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250、王都シリウス 〜暗殺貴族クリスティの策略

「クリスティさん、僕達は、裏の仕事に来たんですよね?」


「そうだよ。面白いほど上手くいってるね」


 はい? 何もまだできてないじゃないか。神官様の暗殺依頼を出した奴らの力を削ぐミッションって、何をすればいいのかさえ、わからないけど。


「ゴミ拾いしかしてませんよ?」


「完璧に潜入できたじゃない。あの魔女でさえ、何も疑ってないわよ」


 潜入? 魔女? 魔導士のこと? この宿泊所に入り込むことが目的だったのかな。ベーレン家の宿泊所だから?


 クリスティさんは、楽しそうに笑ってる。


「魔女は魔女よ。人工的に魔物から作られた、すべての魔法を操る人間もどきね」


「人造人間ってことですか?」


「ふふっ、まぁね。ベーレン家は、神官のジョブを持つ人達も、ほとんどが、頭おかしいのよ」


 まぁ、ベーレン家が異常なのは、僕もよくわかっている。魔女というのは、さっきの管理人バーバラさんのことだろうか。いい人そうだったけどな。



「クリスティさん、僕がモテるって言ってましたけど、そもそも何をしているのか、説明してもらえませんか。意味がわからないです」


 僕がそう言うと、彼女は楽しそうに笑った。ここに防音バリアを張ったのは、説明しようとしてくれているからだよな?


 彼女が言うモテるということは、暗殺しようと狙われるってことだ。なぜそうなる?


 彼女は、ジッと僕の顔を見ている。僕が考えていることをすべて覗いているんだろうけど、距離が近い。


 僕は、少し、後ずさった。



「ふふっ、何がわからないかな?」


 何もかもだけど……。あっ、何人かに、変な顔されたのが気になる。そう考えても、彼女は、僕の顔をジッと見て、ニマニマしている。言葉にしろということか。



「まず、魔道具メガネですけど、認識阻害とサーチなんですよね? 何人かが、メガネを見て、嫌そうな顔をしてたんですけど」


「うん、そうだよ。相手が勝手に誤解してるだけなんだけどね」


「誤解、ですか?」


「うん、ベーレン家の最高技術の魔道具だと勘違いされてるみたいだよ」


 クリスティさんは、少し得意げな表情を浮かべた。勘違いさせるように、彼女が誘導したのか。


「そんな高度な技術を、クリスティさんは持ってるんですか? これってクリスティさんが作ったんですよね」


「私にそんな技術なんか、あるわけないじゃん。簡易の感情サーチと、認識阻害の機能しかないよ。相手が嫌な顔をするのは、サーチをされているとわかるからだよ。ずっと、色がついてるでしょ? 敵視しているかどうかの感情サーチ」


 あー、ずっと、サーチ発動中だから、嫌な顔をするのかな? まぁ、見られたくないよな。


 すると、クリスティさんは、またクスクスと笑う。



「ヴァンさん、ちょっと違うの。相手は誤解してるって言ったでしょ?」


「最高技術の魔道具だと?」


「うん、ベーレン家はね、完全なサーチ妨害と、能力サーチができる魔道具を作れるの。それと勘違いされてるのよ」


「これは、サーチ妨害なんてできませんよね? それに、相手の能力なんて見えませんよ」


「ふふっ、感情サーチしかできないけど、相手は、より高度な能力サーチをされていると感じるの。サーチされているときって、何を探られているかわからないもの」


「はぁ」


 僕は、サーチされていることにも気づかないけど。


「認識阻害は、サーチ妨害と勘違いしやすいの。認識阻害の方法のひとつでね、別の物に見せているんだけど、見せかけの物って、実際とは違う偽物だから、サーチできないでしょ」


 そんなの知らない。


「僕には、話が難しくてわかりません」


 僕がギブアップをすると、クリスティさんは、困った顔をしている。うーむ、話を続けたそうな顔だ。でも、僕の理解の限界は、とっくに超えているんだよな。


 クリスティさんが、とんでもなく賢いことは、よくわかった。だけど、話はさっぱりわからない。



 コホンと咳払いをして、クリスティさんは、口を開いた。


「完全なサーチ妨害と能力サーチが同時にできる魔道具は、ベーレン家の最高技術って言ったよね? ヴァンさんのメガネは、認識阻害メインだから、サーチは、向けられる感情の色分けしかできないんだけど」


「はぁ」


「両方の技術を備えることは、非常に高度すぎて、ベーレン家にしか作れないの。それは絶対に外には出さない。だから、ベーレン家の人間は、ヴァンさんをベーレン家の血筋だと勘違いする」


