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252、王都シリウス 〜三人の魔女と魔獣サーチ

「じゃあ、ネズミを探そうか」


 僕は、スキル『魔獣使い』の魔獣サーチを使った。クリスティさんは、ニヤッと笑っている。やはり、これを使わせるためのフリだったんだな。


 部屋の中に、サーチの波動が広がる。


 年配の女性の視線を感じる。僕がいま見た結果を口にしたら、攻撃してくるか。ネズミと言っただけで、敵視されるんだもんな。


「あれ? いないみたいだね。見間違いじゃない?」


 年配の女性以外に、室内に魔獣は居ない。


 魔獣サーチは、スキル『魔獣使い』超級で得られる技能だ。超級だと、特殊な個体のサーチはできない。


 僕は極級だから、見えたんだ。もし見えなかったら、覇王を使おうかとも思ったけど、そうすると、畏怖を与えることになる。僕が、覇王の技能を持つことがバレる方がマズイ。


「えー、絶対に見間違えてないですよぉ」


「じゃあ、逃げちゃったかな」


「むぅう〜」



 年配の女性が近寄ってきた。だけど、感情サーチの光は、先程までのような毒々しい色ではない。僕が彼女をサーチできなかったから、安心したのか。


「あの、お兄さん、室内でのスキル使用は、お控えください。波動を感じる力のある人は、驚きますから」


「あっ、すみません。気をつけますね」


 僕が素直に謝ったことで、彼女はすぐに離れていった。



 しかし、驚いたな。巨大なネズミの魔物から、魔女が作られていたなんて。クリスティさんは知っていたのか。だから、厨房にネズミが〜って言ってたのかな。


 魔獣サーチの結果、年配の女性は、土ネズミの変異種だとわかった。知能を高めることで、すべての魔法を操る力を得ている反面、老いが加速しているようだ。だが寿命は操作されているらしく、通常の人間並みだ。


 年配の女性に見えるけど、まだ生まれてから10年も経過していないようだ。10年ほど前には、ベーレン家はこんなことを始めていたという証拠だな。



 僕が放った波動は、まだ建物内にとどまっている。新たな魔獣のサーチ結果が届いた。


 やはり、土ネズミの変異種。しかも、この個体は洗脳系の能力を持つ。あー、管理人バーバラさんか。食堂にいる女性よりも若いな。生まれて7年ほどか。


 うん? 庭から飛び込んできた魔獣のサーチ結果が届いた。今度は、泥ネズミか。変異種ではなく、普通の個体が数体。


 あっ、生命反応が消えた。誰かが殺したんだ。



「もう、ネズミのことはいいじゃないですかー。紅茶が冷めてしまいますよ〜」


 クリスティさんが、少し大きな声でそう言った。うん? なんだか、違和感だな。


 あー、魔獣サーチの結果がまた届いた。土ネズミの変異種だ。この個体は他の二体より戦闘力が高い。生まれて10年ちょっとか。一番、年上だな。


 食堂の入り口に、神官の制服を着た年配の女性が現れた。毒々しい赤黒い光をまとっているように見える。めちゃくちゃ敵視されている。僕の魔獣サーチに気づいて、怒っているのか。


 食堂を任されている年配の女性が、神官の制服を着た女性と話をしている。僕のことを説明しているのか。



「なんか、あの二人って、似てますねー。双子なのかな」


 クリスティさんが、やはり少し大きな声でそう話した。近くの席にいる人達も、彼女達の方に視線を向けた。


 すると、食堂を任されている女性が、僕に近寄ってきた。神官の制服を着た女性は、食堂の入り口から、僕を睨んでいる。


「あの、さっき使われたサーチ魔法が、まだ建物内に残っているようですが」


「ですよね、どうしてだろう? すぐに消えるはずなのにな。でも、逃げたネズミの情報が、さっき届きました。生命反応が消えたから、駆除されたみたいですね」


 僕は、首を傾げた。狭い範囲に限定したから、持続時間が長いんだろうけど。


「ここに、何か結界が張ってあるんじゃない?」


 クリスティさんが、僕の話に合わせてくれている。盗聴結界があるのか? 彼女は気にせず話しているようだけど。


「お嬢さん、ここには結界などはありませんよ。お兄さんは、厨房だけにサーチを使われたのでしょうね。魔力の高い人が狭い範囲に限定すると、持続時間に変化が現れます。それに、術は、指定範囲には収まっていないようですよ」


