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261、王都シリウス 〜泥ネズミを連れて飛ぶ

 あれ? バーバラさんは……まさか?


 僕は、部屋の中へ駆け込んだ。


「キミ達、無事?」


 泥ネズミ達の姿を探した。隠れているようにと指示したけど、どこにいるかわからない。まさかアイツらは、バーバラさんに……土ネズミにやられた!?



 ふと、足元に、大きなネズミがいるのを見つけた。うん? 土ネズミ?


 すると、窓際のテーブルに、泥ネズミ達が現れた。


『我が王、それは土ネズミです! 我々の敵なのでございます』


 奴らは、今にも土ネズミに襲いかかろうとしている。だけど、この土ネズミって……。


「キミ達、ちょっと待って。もしかして、この子、管理人さんじゃない?」


 なぜ、土ネズミの姿をしているのかわからないけど、なんとなくの直感だ。このサイズなら、拘束檻から出られる。



 すると、土ネズミは、パッと姿を変えた。やはり、バーバラさんだ。


「……お兄さん、あの……」


 彼女は戸惑い、何かを怖れているようだ。


「バーバラさん、よかった。拘束檻から抜け出せたんですね。もうどこも痛くないですか?」


「……はい」


 元気がない。あー、僕を怖れているのかもしれないな。キラーヤークだとか言われたっけ。魔獣使いの知識の中にはない種族だ。正式名称ではないのか。


「土ネズミの姿に、なれるんですね」


「えっ? は、はい。お兄さんが、ヤークの半魔だなんて知らなかったです。半魔だから、ベーレン家に知られていないし、アウスレーゼ家が殺そうとするのですね」


 どうしよう……。クリスティさんの筋書きがわからない。だけど、半魔疑惑はマズイよな。でも、話している時間がもったいない。こうしている間に、神官様が……。


 僕が返事を考えていると、彼女は落ち着きがなくなってきた。魔道具メガネは、僕の顔をどんな風に見せているのだろう。



 部屋の前で倒れている男が、うぅと声を出した。二人とも、まだ生きている。動ける状態ではなさそうだけどな。 


 ほんの少し、引っかいただけのつもりだけど、奴らは、どうみても重傷だ。魔物と人間の力の差か。


「バーバラさん、奴らの後始末を、教会にお願いしてもらえますか? まだ、襲撃者は生きている。処刑するか、生かすかの判断は、僕にはできません。あっ、貴女は、蘇生魔法を使えますか?」


 すべての魔法を操る魔女だ。当然、使えるはずだ。


「はい、神父様の命令があれば……」


 僕は、やわらかな笑顔を浮かべた。


「そう、よかった。じゃあ、奴らの犠牲になった人達を蘇生できるね」


 僕は、魔法袋から、木いちごのエリクサーを2個取り出して、バーバラさんに渡した。


 さっき食べさせた木いちごのエリクサーで、彼女の魔力値はストックまで満タンだろう。かなりの魔力量があるはずだから、渡さなくても、百人でも蘇生できるはずだ。


 でも、そこは知らないフリをしておく。


 僕は、スキル『魔獣使い』は、極級ではなく、超級だということにしてあるから、彼女の正体はサーチできないフリをしていたからな。


「えっ……こんな高価な……」


「蘇生魔法には、魔力をかなり使うでしょう? それに、僕は急いで行かなければならない場所ができたんです。後片付けをお願いするお礼のつもりだから、これはバーバラさんが使ってね。神父様に渡す必要はないよ」


 まぁ、問答無用で、没収されるかもしれないけど。


「は、はい。でも、あの……」


 彼女は、戸惑いの表情だ。チラチラと、泥ネズミ達を見ている。僕との関係を知りたいんだろうな。だけど、明かすわけにはいかない。



 それより、泥ネズミ達に道案内させるには……あー、これを使おうか。僕は、テーブルに置いてある丈夫そうなバスケットを引き寄せ、中のティーカップをテーブルの上に出した。


