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259、王都シリウス 〜暗殺者に背筋が凍る

『あぁ、何てことでしょう! 我が王が、我々にこのようなほどこしをしてくださるだなんて』


(ただのポーションなんだけど)


 ベーレン家の教会の無料宿泊所に、潜入してきた泥ネズミ達は、大げさに驚いている。命がけで、僕に危険を知らせにきてくれたみたいだ。


 覇王の効果って、従属だけじゃなく、他の従属になっている個体にまで、絶大な絶対服従効果があるようだ。


『しゅたたたたっと、何かが駆け巡りましたでございます! どこも痛くなくなったのは、こ、これは……王の秘薬でございますねっ!』


(いや、ただのポーションだってば)


 賢そうな個体も、ボケ〜っとしたリーダーくんも、なんだか興奮しているようだ。普通は、従属にポーションを与えるなんてことは、しないのかもしれない。


「大げさだよ。みんな、怪我は治った?」


 泥ネズミ達は、一斉に頷いた。なんだか、かわいい。


「僕に、何を知らせに来てくれたの? 暗殺者がここを取り囲んでいる?」


 賢そうな個体が、後ろ足で、ピシッと立ち上がった。


『はい、我が主人が、なぜか我が王を……裏ギルドに出入りする暗殺者ピオンだと勘違いしているようなのです。我が主人に対抗する者は、潰さねばないと言っておりました』


 そんな情報をバラしていいのかな? この個体は、主人に……神官家の誰かに殺されるんじゃないか。


『念のために、偵察に来てみたら、なななななんと、たくさんの血の臭いのする人間が、門の外にいたのでございます』


「そっか、わかったよ。知らせてくれてありがとう。部屋から出ないようにしておくよ」


『はいっ!』


 泥ネズミ達は、床の隙間に入っていこうとしている。


「キミ達、ちょっと待って。今、出ていくと殺されるんじゃないか?」


『で、ですが、我が王の寝室にいつまでも居るような無礼なことは、さすがに、やっぱり、あの、その、うひゃひゃひゃ……いえ、あわわわ……ふぎゃ』


 リーダーくんは絶好調だね。賢そうな個体に殴られて、押し黙った。面白すぎる。


「いま、昼間一緒にいた女性が出掛けているんだ。キミ達がここにいてくれる方が、僕としては嬉しいかな」


『我が王、では、我々が、ここでお守りいたします』


『バカでかいだけの土ネズミなんか、我々にかかれば、ギッタンギッタンのバッキバキで、余裕でござい……うにゃ』


 賢そうな個体が、またリーダーくんを殴っている。リーダーくんは、なぜ殴られたかわからないらしく、ボケ〜っとしている。


 あはは、コイツら、僕を笑わせるために、わざとこんなことをしているのかな。


『おまえは、バカか。我が王を襲撃しているのは、土ネズミではない。血の臭いがする人間から守るのだぞ』


『ありゃ? 外に出なければ大丈夫なのに〜。土ネズミしか……あっ……ありゃ? ありゃりゃりゃ?』


 リーダーくんが何かを感知したみたいだ。賢そうな個体も、リーダーくんの言葉を無視して、他に神経を働かせているようだ。



 泥ネズミ達がシーンと静かになった。



 とりあえず、まだ少しボーっとする頭を整理しよう。コイツらの話が事実なら、暗殺者が外にいることになる。だけど、ここは安全だから、クリスティさんは僕を一人にしているんだよな?


 シャワーを浴びて、魔道具メガネをかけてすぐに、僕はソファで眠ってしまったようだ。クリスティさんが、何かの術を仕掛けていたんだろう。


 窓の外は、明るくなり始めている。


 クリスティさんは、あれから帰ってきた形跡はない。まぁ、彼女なら、ここに居てもいないようにできるのだろうけど。


 シャワーの前に話したときは、明け方がどうのとか言ってたっけ。僕に仮眠を取らせるために、魔道具メガネに仕掛けをしたのか。


 彼女は、どこに出掛けたんだろう?



 あっ、泥ネズミ達が、動き始めた。仲間との念話か何かが終わったのだろうか。


『我が王、外に潜んでいた血の臭いがする人間と、魔女と呼ばれる土ネズミが戦い、土ネズミが殺されたようです』


 賢そうな個体が、ピシッとした姿勢で報告してくれた。リーダーくんは、うんうんと頷いているだけだが、一応、キリッとした表情だ。


「えっ? どの土ネズミ? 三体いると思うけど」


『戦闘係の土ネズミです。管理係の土ネズミは、こちらの建物に移動してきました。補佐の土ネズミが、他の土ネズミを呼びに行きましたが、間に合わないでしょう』


 教会にいた土ネズミが、やられたのか。


 管理係って、管理人のバーバラさんだよな? 木造の建物にいつも立っていたのに、こっちに逃げてきたのか?




