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275、デネブ街道 〜獣人の奴隷

 食事が終わっても、冒険者達は、帰る気はなさそうだ。王都の検問の行列に並ぶ気になれないらしい。


 ハンターのパーティなら、みんな魔獣使いのスキルがあるだろう。面倒なことに巻き込まれたくないんだろうな。


 彼ら以外にも、お客さんが来て、いつの間にか食事処は満席になっていた。他の客も、食事が終わっても出ていかないんだよな。



「兄さん、コレも出すよ。焼いてくれ」


 なんだか、食事処はおかしなことになっている。持ち込み食材を調理する店だと思われたら困るよな。


「僕も、客だってこと、忘れてません?」


「あはは、いいじゃねぇか。王都の結界が弱まるまで、兄さんも暇なんだろ? それに青ノレアのメンバーのそばにいる方が安全じゃねぇか」


 やたらと、僕を青ノレアって言うんだよな。


「ラプトルのメンバーが何を言ってるんですか。僕より、皆さんの方が圧倒的に強いし、うらやましすぎる最強ハンターパーティだし」


 これは僕の本音なのに、彼らは、お世辞だと思っているらしい。互いに褒め合う、変な雰囲気だ。


 だからなのかな? 他のお客さんが帰らないのは……。


「いや、冗談抜きで、兄さんのそばが安全だと思うぜ。王都の結界強化の理由を知っているだろ? 泥ネズミだけじゃなくて土ネズミまで支配しているなんて、そんなのは、魔獣使いじゃねぇぞ。おそらく、その上のレアスキルだ」


 いや、それは僕だ、とは言えない。


「魔獣使いの上のスキルって何ですか?」


 精霊使いの上が精霊師だから、魔獣師? そんなの聞いたことないけど。


「獣神だよ。ベーレン家の一部の奴らが神獣を創って騒ぎになっただろ? あれは、獣神の技能だ」


「魔獣の神というスキルですか?」


「あぁ、半魔の魔獣使いに稀に現れる超レアスキルだ。新たな魔獣を創り出すチカラがあるらしい」


「そ、そんなチカラが……」


「でも、それを言うなら、精霊師は新たな精霊を創り出すから、そっちの方がおっかねぇだろ。兄さん、精霊師だろ?」


「えーっと、どうでしょうね」


 精霊師は極級になると、新たな精霊を生み出せる。だから、黒い天兎ブラビィは、僕の従属でいるんだっけ。でも、精霊よりも、堕天使の方が凄そうだけど。


「兄さんのように、戦闘力が高くないのに青ノレアってことは、そういうことだろう? もしくは、もっと珍しいスキルか? 青ノレアは、レアスキル持ちしか加入できないからな」


 僕は、あいまいな笑みを浮かべておいた。パーティ名を言うべきじゃなかったか。


 でも、パーティ名を言わないのは、言えないパーティに所属していると解釈される。レピュールだと思われたくないしな。


 未加入だと、訳ありだと思われる。まぁ、いっか。グダグダと考えていても意味がない。



「はい、どうぞ。もうこれ以上は、自分で焼いてくださいよ」


 預かった肉を焼いて、彼らのテーブルにドンと置いた。店員さんより、僕の方が働いている気がする。


「そんなこと言わないでくれよ。俺達は、誰も料理系のスキルを持っていないんだ」


「僕も、料理人じゃないですよ?」


「そのジョブで、んなこと言うなよ。だから、ここを手伝ってるんだな」


「たまたまですよ。というより、勝手にサーチしないでくださいよ」


 冒険者って、すぐにサーチを使うよな。彼らは、口には出さないけど、僕には、見られない技能があることにも気づいているようだ。


「怒るなよ。悪かった。コワイ獣神が来たら助けてくれよな」


 なんだか違和感だな。ラプトルのメンバーが、魔獣使いや、その上位スキル持ちを怖れるだろうか。彼らがここに居座る理由は、他にあるんじゃないか?




 彼らの視線が、一斉に外に向いた。


 僕も、つられるように外を見たけど、まだ、草原にはたくさんの人がいる。王都の結界が弱められたわけじゃないのか。


 僕は、空の食器をさげて、ミニ厨房へと運んだ。ほんと、僕ばかりが働いていないか?




