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274、デネブ街道 〜超有名なハンターのパーティ

 荒っぽい冒険者風の男達が店を出ていくと、この店の旦那が、やっと中に入ってきた。


 彼らとのやり取りを聞いていたらしく、僕への態度がコロッと変わっている。妙な愛想笑いを浮かべているんだよな。


「お客さん、すみませんね。手伝わせてしまって」


 さっきは、彼の奥さんにワインを飲ませたんだから、手伝って当然だと言っていたのにな。



 店には、客引きをしなくても、次の客が入ってきた。街道沿いは、どの店も満席らしい。


 僕としては、もう帰ってもいいんだけど……残される店員の女性が気になっていた。男の子が言うには、旦那と結婚した奥さんらしいけど、そんな感じには見えないんだよな。


 彼女は、旦那の表情や様子にずっと怯えている。そういう家族なのかもしれないけど。


 この旦那、クズだしな。弱い者に当たり散らすんだろう。まぁ、僕がずっとここに居られるわけじゃないけど。



「王都の結界強化って、何時間くらいなのでしょう?」


 僕は、旦那に、話を振ってみた。


「王宮の兵が、侵入者を捕まえるまでだと思いますよ。まだ、見つかってないようですけどね」


 この旦那も、情報の魔道具を持っているのか? いや、彼は草原を見ている。結界が強化されている間は、こんな風に、王都へ転移しようとした人が草原に、次々と飛ばされてくるからか。


「王都とは反対側にいけば、ぶどう産地なんですね」


「そうですよ。シャルドネ村は、俺の実家があるんですわ。コイツは、隣のカベルネ村の生まれでね」


 旦那は、女性をチラッと睨んだ。なんだか、まるで奴隷を見るような目つきだな。


 僕は、厨房の手伝いをしながら、話していたが、旦那は手伝う気がないらしい。料理ができなくても、皿洗いくらいできるんじゃないの?



「食材が売り切れてしまったわ」


 女性が慌てている。旦那の表情が険しくなった。売り切れたと言っているのは、フィッシュボールみたいだな。野菜は、まだたくさんある。


「せっかくの賑わいなのに、おまえは……」


 いやいや、そんなに下ごしらえをしていても、無駄になるんじゃないのか。


「じゃあ、父さん、店を閉めようよ」


「こんなに、賑わっているんだぞ! バカなことを言うな」


 必死だな……何もしないくせに。


「じゃあ、肉か魚を調達しないとダメですね。旦那さん、仕入れてきてくださいよ」


「えっ? 王都でか? いや、俺は……」


 急にタジタジだな。


「じゃあ、ぼくが王都で買ってくる」


 男の子がそう言うと、渋い顔をしている。こんな子供を、結界強化している王都に行かせるのは、さすがに不安だろうな。


「おまえみたいな子供が王都に一人で入れるわけねぇだろ。くぅ……せっかくの賑わいなのによー」


「では、私が……」


 女性がそう言うと、旦那はキッと睨んだ。


「バカか、おまえは! 強烈な魔獣使いがいるんだぞ」


「す、すみません……」


 何? どういうこと? この女性って……魔獣?


 僕は、魔獣サーチをしたい衝動を抑えた。僕が魔獣使い持ちだということは、店の人達は知っている。サーチを使うと、怖がられるよな。



 また、新たな客が来た。冒険者風のグループだ。旦那は、ワナワナしているんだよな。断る気はないのか?


