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260、王都シリウス 〜ピオン、反撃する

 ボムッ!


 扉が爆破された。


 部屋に張られていた結界は、爆破によって解除されたみたいだ。クリスティさんの防音バリアは不明だけど、無事だとしても、攻撃を防ぐ効果はないだろう。


 だが、奴らは、中へは入ってこない。警戒しているのだろう。あちこちの部屋を開けて僕を捜していたみたいだもんな……暗殺者ピオンを。



『我が王、我々が!』


 泥ネズミ達が、奴らに向かっていこうとしている。だけど、一瞬で殺されるだろうな。


「キミ達は、ここにいて」


『し、しかし、危険でありますです!』


「キミ達は、窓から何か入ってこないか、見張っててくれる? 背後を突かれると困る」


『ハッ!』


 クリスティさんの防音バリアは、まだ効いているみたいだ。廊下にいる奴らには、泥ネズミと話す僕の声は、聞こえていないらしい。


 僕の視線が部屋の中に向いていたから、一人ではないと思っているようだ。外の音は、普通に聞こえるんだよな。


「護衛の女は、いないはずだろ」


「確かに、出掛けたのを確認した。戻ってはいない」


 うん? クリスティさんが出かけていることを知っているのか。護衛の女……ということは、僕が、ベーレン家の坊ちゃんだと聞いているのか。


 もしかして、クリスティさんは、僕を襲撃させるために、出掛けたのだろうか。


 奴らに与えられた情報は、ベーレン家の大神官様の血筋の男がピオンで、アウスレーゼ家のゴタゴタを利用して、何かの邪魔をしようとしている……そんな感じかな。


 泥ネズミの主人の話だと、裏ギルドに出入りするピオンは、暗殺者だと言っていた。奴らは……神官様を狙うアウスレーゼ家の人達は、自分達が殺されると恐れて、仕掛けてきたのだろうか。


 すべては、クリスティさんが作り出した架空の人物なのに。はぁ、まったく。


 ピオンは、裏ギルドには『魔獣使い』と登録をしていたっけ。ということは、奴らはそれへの対策はしているか。別の手段でいく方が安全だな。




「何ですか? こんな時間に扉を壊して」


 僕は不機嫌を装って、壊れた扉の外へ出ていった。


 その次の瞬間、何かが僕の胸を狙って飛んできた。だが、僕に当たることはなく、それは床に落ちた。


 床に落ちた物がナイフだとわかり、僕はヒヤリとした。


 奴らの攻撃は僕には届かない。そっか、デュラハンの加護も使っているもんな。デュラハンは、人間の悪意に敏感だ。


『今のを叩き落としたのは、オレじゃねーよ。お気楽うさぎだ』


 えっ? ブラビィがいるの?


