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283、デネブ街道横の湿原 〜討伐戦のショータイム

 僕の声は、風が吹き抜けるように、次々と伝わっていく。


 遠く離れた場所にいる泥ネズミ達にも届いたようだ。念話ってすごいな。いや、覇王効果がすごいのか。どう広がっていくかも、感覚でわかる。


 空から、黒い何かが落ちてきた。


 地面スレスレで、黒い翼をバサリと広げている。


 その姿を見たゲナードの顔からは、笑みが消えた。さっきまでの余裕の表情ではない。奴は、強いオーラを放ち始めた。本気になったのか。



「チッ、戦うチカラのないガーディアンが、コイツを眷属けんぞく化していたのか。ふん、所詮は偽神獣、俺に敵うとでも思ったか?」


 ゲナードは、僕に近づこうとしているようだ。僕を人質にでもする気か。


 覇王の光は、僕の命令に呼応するように強くなっている。バーバラさんが張ったバリアを、水属性の配下は、壊せなくなったみたいだ。


 この光の源は、魔力なのか。僕は、木いちごのエリクサーを口に放り込んだ。ぐんと魔力が回復する感覚。


 もしかして、とんでもなく魔力を消費しているのかもしれない。いや、逆か。これほどの広範囲に力を広げても、僕の魔力値で足りている。



 僕を経由しないで、状況が進んでいく。ブラビィが命じているのか。


 僕を守るように、普通の土ネズミが壁を作っている。そして、魔女達は、その土ネズミ達にバリアを張った。


 ブラビィは、何をしているんだ? ゲナード達を睨みながらも、遠方の泥ネズミ達を動かしているようだ。



『ヴァン、あのお気楽うさぎは、堕天使じゃなくて、悪魔じゃねーか?』


 えっ? デュラハンさん?


『あちこちに、脅しながら命令しているぜ。あー、もう、おまえ、よくあんな奴を従属にしているよな』


 もしかして、デュラハンさんも、何か頼まれた?


『頼みごとじゃねぇよ、命令だ。偽神獣のくせに、天兎を気取ってやがる』


 うーん、元偽神獣だけど、今は、黒い天兎なんだけどね。何を頼まれたの?


『リスクの高いことだ。下手すると、オレが消滅しちまう』


 えっ? 何?


『言えない。ゲナードが傍受するかもしれねーからな。ブラビィは、別の従属を経由して、命令している。はぁ……だが、悪くはない作戦だ。敵じゃなくてよかったぜ』


 そ、そっか。いま、睨み合いしてるけど、どうなってる?


『伝達と、あと、おまえの力を広げている最中だ。エリクサーは、ガンガン食っておけよ。スピードが落ちる』


 だけど、かなりのネズミ達が瀕死の状態なのに、無理して立ってるよね。覇王って、ある種、むごい技能だよね。


『は? おまえの力を広げていると教えただろ。魔女もピンピンしてるじゃねぇか。覇王効果で、怪我をしている個体のそばの雑草が、気体のエリクサーに変わって漂っているぜ』


 雑草からエリクサーなんて作れないよ?


『んなもん、知らねーよ。じゃあ、なぜ魔女達は、魔力まで全回復してるんだよ?』



 僕は、薬師の目を使って、彼女達や、武闘系の土ネズミの状態を確認した。怪我も完治している。


 すごい……覇王って、ヤバすぎる。




「はん、おまえら、何かを待っているのか。ノレアは、来ないぜ。来ても、エサになるだけだがな」


 ゲナードが叫んだ。なぜだろう。余裕がないように見える。僕の方を睨んでいるようない気がするけど、土ネズミの壁があるから、よくわからない。


 お気楽うさぎは、そんなゲナードを無視しているようだ。そして、やたらと、木々が生えている森の方を気にしている。



 しびれを切らしたのか、ゲナードが、ブラビィに攻撃を仕掛ける。しかし、ブラビィは、透明な盾を出して、適当にかわしている。


 何かを待っているのか。



『おい! 覇王の範囲を全従属に広げろ』


 突然、ブラビィから念話が届いた。なるほど、確かに命令されているような気になる。だけど、少し違うな。ブラビィには、余裕がない。


『早くしろ! タイミングがズレる』


 全従属って……あー、そういうことか。だから、森の方ばかり見ているんだ。



『マリンよ! 我が覇王権限にて命ずる。ブラビィと共に、堕ちた神獣ゲナードとその配下を殲滅せよ!』


『は〜い。うふっ』



 ブラビィは、海竜のマリンさんに何かを頼んだのか。海までは随分と離れているけど、ここに来られるんだろうか。



「ふふっ、そろそろか」


 ブラビィが、ゲナードの攻撃を避けながら、パッと空へ飛び立った。



『さぁ、討伐戦のショータイムだ!』



  ブラビィの声が頭に響いてきた。何かの準備が整ったのか。



 ドドドドド



 なんだか、変な音がする。雨が降ってきた。水属性の配下に有利なんじゃ……。



 ドッパーン!



