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291、王都シリウス 〜ぶっちゃけて、そして……

 僕は、一瞬迷った。


 自分が裏ギルドに出入りするピオンだと認めてもいいのか。でも、僕が言い出したことだ。それに、精霊ノレア様にはバレている。


 それに、この魔道具メガネをかけた姿が、ピオンだということは、かなりの人に知られている。


 この場所には、近衛兵しかいないから気づかないようだが、多くの王宮の兵に見られている。


 だから、魔道具メガネを外した時点で、僕は……ヴァンが、ピオンだと暴露したようなものだ。


 そして、それを促したのは、天兎のぷぅちゃんだ。確かに彼が言うように、中途半端に隠すから、いつまでも狙われるんだ。


 精霊ノレア様を見ると、やわらかな笑みを浮かべている。彼女も、やはり、明らかにするべきだと考えているのか。



 僕は、覚悟を決めた。



「僕には、大切に思っている人がいます。僕の成人の儀のために来てくれた神官様です。僕がスピカで働き始めるときにも、いろいろと助けてもらいました。その神官様が独立志望なのです」


 ここまで話すと、神官らしき二人が、誰のことを僕が話しているか気づいたようだ。


 いま、僕は、魔道具メガネをかけている。だから、魔道具メガネが僕に見せる色の変化で、すぐに感情の動きを知ることができる。あの二人は、アウスレーゼ家の神官なんだ。



「僕は以前から、トロッケン家の一部に狙われています。スキル『薬師』超級だから、利用価値があるようです。僕は、裏ギルドにも何度か行ったことがあります。僕自身に対する捕獲依頼を確認するためです」


 何人もの貴族が僕を見ている。利用価値が高い……そう考えたのか。魔道具メガネが映す色が、興味を示す色に変わった。


 今も、ファシルド家との薬師契約は継続中だ。これも、神官様が僕を守るために考えてくれたことかもしれない。



「そこで、神官様への暗殺依頼が出ていることを知りました」


「なぜ、そんなことがわかる? 裏ギルドは、依頼者も対象者も、掲示されないだろう」


 貴族か神官かわからない人が、僕の言葉を遮った。


 確かに、壁に貼ってある依頼票には何の記載もなかったな。それに僕のような素人には、どれが彼女を狙っているものかもわからなかった。


「僕は、ひとりでは裏ギルドに行きません。裏ギルドをよく知る人達と、行きますから」


「よく知る人って……」


 言いかけて言葉を飲み込んだ男性……クリスティさんのことだと気づいたか。


 僕がこの姿で、クリスティさんと王都をウロウロしていたことは、彼が従属化している泥ネズミから情報を得ているだろう。


 あー、だからクリスティさんは、僕に王都では魔道具メガネをかけるようにと言ったのか。暗殺貴族の彼女と知り合いだということで、牽制ができる。


「話を続けても?」


 僕は、余裕ある笑みを彼に向けた。彼はコクコクと無言で頷いている。



「僕は、裏ギルドで、その神官様への暗殺依頼が複数出ていることを知りました。そして、そのレジスト依頼が神官様から出されていることも……。そのとき一緒に行動していた女性が、手伝ってくれると言うので、僕はその神官様の依頼を、ピオンの名前で受注しました」


「暗殺者ピオン、多くの人の命を奪っておいて、美談に仕立てて誤魔化すつもりか? 国王の御前でそのようなことが許され……」


「おい、ボケ老人! 黙れよ! コイツは、誰も暗殺したことはねーよ。コイツに関わって死人が出たのなら、コイツを殺そうとして襲撃させて失敗したんだろ」


 さっきのアウスレーゼの神官らしき男性の言葉に、天兎のぷぅちゃんが反論した。


「まるで、その言い方は見てきたかのような……」


「あぁ、見てきたぞ。オレの眷属けんぞくが、ヴァンを守っている。しつこい暗殺者は殺したみたいだな。王都では、宿屋の護衛も侵入者を排除していたみてーだけどな」


 ぷぅちゃんの言葉に、男性は、グゥッと低くうめき、押し黙った。神官様の暗殺依頼を出した一人か。



「面倒だから、おまえらに教えておいてやる。ヴァンには、強い従属が多い。コイツ自身は弱いが、変化へんげによって、竜神と天兎の力を使える。魔獣使い極級、薬師と道化師と精霊師が超級、そして覇王持ちだ」


 ちょ……ぷぅちゃん……。


「王都のすべてのネズミに、ヴァンの覇王効果が及んでいる。従属化は二体だかな。頭の悪いおまえらにも、この意味はわかるな?」


 ちょっと、ぷぅちゃん!


