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234、商業の街スピカ 〜人質事件について

 僕はマルクと共に、学長室へと移動した。さっきマルクが突然、バーベキューの話をしたのは、学長先生からの念話による指示だったらしい。


 新人のケビン先生は、数人の学年制の学生と一緒に、式の会場となった建物に入ってきた。僕達と交代で、会場内の新入生や保護者のお世話かな。学生を連れてきたということは、先輩の話などで時間を潰すつもりだろう。




「マルクです。ヴァン先生も一緒です」


 マルクは扉をノックもしないで、いきなり大きな声を出した。すると、次の瞬間、僕達は学長室の中に移動していた。びっくりした。ワープかな。



 室内には、数人の先生と保護者らしき人が何人かいる。あっ、神官様もいた。彼女は、僕達の方に一瞬だけ目を向けたが、そのままスルーされた。数人の保護者らしき人達と、何か話し込んでいるようだ。


 さらに、映像を映す魔道具が何台も起動している。扉あたりにも魔道具が置かれているから、扉は封鎖中か。それに、結界か何かが張られているようだ。だから、マルクは叫んでいたのか。


 映像は、スピカにある他の学校と繋がっているようだ。こんな設備があるなんて驚きだ。



「ヴァン先生、楽しいショーでしたね」


 いきなり、学長先生にそんなことを言われても、僕は返す言葉が浮かばない。


「えっと……見られていたので?」


 当たり前だ。見ていたから、そうおっしゃっている。頭の中が真っ白になって、変なことを言ったと後悔した。


「すべての教室にも、中継しましたよ。画面を通して見ても、笑顔になれました。ヴァン先生の『道化師』のスキルは高そうですね」


「いや、はい、まぁ、はぁ。各教室に中継されているなんて、知らなくて……」


 しどろもどろだ。こういう突然の何かって、僕は対応できない。ポーカーフェイスを使おうか。はぁ、マルクがニヤニヤと笑ってるんだよね。



「ヴァンさん、ウチも学生に中継しましたよ」


 魔道具の映像から話しかけられた? キョロキョロしていると、手を振る人を見つけた。うわっ、武術学校の学長ブラウン先生じゃないか。


 剣聖と呼ばれる彼には、魔物学の実習の学生が戻って来なかったとき、ボックス山脈に同行してもらったんだよな。


「ええっ? ブラウン先生、お久しぶりです」


 僕は、画面に向かって頭を下げたが、マルクに頭の向きを変えられた。あー、この黒い球体に向かって話すのか。


「あはは、キミ達は、ほんと面白いな。ウチの学校にスカウトしたいよ」


 僕は、あいまいな笑みを浮かべておいた。学長室内は、いま、こんな話をしていられるような雰囲気ではない。



「マルク先生には念話で話したが、ヴァン先生は、ショータイム中だったので、状況を説明しますね。先程の、王宮からの映像が届かなかった学校の先生方も聞いてください」


 学長先生はそう言うと、黒い球体に向かって話を始めた。




「スピカの学校を人質にしたと、王宮の神殿教会に念話が届いたそうです。ボックス山脈の王都専用地区付近にできた妙な施設を、王宮が爆破したことへの報復でしょう」


 湖の中にあったレピュールの隠れ拠点? 王宮が、排除したんだ。


 マルクの方を見ると、頷いている。人間や魔物のスキルを集める精霊イーターが生まれる施設だよな。レピュールじゃなくて、堕ちた神獣ゲナードが創っていたのかもしれないけど。


「奴らが、異常な精霊信仰者の集団に見せかけていることはわかっています。ですが上層部の行動は、それとは矛盾したものです」


 だよね。精霊を信仰しているなら、精霊イーターなんて創り出さない。多くの精霊や妖精を犠牲にして、偽神獣なんて、創るわけがない。


「神殿教会のノレア様は、レピュールという冒険者パーティの一部の者、ベーレン家に生まれた神官のジョブを持たない者達の反乱だとおっしゃっています」


 あ、ノレア様も騙されているんじゃなかったっけ。赤いリボンの獣人、神殿守のラフィアさんが、そう言っていたよな。


「神官のジョブを得られなかった彼らは、この世界に不満を持つようになった。影の世界に関わることのできる闇の精霊が、彼らをそそのかし、精霊が支配するこの世界を終わらせようとしているのではないかと、ノレア様は危惧されています」


