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248、王都シリウス 〜クリスティの魔道具メガネ

 水の都とも呼ばれる王都シリウス。


 今、僕は、クリスティさんと一緒に、王都の街を歩いている。スピカとは違って、静かな街だ。だけど、行き交う人の数は多い。なんだか、初めての王都の空気感に、僕は緊張してしまっている。


 クリスティさんは、王都の暗殺貴族レーモンド家の若き当主だ。この王都には、知り合いが多いはずなのに、誰にも声をかけられていない。


 あっ、認識阻害の技能を使っているのか。


 僕は彼女から、魔道具を渡されている。物々交換で、買わされたという方が正解だろうか。その魔道具は、クリスティさんが作った物らしい。



「ヴァンさん、メガネは?」


「魔法袋にあります」


「そろそろ使わないと、マズイよ」


 僕は魔法袋から、魔道具メガネを取り出し、かけてみた。うーん? 右目はただのガラスのようだけど、左目の方は、変な見え方をする。


「左目が、なんだか気持ち悪いです」


「右目の方は認識阻害で、左目の方はサーチの魔道具。敵視している人がすぐにわかるでしょ」


 ただのガラスじゃなくて、認識阻害の魔道具か。クリスティさんには、僕がわかるのかな。


「ヴァンさん、私が作ったって言ったよね? 自分の魔力の痕跡を見逃すわけないじゃない。左目の違和感は、そのうち慣れてくるよ」


「そうなんですね」


 うん? クリスティさんが認識阻害の技能を使っているなら、なぜ僕には彼女だとわかるんだろう?


「ふふっ、そのメガネを渡したからよ。直接身につけていなくても、装備した魔法袋の中に入れてあれば、私の幻術はレジストできるわよ」


「また、ずっと思考を覗いて……。ほんと、ウチの村の妖精さんにそっくりですよ」


 僕がそう言うと、クリスティさんは嬉しそうにフッと笑った。彼女に反論したりすると、よくこんな顔をする。それだけ、彼女を怖れる人が多いということか。




「着いたよ。まず、表の仕事を受注する。適当に話を合わせてね。その後は宿を探すからね」


「裏の仕事に来たんですよね?」


「ふふっ、そうだよ。だから、表の仕事をするんだよ」


 全然、意味がわからない。クリスティさんは、楽しそうなんだよな。



 彼女は、石造りの大きな建物の扉を開けた。ガランとした部屋には多くの人がいるが、冒険者ギルドではないようだ。


 僕は、彼女の後をついていった。なぜか、やたらと視線を感じる。僕が見られているのか? 田舎者だと思われたかな。でも、認識阻害のメガネをかけているのに?


 左目の方は、僕に視線を向ける人達が、様々な色に光っている。色の説明を受けていないから、どの色が敵視されているのかわからない。



「こんにちは、旅の途中で、資金が厳しくなってしまったんです。短期の仕事はありませんか?」


 クリスティさんは、僕の腕にくっつき、カウンターの男性に声をかけている。旅人の設定なのか?


「商業ギルドか工業ギルドのカードはお持ちですか」


「えーっ、そんなの、家に置いてきてしまったわ」


「それでは、仕事を受けてもらっても、ポイント加算ができません。旅の途中の資金不足でしたら、仕方ないですが」


 カウンターの男性は、僕の方もチラッと見て、彼女に視線を戻した。


「転移屋を利用して、戻られたらいかがですか? 王都には、困った旅人用の無料の転移屋もありますよ」


 すると彼女は、僕の腕をぎゅっと握った。うん? 何をしているのかな。彼女は、首を横にふるふると振っている。


 カウンターの男性が、ふーっと、ため息をついた。


「訳ありですか。駆け落ちか何かですかね。あぁ、返事は不要ですよ。うーん、それなら、少しお待ちください」


 何? 駆け落ち? カウンターの男性は、完全に勘違いしている。いや、クリスティさんが、そう誘導しているのか。


 カウンターから離れた男性が戻るのを待つ間に、ヒソヒソ声が聞こえた。


「あの女、必死ね」


「彼の方は、その気はなさそう」


「あの彼って、かっこいいね。あの女は騙されているんじゃない?」


 どういうこと? クリスティさんにも聞こえているはずだけど、素知らぬフリをしている。



「お待たせしました。王宮公園の花時計の植え替えの仕事です。報酬は低いですが、現地で日払い制になっています。一日で、銅貨50枚ですが、食事付きですよ」


「それがいいわ。二人で受注できるかしら」


「これを持っていってください。現地へは、あの転移屋を使ってください。無料ですから」


「ありがとうございます! じゃ、行きましょう」


 クリスティさんは、嬉しそうに僕の腕にしがみついている。うーん? なんだか、ハイテンションすぎないか?