 コンコン!


「お兄さん、起きていらっしゃいますか」


 あっ、管理人バーバラさんがの声だ。でも、扉を開けると、クリスティさんのバリアが消えてしまうか。それに、ここには、泥ネズミ達がいる。バーバラさんは、泥ネズミ達を駆除するだろうな。


 コンコン!


 こんな夜明け前の時間だ。無視しておこう。だけど、鍵を開けて、入ってくるかもしれない。泥ネズミ達をどうしようか。



「くっ!」


 バタンと、何かが倒れる音がした。そして、乱暴に数回、ガチャガチャと扉のノブを回す音がした。



『我が王! ここは、我々が!』


 泥ネズミ達が、僕の前に並んだ。


「キミ達、ちょっと待って。扉の外の様子を教えて」


『血の臭いがする人間が二人。土ネズミは、背後から斬られたようです。窓の外には、血の臭いがする人間が五人います』


「えっ? バーバラさんは殺された?」


『いえ、あの土ネズミは、死んだフリをしているだけです』


 扉ノブをガチャガチャと回すのは、結界バリアがあるからか。もしくは、僕が窓の外へ逃げることを想定している?



 ガシャン!


 隣の部屋か? 窓ガラスが割れるような音が聞こえた。



「ぐわぁ!」


 外に何かが落ちるような音が聞こえた直後、悲鳴が聞こえた。


『隣の部屋から、外へ飛び降りた人間が、斬られました。いま、戦闘中ですが……あぁ』


 こいつは違うという声が聞こえる。



 僕は、背筋が凍るような恐怖を感じた。僕を狙って暗殺者が、声の聞こえる場所にまで来ているんだ。


 どうしよう……。


 なぜ、クリスティさんが居ないんだよ。いや、もしかしたら、クリスティさんの差し金だったり……。


 僕は、何を信じればいいか、わからなくなってきた。


 でも……。


 ふと、泥ネズミ達の姿が目に入ってきた。賢そうな個体は、ポーカーフェイスだ。でも、リーダーくんは、必死な顔をしている。僕を守ろうと必死なんだ。



 ドンドン!


 僕の部屋の扉を叩く音が、激しい。何を言っているかわからないような罵声も聞こえる。あぁ、他の部屋に泊まっている人も起こしているんだ。


 扉を開くと同時に、怒鳴り合う声も聞こえる。



『ヴァン、ビビる必要は、ないんじゃねーの?』


 デュラハンさん!


『ふっ、なんだよ、そのガキみたいな心の叫びは? ったく、泣き虫ヴァンだな』


 いや、泣いてないから。だけど、どうしたらいいか、わからない。


『は? おまえ、自分の従属の存在を忘れてねーか?』


 うん? 部屋にいるよ。


『じゃなくて、おっかねー、お気楽うさぎだよ。アイツ、絶対にヴァンを殺させねーぞ。暗殺貴族のお嬢ちゃんも、ビビってたからな』


 その、暗殺貴族のクリスティさんは、どこに行ったか知らない?


『おまえが、ピオンだとバレたみたいだから、神官の嬢ちゃんのとこに行ってるぜ』


 ん? バレたから、神官様のとこ?


『あぁ、暗殺者の手口だ。同時に襲撃するんだよ。ここを襲ってきた奴らは捨て駒だ。おまえの動きを抑えて、神官の嬢ちゃんを殺すつもりだ』


 えっ!? そ、そんな……。


『おい、慌てるなよ? だから、暗殺貴族があっちに行ったんだよ。あの女が殺したい奴が、襲撃に加わっているみてーだからな』


 じゃあ、神官様は……フラン様は大丈夫なの?


『いま、自分が襲撃されていることにも、気づかないんじゃねーか?』


 そっか。あっ、クリスティさんは、無事なの?


『おまえなー、あの女は、暗殺貴族の当主だぜ? アウスレーゼ家なんかに、あの女を止められるわけねーだろ』


 そっか。とりあえず、よかった。



 ドンドン!

 ガチャガチャ


 扉を破ろうとしているのか、騒がしくなってきた。だけど、クリスティさんが何か仕掛けたのか、扉は開けられないみたいだ。


「チッ、なぜ開かない? 爆破しろ!」


 どうしよう……。


 でも、デュラハンが話しかけてきたということは、きっと黒い天兎のブラビィも、この状態に気づいている。


 信じよう。


 もしもの場合は、絶対になんとかしてくれる。


 僕は、裏ギルドの仕事でここにいる。僕は、ピオンとして……。


 そうだ。僕はピオンとして、反撃する!



日曜日はお休み。

次回は、8月2日(月)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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