 ええっ? 何? 津波? いや、なぜだ?


 僕達がいる草原に、森から水が……いや、海からの水が一気に広がった。


 僕の前にいる土ネズミ達が堤防の役目を果たし、僕に水は届かない。


 小さな泥ネズミ達は、大丈夫だろうか。水が引いたら、海の方に押し流されるんじゃ……。


 あれ? 津波じゃないのか?


 水は、みるみるうちに草原に吸い込まれていく。辺りは一瞬で湿原に変わった。ネズミ達は、淡い光を放つじゅうたんのように、湿原に浮かんでいる。


 湿原を埋め尽くすほどの、ものすごい数だ。いつの間にか、とんでもない数のネズミが集まっていたんだ。


 そして、光るじゅうたんが波打ち始めた。


 ピカッ!


 突然、ネズミ達から、無数の光が空へと昇る。そしてその光は、空を覆い尽くした。夕焼けのような鮮やかなオレンジ色だ。



「生意気なことを!」


 ゲナードが、淡い光のじゅうたんと化したネズミ達に、炎を放った。焼き払う気か。しかし炎は、ネズミ達には届かない。


 すると、今度は雷撃だ。


 だけど、やはりゲナードの魔法は、ネズミ達に届かない。いったい、どうなっているんだ? それに、ゲナードは何を急に怒り始めた?



『魔力切れになるぞ!』


 デュラハンの声で、僕は慌てて、木いちごのエリクサーを食べた。完全に空っぽに近い状態だったみたいだ。ぐんと魔力を持っていかれる感覚。


 なんだか、僕は、エネルギー庫のような役割か。


 さらに、もう一つ食べた。やはり、かなり減っていた。どれだけ持っていかれるんだよ。木いちごのエリクサーを食べながら、不思議な光景を眺めている気分だ。



 ブラビィが動いた。


 銀色に光る弓を持ち、そして、ゲナードと配下を狙っている。


 シュッ!

 シュシュシュシュッ!


 ゲナード達が避けるのか、弓矢は当たらない。空に浮かぶブラビィは、不利なんじゃないのか。


 奴らは、ブラビィに炎や氷の魔法を使っている。ブラビィは、それを避けながら、適当に弓を射っているのか。


 ブラビィの弓矢は、ぬかるんだ湿原に突き刺さると、強く光り始めた。ネズミ達の淡い光のじゅうたんから、何かを吸収しているようだ。


 弓矢は、まるで意思を持つかのように、ゆらゆらと空中に浮かぶと、シュッと、至近距離から、ゲナード達を襲う。



「くそっ! 生意気な! すべてを無に帰してやる」


 ゲナードと、その配下は、空中へと逃れた。そして、ゲナードの手には、黒いマナが集まり始めた。



 シュシュシュッ!


 ブラビィは弓を射るが、雨が降っているためか、威力がないように見える。


 ゲナードの配下は、水を操り、その弓矢を叩き落として時間稼ぎをしている。


 叩き落とされた弓矢は、すぐに光り始め、奴らを狙ってシュッと飛んでいく。弱い力かもしれないが、奴らを攻撃する弓矢の数が増えてきた。


 だが、それに比例して、ゲナードの手に集まる黒いマナも増えている。



 ま、まずいんじゃないか。


 僕は、木いちごのエリクサーを食べ、そして、願っていた。もっとチカラが……ブラビィ達にもっと……。



『竜を統べる者、竜を使え』


 頭の中に、老人の声が響いた。竜神様か?


 そうか、変化へんげを使えば僕の戦闘力が上がる。そうすれば、きっと覇王効果も!



 僕は、木いちごのエリクサーを地面に大量に出した。変化へんげの種類によっては、魔法袋が使えないからな。


 そして僕は、スキル『道化師』のなりきり変化へんげを使った。彼らの助けとなるモノ、あわよくば、ゲナードを討つための力となるモノに……。


 ボンッと音がして、僕の目線は高くなった。


 近くにいた魔女三人が、僕から離れた。だけど、今は、彼女達を気にする余裕がない。


 僕は、口を開いた。


「ギャウォォ〜!」


 えっ? 僕、吠えた?



 その直後、その声によって導かれたかのように、空に大きな白い竜が現れた。マリンさん?


 僕の身体が金色に輝く。


 ヒュン!


 風切り音のような音がした瞬間、白い竜が光った。僕からのエネルギーを受け取ったのか。


 次の瞬間、空が真っ白に光った。


 ぎゃぁあぁぁ〜!


「生意気な! 生意気な! 生意気な! 許さんぞ!」



皆様、いつもありがとうございます♪


戦いの途中ですが(汗)、明日、日曜日はお休み。

次回は、8月30日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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