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255、王都シリウス 〜覇王のぶっ壊れ効果

「それ、いつまで光ってるんですかぁ?」


 クリスティさんにそう言われて、自分の身体を確認すると、確かに僕は淡い光を放っている。


 公園内の泥ネズミが、みんな僕を取り囲んでるんだよね。


 ボケーっとした個体にだけ使ったつもりなのに、勝手に覇王効果で、拡張されている。他の人に従属化されている個体にも、覇王は効くのか。



「そのうち、収まるよ」


「この泥ネズミの大群は、何してるんですかぁ? うぷぷ」


「さぁ? 何をしてるんだろうね」


「洗脳範囲の指定を間違えたんじゃないですかぁ? 命令するまで動かないとか? あははは、ダメもう、笑いが止まらないですぅ」


 クリスティさんは、笑いながらも、釣りを再開している。そんなに笑ってて、釣れるんだろうか。


 軽装の神官は、大量の泥ネズミにビビっている。ネズミは調略に使われるって言ってたっけ。




 ボケーっとした個体に視線を向けると、奴は、キリッと表情を引き締めた。へぇ、そんな顔もできるんだ。


「たくさんの子達が出てきたのは、どうして?」


『あわわわ、主人に選んでいただけるのを待っております』


「選ぶ?」


『は、はい。あわよくば、我にその務めをいただきたいものなのでございますが……あやややや、厚かましい願いを、も、もも申し訳ありません』


 ガチガチだな。あー、覇王で、従属の効果も拡張してしまったから、リーダーが必要なのか。


「でも、既に、主人のいる子もいるよね?」


『は、はい、30体ほど主人のいる者がおりますが、もちろん主人なんかよりも、当然、我々の王に従いま……はわわわ、ではなくて、いや、あの、アレでございます。他の者を選んでいただきた……ではなくて、あひゃひゃ、もも申し訳ございません』


 コイツ、何を言ってんだ? ガチガチすぎて意味不明だ。面白すぎる。


「最初に、キミに術を使ったから、リーダーは、キミでいいんじゃない?」


『うひゃー、な、ななな、なんと!』


 ボケーっとした個体は、なんだか転がってるよ。嬉しすぎて悶絶しているのか? その反面、大量の泥ネズミ達は肩を落としたように見える。気のせいかな。



 突然、泥ネズミ達は、雷に打たれたかのように、ビクッとした。そして、ピーンと直立不動だ。


 クリスティさんが何かしたのかな? 彼女に視線を移すと、魚を釣り上げて魔法袋に入れる作業中だな。軽装の神官は、相変わらず震えている。


 大量の泥ネズミ達は、一斉に僕の顔を見た。なんだか元気になったように見えるけど、何?


 悶絶していた個体が、キリッとした顔をして立ち上がった。


『我が王、いま、同じく王の配下だという方から、とんでもない提案をいただいてしまいましたのでございます!』


 言葉が、なんだか変だよ。通訳がイマイチかな。


「どんな提案?」


『我が王の命令を遂行中に限り、我々を土ネズミから守ってくださるのです。他に主人がいる者でも、我が王の意思に反しなければ、守ってくださるという提案なのでございますです』


「それって、誰かな? 名前を聞いてる?」


『は、はい! お気楽うさぎのブラビィ様でございます。我々に、王の命令をいただきたいと……はわはわ、も、申し訳ございません! 我が王に指示をするような、愚かな発言を……』


 ありゃ、自分で自分にパンチしてるよ。しかし、お気楽うさぎ? 通訳がおかしいのか、奴が本当にそう言ってるのか……。


「そのお気楽うさぎが、そう言えって言ったんでしょ? いちいち、そんなにビビらなくていいから」


『はわわわわ、な、なんというお優しいお言葉……も、もったいのうございますぅぅぅ……うぐぐっ』


 えっ? 泣いてるの? まじかよ。


 その泣き真似みたいなのが、次々と他の泥ネズミ達に伝染していく。ちょ、なんか、僕が、泥ネズミをいじめてるみたいじゃないか。



『ご、ご命令を……い、いただきたく……』


 うーん、どうしようかな。あっ、そうだ。


「ある女性が命を狙われているんだ。その情報をつかんだら、教えてくれるかな? というのは難しい?」


『諜報活動は、わ、我々の得意とする技能でございます。その女性の特徴を教えていただきたいのでございますが……』


 そう言うと、リーダーの個体は、僕の足元でぴょんぴょん跳んでいる。僕の身体に触れたいのか?


