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266、王都シリウス 〜なぜか増えたんだけど

 僕が、ありがとうと言った瞬間、黒いじゅうたんが揺れた。倉庫の床一面のネズミ達が……なんだか、シャキッとして敬礼をしている?


『我が王! 我々の仲間に入りたい奴らが、ここに集まってきております。なぜか、土ネズミまでが集まっております』


 賢そうな個体がそう説明してくれた。我々の仲間って、どういうことなのだろう。


『我が王に、良い子だね〜ほにゃにゃにゃ〜っと、おわっとっとっと……ほめてもらいたい欲張りな奴らなのでございますです!』


 おぉ! リーダーくんが、賢そうな個体からのパンチをかわして、言葉遣いまでも立て直している! すごい成長だな。


 うん? 僕に褒められたい? どういうことだろう。そういえば、数が多すぎる。僕が覇王を使った泥ネズミは、数えてなかったけど、多くても100体くらいだよな。


 公園にいた泥ネズミだけでは、こんなじゅうたん状には、ならない。ネズミ達は、その数倍、いや数十倍いるのかもしれない。



「ピオン、とんでもなく増えてるじゃない。ネズミは、増えるのが早いけど〜。あはは、やだぁ〜」


 何が、やだぁなのか、わからない。クリスティさんのことより、神官さまだ。彼女は、大量のネズミに呆然としている。怖がっているのかもしれない。



 僕は、ネズミ達の方を向いた。やはり、何か、命じなければ解散してくれない雰囲気だな。だけど、この量は何?


「リーダーくん、なぜ、こんなに増えてるのかな?」


『それは、みんなが我が王に仕えたいからでございますですよ』


「僕、何か、したっけ?」


『はらふれほりはら〜、なななななーんと! 我が王は、忘れちゃっちゃらちゃ……痛っ』


 あらら。リーダーくんは、賢そうな個体に、飛び蹴りされてるよ。あはは、ちょっと泣きそうになってるように見える。


『我が王は、我々を、まるで友のように大切にしてくださいます。怪我をしたバカに、王の秘薬を与えてくださったことにも、驚きました。それを、他の群れが知ったのです』


 ただのポーションなんだけどね。


「誰かが教えたの?」


 そう尋ねると、リーダーくんに視線が集まった。リーダーくんは、意味がわからないらしく、ボーっとしている。ふふっ、マイペースだね。


『コイツは、他の群れにも図々しく紛れ込むのです。あちこちで、我が王の自慢話を……』


『我が王から言われた仕事をしているときは、お気楽うさぎのブラビィ様が、守ってくださるのじゃーって、こっそり呟いただけなのでございますです』


 ブラビィの話を聞きつけて、こんなに集まったのか。



 すると管理人バーバラさんが、口を開いた。彼女は、コイツらとは敵対関係にある土ネズミの変異種だ。このままでは、土ネズミが絶滅するとか言ってたよな。


「お兄さん、私は、泥ネズミを守っている何かと接触しました。アレは……私と似た境遇の魔物ですね」


 確かにブラビィは、バーバラさんと同じく、ベーレン家が人工的に創り出した獣だった。


「アレは、自由を愛するお気楽なうさぎだよ」


 神官様に、ブラビィがあの堕天使だとバレると、僕がヴァンだということもバレてしまう。


「お兄さん、ご存知ないのですか。奴は……」


「バーバラさん、心配しないで大丈夫だよ。僕は、すべて知っている。だけど、あまり言いたくないんだ。アイツは、今を楽しんでいるみたいだからね」


 僕がそう言うと、バーバラさんは大きく頷いた。そして、僕を少女のようなキラキラした目で、見るんだよな。彼女も、魔女だと言われたくないのか。


「やはり、姉さんの言うことは正しい。お兄さんは、術を使わなくても、魔獣を魅了するのですね」


「へ? いやいや、そんな大げさだよ」


 バーバラさんは、じゅうたん状態になっているネズミ達に目を移した。やはり、泥ネズミ達は警戒するんだな。大きな土ネズミ達は、バーバラさんの言葉を待っているみたいに見える。


 さらに、アウスレーゼ家の神官達や、その護衛の土ネズミの変異種にも目を移した。


 念話かな? バーバラさんは、無言だ。



「土ネズミの意見がまとまりました。お兄さんに仕えます」


 へ? 何を言ってるの?