 一瞬、ヒヤッとしたけど、誰も何も言わない。


「見ていたようにデュラハンも、ヴァンを守護している。だから、オレでさえ、ヴァンは殺せないと言ったんだ」


 なんだか、ぷぅちゃんのプライド発言に聞こえる。



「だが、そんな危険な人間だとわかって、自由にさせるわけにはいかない。第二のゲナードだ! 今すぐ、収監すべきだ!」


 貴族の一人が叫んだ。僕が視線を向けると目を逸らす。魔道具メガネは、彼が僕に怯えているのだと伝えてくる。


「おまえなー、バカを超えて変態だな」


 ちょ、ぷぅちゃん……。


「なんですと? その言葉は……」


 変態だと言われた貴族は、顔を真っ赤にしている。怒りで頭が沸いているのか。



 すると、国王様が口を開く。


「ヴァンさん、貴方のことはよくわかった。貴族の何人かは理解できていないようだな、嘆かわしい」


 その言葉に、顔を真っ赤にしていた貴族は、スーッと青ざめていく。


「天兎のハンターの話をキチンと聞いていれば、ヴァンさんが危険ではないことがわかったであろう。彼が悪しき心に染まれば、精霊師のスキルは消滅する。竜神や天兎の姿への変化へんげ許可も下りない。彼より強い従属は、術返しをして離れていくだろう。残る脅威は、ネズミくらいか」


 そ、そうなんだ。


 貴族達は、冷静さを取り戻していったようだ。魔道具メガネが映す色が一気に変わっていく。



 国王様は、皆が落ち着いた様子を確認して、再び口を開いた。


「天兎のハンター、先程の奴隷というのは、獣人のことですか?」


「オレが獣人だから、そう言ったわけじゃねーぞ。教会に捨てられる子供は、貴族か半魔だろーが。オレの主人が、心を痛めている」


 フロリスちゃんが……。


 そっか、最近は、近くの教会に通っていると聞いたことがある。そこで働かされている子供達と交流があるのか。


「教会で働く子供のことでしたか。親を亡くした身寄りのない子供もいるようですが、捨てられた子が多いということは、聞いています。そのための教会なので……」


「は? 教会で働いているだと? それは大間違いだ。働かされている、奴隷だぜ。ベーレン家の体制がおかしいんだよ。それに獣人も、だな。変な噂を聞いたけどな」


 ぷぅちゃんの言葉に、国王様は頷いている。こんな失礼な話し方だけど、怒らずに聞き入れる国王様に、僕は少し驚いた。


 国王様は、冷静だし、国を良くすることに前向きのようだ。神官三家も、まともな人の方が多いのかもしれない。一部の頭のおかしな奴らが、秩序を崩しているんだ。



「獣人については、ワシも問題だと考えている。ベーレン家に生まれた一部の者が、奴隷として売るために、わざわざ創り出していると聞く。そのような自然に反する行為は、精霊ノレア様の意に反することですからな」


 国王様が、ぷぅちゃんに話しながら、チラッと精霊ノレア様の方を見た。彼女は、悲しげな表情で頷いている。


「国王、オレは、人工的な獣人奴隷のことは知らねー。だが、オレの主人が心を痛めるようなことは許さない」


 ぷぅちゃんは、ぶれないよね。



「天兎のハンター、獣人奴隷を創り出す行為は、取り締まっていきたいと考えている。だが、すでに生きている者達を始末するわけにもいかず、だからといって、奴隷となるために生み出された者は……」


 精霊ノレア様の表情から見ても、奴隷として作られた獣人が、特殊な個体なのだということがわかる。主人への絶対服従か何かを、遺伝子に組み込まれているのか。


「フン、それなら、神官三家の不始末は、神官に負わせればいいじゃねーか。既に神官三家から独立した神官が、あちこちに隠れているだろ。そいつらに、教育させればいいじゃねーか」


「おお! それは良い考えですな。独立した神官家にワシから王命を与えれば、彼らの地位は向上する」


「精霊ノレア、獣人奴隷に知能が足りないなら、それを補う神矢を降らせることだ。『学び人』とか、どうだ?」


 ぷぅちゃん、絶好調じゃん。いや、もともと、問題意識を持っていたんだな。


『そうですね。直ちに神に進言してみますわ。それと、教養を学ぶ場も必要ですわね』


 なぜか、精霊ノレア様は僕の方を見て、ニコリと笑った。



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