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256、王都シリウス 〜魚を肉にする?

「神官さん、その技能のことは、私にも教えてくれないんですぅ。知ると術にかかって傀儡くぐつにされちゃう洗脳系だと予想してるんですけど〜」


 クリスティさんは、僕の方をチラチラ見ながら、軽装の神官に、困ったような表情を見せている。


「ええっ? 傀儡化……操り人形ですか。恐ろしい技能ですね。呪術士のスキルをお持ちなのでしょうか」


「傀儡化のようなレア技能は、いろいろなスキルにつくわよ。魔獣使いにもね〜」


 クリスティさんは、レア技能に詳しいんだな。僕の方を、またチラッと見て、首を傾げている。当たっているかを確認しているのか。



「はぁ、レア技能を探り出そうとする気なら……」


 僕は、そこで言葉を止めた。軽装の神官さんは、ギクリとしている。その反面、クリスティさんは、嬉しそうな顔をしているんだよな。


「す、すみません、お兄さん。レア技能は、明かすべきではないと思います。ベーレン家を敵視している泥ネズミさえ、欺いてしまうほどの技能なんて……。あっ、すみません、お気を悪くされないでください」


 あれ? 彼には、僕がベーレン家の人間じゃないという発想は、ないのだろうか。クリスティさんがニヤッと笑った。彼女が何か、しているんだな。


「うふふっ、とりあえず、帰りましょう。お腹がぺこぺこだもの」





 ベーレン家直営の宿泊所に戻ると、軽装の神官は、スッと姿を消した。あんなにさっきまで僕のことを気遣っていたのに、挨拶もなく居なくなるか?


「クリスティさん、彼、挨拶もなく、突然消えましたね。なんだか違和感を感じますけど」


「うん、そうねー。教会に呼ばれたみたいね」


「隣の教会ですか?」


「うん、ヴァンさんの素性を調べることが、彼の任務だったみたいだから。そんなことより、食堂よ、食堂」


 僕が、ベーレン家の人間じゃないと、やはりバレたんだろうな。軽装の神官は、泥ネズミにビビってたけど、あの場所を離れて冷静になれば、いろいろと見えてくるはずだ。


 まぁ、三日以内に、この宿泊所を出ていけば、問題はないだろう。




 木造の建物の二階へと上がっていくと、食堂は、かなり空いていた。外が明るいから気づかなかったけど、夕食には遅い時間だな。


 年配の女性が近寄ってきた。泥ネズミが言っていた、人間の姿をしている129人の土ネズミの一人だ。


 僕がそんなことを考えていると、クリスティさんは驚いた顔をしている。うん? あー、土ネズミの変異種の数?


 彼女は、コクコクと頷いている。年配の女性……魔女の前では話せないけど、クリスティさんが僕の思考を読み取るから、会話は一応成立する。


 しかし、いつまで覗いてるんだよ。


 僕がイラつくと、クリスティさんは嬉しそうな顔をする。たぶん、僕が彼女の力をよく知らないから、イラついたりできるんだろうな。


 一緒に行動していると、彼女が暗殺貴族レーモンド家の当主だということを忘れそうになる。



「お買い物のわりには、長いお出かけでしたね」


 年配の女性は、僕に全く敵意を向けていない。完全に信用されているみたいだ。


「彼がすごい釣り竿を作ってくれたから、私、楽しくなっちゃって釣りをしていたの」


 クリスティさんは、僕の腕に絡みついて、ハイテンションだ。


「釣りですか。池には、凶暴な泥ネズミが生息していませんでしたか。危険ですよ」


「うふっ、大丈夫よ〜。彼は、『魔獣使い』だもん。何か言って追っ払ったみたい。私にはネズミ語は、わかんないけど」


 ありゃ……年配の女性をまとう光の色が、毒々しくなってきた。警戒しているんだな。『魔獣使い』超級だということにしてあるのにな。


「まさか、従属化を?」


 極級だとは疑われていないらしい。


「うん? わかんない、何それ?」


 クリスティさんが、すっとぼけている。年配の女性の視線が僕に向いた。泥ネズミには、ただの従属は効かなかった。だが、それを知らないらしい。


「奴らに、従属は効かなかったよ」


 僕は、興味なさそうに、冷たく言い放った。だけど、警戒は解けないな。


「そうでしたか。では、何かで、脅されたんですね」


「あー、それは、秘密なんですよぉ。私にも教えてくれないの。たぶん、洗脳系のぶっ壊れ技能を使ったみたい」


 クリスティさんの説明で、年配の女性の警戒色は消えた。さっきまでとも違う色だ。どう思われたんだろう? 