「へ?」


「メガネをかけたヴァンさんの姿は、ベーレン家の大神官の顔に似せているの。だから、どこかの貴族の家に嫁いだ大神官の直系の子孫だと勘違いしちゃうみたい」


「それで、クリスティさんは、妙にニヤニヤしてたんですか?」


「そんな顔してたっけ?」


「なんだか、楽しくてたまらないみたいな感じでしたよ?」


「ふふっ、だって、その姿は、私の好みの顔にしてあるんだもん。そりゃ、見ているだけで楽しいよ」


「えっ? ちょっと、待ってください」


 魔道具メガネをかけた僕は、ベーレン家の人に見えるのか? ちょ、勘弁してくれ。僕は、鏡を探した。



 洗面所で見つけた鏡に映った僕の姿は、自分とはあまりにもかけ離れた顔をしている。確かに、ベーレン家の大神官様に似ているとも言える。


 そして、何より……とんでもなく美形だ。メガネをかけていることで、すごく賢そうな研究者っぽくも見える。


「クリスティさん、この顔、ちょっと半端ないですね」


「ふふっ、カッコいいでしょう? 一緒にいるとワクワクしちゃう」


「はぁ」


 しかし、やりすぎだろ? 認識阻害で、こんな別人に見えるなんて、初めて聞いた。普通の認識阻害って、見えにくくなったり、見た姿をすぐに忘れたり、だよな?


「魔道具だからね。別の姿に変えてしまう方が、作りやすいの。それに、その方が、着用時の魔力消費が圧倒的に少ないからね」


「そう、ですか」


 ずっと、メガネをかけていなきゃいけないのかな。そのために、消費魔力が節約できるように作られたんだよね。



「僕が、ベーレン家の血筋だと勘違いされるから、モテるってことですか?」


 貴族の家で生まれた神官なら、暗殺対象になるのかな。


「うん? 違うよ。能力サーチをされているのに、ヴァンさんが表情を変えないから、みんな怖がるんだよ」


「はい?」


「自信のある人なら、相手が自分のサーチをしてビビると思ってるでしょ? だけど、ヴァンさんが平然としているから、ヴァンさんの方が強いんだと勘違いするの」


「えっ」


「そして、ヴァンさんのサーチができない。確実に自分より格上だと思うのよね。その魔道具メガネって、私のなんちゃって魔道具の中の最高傑作だよ」


 えーっと、クリスティさんは、僕を、架空のとんでもなく危険なベーレン家の人間に作り上げたってこと? 何のために?



「じゃあ、クリスティさんの謎な行動は?」


「謎な行動?」


「王都のことは詳しいはずなのに、あちこちでいろいろ尋ねたりしてましたよね?」


「あー、あれは、わざと印象付けるためだよ。きっと、もう噂になってる。ヴァンさんのことを探りに来るよ」


「誰がですか?」


「もちろん、ターゲットだよ」


 うん? ターゲットって、神官様の暗殺依頼を出した人達ってこと? いや、まさかね。


「あの依頼はスピカで受注したから、受注者は王都の人間じゃないと考えるでしょ。王都の裏ギルドなら、受注情報は漏れないからね」


「はぁ」


「それから一週間ほど経って、王都に現れた正体不明な男。駆け落ちしたように見せかけて女連れ。そして、その彼に接触したのがベーレン家らしき神官。その指示で、ベーレン家の宿泊所にやってきた男。ふふっ、アウスレーゼ家なら、どう感じるかしら?」


「えっ? 神官様の暗殺依頼って、アウスレーゼ家から出されているんですか」


「当たり前でしょ」


 クリスティさんがなぜか驚いている。当たり前のこと、なのか。


「そ、そんな……」


 神官様が、自分の身内から命を狙われるなんて……。



「でも、これでもう、依頼主は動けないわよ。正体不明な怪しい男に、潰されたくないでしょうからね」


「あっ、だから、上手くいってるって……」


「ええ。この状態でも動く神官家の人間は、私が全部、殺してあげるわ。ふふっ」


 クリスティさんが暗殺しても、架空のベーレン家の男の仕業だと思われるからだ。


 なんだろう……背筋がゾクゾクする。初めてクリスティさんが、暗殺貴族なのだと実感した。



「ついでに、この宿泊所の奴隷も解放しよっか。ここでジッとしてるのも、退屈だもんね」


 クリスティさんは、不敵な笑みを浮かべた。



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