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238、商業の街スピカ 〜堕天使ブラビィ

「えっ……嘘だろ?」


「ボックス山脈に封じたという話は、間違いだったのか」


 空に浮かぶ魔法陣から現れた三体のバケモノに、校門付近にいた人達は、震え上がった。


 遠くからも、騒がしい声が聞こえてくる。スピカの街のあちこちから、偽神獣が見えているんだ。



「派手なことをする気だろうとは思っていたが……まさかの偽神獣……特殊な精霊イーターの召喚かよ。狙いは精霊か」


 ゼクトさんは、空を見上げて、苦々しげに呟いた。


 さっき奴は、精霊師二人かと言っていた。僕とマルクのことだよな? 僕達を殺す気?


 あの変な先生を殺して身体を奪った偽神獣の悪霊……水属性の偽神獣は、ガメイ村で傷ついた状態で遭遇し、僕が竜神様の変化へんげを使って、トドメを刺すことができた。


 あのとき僕は、闇属性の偽神獣にも化けたんだよな。水属性の偽神獣の強烈な魅了を解くために……。


 だけど今では、水属性の偽神獣の悪霊は、影の世界の住人でありながら、この世界の姿を持つ。傷つき弱っていたあのときとは、全然違う。



「あのバケモノは、特殊な精霊イーターから創られているから、精霊師は無力です。魔法がどこまで通用するかな」


 マルクは、明るい声を出しているけど、焦っていることが伝わってくる。チラッと僕の顔を見た。やはり、マルクには無理なんだ。ゼクトさんも、険しい表情だ。


「あの三体が、どう動くか、だな。街に散るとスピカが崩壊する。この校庭に降りてくると、この学校が消え去るだろうな」


「まずは、こっちに来るでしょうね。あの男の狙いは、影の世界に干渉できる人間を消すことだろうから」


 ゼクトさんとマルクは、サーチをしながら話しているようだ。その表情に笑みはない。




「はぁ、もう、おまえらには無理なんだよ!」


 天兎のぷぅちゃんが、フロリスちゃんから手を離した。ちょっと、待った! 奴らの真の狙いは、堕ちた神獣ゲナードを傷つけた天兎を探し出すことかもしれないんだ。


「ぷぅちゃんは、出て行っちゃダメだよ。フロリス様を危険にさらす気?」


「は? おまえに何ができる」


「僕のスキルを見たでしょ。ぷぅちゃんと同じく、『道化師』超級だよ。なりきり変化へんげが使える」


「相手は、偽神獣四体だぞ。人間が何を言っているんだよ」


「だけど、奴らの狙いが、ゲナードに傷をつけた天兎を探すことだったら……」


 僕がそう言うと、天兎は動きを止めた。そうだ、きっとそうなんだ。この世界の姿を持つ奴が、精霊師には敵わない偽神獣を召喚したのも、奴らの計画通りだと考える方が自然だ。


「しかし、人間には無理だ……」


 おそらく、天兎には、フロリスちゃんを守りたい気持ちしかないはずだ。それなのに、ここまで頑なに拒むということは……この現状は、彼が湖で見せた本来の姿、ハンターじゃなきゃ太刀打ちできないのか。




「おい、オレを忘れているだろ」


 どこからか、上から目線な声が聞こえた。あっ、僕の足元に、黒い毛玉が転がっている。黒い兎……闇属性の偽神獣の悪霊だ。コイツ、さっきの邪霊の分解の魔法陣で、消えなかったのか。


