのかな。作り笑顔が逆に怖い。


 僕は、スーッと頭が冷えていくのを感じた。さっきのドキドキは、勘違いだったのか。



「では、始めますね」


 彼女は、持っていたロッドを振り上げた。すると天井から淡い光が降り注ぐ。すごい! どういう魔法なんだろう。


『親愛なる神よ、今ここに成人となった者に与えし印を解き放ちたまえ!』


 頭の中に直接響く声に驚いていると、僕の身体に淡い光が集まってきた。


 あれ? なんだか熱い。痛い、頭が痛い。ふらふらする。気分が悪い。何? なんだか、近くにいた村長様が慌てている。僕は、ウッ、気持ち悪い……。


 立っていられなくなったところを、神官様に腕を掴まれた。


「ちょっと、あんた、シャンとしぃや。あたしが失敗したと思われるやんか」


 なっ!? なんだか小声で、乱暴な言葉遣い……。聖女のような見た目からは考えられない。



「ヴァン、大丈夫か? 神官様、あの、妙に時間が長いようなのですが、これは一体」


 村長様が心配して、彼女に尋ねている。僕は、彼女に支えられる形で、何とか立っている状態だ。ウップ、気持ち悪い。


「問題ございません。彼に与えられたジョブには、たくさんの情報が必要なのでしょう」


「ヴァンは、農家ではないのですか」


 彼女は、作り笑顔だ。威圧感のある作り笑顔だ。村長様は、軽く頭を下げ、黙ってしまった。



 そして、ようやく淡い光は消え去った。僕の頭痛とめまいと吐き気も、やっとおさまった。


「さて、どこに印が現れたかしら?」


 彼女は、ロッドを僕に向けている。早く印を見つけないと、彼女は苛立って、ロッドの先から火の玉を放つんじゃないかと思えてきた。


 そういえば、父さんは左肩に、母さんは左肘に、花のような印があったっけ。僕は、左腕の袖をめくってみたが、印はない。


「ちょっと、動かないでくださる? あー、そこね。珍しいわね」


 彼女はロッドで、袖をめくった僕の右手をトントンと叩いた。僕にはまだ見つけられていないのに、さすが神官様か。


「どこを見ているの? 右手を出しなさい」


「えっ……」


 僕の右手を彼女は、むんずと掴んだ。僕は、ドキッとした。ドキドキじゃない、何かされるんじゃないかという恐怖のドキッだ。


 彼女は、僕の右手をとった。あっ、右手の甲に大きな光る印が現れている。でも、花の印ではない。なんだか、見たことのない虫が描かれているようだ。尾が長く、印の円からはみ出している。


