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294、自由の町デネブ 〜広すぎるいわく付きの畑

 僕はディックさん達と別れ、王宮の魔導士に連れられて、カベルネ村の奥へと転移した。


「朝食の邪魔をしたみたいで、悪かったな」


「いえ、大丈夫です」


 僕を迎えに来た魔導士は、なんだか僕に対する態度がおかしい。気を遣っている……いや、恐れているのか。


 毅然とした態度を取ろうとしているけど、絶対に僕の目を見ないんだよな。僕が洗脳系のレア技能を持っていると思われているのか。



 ディックさんから見せてもらった情報の魔道具では、ゲナードが討伐され、影の世界に追い返された記事が、たくさん出ていた。


 その中には、様々な憶測だけの記事もあった。


 討伐者がノレア神父をしのぐレア技能の所有者だとか、国王様にとんでもない報酬を求めたとか、興味をそそるような表現で書かれているものが多い。


 天兎のハンター、ぷぅちゃんがいなければ、ゲナードを討てなかった。僕は、確かに覇王を使ったけど、ノレア神父も同じく覇王持ちだ。


 それに、別に報酬を要求したわけじゃない。ぷぅちゃんが要求していたけど、それは、もう自分をわずらわせるなという要求だ。


 まぁ、王宮の一部の人達以外は、僕の顔を知らないから、いっか。僕みたいに弱い者が、まさか噂の人物だとは思われないだろう。



 カベルネ村からの広い道は、この場所にも通っているみたいだ。だけど、いま、僕が立っている場所には、丸太を組んだだけの門が設置されている。


「一応、カベルネ村の奥の荒れ地を、新たな町にするという王命により、村を縦断する道に簡易な門を築いた。この先は、以前は森林だった場所だ」


 振り返ると、カベルネのぶどう畑が広がっている。この感じは、リースリング村と同じだ。畑のあぜ道や、畑を作りにくい場所に、農家の家が、ポツポツと建てられている。


「なるほど、ぶどう畑は、ここまでですもんね」


 僕がそう返事をしても、彼は僕の目を見ない。王宮の魔導士がこれだと、他もみんなそうかな? やりにくい。


「では、案内する」



 彼の後ろからついて行こうとすると、なぜか警戒される。はぁ、面倒だな。後ろから襲われるとでも思ってるのか。


 僕は、彼の視界から外れないように、少し前を歩くことにした。なんだか偉そうな気もするけど、彼はこの方が安心のようだ。



「街道へ繋がるこの道の左右で、使い方を分けてある。左側は、商業施設や、貴族の屋敷だ。右側は、奴隷の宿泊施設、学校、そして畑だ」


 身分で分けたんだな。まぁ、その方がいいと思う。この道沿いの店は、両方が利用できるのかな。


「荒れ地だと聞いていましたが、一晩ですっかり町になっていて驚きました」


「王宮の魔導士団の意地もあるからな」


 少しだけ、彼は表情をやわらげた。だけど、僕の目は絶対に見ないようにしている。はぁ、やりにくい。


「あの、何か勘違いされているかもしれませんが、僕は、魔獣使いのレア技能はありますが、人間への洗脳系の技能は持ってないですよ」


「なっ? そ、そうなのか? いや、だが、魔女を従えているのではないか」


 あー、バーバラさんのことか。彼女が土ネズミの変異種だとは知らないのか。


「普通の人間の従属はいません」


 すると、彼は明らかにホッとしている。


「そうか、魔女は獣人、いや半魔か。だから、あれほどの魔力を持つのだな。しかし、すごいレア技能だな。魔獣使いは極級か」


「はい、そうです。冒険者をしていますから、魔獣使いだけは極級になりました」


 彼は、僕の言葉の真偽がわかるらしい。疑われるかと思っていたけど、あっさりと信用してくれた。


「ノレア神父をしのぐ洗脳使いだと聞いていた。そうか、魔獣限定の技能か。なるほど、直接関わった人間がいないから、ゲナード討伐に関する情報が架空の話のように歪められて伝わったのだな」


「いろいろと変な記事が出ていますね。今朝、冒険者仲間に見せてもらって、びっくりしました」


「あぁ、そうだろう。デネブ街道から湿原を見ていた者が、面白おかしく書いているのだろう。俺も、まさか、白き海竜が空を泳いでいたなんて、ありえないと思っていたのだ」


 えっ……マリンさんは、オレンジ色の空を維持するために、空を泳いでいたけど……。


 僕は、適当な笑みをつくって、ごまかしておいた。




 どんどん奥へと進んでいく。


 左側は、門の近くには大きな建物が建っていたが、不思議な魔法陣が浮かんでいるだけの場所が増えてきた。何なんだろう?