「黒い兎さん、気配を消しているから、忘れてたよ」


「ふん、精霊師の術で消えるなら、あの男も消えているはずだろ」


「奴は、上空に浮いてたし……」


 黒い兎の登場で、ゼクトさんはニヤッと笑った。天兎のぷぅちゃんは、5歳児の姿には見えないほどの鬼の形相だ。


「オレは、あいつらの上位種だ。なめてんじゃねぇぞ」


「でも、今は、天兎の幼体みたいじゃない」


「ヴァン、オレに名前を付けて、命じろ。従ってやる」


「へ? どういうこと?」


 ぷぅちゃんが何か反論しようとしたのを、ゼクトさんが止めた。


「オレが、おまえの命令で、アイツらを始末してやるって言ってるんだよ」


「ダメだ! 天兎に名前を授けることは……」


「おい、ぷぅ太郎は、黙ってろ。コイツは今は、ヴァンの従属だ。ヴァン、もしかしたら、レア技能が得られるかもしれねぇぞ。選択の余地はない。急げ!」


 ゼクトさんに、ぷぅ太郎と呼ばれた天兎は、プルプルしつつも怒りを必死に抑えているようだ。



 空の魔法陣が消えた。


 火属性の偽神獣が、ぶわっと炎を放った。街のあちこちでは、魔防バリアを発動する光がきらめいている。


 風属性の偽神獣が、その炎をあおり、魔防バリアの一部が破られているようだ。幸い、魔導学校のバリアは無事だ。


 土属性の偽神獣が、こちらを向いた。バリアを破壊する気か。



「ヴァン、迷っている時間はない! 早く名前を授けろ」


 ゼクトさんに怒鳴られ、僕は、現実に引き戻された。天兎に名前を授けると、どうなるんだ? 術返しをされると……。


 いや、そんなことを考えている場合じゃない。


 黒い兎……くろいうさぎ……ブラックラビット。


「黒い兎だから、ブラビィとか?」


「ふん、悪くない。その名を使って、命じろ」


 黒い兎は、ぴょんぴょんと楽しそうに飛び跳ねている。命じろって……あっ。頭の中に、何かが浮かんできた。


 僕は、黒い兎に向かって、右手を向けた。


『ブラビィよ、我が覇王権限にて命ずる。偽神獣四体を殲滅せよ!』


 えっ? 念話?


 僕の身体が、強く白く輝き始めた。僕の右手から黒い兎に向かって、強い光が放たれる。


 強い光に包まれた黒い兎は、どんどん大きくなっていく。それと同時に、白い光は次々と色を変え、そして黒い光に変わった。


 えっ、黒い光って、大丈夫か。それに覇王権限って、何?



 光が収まると、そこには人間のような姿の何かがいた。背中には、黒い羽がついている?


「御意!」


 その何かは、膝をつき、僕に敬意を表するような仕草をしている。



 彼が、顔を上げた。ニヤッと笑ったその表情は、めちゃくちゃ美形だけど、確かに、黒い兎の目つきだ。しかし、この姿は……。


 奴らが、気づいた。考えるのは、後だ。



『ブラビィ、行け!』


 また、念話?


 すると、彼は立ち上がり、一瞬で空に昇った。黒い大きな翼を広げた姿は、まるで……。



 黒い兎ブラビィは、真っ黒な何かを放った。すると、空が闇に覆われている。ま、まずくないか?


 偽神獣三体は、その何かに捕らわれて、動けないようだ。三体を召喚した奴が、何かを叫んでいる。声は聞こえない。だが明らかに、奴らは動揺している。


 いつの間にか、ブラビィの手には巨大な弓が握られている。湖で、天兎のぷぅちゃんが使った物とは違う。妖しく黒銀色に輝いている。


 そして……。



 シュッ!! 

 シュッ、シュッ、シュッ、シュッ!



 ギャァアアア〜



 天が震えるほどの断末魔を残し、偽神獣三体は、弓に射られて、弾け飛んだ。す、凄すぎる……な、何? これって、まさか僕が、厄災級のバケモノを創り出してしまったのか。



 スーッと、空が明るくなった。



 黒い兎ブラビィは、しばらくどこかを眺めていたが、首を横に振り、ゆっくりと戻ってきた。


 その姿は、まるで……。



「……堕天使だ!」


 見ていた誰かが叫んだ。



 ブラビィは着地の際に、翼をパサッと、はためかしている。何かを確認している? まさか、自分の姿の確認か。



「ヴァン、三体は消滅したが、人型は逃げられた。アイツ、妙な魅了を使って、オレの拘束を外しやがったんだ」


「そ、そっか……黒い兎さんだよね?」


「は? おまえ、オレに名前を授けたのを忘れたのか? オレは、ブラビィ。どうやら、堕天使の役割を得たみたいだ」


「その姿って、変えられないの?」


「は? まさか。そもそも天兎じゃねぇからな。天兎のルールには縛られねぇ」


「じゃ、目立たない姿に変わってよ。めちゃくちゃ見られてる。というより、めちゃくちゃ、みんなが怯えてる」


「命令か?」


「うん、命令」


 そう答えると、ブラビィは、大げさなため息をついた。


「御意!」


 そして、スーッと小さくなっていき、姿が消えた。いや、消えてないな。僕の腰にくっついて、アクセサリーのフリをしている。


 だが、まわりから見れば、堕天使は消えたように見えただろう。


「ブラビィ、ありがとね」


「あぁ、いや、取り逃がして悪かった。オレ、生まれたばかりだったからさー」


 言い訳をしてる? 


「それは、仕方ないよ。でも、なぜそんな姿に……」



 すると、ゼクトさんがニヤニヤしながら、口を開いた。


「ヴァン、おまえにも、天兎の使用人ができたな。黒い天兎は、気を抜くと裏切るから、気をつけろよ」


「ええっ!? 使用人? でも、堕天使みたいな姿で……」


「堕天使だな。クック、おまえ、ますます怖いぞ」


「なぜ、こんな……」


「自分の力量を超える従属に、名前を授けたからだ。それを奴は受け入れた。だから、新たな技能を得ただろう?」



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