24、山間の荒野 〜魔石持ちの魔物の毒
僕は今、マルクと一緒に、名もなき村に戻ってきている。そこには、たくさんの冒険者がいた。たぶん、アリアさんの依頼を受けた全員だ。みんな、マルクの転移跡を追ってきたんだ。
ぶどう畑のことは、住人の人達に任せることになった。だから、僕は、条件付きで畑の所有者にされてしまっているけど、妖精さんの声の伝達役だけをすることになったんだ。
「坊や、どこに行っていたんだ? 迷い子になったか、魔物に喰われたかと心配したよ」
「えっ? あー、はい。あの、ここにいた魔物はどうなったんですか?」
「当然、狩ったに決まっているだろう」
「へぇ、すごい」
意地悪そうな笑みを浮かべて、冒険者が僕に声をかけてきた。だけど、マルクがそれに気づくと、彼の表情は固くなった。他の冒険者も似たような反応だ。
やっぱり、マルクのことを、魔術系の貴族だと思っているようだ。確かにマルクは魔術系の貴族で合っているんだけど、名乗ってはいない。
マルクは冒険者に対しては、冷たい視線を向けている。うーん、その理由はわからない。でも、それが貴族らしさなのかもしれないな。マルクは、貴族だとは名乗らないけど、貴族らしく振る舞っているみたいだ。
「坊や、薬師なんだろ? 少しは仕事をしないと、村に戻れないんじゃないか?」
別の冒険者がそんなことを言っている。なんだか、僕達が遊んでいたと思っているようだ。
マルクをチラッと見ると、冷たい目をしていた。舐められちゃいけないと思っているのかな? 畑の小屋の住人には、あんなに柔らかな笑みを浮かべていたのに。
冒険者達は、マルクに話しかけられないから、僕に声をかけているんだな。
「じゃあ、薬草ハンターの皆さんが見つけられた毒薬草の確認をしましょうか?」
「はぁ? 俺が、毒薬草の選別ができていないとでも言うつもりか」
あれ……言葉選びを間違えた? でも、反論してきた人が手に持っているのは、ただの雑草なんだよね。
「おまえ、その手に持っている草は、雑草だぜ? 坊やはそれを見て言ってるんじゃないか」
「はぁ? これは、超薬草だろ。怪しく光っているじゃないか」
「それは、魔物が吐いた毒が付着しているだけだ。そんなもんを持っていると、手から毒が身体に入るぜ。まぁ、解毒薬があるなら好きにすりゃいいけどな」
別の薬草ハンターがそんなことを言っている。確かに、雑草には変な何かが付着している。毒なら手に異変が……あるね。あーあ、もうそろそろ痛みが出るかもしれない。
「ぐぁあぁ、おまえがそんなことを言うから、手がしびれてきたような気がするじゃねぇか」
「ほらよ、解毒薬だ。持ってないんだろう? 銀貨1枚でいいぜ」
高っ! ただの解毒薬が、そんな値段!? とんでもなく、ぼったくりだ。
「くっ、仕方ねーな」
わっ、払ってるよ。めちゃくちゃぼったくりなのに。すごい世界だな。薬を作って持っておけば、どこででも売れるんだ。
「皆さん! ちょっとお話があるんですけど」
マルクがそう言うと、冒険者達はすぐに近寄ってきた。アスト平原でマルクが爆音の魔法を使ったから、ビビってるんだね。今も無口でクールだから、ちょっと怖いし。
魔物ハンターは返り血を浴びて、なんだかすごい状態だ。あれ? ひとり、マズイ人がいる。肩を噛みつかれたのだろうか。出血がひどい。
「マルク、ちょっと待った。ひとり重傷者がいる」
僕が指差すと、本人は何ごともないように手を振った。自覚症状がないのか? あ、マヒしているのかもしれない。
「大丈夫そうだけど?」
「出血に気づいてないのかもしれない。たぶん、マヒしているんだ」
すると、怪我人の背後にまわった冒険者が、叫んだ。
「お、おい! 肩が噛みちぎられているぞ。おまえ、左腕を動かせるか?」
すると、怪我人は、真っ青になっている。ほら、やっぱりね。
「俺は死ぬのか? 俺は……左肩だけじゃなく、右足もおかしい」
僕は、魔法袋から、ぶどうのエリクサーを取り出し、怪我人に渡した。
「死にたくなかったら食べてください。体力は戻るはずです。傷口を見せてもらいますよ」
怪我人は、慌ててぶどうを食べて、ハッとした顔をした。珍しいから驚いたのかな。
「エリクサーか……こんな高価な物を……」