 まぁ確かに、一階にまで魔獣サーチは広がっているもんな。二階だけにという高さの指定なんて、できるのかな。


 食堂を任されている女性は、もう僕を敵視していない。だけど、油断はできない。


 僕は、彼女の説明に納得ができないという素振りを演出した。首をひねり、適当な笑みだ。


「ふぅん、貴女は、魔獣サーチに詳しいのね〜。でも、彼が、サーチを失敗したみたいに聞こえる。なんだか、やな感じ〜」


 クリスティさんは、ぷんすか怒っている。


「し、失礼しました」


 年配の女性は、少し慌てたみたいだ。


「いえ、こちらの方こそ、すみません。術の消し方がわからないのですが……そのうち消えると思います。不快に感じられた方にお詫びします」


 僕がそう言うと、年配の女性は、やわらかく微笑んだ。入り口にいる神官の制服を着た女性の敵視も消えた。彼女達は、互いに情報を共有できるのか。もしくは、念話か。


 彼女は、僕達に軽く会釈をして、離れていった。



 術の消し方がわからないと言ったのは、失敗だったかな? 発動した技能の解除って、普通、できるよな。


「神矢で得たばかりのスキルを使ってくれたのに、文句を言われちゃいましたね〜。私がネズミがいたって言ったから……ごめんなさい」


 クリスティさんが謝っている。魔女達に聞かせているんだな。神矢と言うことで超級だと強調した? いや、僕の失言のフォローか。


「大丈夫だから。ありがとう」


 僕は、クリスティさんに微笑んでおいた。すると彼女は、顔を真っ赤にしている。うん? あー、好みの顔に微笑みを向けられると、照れるのかな。


「むぅう〜」


 あれ? 拗ねた? よくわからないけど、芝居の一部か。周りからの視線が気になる。少し敵意も混ざっている。まぁ、僕は、かなりのお騒がせ野郎だもんな。




「ねぇ、王都の観光をしてみたいの。ここには、三日しかいられないでしょ」


 席を立つとクリスティさんが、僕の分の食器も片付けながら、そんな提案をしてきた。手伝いをすれば、ずっと無料で泊まれると言ってたのにな。


 うーむ、あの年配の女性に、何かを聞かせたいのか。三日以内に出て行くと思わせたい? あっ、クリスティさんが笑った。正解か。


「宿代を稼がないといけないんだったね。何か適当に探してみようか」


「うん! 行こっ」


 元気な返事をしてクリスティさんは、僕の腕にしがみついている。僕は、年配の女性に軽く会釈をして、食堂から出ていった。


 厨房を借りる約束は、有効なのだろうか? 一応、食材を調達しようかな。孤児達が飢えているようだし。


 しかし、クリスティさんは奴隷を解放すると言っていたけど……そんなこと、できるのだろうか。




 クリスティさんは、門のすぐ手前で、突然しゃがみ込んだ。何をしてるんだろう? 僕を手招きする。門番も見てるんだけど。


「これ、見て!」


 彼女が指差しているのは、なんでもない草花だ。薬師の目を使ってみても、薬効もない、ただの草花だった。


「うん?」


 ということは、足止めをしたいのか。僕は、彼女に近寄っていった。彼女は、キョロキョロしている。そして、中庭にいた子供も手招きした。


「ねぇ、ぼく、この花、摘んでもいいかな?」


「えっ、ええっと、雑草ですけど」


「ふふっ、ちょっと思い出のある花なの。ねーっ?」


 僕に向けられたキラキラとした笑顔。ふぅん、まぁ、話を合わせておこうか。いや、ここは無愛想でいいのかな?


「もうっ! 忘れちゃったのですかぁ。ひど〜い」


 うん、無愛想で正解だったな。よくわからない架空の物語に合わせる技量は、僕にはない。



「それなら、摘んでもらって大丈夫です」


 中庭の農作業をしている他の子供が、恐る恐る近寄ってきた。彼女が手招きした子供よりも少し大きい。みんな神官の制服を着ているけど、すごく痩せているんだよな。


「やったー。ありがとう!」


 子供達に笑顔を向け、何本かの草花を摘む彼女。暗殺貴族には見えないよな。




「あぁ、よかった。お二人が外出されると聞いて、追いかけようとしていたんですよ」


 教会の方から、見覚えのある男性が駆け寄ってきた。僕達に、この宿泊所を教えてくれた神官か。服装は、軽装だけど。


「あっ、お言葉に甘えて、来ちゃいましたよ〜」


 クリスティさんは、親しげに話している。僕も軽く会釈をしておいた。彼女は、この人を待っていたのかな。



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