「お客さん、すみません。今日は食材が切れてしまいまして……」


 女性が申し訳なさそうに、頭を下げている。


「えっ? 街道沿いは、どこもいっぱいだったからここまで来たのに……。だったら、店を閉めておけよ!」


 その怒鳴り声に、旦那も女性も怯んでいる。はぁ、仕方ないな。


「あの、お客さんって、冒険者ですか?」


「はぁ? あぁ、当たり前だろ。こんな格好の商人がいるか」


 だよね。軽装に胸当て……典型的なハンターだ。


「肉か魚を持っておられません? 野菜はあるんですよ」


「買い取るってか?」


「ギルドの適正価格で、譲っていただければ……」


 すると、冒険者達は、ゲラゲラと笑った。


「こんな店の兄さんが、ギルドの適正価格だと?」


 そう言いつつ、一人が床に獣系の魔物を放り出した。キチンと血抜きはできている。だけど、これは売り物にはならないだろうな。


 この獣は、ステーキ肉にはできない。癖が強いんだ。だから、毛皮を衣類用に利用されるけど、これだけ傷ついていると難しい。


 コイツら、不用品を出してきたか。


 丸ごと魔物が出てきたことで、旦那は顔をひきつらせている。冒険者は、その様子にニヤリと笑った。



「ブラックベアだ。銀貨2枚ってとこだな」


「高級な肉なんですね……」


 旦那は、オロオロしている。断る根性もなさそうだ。


「お客さん、これは、ブラックベアではないですよ。ブラウンベア。食用としては価値はない。毛皮も、これだけ傷が多いと、ギルドは引き取ってくれないでしょうね」


 僕がそう言うと、彼らはチッと舌打ちした。


「兄さんも、冒険者かよ」


「ええ。僕は、ここに食事に来たんですけどね。王都がなんか検問しているって聞いたから、時間を潰してるんですよ」


「なぜ、厨房から出てきたんだ?」


「あぁ、店員さんが体調崩されたから、ちょっと手伝ってたんです。ブラウンベア、引き取りますよ。肉のみで銅貨10枚で、どうですか?」


「は? 俺達に食わせる気か? ブラウンベアは、臭くて食えねぇぞ」


 そう言って、ハッと口を閉じた。バカだねー。



「食べられますよ。ステーキ肉には使えないけど。食べていきます? それとも、他の店を探されますか」


「いや、王都の検問所はすごい列だったし、この街道もどこも満席だ。食べられるというなら、食べてやろうじゃねぇか。くれてやるよ。銅貨10枚なんてもらっても、何にもならねぇからな」


「じゃあ、店の裏で、解体しますよ。ナイフ借りますね」


 僕がそう言うと、旦那はコクコクと頷いている。


「運んでやるよ」


 冒険者は、重力魔法を使ったらしい。それを知らない人には、怪力に見えるよな。男の子は、目を見開いている。


 そして、店の裏手で、肉を解体した。



「あぁ、この毛皮は、確かにダメだな」


「丈夫だから、魔法袋に余力があれば、持っておくと使えますよ。もしものときにね」


 傷があっても、敷物にはなる。野宿するときには最適だろう。


「まぁ、そうだな。兄さん、いろいろとやってんだな」


「あっ、もしかして、ボックス山脈で会わなかったか? だいぶ前だが、変な精霊イーターが湧いていたとき、ビードロに乗ってただろ?」


「うん? さぁ?」


「とぼけなくていい。ルファス家の黒魔導士と、あと大量の若い子達と一緒にいただろう? 俺達は、キミ達に助けられたんだ」


 助けた? イマイチ覚えていない。


「助けましたっけ?」


「あぁ、正確に言えば、ビードロで駆けるキミ達の後ろを進んでいた。ボックス山脈に、次々とおかしなことが起こっていた時だ」


 あー、魔導学校の学生を助けに行ったときか。


「俺も、別のビードロを従えているから、兄さんみたいな若いのが従属を使っているとわかったんだ。転移が阻害されてたから、先導してくれる冒険者がいて助かったぜ」


「そうでしたか。でも、僕達にも、助っ人が現れたんですよ」


 そう、ゼクトさんが来てくれたんだ。


「ボックス山脈では、助け合いが重要だからな。これを機によろしくな。俺らは、ラプトルに所属している」


 ラプトル!? 有名すぎるハンターのパーティだ。


「わぉ! 超有名パーティですね! 僕は、青ノレアに所属しています。あー、じゃあ、これを食べられるようにしますね」


「やはり、青ノレアか。そうだと思ってたぜ。ちょっと、待て。それなら、こっちも渡しておくよ。美味いぜ」


 彼らは、別の獣も出して、解体している。まぁ、自分達が食べる物だからな。



 僕は、大量の肉をミニ厨房に運んだ。彼らも、手伝ってくれている。彼らの雰囲気があまりにも変わったことで、店の人達は、驚いているんだよな。


「適当に使いますね〜」


 厨房に入ると、旦那に一応許可を取っておいた。彼は、なぜか僕に怯えている。まぁ、いっか。


 ブラウンベアは、調理用蒸留酒につけ、ヒート魔法で加熱して臭いを消した。それを一口大に切り、適当な野菜と一緒に煮て、スープにした。


 そして、別のステーキ肉は、塩をすり込んで、さっと表面だけを焼いた。これ、めちゃくちゃ美味しそう!


 野菜のつまった卵料理と一緒に、プレートに盛り付けて完成。男の子が、すぐに席に運んでくれた。


「余ってる分は、僕達が食べていいですかー?」


「あぁ、兄さんにやったんだ。好きにしてくれ。おっと、ブラウンベア、普通に食えるじゃねぇか。驚いたな」


 僕は、ステーキ肉を焼いて、店の三人に手渡した。



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