 やはり、ノレア様は、騙されている。


 すべての闇の精霊は、この世界と影の世界とを隔てる番人だと、神殿守のラフィアさんは言っていた。堕ちた神獣ゲナードは、闇の精霊を排除し、この世界を支配したいんだ。



「しかし、今回の彼らの要求は、なんだかおかしい。やり方があまりにも幼稚だ。おそらく、奴らの施設を王宮が爆破したことにより、首謀者の怒りを買ったのではないか……。だから焦って挽回しようとして、こんな成功するはずのない人質をとったのだろうと、ノレア様がおっしゃいました。王宮が、三日以内になんとかすると約束してくださいましたよ」


 確かに、弱っているゲナードの怒りを買ったのかもしれない。だけど、焦った結果の愚策ではない。きっと、何か意味がある。



 学長先生は、黒い球体に向かって話していたが、僕の方を振り返った。話はこれで終了なのか。



「ヴァン先生、どう考えますか? 今日は、スピカのすべての学校の入学式です。王都からも、貴族の子供達が大勢スピカに来ています。だから、スピカのすべての学校に拘束結界を張ることで、大勢の有力な家の子供達が人質になっています」


 学長室にいた、他の保護者の人達の視線が僕に向いた。神官様も、僕をジッと見ている。


 マルクの方をチラッと見ると、力強く頷いてくれた。神殿守ラフィアさんの話は、きっと学長先生も知っているんだ。だよな、マルクがそんな大切な話を、お爺様にしないわけがない。



「僕は、言葉を選んで話す必要がありますか?」


 学長先生にそう尋ねると、やわらかな笑みを向けられた。


「ヴァン先生、不思議な神殿守の話は、学長会議で情報共有しています。堕ちた神獣が元凶なら、奴が狙うのは、影の世界に出入りできる者の命でしょう。学生の中に、その力を持つ者は、数人いるだろうと考えられます。ですがノレア様は、なぜか、堕ちた神獣は消滅したと主張されていますが……」


 騙されているからだよね?



 すると、神官様が口を開いた。


「堕ちた神獣ゲナードが復活しているなら、それは、ノレア様の責任問題になりますわ。奴を消滅させたのは、天から降りた精霊達ですから」


 そして彼女は、僕の方をチラッと見た。いや、僕の腰についている黒い毛玉を確認したのか。神官様も、ぷぅちゃんのことを聞いているだろう。この黒い毛玉の正体も。


「ヴァン、どうするの? 結界を外して人質を解放することは、王宮の軍隊なら、簡単なことよ」


 そう言いつつ、彼女は片眉をあげた。これは、王宮が動く前に解決しろと言っているよな。僕とマルクが、このタイミングでここに呼ばれたということは、学長先生達も同じ考えか。



 僕は、学長先生の方を向いた。


「僕は、これには、別の仕掛けがあると思います。結界を破ると、何かが作動して……戦乱の引き金になる。奴らは、だから、街を戦火で焼くのかと言っていたんだと思うのです」


「ほう、ヴァン先生の意見は、ここに集まる方達の中では、少数派の意見ですね。ノレア様は、焦った下っ端の愚策だとおっしゃっていましたよ」


 なるほど、学長先生は、僕と同じ考えなんだな。だけどノレア様の言葉があるから、立場上、動けないんだ。


 マルクをチラッと見ると、悪い顔をしている。ぶっ潰してやろうぜ、と言っているかのようだ。


「堕ちた神獣がどう関わるかは、わかりません。首謀者が、この人質事件を知らない可能性もあります。だけど、影の世界に影響を持つ者をあぶりだすことが目的かもしれません」


 すると、学長先生は意外そうな顔をした。天兎に力を使わせる気だったのか? フロリスちゃんに危険が及ぶじゃないか。


「闇の精霊や妖精は、使わないと?」


 僕とマルクに、精霊師として動けってことか。


「レピュールが特殊な精霊イーターから生み出した偽神獣には、精霊は無力ですよ」


「それなら、問題はありませんよ。生き残りの三体の神獣は、ボックス山脈の結界から出ることができません。水属性の神獣は、影の世界の悪霊となったようですがね」


 三体とも、ボックス山脈にいるのか。じゃあ、ボックス山脈の結界からは、出られないな。


 うん? ボックス山脈にいた精霊ブリリアント様を、他の場所に召喚できたけど……。



「じゃあ、僕達にお任せください。マルクと一緒に何とかしてみます」



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