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285、デネブ街道横の湿原 〜決着

 あのゲナードの表情……狂気に満ちた笑み。なぜ、デュラハンは、召喚しろと言ったんだ? デュラハンは、妖精だ。奴のエサじゃないのか? 


 エネルギーを欲しがるゲナードは、僕達に向かって急接近してきた。


 バーバラさん達が再び、バリアを張った。だけど、奴の行動は止められない。



 や、ヤバい!


 デュラハンは、なぜ、動かないんだ? いや、動けないのか。



 僕は、急接近するゲナードに向かって、ブレスを吐いた。


 バリバリバリバリッ!


 強烈な雷撃が、ゲナードに命中した。


 奴は、空へと押し戻されるように離れていく。



『くそ! 獣人のくせに生意気な!』


 半透明な獣に、雷撃は効かないのか。


 奴は再び、近寄ってくる。だけど、さっきのような急降下ではない。ゆっくりと近寄ってくる。


 僕が再びブレスを吐くことを、警戒しているようだ。


 僕の今の姿は、何? 何ができる? 


 竜だということはわかっている。僕がこの姿に化けたことで、白き海竜マリンさんが、空に現れた。竜を召喚する竜?


 どうしよう……。


 おそらく、ブレスは避けられる。


 バーバラさん達のバリアでは止められない。


 そして、デュラハンは、僕の横に立っていて動かない。何も話さない。首無しだから、表情もわからないけど、まさか、立ったまま気絶してるんじゃないよな?


 堕天使ブラビィは、水属性のゲナードの配下の相手をしている。いや、ゲナードの配下がブラビィの足止めをしているのか。


 ゲナードが近寄ってきた。デュラハンを喰う気だ。



『日が沈んだからとて、闇の妖精は、俺には敵わない。愚かな獣人よ。チカラの差を読み違えたな』


 ゲナード……半透明な獣は、僕のブレスが届く距離で止まった。そして、半透明な盾を出した。僕のブレス対策か。半透明な盾だけが、ゆっくりと僕に近寄ってくる。


 すると、バーバラさん達が、その盾に攻撃魔法を放った。


 その隙に、泥ネズミのリーダーくんは、また僕に、ポーンと木いちごのエリクサーを投げて来た。


 頬に残っていたエリクサーを飲み込み、リーダーくんが放り投げたエリクサーをキャッチした。かなり、魔力が回復する感覚。


 このオレンジ色の空を維持し、ゲナード達が逃げられないようにしている上に、ブレスを使ったからだな。


 僕自身では、魔力の残量がわからないから、助かる。きっと、ブラビィが泥ネズミに命じてるんだろう。



『フハハハ、そんなものでは壊せぬ! 邪魔なネズミだ!』


 ゲナードが、魔女達に火の玉を放った。でも、この距離でも、奴の攻撃魔法は、彼女達のバリアが防いでいる。


 だけど、彼女達の表情に焦りが見える。ゲナードの足止めができないからか。デュラハンを喰うと、奴は完全に回復してしまう。


 なぜデュラハンは、召喚しろと言い出したんだよ?



 じわじわと半透明な獣が近寄ってくる。


 僕のブレスに警戒しながらも、近寄ってくる。


 おそらく僕がブレスを吐いた瞬間、奴は動くだろう。半透明の盾で僕のブレスを防ぎ、瞬時にデュラハンに襲いかかるはずだ。


 どうしよう……。




『準備が整った。ヴァン、何かしろ』


 頭の中に、ブラビィの声が響いた。何かしろ、って言われても、いま、それどころじゃない。目を離すと、ゲナードがデュラハンに襲いかかる。デュラハンは、なぜ、何もしないんだよ?


『早くしろ! タイミングがズレる』


 あー、もう、知らないからな!



 僕は、ゲナードに向かって、ブレスを吐いた。半透明な盾を破りたい。ゲナードを空に押し返したい!


 ジジジジジーーッ!


 熱線のようなブレスだ。半透明な盾の一部が溶け、そして熱線は、ゲナードに向かっていった。


 奴は、大きく右へ避けた。熱線は、空へと一直線にのびていく。


 あっ、空の結界が壊れる?


 オレンジ色の空は、ゲナード達が影の世界へ逃がさないための結界バリアになっているのに。


 僕がそう考えたことがゲナードに伝わったのか、奴は、空を見上げた。そして、熱線が通り抜けた空を凝視している。


 だが、すぐに、デュラハンに目を移した。



『フハハハ、せっかくの馳走を置いて行くわけにもいかぬな』


 げっ……どうしよう。


 奴は、こちらへ近寄ってくる。


 だけど……。


 シュッ!



『ぐわぁ! く、くそっ!』


 ゲナードの半透明な身体には、白く輝く弓矢が突き刺さっていた。


 えっ? な、何?


