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284、デネブ街道横の湿原 〜空に浮かぶ白き海竜

 白い光が収まると、ゲナードの手に集まっていた黒いマナが消えていることがわかった。


 空には、白く輝く大きな竜が浮かんでいる。キラキラとしていて美しい。マナをまとっているのか。あれは……。


『ふふっ、空は完全に封じたわよ〜』


 マリンさんの声だ。ブラビィは、何を依頼したんだ?


「くそっ、くそ、許さんぞ!」


 堕ちた神獣ゲナードは、人の姿から半透明な獣の姿に変わった。泥ネズミ達が僕に見せた、シャルドネ村の映像と同じだ。


 ゲナードは、白い海竜を狙い、空へと駆け上がっていった。だが、マリンさんに触れることができないらしい。突っ込んで行って、そのまま通り抜けている。


 ブラビィが、何かしているのだろうか。



『我が王! 我が王!』


『こっちを向いてほしいのでございますです! こっちなのです! ほーれ、ほれほれ……げふっ』


 うん? 泥ネズミ達の声が聞こえた。下の方で何かが動いている。下を向くと、リーダーくんは、また、蹴られたのか、片手でお腹を押さえている。


 リーダーくんは、もう一方の手で持っている何かをポーンと、投げてきた。


 それは、僕の口の中に入った。あ、木いちごのエリクサーか。


『我が王! 魔力切れになります!』


 そう言われて飲み込んだ。うわ、ほとんど空っぽだったんだ。今までにないほど、魔力値は、ぐんと回復した。


 空に気を取られていて、自分がエネルギー庫だということを忘れていた。


 回復すると、僕の身体から金色の強い光が、湿原に広がっていく。


『我が王! こっちを見てほしいのでございますです〜。ふんぬっ』


 下に目を移すと、リーダーくんが、変な踊りを踊っている。その動きで、リーダーくんの居場所がわかるんだけど、何をしてるんだ?


 また、ポーンと木いちごのエリクサーが、口に飛び込んできた。そして、リーダーくんは、ガッツポーズだ。コントロールがいいんだね。


『我が王、コイツは、適当に投げているので、投げ損ねた秘薬を失わぬよう、一族の者が必死に探しています』


 賢そうな個体がそう言うので、僕は反対側に目を向けた。


 なるほど……たくさんの泥ネズミが、木いちごのエリクサーをつかみ、賢そうな個体の方へと戻している。


 エリクサーって、湿原に落ちても、泥がつかないんだな。不思議なマナの膜に覆われているのが見える。今まで、こんな膜は見えなかったのにな。変化へんげを使っているからか。




 僕は、空を見上げた。


 ゲナードだけでなく、その配下の水属性の偽神獣も、空に浮かんでいる。配下は、人の姿のままだ。


 白い海竜は、オレンジ色の空を泳ぐように移動している。あー、ブラビィが操作しているのか。


 白い海竜に攻撃魔法が飛んでいくと、堕天使ブラビィが一瞬光る。すると、マリンさんの姿は、影の世界に入るんだ。そして、すぐにこの世界に現れる。


 彼女をまとう光が少し揺れることで、それに気づいた。


 だが、影の住人であるはずのゲナードと配下は、影の世界には追っていかない。いや、追えないのか。


 湿原にいる大量のネズミ達からの光で構成されているオレンジ色の空は、この世界と影の世界との行き来を封じているようだ。


 だからマリンさんは、空を封じたと言い、ゲナードは怒り狂っている。影の世界へ逃げられなくなったんだ。


 マリンさんが封じたと言ったけど、おそらく海竜にそんなチカラはない。結界のようなものを張り、維持するチカラはあるかもしれないが、影の世界との出入りは、海竜にはできない。


 このオレンジ色の空を操作しているのは、ブラビィだろう。奴は、黒い天兎になる前は、悪霊だった。闇属性の偽神獣は、影の住人であり、この世界では悪霊として、なぜか僕に付きまとっていたんだよな。


 そうか、マリンさんは、おとりになっているんだ。ブラビィに攻撃が集中しないように、空の番人と、奴らを引きつけるおとりの役割か。



『我が王! こっちを向いてくださいませませ〜。ましまし〜。ませませ〜』


 うん? また下を向くと、口にポーンと木いちごのエリクサーが入ってきた。うわ、また、めちゃくちゃ回復する。今、僕は、とんでもなく魔力を使い続けているのか。


 あー、そうか。このオレンジ色の空は、僕の魔力か。僕が魔力切れで倒れると、すべてが消えてしまうのかもしれない。


 しかし……喋れないんだよな。僕は今、何の姿に化けているんだろう?