「バーバラさん、このバスケットをもらってもいいかな? あの子達に、道案内を頼んだんだ」


「えっ? 道案内?」


「ちょっと、彼女が道に迷っているみたいでね」


「あぁ、あのにぎやか女性ですか」


 僕は、笑顔を向けた。頷くわけにもいかないよな。バーバラさんは、洗脳系のチカラを持つ。詳しい情報は与えたくない。



「キミ達、ここに入ってくれる?」


 窓辺に、バスケットを置くと、すぐにリーダーくんが飛び込んだ。そして、ドヤ顔だ。一番乗りができて嬉しそうだな。


 泥ネズミ達が全員が入ったのを確認し、僕はバスケットを持ち、窓を開け放した。


「じゃあ、バーバラさん、後はよろしくお願いします」


 そして、スキル『道化師』の変化へんげを使い、鳥に姿を変えた。急ぐから、ちょっと大型の鳥だ。


 驚きの表情を浮かべる彼女をチラッと見て、僕は、窓から空へと、飛び出した。





『うひょひょひょひょひょ〜、空を飛んでるのでございます〜』


「キミ達、落ちないでよ? 場所は?」


『我が王、北の関所の近くです。もう少し右の方へ』


「北の関所?」


『王都を囲む城壁が見えますか? 北の関所には、教会のマークがかかれた大きな旗が立てられています。付近には、神官三家の大神官の屋敷があるんです』


「あー、ちょっと遠いけど、わかった。スピードを上げるよ」


『うひゃー、楽しいでございますです。なはははは』


 僕が足で持っているバスケットの中では、ボケ〜っとしたリーダーくんが、空の旅を満喫しているようだ。


 賢そうな個体は、そんなリーダーくんを無視して、僕が道を外れないか、しっかり確認してくれているみたいだ。


 なかなか良いコンビかもしれない。


 他の泥ネズミ達は、空が怖いのか、必死にバスケットにつかまっている。リーダーくんの個性が際立つね。



「そういえば、さっきは、どこに隠れていたの? 土ネズミに、襲われなかった?」


『土ネズミが部屋に入ってきたら、ブワンとなったのでございます。色が白黒しかなくて、ブワンとしてたので、ブハハハハって……ふぇっ?』


 見てなかったけど、リーダーくんは、賢そうな個体に殴られたらしい。ふふ、面白すぎる。見ていなくても、どんな顔をしているかがわかるんだよな。


『我が王、お気楽うさぎのブラビィ様が、影の世界に我々を隠してくださいました』


「そっか、ブラビィが近くに居たからね。キミ達が無事でよかったよ」


『ありがたきお言葉! あっ、そろそろでございます』



 僕は、減速し、高度を下げた。



 ときどき、見上げる人がいる。大きな鳥がバスケットを持って飛んでいると、目立つよな。


 そして、ひと気のない場所に、スーッと降り立った。そして、僕は、変化へんげを解除した。




「変な場所に降りたかな?」


『いえ、大丈夫です。ご案内します』


 泥ネズミ達は、バスケットから飛び出した。バスケットは、念のため持っておこうか。僕は、魔法袋にバスケットを収納し、泥ネズミ達の後を追いかけた。


 大きな屋敷の中庭を平気で通るから、僕は、ヒヤヒヤした。だけど幸いなことに、ほとんど見つかることがなかった。さすが、泥ネズミだな。



『この地下なのですが……』


 賢そうな個体は、そう言ったものの立ち止まった。


 そうだな、彼の主人がいるかもしれない。それに、土ネズミを差し向けたと言っていたっけ。


 公園で会ったような、魔道具メガネのサーチが効かない土ネズミの変異種だろう。コイツらは、一瞬で殺されそうだ。



「わかった。キミ達は、この辺で隠れていて。もしかしたら、また道案内を頼むかもしれないから。僕が、他の場所へ転移したら、帰っていいよ」


『ですが、たくさんの土ネズミが……』


『我が王のお邪魔になるかもしれないんですね。なるほどでございます』


 賢そうな個体と、ボケ〜っとしたリーダーくんは、なんだか立場が逆転している。賢そうな子はクールな感じだったし、リーダーくんは正論なんて言えない子なのに?


『お気楽うさぎのブラビィ様が……あっ、いえ、何でもございません』


 賢そうな個体が、なんだか変だな。ブラビィが、脅しているのだろうか。泥ネズミ達は、自由にさせておけばいいと思うんだけど。


『我が王! 我々は、お留守番のよいこちゃんをしているのでございますからねっ。フハハハ』


 いや、気のせいだった。リーダーくんは、やはり意味不明キャラだな。


「うん、殺されないように気をつけてよ?」


『御意!!』


 元気に返事をすると、泥ネズミ達は、パッとどこかへ走り去った。だけど、なんだか、あぶなっかしいなぁ。大丈夫だろうか。




 僕は、目の前の建物を眺めた。古く重厚な感じの宿だ。高級そうだな。僕には敷居が高い。


 扉に近寄ると、僕の姿がガラスに映った。


 そうだ。僕は、魔道具メガネによって、架空の人物の姿をしている。堂々としていればいいんだ。


 僕は、扉を開けた。




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