 手を差し出すと、僕の手に頭をすり付けている。


『その方を思い浮かべていただくと、我々はわかるのでございますのですが……』


 僕は、神官様の顔を思い浮かべた。もう会えないかもしれないけど、僕は彼女を守りたいんだ。



 すると、少し離れた場所にいた泥ネズミが、ぴょんと飛び上がると、こちらに駆け寄ってきた。


『この方は、主人が、我に調べさせております』


 主人は、アウスレーゼ家か。もしくはベーレン家?


「その主人って……いや、言わなくていい。彼女を殺すつもりみたいなんだ。動きがあれば教えてほしい」


『かしこまりました! 温情に感謝いたします。主人の素性を暴かれると、主人に始末されるところでした。もちろん、必要とあらば、王のご命令を……』


「いや、大丈夫だから。命は大事にしよう、ね?」


『はっ! かしこまりました』


 この個体の方が、賢そうだな。賢い個体だから、神官家は、従属化しているんだよな。



「そういえば、さっきの男達を土ネズミだと言っていたよね? 僕達を捕まえに来たのに、なぜか、奴らは姿を消したんだ。理由はわかる?」


『奴らは、土ネズミでございます。我々の敵にございます! 我々の縄張りであるこの場所に足を踏み入れることは、許しません。ましてや、我が王がいらっしゃるなら、我々は、あんな図体だけが大きな愚か者など、簡単に始末いたします』


 うん? 覇王を使ったら、強くなるの? いや、命をかえりみずに突撃していくのか。この数に連携して襲われたら、武術系を強化した奴らでも厳しいのかもしれない。


 あっ……違う。この光だ。僕の放つ光が、コイツらを強化するのか。頭の中に技能の効果が浮かんできた。覇王を使われた者は、王に危険が及ぶと、王を守る力を与えられる。


 やはり覇王って、めちゃくちゃ危険なぶっ壊れ技能だな。



「ねぇ、泥ネズミと土ネズミって、いつから仲が悪いのかな?」


 泥ネズミ達は、焦り始めた。わからないことを尋ねてしまったのか。リーダーに選んだ個体は、魂が抜けたようにボーっとしている。答えられなかったら、殺されるとでも思ったのだろうか。


「質問を変えるよ。仲が悪くなった原因って、人間かな?」


 あっ、魂が戻ったみたいだ。


『や、奴らは、人間に媚びて、力を得ようとしておりますです! 人間の姿に化けて、強くなった気になっているのでございます』


「数は、わかる?」


 あっ、リーダーの個体は、また魂が抜けた……。


『人間に媚びて人間の姿を得た土ネズミは129体。人間に媚びを売っている最中の土ネズミは、王都の人間くらいの数がいます。我々、泥ネズミは、王都の人間の倍以上います』


 さっきの賢そうな泥ネズミだ。神官家の従属になっているから、数を知っているんだな。


「じゃあ、泥ネズミの方が、王都では優位なんじゃない」


『わ、我々の方が、土ネズミなんかよりも、ずっとずっとずずずーっと、賢いのでございます!』


 リーダーくんが言うと、賢そうに聞こえないけど……まぁ、面白いから、いっか。


「だいたいのことは、わかったよ。ありがとう。じゃあ、みんな、何か情報があったら教えてね」


『御意っ!!!』


 泥ネズミ達は、一斉にどこかへ走り去った。えっと……まさか、調べに行ったんじゃないよね?





「この釣り竿、もらっちゃってもいいですかぁ」


 クリスティさんは、釣り竿を振っている。もう釣りは終わったらしい。


「どうぞ」


「わぁい! 嬉しいな。私が持っている釣り竿って、こんなに魔力を宿してないんですよね〜」


 釣り竿に魔力? 


「泥ネズミ達に、何を命令したんですかぁ?」


「聞いてたんじゃないの?」


「ネズミ語は、理解できないんです〜。光が邪魔で、通訳も効かないし」


 覇王の光か。僕は、普通に話していたのに、チューチューに聞こえたのだろうか。


「ちょっと、調査を頼んだよ」


「泥ネズミって、神官家や貴族が従属にしてるそうですよ。ベーレン家だけは、土ネズミを使ってるみたいですけど」



 すると軽装の神官が、興奮気味に近寄ってきた。何? ちょっとアブナイ人みたいなんだけど。


「さっきの技能は、何ですか。しかも泥ネズミは、ベーレン家を敵視しています。それなのに、あんなに大量に指示に従わせるなんて……」


 僕がベーレン家の人間じゃないと、バレたかな。



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