『我が王は、ピッカピカな竜にございますです。ピッカピカで、チッカチカなので、こちらを向いてくださらないと、口の場所がわからないのでございます』


 ピッカピカの竜? 


 覇王の光なのか、変化へんげした姿が放つのかはわからないが、確かに、目がチカチカするような光だ。おそらくマナを放出し、この空間を作り出しているんだろうけど。


 また、ポーンと口の中に、エリクサーが放り込まれた。まだ、それほど減っていないんじゃないか?


 だけど、ぐんと、魔力が引き出される感覚。


 ブラビィか。


 お気楽うさぎは、この場のすべてに指示を与えているのだろうか。


 僕は、エリクサーを飲み込み、空を見上げた。すると、ブラビィが、僕の方を向いて手をあげた。意味がわからない。



『我が王、お口に秘薬を入れておいてくださいませませ』


 また、ポーンと口の中に、エリクサーが放り込まれた。いやいや、自分で持っておくよ。手を伸ばそうとしたけど……手がめちゃくちゃ短い。


 あー、だから泥ネズミ達が、エリクサー係か。大量に地面に出しておいてよかったよ。



 空に再び目を移した。ブラビィは何をしているんだ?


 ゲナードと配下は、ブラビィとマリンさんに攻撃を仕掛けるが、避けているだけなんだよな。



『おまえらには、俺を倒す力はない。影の世界への出入りを封じても、何にもならぬわ!』


 ゲナードの声も、念話に変わった。半透明な獣だからか。


 そんな奴らをからかうかのように、ブラビィ達は、攻撃を避けるだけなんだよな。既に射った弓矢は、もう空には飛んでいかない。


 ゲナードが消耗するのを待っているのか? それなら、エリクサーが足りないかもしれない。


 そういえば、デュラハンも何かを頼まれたと言っていたよな? まだ、現れていないけど。



『ヴァン、おまえが召喚しないと、オレは出ていけねーだろ』


 えっ? デュラハンさん、すぐに召喚……。


『待て、まだだ。お気楽うさぎは、日が暮れるのを待っている。だが、もうすぐだ。タイミングを外すなよ?』


 タイミングって、夕暮れのタイミング? 空はオレンジ色の光で、日が暮れるタイミングなんてわからないよ。


『違う。あー、もう、面倒だな。オレが指示するから、エリクサーをしっかり食っとけ。いや、頬にためとけ。ガツンと消費するぞ』


 下を向くと、リーダーくんがエリクサーを投げている。僕の口に入るのは、偶然なのか。キャッチ係の泥ネズミが忙しそうだな。


 ポーンと投げられたエリクサーを僕が自ら取りにいった。


『おぉおぉ〜、我が王の行動を先読みしたのでございますです!』


 リーダーくんは、ボーっとしている。その目は輝き、感動しているらしいことがわかった。僕が取りに動いたんだけどな。


 そして、両頬にストック完了。次に放り投げられたエリクサーが口に入ったとき、空の気配が変わった。



『アハハハ、愚かな! 夜になれば影の住人のチカラが増すことを知らぬのか』


 ゲナードは、あちこちに向けて、めちゃくちゃに風の刃のようなものを放っている。僕を狙っているのか。


 バーバラさん達が動いた。


 僕の前に、透明な盾のようなバリアを作り出している。だが、奴のチカラが増したのか、バリアは、破られるようになってきた。


 でも、変だな。ゲナードは、焦っているように見える。僕に攻撃を仕掛けつつ、あちこちにも魔法を放つ。


 まるで、捕らわれた魔物がおりから抜け出そうと、もがいているかのようだ。



『ヴァン、この湿原からは、転移できないからな。奴の魔力も減り始めたぜ』


 デュラハンさん、ゲナード達を消耗させれば、ブラビィでも倒せるのかな。


『いや、無理だな。だから、助っ人が来る。同時に召喚しろと言ってきやがった』


 えっ? 助っ人?


『ヴァン、今だ! オレをすぐに召喚しろ!』


 ちょ……この姿で、できるのかな?


変化へんげは、憑依じゃねーだろ。早くしろ!』


 わ、わかった。


『デュラハン、召喚!』



 僕の、金色に光る身体に、黒い魔法陣が現れた。


 そして、ヌーっと、首無しの鎧騎士が魔法陣から、出てくる。


 ゲナードの視線が、デュラハンに向いた。その顔は、嬉々とした狂気を含む表情だ。


 奴は、真っ直ぐに、僕達に向かって急降下してきた。




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