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297、自由の町デネブ 〜毒サソリの印

 精霊シルフィ様が目覚めると、僕を包んでいた精霊ブリリアント様の加護の光は弱まり、僕の姿は元に戻った。


 妖精ピクシーは、彼女に、これまでの経緯を弾丸トークで一気に話している。安心したためか、大泣きだ。それほど、妖精ピクシーにとって、精霊シルフィは大切な存在なんだな。



『あなたは、ブリリアントの加護を持つ精霊師かしら? その、あの……』


 堕天使ブラビィの腕の中にいることに気づいた彼女は、頬を赤く染めている。堕天使の姿のブラビィは、クール系の超イケメンだもんな。


「もう、自分の足で立てるか?」


『は、はい。ありがとうございます。あの……』


 ブラビィは、精霊シルフィ様を地面にそっと下ろした。精霊に触れているとイライラすると言っていたくせに、何か気取ってない?


「じゃ、オレは帰るわ。後のことは、ヴァンに言え」


 そう言うと、ブラビィは、バサリと黒い羽を広げ、スッと姿を消した。集まっていた人達は、みんな空を見ている。


 だけど、黒い天兎ブラビィは、僕の腰に戻ってきているんだよね。腰には、飾りのフリをした黒い毛玉が、ぶら下がっている。


 ブラビィは、この後の話が、気になるんだろうな。だけど、話しかけられるのは、面倒ってことか。




『さっきのイケメンって、あんたの何!?』


 ピクシーが、僕の周りをぐるぐると飛び回る。


「一応、従属ですね。黒い天兎だから、彼には別の主人もいますけど」


『あっ……あの生意気な黒い兎が、堕天使なの!?』


 からかわれてたもんな。黒い兎に……。僕は、あいまいな笑みを浮かべておいた。なんせ、本人が僕の腰にぶら下がっているんだから……下手なことは言えない。



『おい、蟲を忘れてねーか?』


 ブラビィから念話だ。やはり、これ以上、何も言うなってことかな。




 僕は、朽ちた大樹へと近寄っていった。そこには、巨大な蟲が、まだピクピクしたまま、ひっくり返っている。


『シルフィは、この中に居たんだよ。あたしのこと、わからなかったんだよ』


 ピクシーは、僕の周りをぐるぐると飛び回りながら、精霊シルフィに話している。なぜ、僕の周りを飛び回るんだろう。威嚇? 監視? まぁ、いいけど。


『神獣に捕らわれたときに、私は結界を張りました。その後、私のチカラを少しでも増幅させようと、樹に近づいたのですが、そこから先の記憶がありません』


 精霊シルフィ様は、悲しそうに、朽ちた大樹と蟲を見つめている。でも精霊なら、大樹を元に戻せるんじゃないのか?


『おまえなー、風の精霊に、そんなことできるわけねーだろ。それは、大地の精霊の仕事だ』


 ブラビィからのツッコミがきた。そっか、ブラビィは、僕のフォローのために、飾りのフリをしてくっついているのか。



『多くの妖精の無念から、こんな醜い蟲が生まれたのですね……』


 精霊シルフィ様は、それで心を痛めているんだ。優しい精霊だな。



「精霊シルフィ様、僕が蟲を浄化します。さっき、付近の浄化と回復をしたんですが、偽神獣が取り憑いていた蟲には効かなかったので」


 すると彼女は、やわらかな笑みを浮かべて頷いた。はかなげで美しい精霊様だ。




『ヴァン、デュラハンがやりたいって言ってるんだ。守護を交代するよ』


 えっ、あ、はい。デュラハンさんが?


『なんだよ、オレでは不満か?』


 もう交代してる。でも、蟲を浄化するんだよ?


『フン、わかってるって。加護を強めたから、ドバッとやってみろよ』


 ドバッとって何?


 僕の身体は、まがまがしいオーラを放ち始めた。なんだか、今までとは違う気配だ。こういう場所だから、そんな気がするのかもしれない。



『な、何よ、あんた……』


 妖精ピクシーが、僕を指差して、ワナワナしている。いや、呆然としているのか。デュラハンは闇属性の妖精だもんな。風の妖精ピクシーとは、相性が悪いのかもしれない。


「ピクシーさん、契約している妖精の加護を使っています」


 僕が蟲に近寄っていくと、ピクシーは、僕に道をあけるように、避けていく。


『精霊師さん、その姿はデュラハンですね。しかも……あぁ、そうですのね』


 精霊シルフィ様は、何かを言いかけて、口を閉ざした。どうしたのだろう?


