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254、王都シリウス 〜通訳と従属と覇王

 宿泊所への帰り道、軽装の神官の口数が極端に少なくなった。市場で、ネズミの話をしていたときから、様子がおかしいんだ。


「神官さん、なんだか元気がないですが、どうされましたか?」


「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 全然、大丈夫な雰囲気ではない。チラッとクリスティさんの方を見ると、ニヤニヤしている。彼女が何か、仕掛けたのだろうか?


 うん? 彼女は、さりげなく首を横に振っている。違うのか。でも、それなら、神官さんのこの変化は……。




「神官さん、あの公園って、無料なの?」


 突然、意味不明なことを叫ぶ彼女……。だけど、何か、意味があるのだろう。


「えーっと、無料というのは?」


「神官さんと会った花時計の公園は、管理されてたでしょ?」


「そうですね。大きな公園は、王宮や神官家が管理しています。小さな公園は、その付近の人の憩いの場ですが」


 クリスティさんは、またハイテンションで、ぴょんぴょん飛び跳ねている。


「じゃあ、ちょっと行ってみようよ。食べられる肉があるんじゃない?」


 魚のことを言っているのだろうか。


「小さな池はありますけど」


 彼女は、ふふっと笑い、僕の腕に絡みついている。


「お魚ハンターのスキルありましたよねー?」


 あー、釣り人か。やはり、魚のことを言ってるんだ。


「釣り人のスキルならあるよ。上級だから、たいしたことはできないけど」


「じゃあ、大丈夫ですね〜。食べられそうな魚をたくさん捕まえましょう」


「あの、あまり長い時間、水辺で釣りをしていると、泥ネズミに襲われますよ」


 彼は、なんだか妙に落ち着きがない。


「大丈夫よ。魔獣使いのスキルもありますもんね〜」


 うん? なんだか目配せされている。僕は適当な笑みを浮かべておいた。




 公園の中は、草が伸び放題になっている。近くの住人は、放置しているんだろうな。


「あっ、池があったよー」


 クリスティさんは、ハイテンションだ。一方、軽装の神官さんは、池に近寄ろうとしない。何か苦手なものでもいるのかな。


 僕は、スキル『魔獣使い』の魔獣サーチを使ってみた。うわぁ、うじゃうじゃいる。泥ネズミの巣が、公園の中にいくつもあるのか。


 あれ? サーチした中に、変な個体がいる。あー、誰かの従属になっているのか。従属化不可という意味の印がついている。そんな印のある泥ネズミが、他にもわりといる。


 うっかり誰かの従属を殺してしまうとマズイよな。だけど、なぜ、こんなに泥ネズミを従属化する人がいるんだろう? とりあえず、通訳を使ってみようか。


 僕は、近くで、ボケーっと僕の顔を見ている個体に、スキル『魔獣使い』の通訳を使った。だけど……弾かれる。


 通訳、失敗した!? こんな弱い泥ネズミなのに?



「早く、釣りましょうよ〜」


 クリスティさんは、僕の失敗をクスクス笑ってるんだよな。はぁ、もういいや。


 僕は、近くの折れた枝を拾い、スキル『木工職人』の小物の木工を使って、釣り竿を作った。そして、池に、ポチャッと釣り糸をたらした。


 ここで、スキル『釣り人』の魚群誘導を使って、魚を近くに誘き寄せる。よし、かかった。


 釣り上げてみると、まぁまぁのサイズの白身魚だ。


「わっ、ピプラスだわ。私、これ、好き〜」


「釣ってみる? いま、近くに誘導してあるよ」


「うん! 大物を釣り上げちゃうよ」


 クリスティさんに釣り竿を渡すと、彼女はニコニコしながら、池に釣り糸をたらした。そして、すぐさま釣り上げている。エサなしで釣れるってことは、彼女も、『釣り人』のスキルを持ってるんだな。



「あの、そろそろ……」


「ええ〜? まだ、二匹しか釣ってないよ。いろいろな料理に使うなら、この10倍は欲しい」


 まぁ、それ以上の数は、近寄ってきているからな。


「いや、でも……」


 彼は、泥ネズミの何を恐れているんだろう? だけど、不思議だよな。なぜ、通訳が弾かれたんだろう。何の印もついていない個体に使ったのに……。


 あっ、拡張か。従属化している人が、その効果を他の個体に拡張しているのかもしれない。


 しかし、なぜ……。



「あの、泥ネズミは危険なんです。王都では、一部の人達は、ネズミを使って様々な調略を仕掛けます。もし、お兄さんの素性が知られて狙われると……いや、宿泊所に泥ネズミがいたとおっしゃっていましたが、もう既に危険なんです」


 軽装の神官は、その表情が真っ青だ。心底、恐れているのか。でも、こんな公園で?