 僕も、カウンターの男性に軽く会釈をして、部屋の端にいる転移屋へと移動した。クリスティさんが書類を見せると、彼は不機嫌そうに、術を唱えた。




「ふふっ、ツイテルわね」


 転移した場所は、広い公園だった。花時計というのは、花壇のことだろうか。


「綺麗な公園ですね。あの花壇の植え替えかな」


「うん? ヴァンさん、仕事はしないからね」


「いま、受注しましたよね?」


「仕事をするフリだけでいいことになりそうよ。適当に話を合わせてね」


 サボるってこと? 花壇の近くには何人かの人がいる。水やりをしている人もいるけど、ほとんどがボーっとしているか。



 僕達が近寄っていくと、責任者らしき人から声をかけられた。


「花時計のミッションですか」


 なぜわかるんだろう? あっ、クリスティさんが、紙をひらひらさせているからか。


「はい! よろしくお願いします」


 仕事はしないと言っていたクリスティさんが、元気に挨拶をしているよ。


「もう、ほとんど終わったんだよ」


「えーっ! いま、受注してきたばかりなのに、そんなぁ」


「一応、書類を見せてもらえますか」


 ガクリとうなだれるクリスティさんが持っていた書類を、責任者らしき人がひょいと取り上げている。うーむ、クリスティさんって、こんな人だっけ。



「なるほど、事情はわかりました。日当が得られないとお困りになりますね」


 うん? 書類にそんなことが書いてあるのか?


「一人当たり銅貨50枚をくれるって聞いてきたんです」


 クリスティさんは、必死な表情だ。お金には困ってないはずだけど……あ、旅人の設定だっけ。


 責任者らしき人は、僕の方を見て、眉をしかめた。魔道具メガネが、不快なのだろうか。メガネをジッと見ているようにみえる。


「日当は、お支払いしますよ。そうですね〜。公園内のゴミ拾いをお願いできますか」


「はい! もちろん」


 クリスティさんは、大きなカゴを受け取っている。さすがに、僕が持つ方がいいよな。


 僕は、彼女からカゴを取り上げた。すると、クリスティさんは、はにかむような照れ笑いを浮かべている。うーむ、こんな人だっけ。



 カゴを背負って歩く僕の横を、ニコニコしながら、クリスティさんが歩いている。やはり、なんだか違和感があるな。


 しばらく離れると、彼女は、ニコニコをやめた。


「はぁ、ゴミ拾いをしなきゃいけなくなったわね」


「銅貨50枚をもらうには、ゴミ拾いで妥当だと思いますよ」


「そこに座らない? 喉がカラカラなの」


 彼女は、ゴミ拾いをする気はないらしい。木のベンチに腰をおろすと、紅茶のボトルを手に持っている。僕にも差し出されたので、僕もベンチに座った。


 すると、彼女はスッと近寄ってきた。そして、耳元でささやいた。


「話を合わせてね」


「えーっと?」


 今は、誰もいないのに?


 彼女は紅茶を飲んでいる。本当に喉がカラカラだったのか。僕も、少し飲んでおいた。へぇ、美味しい紅茶だな。




「あの、少しよろしいですか?」


 突然、見知らぬ男性に声をかけられた。教会の制服を着ている。ベーレン家の神官だろうか。


「はい、何ですかー」


 クリスティさんは、不思議そうな顔をしている。話を合わせてくれと言っていたのは、これを予知していたのだろうか。


「先程、少しお話が聞こえてしまいましてね。旅の資金が少なくなってお困りのようですね。訳ありな旅のようですが」


 うん? そんなことまで話してたっけ?


「王都に来たら、食べることには困らないかなって……。あっ、今は、あの、ちょっと喉がカラカラになってしまって……サボるつもりはないんです」


 クリスティさんは、必死な顔でいい訳をしている。うーん? 


「わかっていますよ。いま、座ったばかりですもんね」


 そう言われて、彼女はめちゃくちゃ頷いている。こんな人だっけ?


「宿にお困りなら、教会に無料宿泊所がありますよ」


「えっ! 本当ですか! 助かります!」


 クリスティさんは、僕に、無邪気な笑顔を見せた。うーむ、こんな人だっけ?



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