もしかして、支払いを気にしているのかな。別にいらないけど、彼らのルールがわからない。僕は、あいまいな笑みを浮かべておいた。
怪我人の傷口を見たいのに、彼の装備が外せなくてモタモタしていたら、別の人が代わりに外してくれた。やっと、傷口があらわになった。これはひどい。エリクサーを食べたのに、傷口からダラダラと出血している。
おかしいな。エリクサーで怪我は治るはずなんだけどな。
すると、僕の頭の中に知識が浮かんできた。薬師の知識だ。魔石持ちの魔物の毒には、特殊な毒消しが必要、ということか。
「これは、魔石持ちの魔物にやられた毒ですね。ポーションでは治りません。エリクサーでも同じことです」
僕がそう言うと、魔物ハンターの人達の表情が険しくなった。誰もが、彼の死を予感しているかのようだ。
「うわぁあぁーー!」
「おい、騒ぐな。毒のまわりが早くなるぞ。坊や、薬師なら……いや、魔石持ちの毒なんて、上級薬師には厳しいか。誰か、魔石持ちの毒を消せる解毒薬を持ってないか」
だけど、みんな首を横に振っている。
魔石持ちの魔物の毒か……魔物の身体に魔石ができるのは、その魔物が、魔力の高い魔物を喰い、長い時を生きているという証だ。魔力の高い魔物は強い。それを喰う魔物ということだ。
荒野に現れた魔物は、小さな魔石を持っていた。それを倒すマルクにもびっくりだけど……そんな魔物が使う毒か。
普通の毒消し薬では無理だ……毒消し薬に魔力を込めなければ。そのためには、魔力を保つことができる薬草が必要だ。そう、超薬草が……。
「薬草ハンターの皆さん! 集めた薬草を見せてください。素材になりそうなものがあるかもしれません」
そう呼びかけると、渋々だけど魔法袋からこの場に次々と毒薬草が出された。
そうか、毒薬草か、どれもこれも、毒薬を作るためのものばかり。しかも、改良に適していない。ただの毒消し薬なら作れるけど、魔力を蓄える薬草がないんだ。
「毒薬草ばかりだぜ。中には間違えて、ただの雑草も混じっているけどな。ふっ、おまえのは半分以上が雑草じゃねぇか」
解毒薬を銀貨1枚で買っていた、薬草ハンターの持ち物を見て、他のハンター達が鼻で笑っている。ちょ、こんな状況なのに、笑ってるわけ?
あっ、この木の実! これは使えそうだ。魔力を蓄えられる。しかし、他の毒薬草は……。そうだ、僕も畑で毒草を集めていたっけ。魔物が吐いた何かを吸った毒草だ。きっと、この毒との相性がいいはずだ。
僕も、取っておいた毒草を地面に出した。
「何? 雑草じゃないか。薬師のくせに? あはは」
「これは、この村を襲撃した魔物が吐いた何かを吸った毒草なんです。きっと、この人が受けた毒と相性がいいはずです」
「えっ!? そんなものをどこで……」
「川向こうのぶどう畑に、村の生存者がいます。その畑で集めました」
怪我人の肩から流れる血に含まれる毒の成分が『見える』ようだ。これが、薬師の目なのかな。
僕は、スキル『薬師』の改良の技能を使って毒草を薬草に変え、木の実が魔力を蓄えられるようにした。そして調合の技能を使って、彼に効く解毒薬を作った。
よし、できた!
「これを飲んでください」
僕が解毒薬を差し出すと、怪我人を介抱している人が受け取り、彼に飲ませた。毒の状態が悪化して完全に手足がマヒしてしまっているようだ。手遅れか……。
祈るような気持ちで様子をうかがっていると、しばらくして、出血は止まったみたいだ。
「どうですか? あまり自信はないんですけど」
怪我をした人が、ヨロヨロと左手をあげた。マヒして動かせないと言っていたけど、動くようになったんだ。
「おぉお〜! スゲーな、坊や」
「坊やは失礼じゃないか。すごい薬師だ」
「よかったです。この毒草がなかったら無理でした。でも、完全に解毒できたわけじゃないですね」
怪我人は、まだ完治していない。魔石持ちの毒は、まだ半分も分解できていないんだ。超薬草があれば……。
「応急処置だけでも、たいしたものだ。コイツの命を救ったんだ。あとは、冒険者ギルドで魔石持ちの解毒薬を探してもらう。ありがとな」
そう言うと、怪我人を介抱していた人は、彼を連れてスッと消えた。転移の魔道具を使ったんだ。