 バーバラさんがそう言うと、大きなネズミ達は、シャキッとしている。そして、アウスレーゼ家の護衛をしている土ネズミは、こちらを向いて、ひざまずいた。



「おい! そんなことが許されると思っているのか! おまえらの命を握っているのは、俺達だぞ」


 アウスレーゼ家の神官達は、クリスティさんの拘束具で動けないのに、偉そうに、そんなことを言っている。


「きゃはは、悪霊に取り憑かれた神官が、何か言ってるよ」


 クリスティさんは、彼らの神経を逆撫でするような態度だ。よほど、神官家が嫌いらしい。


「悪霊に取り憑かれたのは、悪しき心のせいです。恥を知りなさい!」


 神官様が、ピシャリと彼らに言い放った。こういうときの彼女って、本当に神々しくて、綺麗なんだよな。


「おまえだって、その半魔を雇ったくせに、何を言っている? 裏ギルドに出入りをするような者が、新たな神官家を立ち上げるなど……」


「じゃあ、強力な後ろ盾があればいいんじゃない? フランさん、ピオンと結婚したらどう?」


 はい? クリスティさんは、突然、何を言い出すんだ? 神官様も驚いた顔をしているじゃないか。


「クリスティさん、私のような者に、神獣ヤークの血を引く方なんて……」


「あれ? イケメンだと思うんだけど、ダメ〜?」


 クリスティさんが、なぜか僕を推している? この顔は、クリスティさんが作った魔道具メガネで作り上げた架空の顔なのに。


「確かに、とっても知的で素敵な人だけど……」


「あぁ、暗殺者だからダメなのね?」


「いえ、ジョブが何だとしても、私はそれについての偏見は持たないわ」


「じゃあ、何? あっ、彼はそれなりにお金を生み出す力があるよ? フランさんの生活は豊かなものになるわ」


 クリスティさんは、チラッと僕の顔を見て笑った。この顔は、何か悪巧みをしているよな。


 神官様は、困った顔をしている。あー、そっか。僕は、ベーレン家の坊ちゃんだと思われているんだよな。


 アウスレーゼ家から独立するために、ベーレン家の力を借りるわけにはいかないのか。



「フランさん、勘違いしないでね。ピオンは、ベーレン家の坊ちゃんじゃないわよ?」


 えっ……。クリスティさんは、僕の思考を覗いたんだな。そんなことを言ったら、ここにいるネズミ達が……。  


 うん? 聞いてなかったのかな。


 ネズミ達は、人間の言葉を理解する。だから、多くの貴族が従属化して、様々な情報を探らせているんだ。


 なのに、クリスティさんの爆弾発言に、反応がない。


 ネズミ達は、神官家や貴族に利用されたくないから、ベーレン家から独立しようとしている架空の人物である僕に、仕えたいって言い出したんだよな?


「ピオン、貴方の素性を気にする奴らは、当然、とっくに調べて、知っているに決まってるでしょ。言わないだけよ」


「そ、そう? それならいいけど」


 なんだか、クリスティさんは楽しそうなんだよね。



「ピオン、何か命じないと、ここから出られないよ。そろそろ、あのバカが王宮から兵を連れて戻ってくる」


 確かに……コイツらが、王宮の兵に惨殺される。


 僕は、黒いじゅうたん状態の奴らに目を移した。


「キミ達、僕は、キミ達が思っているような力のある人間じゃないよ。でも、魔獣の友達は、たくさんいても楽しいかなって思う。こんな僕に幻滅したなら、去ってください」


 互いにキョロキョロと顔を見合わせているけど、誰も動かない。怖くて、立ち去れないのかもしれないな。


「僕と友達になってくれるなら、お願いがあるんだ」


 僕がそう言うと、嘘みたいに静かになった。


「いま、あちこちで新たな精霊が生まれていて、それをエサにしようとする厄介な魔獣が王都に潜んでいるんだ。奴らが狩りをする水辺を見つけたら、教えてほしい」


『我が王! それは、さっきの、感じ悪ぅぅな、二体でござりますか?』


 へぇ、鋭いな。リーダーくん。


「そうだよ。無理に近づいちゃダメだ。殺されるからね。くれぐれも、いのち大事に! だからね」


『怪我をしたら、王の秘薬でちょちょちょりんぱで、余裕でございますです』


 ただのポーションだけどね。


 賢そうな個体に睨まれながらも、リーダーくんは言いたいことを言っている。なぜ、変な言葉を挟みたいんだろう? まぁ、面白いから、いいけど。


「じゃあ、お願いね」


『御意!!』


 なぜか、覇王を使っていない奴らまで、御意って言ってる。


 そして、黒いじゅうたんは、一斉に駆け出した。



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