 クリスティさんは、気にせず、キャッキャと騒ぎながら、釣りをしている。釣った魚は、魔法袋に入れているようだ。何匹釣ったのかわからない。


 彼は、そんなクリスティさんを睨みながら、僕には訴えるような必死な表情を見せる。なんだか、顔に汗がにじんできている。



「本当に、お願いですから、そろそろ……」


「やだよー。たくさん釣るんだもん」


「じゃあ、貴女は好きにすればいい。お兄さんは……」


 彼は、ピタリと動かなくなった。うん? 何? その視線は、公園の外に向いている。


 クリスティさんは、ニヤッと笑っている。彼女は、何かを待っていたのか。



 公園に、数人の男が入ってきた。目つきが少し変だ。魔道具メガネでは、特に色はついていない。うん? 


 これまでに見たすべての人には、なんらかの色がついていた。だけど、男達にはなぜ?


「魔道具が通用しないレベルの人達ってことね」


 クリスティさんは、僕にだけ聞こえるような、小声でささやいた。ちょ、それって……。



「そこで何をしているのだ?」


 なんだろう。よくわからないけど、僕は、この男達にイラついた。軽装の神官は、可愛そうなくらいビビっている。


「釣りをしています」


 僕は、やわらかな笑みを浮かべて、そう答えた。すると、彼らはなぜか、驚き固まっている。クリスティさんが何かしてるのだろうか? 彼女の方をチラッと見ると、魚を釣り上げ、表情の読めないニヤニヤ顔だ。


「ほう、なぜ、こんな池で?」


「買い物の帰り道に、立ち寄ってみたんです。貴方達は、もしかして公園の管理者ですか?」


「いや、ここは特に管理する者がいないから、こんなに荒れているのだ。池の水も臭いだろう?」


「そうですか。池の水、ですか? 普通、こんなものじゃないんですか。あの、何かご用でしょうか」


「ここで釣りをする権利のない者を、取り締まりに来た。同行してもらおうか」


 なんだか、違和感を感じる。話の流れがおかしくないか? クリスティさんが何かしたのかな。うん? 何かの合図?



「ねぇ、変なネズミがいたよ?」


 彼女は、大きな声で、そんなことを叫んでる。これは、僕にまたスキルを使えと言っている?


「そう? 調べてみるよ」


 僕は、スキル『魔獣使い』の魔獣サーチを使った。大量の泥ネズミと……土ネズミの変異種が5体。


 変異種は、宿泊所にいた魔女三人とは真逆か。知能は人間以下だけど、武術系の力は、測定不能。おそらく、変動タイプだ。つまり、変身すると、めちゃくちゃ強いんだな。


 公園に入ってきた男が5人。


 なるほど、軽装の神官は、彼らのことを知っているんだ。これほど恐れているということは、ベーレン家の味方ではないということか。


 こんな個体を作り出すのは、ベーレン家だ。だが、何者かに奪われたということだよな。


 賭けだけど……やってみようか。


「なんか、弾かれてしまうな〜」


「うん? じゃあ、その洗脳系のヤバイのを使ってみたらどうですかぁ?」


 いや、それを大声で言う? 


 ブワンと何かが起動する音が聞こえた。男達が魔道具を使ったらしい。


 だが、僕の考えとは違うんだよね。



 僕は、さっきから近くでボケーっとしている泥ネズミに、スキル『魔獣使い』の通訳と従属そして覇王を使った。僕の身体から放たれた淡い光が、泥ネズミに吸い込まれた。


『うぎゃぁぁあ、な、な、何でございますかぁあ』


 さすが覇王! 成功率100%!


「この公園に、変わったネズミがいるって、お姉さんが言うんだけど、キミ、知らない?」


『そ、それなら、奴らでございます! 奴らは、土ネズミ! 我々の敵でございます』


「えっ? 土ネズミ? 人間だよ?」


『騙されてはなりません!』


 なんだか、ワラワラと泥ネズミが集まってきた。そして、僕をかばうように、男達との間に立ち、彼らを威嚇するような素振りだ。



「ちょっと、おまえ、何を……」


 男達が焦っている? ジリジリと後退していく。



「あはは、まさか、そっちに使ったんですかぁ? きゃはは、嘘みたい〜。あははは」


 クリスティさんは、思いっきり笑ってる。


 彼女に気を取られた一瞬で、男達は姿を消していた。



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