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268、王都シリウス 〜しつこいクリスティ

「絶対に無理なことって何?」


 クリスティさんは、興味津々で、キラキラしているんだよね。恋話が好きなのかな。


 僕は、神官様が好きな人の話なんて、聞きたくない。だけど、今の僕は、ヴァンではない、ピオンだ。魔道具メガネは、こんなに動揺している僕を、クールに見せているだろう。


「まぁ、それは、いいじゃない。ちょっとプライベートなことだもの」


「えーっ、知りたいわよー。話さないなら、ピオンと結婚させるわよ」


 その脅し方は、何なんだよ。僕……いや、ピオンと結婚するのが罰ゲームかのような言い方だ。


「クリスティさん、その言い方は、ピオンさんに失礼だわ」


「そうだよ、クリスティ」


 カーバー家の幼馴染の彼も、同意してくれている。彼は、クリスティさんをやたらと構うんだよな。


「バカは黙っていなさい。いつまで、ここにいるつもり?」


「えっ……。地下倉庫からの帰りの道がわかりにくいからさ」


 彼は、ショックを受けたのか、小声だ。そして僕達から、少し離れた。でも、やはり、彼女が心配なんだろうな。地下倉庫から出て行くつもりはないようだ。



「フランさん、その人って、いま、王都にいるの?」


 クリスティさんは、まだその話をするつもりなのか。頭の中を覗けば、わかるんじゃないの? 神官様の考えは、覗けないのだろうか。


「いえ、彼は王都には来たことがないと思うわ」


「じゃあ、スピカの人?」


「うーん、そうね。スピカに部屋を借りているみたい」


「何をしている人?」


「ちょっと、何? クリスティさん、もういいじゃない」


 クリスティさんからの質問に、神官様は戸惑っているようだ。


 僕は、クリスティさんが、なぜこんなにしつこいのか、少し違和感を感じてきた。何かを言わせようとしているのか。



「じゃあ、話を変えるわ。私ねー、夫にしてもいいかなって思う子を見つけたの」


「ええっ! クリスティ、なんだって?」


 クリスティさんは、幼馴染の彼に、やきもちを妬かせて、何かを言わせたいのか。


「バカは黙っていなさいって言ったよね」


 クリスティさんに殺意のようなものを向けられて、カーバー家の彼は、ギクッとしている。あの視線って、きっと、スキル『暗殺者』の技能だよな。


「クリスティさん、怖いわよ?」


「ふふっ、いいの。アイツは、ストレス耐性があるから。話が逸れたわ。ごめんなさいね」


「いえ……。えっと、婚約者ができたのかしら?」


「違うの。まだ、正式に話したわけではないんだけど、フランさんの許可をもらう方がいいかなって思って」


 神官様は、首を傾げている。神官さんの知り合いの人なのだろうか。


「私の許可?」


「ええ。その人はね、珍しいジョブなの。それに、珍しいレアスキルも持っていて、やばそうなレア技能もあるみたい」


「へぇ、希少なタイプね」


「そうなの。彼は、ハンターになりたいらしくて、狂人と親しく付き合ってる。あんな危ない男に憧れているなんて、ちょっと変わっていると思うのよね」


 うん? 狂人?


「へ、へぇ」


 クリスティさんは、神官様の表情を見てニヤッと笑っている。何? その顔。


「でねー、彼が作る変わったエリクサーのせいで、いろいろな事件が起こってるのよ。本人は、とんでもない物を作ったという自覚が足りないのよねー。私も、数百個もらったんだけど」


 えーっと?


「そ、そう……」


「彼って、田舎の人だから、なんだか純朴な部分があって、かわいいの。だけど、狂人を雇って神矢集めをしているから、使えるスキルをたくさん持っている。だから、ノレア様に嫉妬されて、命を狙われるのよねー」


 それって、僕のことじゃん。



 僕は、カーバー家の彼の様子をチラッと見た。うわぁ、可哀想なくらい、絶望的な表情をしている。


 だけど、これは、クリスティさんの駆け引きだ。きっと、彼から何かの言葉を引き出そうとしているんだ。


 クリスティさんは、僕が純朴すぎるのがダメって言っていたもんな。それに、彼女は、僕が神官様に片想いしていることも知っている。


 僕は、神官様を陰から助けたくて、裏ギルドのミッションを受けた。それは、クリスティさんがすべて手伝ってくれていることだ。


 でも……カーバー家の彼は、何も言わない。バカは黙っていなさいって言われたからだろうか。だけど、いま言わなきゃいけないんじゃないの?