 魔道具メガネの感情サーチは便利なんだけど、色の説明を受けていないから、疑問だらけだよな。


「それは技能を知る者を……あぁ、いえ、何でもありません。魚はたくさん釣れたのですか」


 あっ、急に話が変わった。


「うん、それなりにね。厨房を借りますよ〜。市場で買った野菜を、神官さんが持ってくれてたのに、どこかへ行っちゃったんですぅ」


 ほんとだ。せっかく買った野菜がないじゃないか。


「それは困りましたね。連絡してみましょう」


「じゃあ、私達は、魚を肉にして待ってますぅ」


 魚を肉にする? あぁ、魚をさばくってことか。




 クリスティさんは、笑顔で、厨房へと入っていった。料理はできない人じゃなかったのか? そして、厨房内の子供達と何かを話している。


 僕も、厨房へと向かった。


 クリスティさんは、魔法袋から魚を取り出し、まだ生きている魚の急所をナイフで刺していった。すごい手さばきだ。暗殺者って、やはりナイフの扱いには慣れているんだな。


 そして、一瞬で3枚におろしている。ナイフが早すぎて見えない。


 僕の方をチラッと見て、いたずらっ子のように笑っている。うん? 何かする気?



 彼女は、魚にモクモクとした何かを放った。


 すると、3枚におろされていた魚が、大きな肉の塊に変わっている。ちょ、何? 幻影魔法とか?


「うふふ、種族転換だよー。魔力を持たないモノにしか使えないの。魚を肉に変えたり、その逆くらいしか使えないけど、魚の獲れない山奥では人気のスキルなんだって〜」


「へぇ、驚いたな。魚をさばいてから術をかけるんだね」


「うん? 生きている魚に術を使ったら、厨房内が動物に壊されちゃうじゃない」


「あぁ、なるほど」


 魚をさばいてから術を使ったから、肉の塊になったのか。かなり大きな肉だけど……えっ? クリスティさんは、どんどん肉の塊を出現させている。


 厨房内の子供達は、驚きで言葉を失っているようだ。


「肉だらけになってるよ」


「あー、魚のままのも、まだありますよ〜。ピプラスって、どんな料理にしても美味しいんですぅ」


 僕の知らない白身魚だ。王都では一般的なのかな。あれ? 子供達の顔が引きつってる?


「ピプラス……って」


 誰かがポツリと呟いた。そして、ハッとして口を閉じた。


「王都ではよく食べるのかな?」


 僕は、なるべく優しい口調で、子供達に尋ねた。彼らは、首を横に振っている。高級な魚? でも、池には大量にいたよな。


「猛毒があるから……」


「えっ? そうなの?」


 クリスティさんの方を見ると、彼女は涼しい表情だ。


「毒は、一部の内臓にしかないわよ。それを破ると、その身は食べられなくなるけど、破らなければいいだけよ」


 さばいた魚の内臓や骨が一部に積み上げられている。あれが、猛毒なんだ。


 僕は、薬師の目を使った。うん、確かに小さな丸い臓器の中には、猛毒が詰まっている。あの魚の武器だろうな。敵に襲われると、アレを吐くのか。


 肉の方には、全く毒は含まれていない。さすがクリスティさん、完璧なナイフさばきだ。



「じゃあ、その生ゴミの処分をしないとね」


「臓器を傷つけたら、この毒は空気中に舞ってしまいますよぉ」


 クリスティさんは、挑発的な笑みを浮かべた。僕にはできないと思ってるのか。いや、僕の反応を楽しんでいるのかもしれない。


「少し離れてくれる?」


 僕がそう言うと、子供達は厨房の端へと寄った。厨房から出てはいけないと命じられているのか。


 クリスティさんはニヤニヤしていて、一歩も動かない。僕が失敗したときに、フォローするつもりか。



 僕は、猛毒の臓器の一つから、解毒薬を作った。そして、それを生ゴミにかけて、毒を持つ臓器に染み込ませた。


 これでもう大丈夫だけど、消してしまう方が子供達は安心するか。


 僕は、ヒート魔法を使い、一気に水分をとばした後、火魔法を使った。ボウッと、勢いよく燃えたところに、クリスティさんが何かの術をかぶせた。すると、生ゴミは燃えカスも残さずに、消え去った。


 厨房内には、火魔法を使ったときに出た、魚が焼ける匂いが残っている。乾燥させた魚の骨を焼いたような香ばしい匂いだ。


 キュルキュル〜


 誰かのお腹が、悲鳴をあげているようだ。



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