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288、王都シリウス 〜天兎の求める報酬

『彼らが、堕ちた獣を討伐し、影の世界へ追いやった功労者ですわ』


「な、なんと! ノレア神父の配下の者か」


 国王様の言葉だけど、僕は少し不快に感じた。ノレア様の配下になんか、なるわけがない。


「ふん、国王がここまでバカだから、ゲナードみたいなクズに国を潰されそうになるんだよ」


 ぷぅちゃんの毒舌に、謁見室の壁沿いに並ぶ近衛兵の様子が変わった。僕がかけている魔道具メガネは、彼ら全員を敵意の色に染めている。


 僕の背中を悪い汗が流れた。でも魔道具メガネは、僕をクールなベーレン家の血筋っぽいイケメンに見せているだろう。


 国王様は、少し驚いたようだ。ぷぅちゃんの素性に気づいたからか。



『彼らは、息子の配下ではありませんよ。逆に息子は、彼らに嫉妬やライバル視……困った子で申し訳ないですわ』


 精霊ノレア様の言葉に、ノレア神父は顔を赤くしたり青くしたりと、コロコロと表情が変わる。


 彼は、ぷぅちゃんのことは、すぐに天兎だとわかったみたいだけど、僕のことには気づかないらしい。怪訝な表情で睨んでいる。



「精霊ノレア、なぜ、今になって姿を現したのだ? 呼びかけても、ずっと応えてくれないから、もしや消滅したのかと危惧していたぞ」


『堕ちた獣が居ましたからね。あの獣は、名持ちの精霊を喰おうと、罠を仕掛けていました。私が喰われてしまうと、この世界は崩壊しますわ』


 ゲナードは、精霊ノレア様まで狙っていたのか。あー、さっきの神殿を奪うことが目的か。


 王宮内の神殿は、あちこちの神殿への中継地だと言っていた。ということは、あの神殿を奪えば、神様が神殿に降りられなくなるんだよな。


 ゲナードは、この世界の神になろうとしていたのか。




『国王、彼らから、貴方へお話があるようですわ』


「うむ? 何かな? そちらの者は妙だな。天兎の従者かとも思ったが、人間のようだ。しかし……」


 国王様には、僕が魔道具メガネで、見た目を変えていることがわかるんだ。ノレア神父も、何か変だとは気づいているみたいだけど。


 精霊ノレア様は、僕の名前までわかっていたのに、息子のノレア様にはわからないんだな。


『彼は、魔道具で姿を変えていますわ。息子が、彼を暗殺しようと、裏で動いていたためでしょう』


「えっ? だ、誰だ」


 ノレア神父は、僕をキッと睨んだ。


 魔道具メガネは、主な効果が認識阻害だっけ。すごいな、これ。彼にも僕の正体がわからないんだ。クリスティさんは、誰にもわからないって言ってたっけ。


『坊やは、目で見ているからわからないのよ。やはり、まだまだ、国を助けるには力不足ね。それに、彼が誰かわからないほど、多くの人の暗殺を企てていたのかしら』


 精霊ノレア様の声は穏やかだけど、ノレア神父にはグサリと突き刺さる言葉のようだ。



「おい、そのメガネを外してやれよ。貴族や神官家が、変なことを考えてるぜ」


「えっ……素顔をさらしたくないんだけど」


 ぷぅちゃんは、なぜ魔道具メガネを外せと言うんだ? 顔バレしたら、さらに暗殺依頼が増えてしまうじゃないか。


「中途半端に隠すから、狙われるんだよ。ここには、この王都の主要な奴らが集まっている。ガツンと言ってやればいいんだよ」


 確かに、国王様の前で、姿を偽っているのもマズイか。それに、王都には、僕はもう来ないかもしれない。心配はいらないか。



 僕は、魔道具メガネを外した。


 すると、あちこちから落胆の声が聞こえてきた。見た目がイケメンじゃないからかと思ったけど、違うか。ベーレン家の血筋だと考えていた人が多かったようだ。


 それに彼らは皆、サーチができるらしい。僕のジョブと、筆頭スキルの話が聞こえてくる。ステイタスも平凡で悪かったな。レア技能持ちだという話も聞こえる。



「おまえには、村の調査を命じたはずだが、なぜ報告をしてこない?」


 ノレア神父が、僕を指差して叫んだ。


「ノレア様、僕は念話はできません。貴方の使いのトロッケン家生まれのジョブ『王』の方とは、デネブ街道沿いの店で別れましたからね」


「それなら、すぐここに足を運ぶべきだろう」


 何を言ってるんだ? あぁ、そうか。ノレア様はわかってないんだ。シャルドネ村で起こった事件も、その後の湿原での討伐戦も。


