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240、商業の街スピカ 〜ノレアの坊やと天兎

「ヴァン、動けそうなら学長室に来てほしいって。大丈夫? いつまで見てるんだよ」


 僕が、ジョブボードを表示したまま固まっていると、マルクが声をかけてきた。ジョブボードを閉じろと、合図をしてくる。やはりマルクには見えるんだな。でも、見ないように気を遣ってくれてるのか。


 僕は、ジョブボードを閉じた。


 まだ、頭をガーンと殴られたような違和感があって、思わず、うぎゃーって叫びそうになる。ジッとしていられない。なんだか走り出してしまいそうだ。


 やばすぎる……。

 絶対に、やばい。やばすぎる!!



「ヴァン、大丈夫? ジョブボードを確認しただけで、なぜそんなに動揺しているんだよ。まさか、さっきの、黒い兎を堕天使にした技能に、とんでもない呪いでもついていたのか?」


 マルクは、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。


 僕に尋ねるってことは、優しさかな。マルクは、その気になれば、見ることができそうだし。



「マルク、魔獣使いのスキルが上がってたんだ」


「えっ? まさか超級を超えた感じ?」


「うん、極級になってた」


 僕がそう言うと、マルクはホッとしたようだ。僕が、『魔獣使い』極級になってたから、固まってると思ったみたいだ。


「ボックス山脈に出入りする冒険者なら、『魔獣使い』極級は、少なくないよ。そんなに、ビビらなくて大丈夫」


 マルクは、笑顔だ。


 そ、そっか。よかった。覇王って、ぶっ壊れすぎてる技能だと思ったけど、よくあるんだ。


「マルクがそう言ってくれて、ちょっと落ち着いてきた」


「あはは、まぁ、初めての極級ならビビるよな。『魔獣使い』の極級の技能は、族長だろ? ヴァン、それを使えば、ロックドラゴンの族長になれるじゃん」


 えっ……いやいや、そんなことをしようとすると、チビドラゴンに術返しされてしまうだろ。今までずっと親しくしているのに、従属を外されたら……悲しすぎる。



「へぇ、マルクって詳しいんだ。もしかして、マルクも?」


「いや、俺はまだ全然だよ。何か特別なことがないと、極級には上がらないからさ。ただ、ボックス山脈に出入りする貴族の人達からは、『魔獣使い』極級の話をよく聞くんだ」


「そうなんだ。極級ってすごいよな」


「あぁ、特に、狩りで生計を立てる人達には、一番人気だと聞いたことがある。適当な従属を作って、その族長になれば、そいつらが勝手に狩りをしてきてくれるらしい」


「それって、めちゃくちゃ楽ができそう」


「だろ? だから、冒険者をする時間があるんだよ。ジョブ『狩人』や『釣り人』の人達は、これがあれば、遊んで暮らせるらしいよ」


 いいなぁ〜。ずっと自由な時間を過ごせるなら、極級『ハンター』への近道だよな。


 僕の場合は、ジョブ『ソムリエ』だから、そんな裏技的なことはできそうにないけど。





 コンコン!


「マルクです。ヴァン先生も一緒です」


 学長室に着くと、マルクは普通に扉をノックした。しばらくすると、扉がガラッと開かれた。


「ヴァン先生、あぅ……」


 扉を開けてくれたのは、以前の担任の先生だった。彼は、言葉が見つからないらしい。いつも、バカにされてたんだけど、今は僕の顔を真っ直ぐに見られないみたいだ。オドオドした様子が挙動不審すぎる。


 学長先生の近くには、ゼクトさんがいる。ゼクトさんの姿を見つけて、僕は、めちゃくちゃホッとした。


 数人の男性が、ゼクトさんを睨みつけている。はぁ、もう、どうしてそんな目をするんだよ。結界跡を通るなと言っていた保護者もいる。やはり貴族なのだろう。


 だけど、神官様の姿はない。フロリスちゃんと一緒にいるのだろうか。



「ヴァン先生、大丈夫ですか? おかげで多くの命が助かりましたよ。極級ハンターから事情は聞きました。いま、奴らに印をつけられた学生への対処を、アウスレーゼ家の神官様にお願いしています」