「ダメよ……」


 うん? 神官様がポツリと呟いた。


「フランさん、何がダメなの?」


 クリスティさんは、不思議そうな顔をして尋ねた。いや、これは、彼女の演技だな。クリスティさんは、ちょっと白々しく、大げさな演技をする。


「クリスティさん、それって、ヴァンのことでしょ」


「うふふ、さぁ、どうかしらぁ?」


 クリスティさんが茶化すから、神官様は、片眉を上げた。不機嫌な表情だ。


「わかってて言っているのね?」


 神官様が怒っている。えーっと?


「うふふ、だって、フランさんは、いらないんでしょ? 婚約を解消したって聞いたわよ」


「ベルベットね。はぁ、彼女は、そっか、クリスティさんとは親戚だったわね」


 うん? ファシルド家のベルベット奥様?


 僕は、嫌な記憶がよみがえってきた。神官様から、婚約者を辞めると言われた場所に同席していたのが、ベルベット奥様だ。


 また、辛くなってきた。



「うふふ、そうよ〜。フランさんがいらないみたいって、教えてもらったの。だから、私がもらってもいいわよね?」


「だから、ダメって言ったでしょ。ヴァンに、暗殺貴族は務まらないわ。あの子は……」


「あの子は、何? 不可能を可能にしてしまう不思議な力があるんでしょ?」


 クリスティさんは、意味深な笑みを浮かべている。不可能を可能に? 僕には、そんな力はない。


「クリスティさんには、幼馴染の彼がいるじゃない」


「うん? あのバカには、力が足りないの。自分で自分の身を守れない」


「それなら、ヴァンの方が弱いじゃない」


「フランさん、知らないの? 彼は、あの偽神獣を従属化したのよ? 誰も彼を殺せないわ」


 すると、神官様は何かを思い出したようにハッとした。そして、うつむいてしまった。


 クリスティさんは、カーバー家の彼に、自分で自分の身を守る手段を備えろと言っているのか。彼は、がくりと打ちのめされている。


 だけどカーバー家は、王宮に仕える執事家だ。なかなか自由に、神矢集めもできないんだろうな。



「でも……ダメよ」


 神官様は、また小さな声で、ポツリと呟いた。すると、クリスティさんは、楽しそうな表情を浮かべた。


「なぜ、ダメなの?」


 なんだか、意地悪な顔だな。


「クリスティさんは、意地悪ね」


「うふふ、褒め言葉ね〜。なぜ、ダメなの? いらないんでしょ? だから、婚約を解消したんでしょ」


「違うわ!」


 神官様の語気が強くなった。


「ヴァンを巻き込みたくなかっただけよ」


「どうして? 彼が頼りないから?」


「そうね。ヴァンは、私より四つも年下だし、すぐに一生懸命になるし、危なっかしいわ」


 僕は、相手にされていないんだ。


 でも、神官様は、僕が暗殺貴族になることを阻止しようとしてくれているのか。そんなのは、すべて、クリスティさんの芝居なのに。


「フランさん、私は彼のことをそんな風に思ってないわよ。純朴すぎるところはあるけど、十年もすれば、そんな部分は消えるわ。暗殺貴族としても上手くやれるわよ」


 クリスティさんは、さらに煽っている。カーバー家の彼は、なぜ動かないんだよ?


「だから、ダメって言ってるでしょ」


 神官様が怒ってる。あー、もう、これは芝居なんだって、明かそうか。


 すると、クリスティさんがチラッと僕の方を見た。


「ピオン、余計なことはしないでよね」


 うわぁ、怖い目だな。でも、カーバー家の彼が……。



「フランさん、なぜ、ダメなの?」


 クリスティさんは、しつこい。


 すると、神官様は、彼女をキッと睨んだ。


「ヴァンは、私のものだから。誰にもあげない」


「あら、彼は物じゃないわよ?」


 そっか、神官様は、僕の成人の儀のときから、ずっと見守ってくれていた。ギルドでも後見人をしてくれていたし、いろいろなことを教えてくれた。


 だから、まだ後見人みたいな感覚でいてくれているのか。やっぱり、優しいよな。


 僕には、手の届かない人だけど、彼女の幸せを応援したい。うん、そうしよう。



「いつの間にか、私の手の届かない存在になってしまったから……」


 うん? 神官様は何を言ってるんだ?


「フランさん、何、それ」


 すると、神官様は、再びクリスティさんをキッと睨んだ。


「私は、ヴァンのことが好きだって言ってるの!」


 えっ!? ええ〜っ?



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