 ちょっと、不気味かもしれない。


「へぇ、珍しいわね。スコーピオンじゃない」


「スコーピオン? この虫みたいな絵ですか? 花の絵じゃないなんて……。みんな花の絵なのに」


「私もスコーピオンよ。アナタのとは少し違うけど」


「えっ? じゃあ、僕のジョブは神官なんですか?」


「まだ、ジョブ情報は出ていないわ」


「じゃあ、この絵って、何なんですか」


「アナタのは毒サソリね。スコーピオンは、暗殺者や盗賊、王などのジョブに多いわ」


「えっ、でも神官様は神官ですよね? スコーピオンの絵なのに。絵とジョブの関係って……」


 僕が聞き過ぎたのだろうか。神官様はギロッと僕を睨んだ。でも、村長様も気にしているようだ。


「それは、アナタが知る必要はないわ」


 怖い。威圧感が半端ない。


 そう言われてしまっては、村長様でも彼女に尋ねることができない。



 やがて、右手の甲の印の光がおさまった。なんだか、不気味な焼き印のようだな。しかも、こんな目立つ場所に虫の絵だなんて、最悪だ。


 彼女は、印の光がおさまるのを待っていたようだ。僕の右手の甲に触れた。すると、ぶわっと目の前に何かの画面のようなものが現れた。


「アナタのジョブは『ソムリエ』ね。だから、こんなに時間がかかったんだわ。あら、スキルを得ているの? まぁ! これは神矢のスキルね」


「昨日、神矢がおでこに刺さりました」


「へぇ、使えるじゃない」


 なんだか彼女がニヤッと笑ったような気がした。僕の背筋に、冷たい何かが走った。悪寒というやつかな。


「アナタもジョブボードは見えているわね?」


「はい」


「扱い方はわかっているわね?」


 イマイチよくわからないけど、知らないと言うと睨まれそうだ。


「なんとなく」


「ジョブボードと書かれた場所に触れたら、ジョブとスキルが表示されるわ。表示範囲の切り替えも、同じ場所に触れて選択するの。いちいち切り替えは面倒だから、全表示にしておきなさい」


「は、はい」


 なぜか説明してくれた。別に面倒くさそうでもない。どうしたんだろう? 気分が変わったのかな。


 僕は、指示に従って操作をした。


 うわっ、全表示って注意書きまで出るんだ。スキルが増えたら、簡易表示の方が良さそう。




 ◇〜〜◇〜〜〈ジョブボード〉〜〜◇〜〜◇


【ジョブ】


『ソムリエ』上級(Lv.1)


 ●ぶどうの基礎知識

 ●ワインの基礎知識

 ●料理マッチングの基礎知識

 ●テースティングの基礎能力

 ●サーブの基礎技術

 ●ぶどうの妖精

 ●ワインの精




【スキル】


『薬師』超級(Lv.1)


 ●薬草の知識

 ●調薬の知識

 ●薬の調合

 ●毒薬の調合

 ●薬師の目

 ●薬草のサーチ

 ●薬草の改良

 ●新薬の創造




【注】三年間使用しない技能は削除される。その際、それに相当するレベルが下がる。



【級およびレベルについて】


 *下級→中級→上級→超級

 レベル10の次のレベルアップ時に昇級する。

 下級(Lv.10)→中級(Lv.1)


 *超級→極級

 それぞれのジョブ・スキルによって昇級条件は異なる。


 〜〜◇〜〜◇〜〜◇〜〜◇〜〜◇〜〜◇〜〜




 神矢のスキルは『薬師』だったんだ。はぁ、ハンターじゃなかったか。でも超級ってすごい! だから彼女は、使えるって言ったのか。


 どれも、実際に使ってみないとわからないけど、意味不明な技能がある。ぶどうの妖精って何だろう。触れてみると、さらに説明文が現れた。



 ●ぶどうの妖精……ぶどうに宿る妖精を呼び寄せ、話す能力。妖精の活動範囲外では夢の中にしか呼び出せない。


 ●ワインの精……ワインを構成するぶどうの妖精の声を聞く能力。ボトルに触れることでも聞くことができる。



 なんだか、よくわからないけど、すごいのかな? でも、上級か。そういえば、ジョブは上級からスタートだから、スキルよりも有利なんだっけ。


 神矢のスキルは、超級だけど、これってレアなんだろうな。薬師の技能も、あまり意味がわからない。


 触れてみようとしたところで、神官様の冷たい視線が突き刺さった。



「まさか、閉じ方がわからないのかしら。ジョブボードと書かれた場所や画面下に、ひし形のキーがあるでしょう? どれに触れても閉じるわ」


「あ、はい」


 僕は、スキルボードを閉じた。すると神官様は、集まった人達の方を向き、笑顔を作った。



「彼のジョブは『ソムリエ』でした。ぶどう農家でなかったことは残念に思われるでしょうが、これは神が選ばれたこと。珍しいジョブですから、祝福してあげてくださいね」


 パチパチと温かい拍手が起こった。


 爺ちゃんや婆ちゃんは、僕が『農家』だと期待していたのに、笑ってくれている。よかった。


 あれ? 神矢のスキルの話はしないのかな?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