 学長先生は、僕が尋ねたいことを教えてくれた。ここに居ると思っていた神官様の姿がないから、僕は、キョロキョロしていたのかもしれない。


 マナを放出するという印だよな。神官様なら、ベーレン家がつけた印を外せるのだろうか。でも、彼女自身が印をつけられてしまうと言って、門から出なかったけど。


「学長先生、僕は、大丈夫です。初めて使った技能に、驚いただけですから」


 そう答えると、学長先生はやわらかな笑みを浮かべた。だけど、なんだか様子が変だな。こんなことが起こったからかもしれないけど、ピリピリしているような……。



 奥の部屋の扉が、ギィ〜っと開いた。


 すると、貴族らしき保護者達が緊張したのか? なんだか、変な空気感だ。



「今回の件は、やはりキミか」


 王宮の神殿教会の制服を着た人達が、ゾロゾロと出てきた。嫌な汗が、僕の背中を流れる。


「ノレア様、ご無沙汰しています」


 僕の形だけの挨拶は、無視された。ノレア様は、表情の読めない顔で、ジッと僕を見ている。おそらく、サーチだよな。


「あの悪霊を手懐けたか。しかも、何てことをしてくれたんだ!」


 僕には、ノレア様の怒りがわからない。


「えっと、お話が見えないのですが……」


「キミは、自分が何をしたか理解できていないのか? 闇の悪霊に乗っ取られてくれたら、まだよかったものを……」


 はい? あー、僕を討伐できるからか。


「ノレア神父、そんなことを言われては、あまりにも彼が可哀想ではないですか。ヴァン先生は、スピカの街を救ってくれたのですよ」


 学長先生が、反論してくれた。だけどノレア様は、その言葉も無視している。



「悪霊は、どこへ隠しているのですか。奴は、キミの命令に、どこまで従う?」


 なんだか、僕が重罪人かのような言い方だ。だけど、こんなに余裕のないノレア様って……。やはり、堕ちた神獣ゲナードに騙されている?


「えっと、それは、僕にもわかりません。初めて使った技能だったので……」


 ノレア様は、額に手を当てて、上を向いた。


 無言の時間が続く……。

 念話でもしているのだろうか。


 ノレア様は、この地に降りたノレア様の息子だ。たぶん、実体を持つ精霊だよな。そういえば、精霊師を集めているって言ってたっけ。その目的って……。



「はぁ、埒があかない。もし、この世界の災いとなるようなら、キミは……」


「おい! 神殿教会の神父が何を言い出す気だ?」


 ゼクトさんが、ノレア様の言葉をさえぎった。ノレア様自身も、ほんの一瞬だけだが、ハッとした表情を浮かべた。



「今日のところは、これで。その子をきちんと指導しておきなさい」


 ノレア様は、学長先生にそう言うと、供の人達と一緒にスッと姿を消した。




「はぁぁ、やっと帰ったか」


 保護者の一人が、近くの椅子に崩れるように座った。学長室内は、一気に緊張が解けたみたいだ。


 僕は、何がなんだかわからない。


「学長先生、あの、僕……」


「ヴァン先生、気にしなくていいですよ。ノレア神父は、認めたくないのでしょう。今回の件は、堕ちた神獣ゲナードの復活を証明する出来事です。あわよくば、闇の悪霊の仕業だったとして片付けたいのだと思いますよ」


 なっ、なんだよ、それ。


「ノレア様がそんな……」


「おい、ヴァン。ノレアの坊やは、崇高な神父ではない。ただのクソガキだ。あんな姿をしているが、精霊の年齢としては、赤ん坊同然だぜ」


「ゼクトさん、そんなことを言っては……」


 そういえば、赤いリボンの神殿守ラフィアさんも、ノレア様のことをノレアの坊やと言っていたっけ。


「事実だ。坊やには荷が重い。ぼくのせいじゃないもんって、泣きわめかないだけ、成長したってもんだ」


「えっ……」


 本当に、お子ちゃまなのか?


「ヴァン先生、気にする必要はありません。ゲナードの復活が証明されたことで、奴が首謀者だと、王宮も理解したでしょう」


「ノレア様が、怒っていたのは……」


「堕天使が、偽神獣を討ったからでしょうね。彼は、精霊がこの世界の守護者であるべきだと考えています」


「堕天使だとマズイのですか?」


「いえ、我々にとっては、変わらないことですよ」


 うん? 学長先生の話の意味がわからない。


「ノレアの坊やは、天兎に負けたくないだけだろ」


 ゼクトさんは、つまらなそうに言い放った。天兎に負けたくない?


「天兎は、弱いですよ?」


「は? ぷぅ太郎は、泣く子も黙るハンターだろ」


「えーっと、でも、この世界では……」


「普通の人間よりは強いぜ。それに何より、神矢のアシストを天使がやってるんだから、序列は天兎の方が上だってことだ」


「なぜ突然、天使の話が出てくるんですか」


「は? 天使は、天兎の成体の一つじゃねぇか」


 えっ!?



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