『すぐ近くにいる。異空間、影の世界だがな』


 そうか、それなら、安心して行動できる。僕の素性がバレないようにするには、精霊師の技能は使えないもんな。



 僕は、ナイフを投げた奴に、視線を向けた。魔道具メガネは、僕をクールなイケメンに見せている。不機嫌を装っていれば、かなり冷徹にも見える。


「何? ふっ、まさか、暗殺者?」


 僕は、余裕の笑みを浮かべた。男達二人が、緊張したのが伝わってくる。泥ネズミの情報どおりなら、外に五人いるんだよな。


 近くで倒れている管理人バーバラさんが、ピクリと動いた。泥ネズミ達は、死んだフリをしていると言っていたっけ。


 薬師の目を使って見てみると、なるほど、刺されたらしき怪我は、もう治っている。今のピクリとした反応は、泥ネズミ達に気づいたということか。


「おまえら、管理人さんに、何してんの?」


 僕は、男二人を睨みつけた。魔道具メガネの感情サーチでは、奴らはすっかり怯えているみたいだ。この魔道具メガネに、何かの効果が付与されているのだろうか。


 僕は、魔法袋から、木いちごのエリクサーを取り出した。そして、倒れているバーバラさんを抱き起こし、声をかけた。


「バーバラさん、意識はありますか? 食べられるかな。食べやすく潰しますね。エリクサーです。口を開けて」


 木いちごの香りがふわりと漂う。魔女は、エリクサーだと言われたら、絶対に欲しがるだろう。これは、王都では有名になってるからな。


「あ、お兄さん……」


 弱々しい声だ。わざと、そう装っているのか? いや、感情サーチは、見たことのない色だ。怖れているのだろうか。


 確かに、一番強い教会のあの個体がコイツらに殺されたなら……それに、年配の女性に見えるけど、まだ生まれて7年くらいだっけ。


「口を開けて」


 僕がそう言うと、素直に従っている。木いちごのエリクサーを潰し、彼女の口へ、そっと入れた。


「す、すごい……これは」


「闇市で手に入れたんだ。ストックまで回復できるエリクサーは、面白いと思ってね」


「私に……そんな貴重な物を……」


「バーバラさんが死にそうだなって思って。怖かったね。もう、大丈夫だよ」


 僕は、男二人に聞かせるように、そう言い、バーバラさんの頭を撫でた。すると、バーバラさんは少女のような、泣きそうな顔をしている。やはり、まだ子供なんだ。


「僕が片付けるから、ここにいて。絶対に動かないで」


「……はい」


 消え入りそうな小さな声だ。僕の部屋の中が気になっているみたいだけど、廊下でへたり込んだままだな。




 僕は、男二人の方に視線を移した。焦った表情をしているが、急に一人がニヤッと笑った。



『我が王! 外にいた血の臭いの人間が、建物に入っていきますです!』


 泥ネズミが、念話を飛ばしてきた。僕は、部屋の方を向いて頷いた。部屋から出てこないでよ。



 男二人が、何かの魔道具を操作している。すると、バーバラさんを何かが覆った。拘束檻か。


 やはりな。僕が『魔獣使い』だから、その対策か。バーバラさんを治したから、僕が従属化すると考えたらしい。



 僕は、スキル『道化師』のなりきり変化へんげを使う。暗殺者達を無力化できるチカラ、そして、室内で動ける個体。建物を壊すわけにはいかない。


 すると、ボンッと音がして、僕は……えっ? ビードロに姿が変わった。ただ、少し毛の色が違うんだけど……。


「ひっ!」


 男二人は、僕の姿を見て、引きつっている。バーバラさんも拘束檻の中で、小さな悲鳴をあげた。ビードロは、猫系だから、ネズミは怖がるのだろうか。



 階段を駆け上がってくる男達も、僕の姿に、ひるんでいる。その中の一人が、納得した表情を浮かべていた。


「やはりな。暗殺者ピオンの正体は、ジョブ無しか。しかも、キラーヤーク。完全に人化できるということは、後天的にジョブを得たな?」


 おそらく、コイツが一番の手練れだな。


 僕を半魔だと思っているのか。キラーヤークって何? 暗殺者のくせに、スキルだとは気づかないのか?



 奴らは、次々と襲ってきた。だけど、魔物に化けた僕は、簡単に避けることができる。


 だが、逃げてばかりでは、キリがない。どうしようかな。



『我が王! 大変です。情報を探しておられた女性の宿に、我が主人が、土ネズミを行かせたようです』


 えっ? 神官様の宿に?


 僕は、攻撃を避けつつ、部屋に一瞬飛び込んだ。


「いつのこと?」


『だった今です。先行した者が手間取っているからと……』


「わかった。みんなは隠れていて!」


『我々も、戦います!』


「いや、コイツらは大丈夫。キミ達には、道案内を頼みたいから、絶対に無事でいてほしいんだ」


『御意!!』



 僕が部屋に入ると、バーバラさんはジッと、こちらを見ていた。土ネズミだもんな。でも、暗殺者達は警戒して、部屋には入ってこない。


 早く、片付けないと!


 僕は、部屋から、パッと飛び出した。そして、短剣を投げる男の腕を爪で引っ掻いた。


「ぐわぁ〜!」


 何? 大げさすぎ……あっ。


 男は、血をドクドクと流して倒れた。それを見て、ひとりふたりと、逃げ出している。


「なるほどな。暗殺者ピオン。よくわかったぜ。俺と組まないか?」


 手練れの男は、そう言うけど、魔道具メガネは、殺意の色を示している。変化へんげを使っていても、魔道具は有効のようだ。


 笑顔を張りつけて、近づいてくる男の目が光った。


 僕は、さっさと後ろに飛んだ。奴の舌打ちが聞こえる。何かのスキルを使ったらしい。霧か? 視界を奪う気か。


 バーバラさんが、拘束檻の中で倒れた。


「なぜ倒れない。魔獣には絶大な効果があるマヒ毒だぞ。クソッ!」


 奴は、手に魔力を集めている。そして、火の玉を放った。僕が避けても、ガンガン撃ってくる。ダメだな、コイツ。


 僕は、一瞬で近寄り、そして、その男を爪で切り裂いた。


「うぎゃ〜!!」


 男が倒れた。

 二人は逃げたから、あと一人か。


「クッ! バケモノの相手なんてごめんだ!」


 そう言うと、もう一人は姿を消した。転移で逃げたか。



 変化へんげを解除して振り返ると、拘束檻の中に、バーバラさんの姿はなかった。




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