「こんにちは、皆さん、動かないようにお願いしますよ」


 突然、王宮の兵の制服を着た人達が、店の前にズラリと並んだ。店から出ていかないように塞いでいるのか。そして、数人が店の奥の食事処に入ってきた。


 店の旦那は、店頭でガクガクと震えている。


 王宮の兵は、いくつかの魔道具を操作しているようだ。そして、怪訝な表情を浮かべた。


「奥の部屋に、妙な人がいますね」


 僕のことか。スキルサーチで弾く技能があるもんな。マナ玉で上げた僕の魔力値も見られないんだっけ。


 僕は、厨房から出ていった。


「動かないようにと言ったのが聞こえませんでしたか」


 せっかく出ていってあげたのに、感じ悪い。


 王宮の兵の制服を着ている人は15人ほどいる。こんな大勢で、調査に回っているのか。何の調査だろう?



 彼らの一人が、僕をスルーして、ミニ厨房に入っていった。


「なぜ、こんな場所に獣人がいる?」


 獣人? ミニ厨房には、店員の女性キララさんしかいない。男の子は、客席だ。


「えっ、あ、あぅ」


「しかも、奴隷だな。労働力として繁殖した個体か。ジョブを植え付けた人工種だな。どこの生まれだ?」


「わ、わかりません」


「この店の主人に、買われたか」


 王宮の兵は、店頭にいる旦那を睨みつけている。


「あわわ、いや、たまたま拾ったんだ。そ、そんな獣人だとは知らなかった……」


 苦しい言い訳だな。だから、あんなに偉そうにしていたんだ。彼女が旦那に怯えていたのは、奴隷だからか。


 獣人を奴隷にするという話は聞いたことがある。でも、人工的に繁殖させているとか、ジョブを植え付けるとか、そんな話は知らない。


「ふん、まぁ、いい。獣人狩りのときにでも立ち寄るとしようか」


 王宮の兵は、ニヤッと笑った。


 これで彼女は、住む場所を失うことになるだろう。あの旦那は、彼女を追い出すに違いない。


 そういえば、彼女はこの先のカベルネ村の出身だと旦那が言っていたっけ。カベルネ村で、獣人を保護しているのか。もしくは、繁殖のための施設があるか。


 獣人も、人なのに……酷いことだ。




「ここにいる客全員と若い店員、冒険者登録をしているなら、ギルドカードを提示せよ」


 すると、ラプトルの一人が立ち上がった。


「おまえ、王宮の兵だからって、やりすぎじゃねぇのか。何を調べにきた? 獣人や奴隷に何か関係あるのかよ」


 大きな声だ。外を歩く人にも聞こえているみたいだな。


「我々に逆らうのか?」


 王宮の兵は、剣に手をかけている。


「はん、王宮の兵が怖くて冒険者なんてやってられるか!」


 兵は、剣を抜いた。店員の女性がそれを見て、とんでもなく怯えている。何かトラウマがあるのだろうか。


「おいおい、こんな狭い店内で剣を抜くとか、ありえねぇだろ」


 ラプトルの一人が、王宮の兵を煽っている。これは……はぁ、仕方ないか。




「王宮の兵が、何の調査ですか」


 僕は、あえて静かにそう尋ねた。


「ああん? ガキはひっこんでろ!」


 ダメだな、こりゃ。


「小さな子供もいるんです。剣を向けられると話もできないでしょう?」


「うるせぇな。プライドの問題だ!」


 どうしようかな。こういうときには……。


「ノレア様の命令ですか? 理由も言わずに、獣人だ奴隷だと騒ぎ、それをいさめようとした冒険者がいれば、剣を抜けと?」


「えっ……いや……」


 僕は、兵に冷たい視線を向け、そして、ノリノリで待機しているデュラハンさんに、オーケーの合図をした。


 その瞬間、僕をまがまがしい闇のオーラがまとう。デュラハンの加護が強くなることで、僕の見た目は、ガラリと変わる。


「ひっ! 精霊憑依か? いや、加護か……くっ」


 王宮の兵は、完全に怯えている。


「貴方はダメですね。話のできる人はいませんか」


「いや、っく……」


 すると、外で立っていた数人が駆け込んできた。僕に剣を向けている。


「貴方達は、剣を向けないと話ができないのですか」


 そう問いかけると、彼らの頭の中が見えた。


 やはり、僕を捜しに来たんだ。あれ? いや、違うかもしれない。堕ちた神獣ゲナードを捜している?


 どうやら、王都のネズミを従えているのは、ゲナードの仕業だと、ノレア様が考えたらしい。いよいよ自分達の身が危険だと感じて、慌てたのか。


 ゲナードらしき気配が王都から去ったことで、王都の結界を強めたようだ。だけど、ゲナードは、完全な人間の姿を持っている。普通に、検問を通過するんじゃないの?




「まがまがしいオーラは、やはり貴方でしたか」


 外に新たな人達が現れた。王宮の兵は、慌ててひざまずいている。見たことある顔だな。


「どちら様でしたっけ?」


「ふふっ、貴方の村にお邪魔したことのある者ですよ」



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