 右側は、道沿いには店が並び、その奥には、木造の建物が並んでいる。さらにその奥は、何もない草原が広がっているみたいだ。道の近くだけを作り上げた感じかな。


 歩き疲れた頃に、右側に大きな池が見えてきた。その付近には、たくさんの人がいる。王宮の魔導士や建築士なのだろうか。



「あの池のほとりには、王命により王宮の兵の駐在所を建てることになった。いま、ちょうど、その作業をしているのだ」


「兵の駐在所ですか……」


「あぁ、この先を進むと、この国で最も大きな港町ルーナがある。この新たな町ができたことで、王都への往来も増えるだろうからな」


 港町ルーナって、こんな場所にあるんだ。最大の漁港がある町だ。働く人も多く、そして何より海賊が住む町だと言われているんだよな。だから、王宮の兵の駐在所か。


「そうなんですね。海賊が住む町だから、怖いですよね」


「うん? あはは、海賊よりもゲナードの方がよほど恐ろしいだろう」




 彼の姿を見つけて、魔導士らしき人達が近寄ってきた。


「駐在所は完成しました。この奥には、草原を作ってもらうことにしています。渡り鳥が好む草木をいま、用意しているようです」


「そうか。では、だいたいの仕事は終わりだな。この町への移住者についても、ほぼ完了か」


「はい、山側の方は、ほぼ埋まりました。予想以上に早かったですね。平地の方には、冒険者ギルドからの強い要望があり、ギルドの建物と、いくつかの冒険者パーティの支店を認めました」


 あっ、ラプトルの支店もできるのかな?


「この場所は、王都へも歩いて行けるし、海に出たい冒険者にとっては、好都合だろう。やはり、ゲナードを討伐した者の所有地があると、人は集まるようだな」


 いや、僕じゃなくて、奴を討ったのは天兎なんだけどね。



「あの……僕に任される畑は、どこですか? 冒険者ギルドに、農家のスキルを持つ人のミッションを依頼したいのですが」


「うん? キミの所有する畑は、ここまでの平地側だ」


「えっ? 右側の……建物奥の草原ですか」


 そう尋ねると、彼らは当然のように頷いた。ちょ、ちょっと待った。ここまでって……とんでもない広さだよな。



 僕は、スキル『迷い人』のマッピングを使ってみた。


 新たな町の名前もできている。自由の町デネブ。へぇ、デネブの名を持つ場所が増えたんだ。そういえば、さっき、渡り鳥がと言ってたよな。この大きな池に、鳥が来るんだ。


 カベルネ村よりも、この新しい町は圧倒的に広い。カベルネ村もかなり広いんだけどな。


 僕がいま居る場所は、新しい町の真ん中あたりだ。まだ、地図では記載がないけど、僕の畑って……隣のシャルドネ村よりも広いじゃないか。


 これだけ広大な畑を維持するには、とんでもない労力が必要だ。だけど、ここに逃げてきた奴隷達にとっては良いことか。畑仕事が嫌じゃなければ、ここで自立できそうだよな。


 この場所から先は、まだ荒れ地のままだ。とりあえず、草原にするみたいだな。人が増えてくれば、建物が建っていくのだろう。



「ヴァンさん、畑の事務所にしてもいいのですが、あちらに、小屋を作っておきました。適当に改築してください」


「ありがとうございます。小屋というより屋敷ですね」


 あの場所が、畑の端になるのか。大きな屋敷が建てられている。だけど貴族の屋敷とは違って、質素な造りだ。畑で働く人達の管理事務所のつもりなのだろう。


「ここから、さっきの町の入り口までの平地部分は、すべて、ヴァンさんの所有地です。自由に使ってください」


「とんでもなく広すぎるんですが……」


「遠慮はいりません。おそらく、貴族はこの範囲には屋敷を建てないはずです……。逆に、畑にするには最適かと」


 建築士らしき人の目が泳いでいる。どういうこと?


「ヴァンさん、魔法で建築ができない土地なのです。その……」


 あー、なるほど。そういうことか。


「偽神獣の討伐戦で、多くの犠牲が出た場所ですか」


「……はい。土地に執着のある悪霊が、数多くさまよっているようでして……」


「なので、気にせず、自由にお使いください」



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