 堕天使ブラビィは、はるかに高い空の上だ。



『おまえ、勘が悪すぎ』


 この声って……。



 ゲナードは、急接近してくる。焦りからか、デュラハンを喰おうと一目散だ。


 僕は、ゲナードに向かって、ブレスを吐いた。


 ブォン!


 今度はよくわからない衝撃波のようなブレスになった。僕は、頬にいれておいたエリクサーを飲み込んだ。やはり、かなり回復する。


 僕のブレスが直撃したゲナードは、空へと押し返されるように上がって行った。


 シュッ!

 シュシュッ!


『ぎゃあぁあ! お、おの……れ……』



 輝く白い弓矢により、半透明な獣ゲナードは、パッと破裂したかのように散って消え去った。


 シュッ!


「うぐ……」


 空には、弓を持つ堕天使ブラビィの姿が見えた。そして、何かが落ちてくる。


 シュッ!


「ぎゃあ!」


 その何かも、パッと破裂するように消え去った。



 デュラハンから、黒いオーラが吹き出す。すると、消え去ったように見えた何かが黒く染まっていった。


 デュラハンが喰べている?


「は? んなもん、喰うかよ。乗っ取られる」




『ヴァン、竜の力を消してくれ』


 お気楽うさぎからの念話だ。僕は、なりきり変化へんげを解除した。


『じゃあ、海に戻るわねぇ』


 空に浮かんでいた白き海竜マリンさんが姿を消した。やはり、僕が竜神様の何かの姿に化けていたから、彼女がここに召喚されたんだ。


 だけど、まだ、空はオレンジ色だ。



 デュラハンは、何かの術を使った。すると、空にポツポツと浮かんでいた黒い何かが、オレンジ色の空に昇っていき、スーッと消えた。


「オレの仕事は、ここまでだ。後は、天兎がやれよ」


 デュラハン……首無しの騎士は、そう言うと、スッと姿を消した。



 彼が居なくなると、その後ろにいたイケメンの姿が見えた。助っ人というのは、彼のことだったんだ。


「ぷぅちゃん、来てくれたんだ」


「ふん、おまえに、ぷぅちゃんと呼ぶ権利は与えていないぞ」


 あはは、相変わらずだね。ファシルド家のフロリスちゃんのペット、天兎のぷぅちゃんだ。彼は、天兎のハンター。前にゲナードの片腕を吹き飛ばしたのも、ぷぅちゃんなんだよな。


 そうか、堕天使ブラビィには、ゲナードは倒せない。だから、ぷぅちゃんを呼んだんだ。



 空には、堕天使がまだ浮かんでいる。ぷぅちゃんの眷属けんぞくとして作り出された黒い兎だ。だから、降りて来たくないのか。



「もう、危機は去ったのかな?」


 ぷぅちゃんに尋ねると、彼はフンと鼻を鳴らした。肯定だね。不機嫌なのは、おそらくブラビィが、ぷぅちゃんを強制的に、ここに来させたんだろう。


「おまえは、あの下僕に甘すぎる。調子に乗りすぎ。アイツは、もともとは天兎じゃないんだからな」


「ぷぅちゃん、機嫌悪いね。ブラビィに無理なお願いをされた?」


「は? お願いじゃないだろ。脅迫だ。ゲナードを討ち損ねたのに放置しているってフロリスちゃんに言いつけるとか、フロリスちゃんに気に入られるために子供の獣人に化けていることを言いつけるとか、ふざけたことばかり言いやがって」


 えっ……事実なんじゃないの?


「それで、ゲナードを討ちに来てくれたんだ。ありがとう」


「ふん、あの下僕は、悪魔だな」


 あはは、誰かも同じことを言ってたっけ。



「もしかして、デュラハンさんは、おとりに使われたのかな」


「あぁ、海竜もだろ? あの下僕は、自分が攻撃を受けないように、ちょろちょろと立ち回っていた。まぁ、神獣の考えは、神獣が一番よく理解している上でのおとりだろうがな」


 ぷぅちゃんは、ため息をついている。ぷぅちゃんの眷属だから、責任があるのかな。


 そんな彼を、魔女達はキラキラとした表情で見つめている。イケメンだもんね。



 ぷぅちゃんは、空を見上げた。


 オレンジ色だった空は、少しずつ夜の輝きへと変わっている。


「ゲナードと配下は、影の世界に戻ったみたいだ。デュラハンが、邪気のない闇で包んで送り返したから、ただの霊だな。ふっ、欲張るから、こんなことになる」


「さっきのデュラハンの術は、そんなすごい術だったんだ。じゃあ、しばらくは、ゲナードはこちらには来られないよね?」


「デュラハンは、名持ち精霊と変わらない力を持つからな。闇の精霊が影の世界とこの世界の門番をしている。心配しなくても堕ちた神獣は、そのうち消滅するぜ」



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