 まぁ、デュラハンを良く思っていないのかもしれない。僕としては、悪い奴ではないと思うんだけど。



 僕は、ゆっくりと蟲に近寄っていく。


 デュラハンより弱い呪いなら、デュラハンの加護を使った状態で触れることで、互いに打ち消し合うようにして解除できる。


 でも、偽神獣絡みだから、厳しいか……。


 蟲に触れようと右手を伸ばすと、右手の甲にあるジョブの印が熱くなった。


 なぜだ? まだ魔力を集めていないし、そもそも加護を使うから、僕のジョブの印は関係な……ふへ?


 ドッバーン!


 僕の手のひらから、まさしく、ドバッと何かが出てきた。黒い液体のようなものだ。それが蟲に、パシャリとかかったんだ。


 慌てて、右手のグローブを外してみたが、僕の手のひらに穴があいているわけではない。手の甲の気持ち悪い虫の絵が、怪しく光っている。


 ジョブの印……スコーピオンの絵は、暗殺者や盗賊そして王に多い絵だ。しかも、毒サソリなんだよな。ダークな守護者が現れるという……。


 左手で、右手の甲に触れると、まだ、熱を持っていることがわかる。魔法を使ったつもりはないのに……いったい、何?


 妖精ピクシーが、僕の手の甲を見て、口を押さえている。あー、まずいか。僕は、グローブをつけた。



『あはは、上手くいったじゃねぇか』


 上機嫌なデュラハンの声が聞こえた。


 デュラハンさん、何をしたんだよ。黒い液体は何?


『おまえの精霊師の技能を借りてみた。おもしれー。毒サソリって、こういうことなんだよな、あはは』


 僕の力を勝手に使ったってこと?


『使ったのは、おまえだろーが。オレだけなら、そんなことできねぇ』


 そう言われて、蟲の状態を見てみると、黒い液体をかぶって……溶けている。いや、分解されている?


 蟲の形がだんだんと、淡い光へと変わっていく。そして、その光はさらに形を変え始めた。



『まぁっ、この森にいた精霊達だわ!』


 光の中から、次々と、精霊や妖精が出てくる。蟲の身体を構成していた堕ちた精霊や妖精か。


 地面に帰らず、大気に溶け込むわけでもなく、蟲の形の光の中から、次々と生まれてくるんだ。


 す、すごい!



 僕のジョブの印、スコーピオンの毒サソリって、ダークな守護者が現れるという意味だと聞いた。


 その守護者は、デュラハンのことなんだな。そして守護者は、印を通じて、スキルの技能に術を重ねることができるのか。


 でも、それなら今まで、なぜやらなかったんだろう? 今、別に、精霊師の技能だけでも、蟲の浄化はできた。こんな再生まではできないけど。



『あはは、楽しすぎる。いろいろとできるかもな』


 デュラハンさん、突然驚かさないでよ。なぜ、今まで、黙ってたわけ?


『は? 言っておくが、スコーピオンの印を利用して精霊師の技能を借りるのは……オレだけかもだけど、お気楽うさぎだって、おまえの魔獣使いを借りたりするだろーが』


 そんなこと、知らないけど?


『ゲナードを倒したとき、使ってたじゃねーか。ただの覇王じゃ、あそこまでの量のネズミに、完全に意思疎通させられねぇだろ』


 えっ……勝手に使ってた? そういえば、印が熱くなったときがあったかも。


 デュラハンさんは、いま、初めて使った?


『あぁ、妖精では、借りられなかったからな』


 うん? デュラハンさん、妖精でしょ? えっ、まさか、悪霊に堕ちた!?


『は? おまえ、バカだろ。悪霊が精霊師の技能を借りられるとでも思ってるのか。そもそも、主人がいて、なぜオレが悪霊に堕ちるんだよ』


 あ、そっか……。でも、ブラビィは悪霊……じゃなくて、黒い天兎……。


 腰の飾りが、僕を蹴った。その行動って、天兎のぷぅちゃんにそっくりだよね。


 そうか、黒い天兎だから、毒サソリを使えるんだ。ダークな守護者って、きっと闇属性なんだな。そして、デュラハンも、闇属性の……まさか……。


『フン、やっと気づいたか。オレは、首を取り戻せば、精霊になれると教えたはずだぜ?』


 ええっ!? 言ってよ! あっ、だから、なんだか気配が違う気がしたんだ。


 僕がイライラしていると、デュラハンは楽しそうなんだよな。悪戯が成功した子供みたいな気配だ。


 はぁ、もう……。




『精霊師さん、すごいわ。何もかもが元通りだわ。なんて、お礼を言えばいいのかしら』


 精霊シルフィ様が、興奮したように大きな声をあげた。


 蟲がいた場所には、立派な大樹が立っていた。



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