 僕は、ぷぅちゃんの表情をチラッと見てみた。呆れ顔なんだけど……ちょっと楽しそうにも見える。


 ここで、ノレア様の勘違いを暴露してもいいんだけど……そうすると、絶対また、暗殺依頼が増えるか。



「精霊ノレア、おまえの教育が悪すぎるぞ。坊やに、なぜ、このような要職を任せているんだ? 千年早いんじゃねーか」


 ぷぅちゃんは、辛辣だな。でも、確かにそうかもしれない。ノレア神父は、今は見た目は初老の姿をしているけど、精霊としては赤ん坊同然なんだよな。


『天兎のハンター、息子には荷が重いことは、わかっています。だからこそ、未熟な息子を神官三家が協力して支え合ってくれることを期待しておりました』


 精霊ノレア様の言葉に、バツの悪そうな表情を浮かべたのが、神官家の人達か。神官のジョブを持つ人達は、精霊や妖精の声を聞くことができる。


 おそらく、精霊ノレア様は、神官三家の人達を叱っているんだ。彼女が理想とする世界とは、現状はほど遠いみたいだな。




「おまえの息子の尻拭いに、オレまでが働かされたんだぜ。当然、報酬を出せよ」


 えっ? ぷぅちゃんが報酬って……。


『天兎のハンター、国王へのお話というのは、報酬の件でしょうか』


 精霊ノレア様は、そう言いつつも、なぜか僕を見て微笑んでいる。ぷぅちゃんの意図がわかっているのか。


「あぁ、そうだ。オレへの報酬は、面倒事を今後一切起こさないという約束だ。こんなくだらねーことで、なぜオレの時間を奪う? 許さねーぞ」


 ぷぅちゃんは、何を怒っているんだ?


『では、ヴァンさんへの報酬は?』


「コイツに報酬なんていらねーだろ。オレが出てこなきゃ、ゲナードは討てなかったんだからな」


 まぁ、そうだよね。下手に報酬を請求すると、後々、逆に面倒なことになる。


『そうですか。今後の彼の身の安全を求められるかと思っていましたが……』


「は? 誰がヴァンを殺せるんだ?」


 ぷぅちゃんがそう言うと、貴族達が首を傾げた。だよな、さんざんサーチをしていたから、僕のステイタスは、バレているはずだ。


『それは、貴方が彼を守るということですね?』


 精霊ノレア様の言葉が聞こえない人にも、その言葉が伝えられていく。みんな、ぷぅちゃんを見て、表情を固くしている。


「なぜ、オレがコイツを守る? 冗談じゃねーぞ。オレは、主人しか守る気はねーよ。コイツを守るのは、コイツの従属だ」


 すると、皆が表情を緩める中、ノレア神父だけは、青い顔をしている。それを見て、ぷぅちゃんはニヤニヤしているんだよね。


 そしてぐるりと見回し、再び口を開いた。


「おまえら、言っておくが、このオレでさえ、ヴァンは殺せねーぞ」


 貴族達の緩んだ表情が、再び引きつった。ぷぅちゃんは、何を言ってるんだ?


「ゲナード達を追い詰めたのは、ヴァンの従属だ。指揮をとっていた性悪な堕天使は、もともとはベーレン家が創り出した未完成の闇の偽神獣だ。その悪霊を毛玉に押し込めたのはオレだがな」


 ぷぅちゃんは、自分の眷属けんぞくだと白状した。精霊ノレア様が、やわらかな笑みで頷いている。彼女の指示なのだろうか。


「その黒い天兎を従属化したのはヴァンだ。そして、堕天使の姿を与えやがった……覇王を使ってな。だから、性悪な堕天使の主人はオレではなく、ヴァンだ。ヴァンが死ねば、オレの眷属に戻るけどな」


 げっ! 覇王持ちだとバレたら……。


 だけど貴族達の反応は、僕の想像とは違った。魔道具メガネを外しているから正確にはわからないけど、たぶん敵意はない。


 シーンと静まり返った人々、そして青い顔のノレア神父を見て、ぷぅちゃんはニヤリと笑みを浮かべた。


「ついでに教えておいてやる。王都のネズミ2匹に覇王を使ったのはヴァンだ。ノレアの坊やの覇王よりも効果が強い。上書きはできねーぜ。王都中のネズミ達は、ゲナード達の捕獲に協力したみたいだな」


 うわぁ……僕、恨まれるんじゃ……。


「それからノレアの坊や、影の世界とこの世界の門番を強化しろよ。もし、ゲナードが出てきたら、一番に狙われるのはおまえだからな」


「なっ、なぜ……」


「ヴァンを敵視する精霊は、奴にとっての馳走だろう?」


「そ、そんな」


「それが嫌なら、隠しているデュラハンの首を返してやれ。ゲナードを封じているのはデュラハンの術だ」



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