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225、ボックス山脈 〜神殿守ラフィアの話

「えっ!? ぷぅちゃんが獣人?」


 フロリスちゃんは、思わず大声を出したことに気づき、慌てて、口を手で押さえている。少女の腕の中にいる天兎は、やはり、知らんぷりをしているが……。


「そうです。天兎は、ほとんどが幼体のまま繁殖し死んでいきますが、ある条件を満たすと成体になります。成体となった天兎は、獣人の姿となるのです」


 耳に赤いリボンをつけた獣人ラフィアさんは、フロリスちゃんにそう説明した。少女は目を見開き、腕の中の天兎と彼女を見比べている。


 ラフィアさんは、天兎が天の導きのジョブを持つ者に仕えることは、話さないんだな。まだフロリスちゃんは、七歳だ。ジョブの印が現れていないから、話せないのか。



「ぷぅちゃんも、お姉さんみたいに可愛いのかな」


「ふふっ、獣人となった天兎は、通常時は人間より背が低いですからね。使命を持つ者には、別の姿があるのですが」


 さっき湖で、奴が人化したとき、背は高かった。見た目も、僕より年上の人間に見えたよな。白い髪で性別不明な超美形だった。


 そうか、ぷぅちゃんは、使命を持つということか。あの堕ちた神獣に対する攻撃力は、凄まじかった。


 僕がリースリング村で化けた神獣人アマピュラスも、天兎だ。あれは、人型じゃなくて、全身が真っ白な毛で覆われた獣だけどな。


 一体、天兎って……。


 そういえば、耳に赤いリボンをつけた獣人ラフィアさんも、髪は白い。白い髪の天兎には、使命があるのだろうか。他の獣人は、茶髪が多いような気がする。ゼクトさんの荷物置き場にいた天兎はどうだっけ? もう覚えてないな。


 チビドラゴンが、白い人が呼んでいると言っていたのは、ラフィアさんのことか。



「ぷぅちゃんが獣人になったら、お話できる?」


「ええ、私と同じように、話せますよ」


「わぁっ! ぷぅちゃんと話したい!」


 フロリスちゃんが、腕の中の天兎に、そう言うと……奴は、輝き始めた。そして、ふわりと浮かび、少女の背後に立った。


 さっきの湖で見せた姿だ。めちゃくちゃ美形だよな。


「えっ? ぷぅちゃんって、男の人?」


 フロリスちゃんがそう尋ねると、天兎は慌てている。


「それが彼の本来の姿ね。フロリス様には、獣人の姿の方が好まれるかしら」


 赤いリボンの獣人ラフィアさんがそう言うと、彼は姿を変えた。獣人の姿だけど、他の個体よりも大きい。フロリスちゃんのイメージとは違ったのか、少女は首を傾げている。


「オレ、かわいくないだろ」


「ぷぅちゃん?」


「あぁ、そうだ」


「なんか、おっきいね」


 フロリスちゃんの一言に、ショックを受けたのか、奴は顔をひきつらせている。かわいいペットでいたいのかな。



 奴は、僕にジト目を向け……ハッと何かに気づいたようだ。うん? 視線の先には、さっきの黒い兎がいる。


「おまえが従属にするから、神殿にまで、悪霊がついてきやがったじゃねぇか」


 悪霊?


 すると、ラフィアさんは、やわらかく微笑み、口を開いた。


「さっき、確認しましたよ。ここにいる全員がフロリス様の味方だとね。その子も、味方だと誓いましたよ」


「人間が創り出した失敗獣が、フロリスちゃんの味方だと?」


 うん? 失敗獣? もしかして……。


 僕は、マルクの方を見ると、マルクもハッとした顔をしている。この黒い兎は、堕ちた神獣ゲナードから僕達を守ってくれた、黒い何かの残骸から生まれたよね?


「ぷぅちゃん、もしかして、この黒い兎って……闇属性の偽神獣だった悪霊?」


「おまえに、ぷぅちゃんと呼ぶ許可は与えていないが」


 はい? 何、それ。あっ……僕が、狩りで捕まえたから、怒っているのか。あー、当たりっぽい。まぁ、殺そうとしたもんな。天兎には、僕の考えが完全に見えるみたいだ。


「ぷぅちゃん、ヴァンをいじめちゃダメだよ」


「なっ!? わ、わかった」


 フロリスちゃんに叱られて、しゅんとしている。だけど兎の姿じゃないから、彼女の腕に飛び込むこともできない。少女の後ろに立っているけど、居心地が悪そうだな。



 黒い兎が、天兎を挑発するかのように笑っている。


 コイツ、性格悪いな。闇属性の偽神獣だった悪霊か……。そういえば、コイツは僕を乗っ取りたいんじゃなかったのか。あっ、だから、天兎は、毛玉に押し込めたのか。


「ヴァン、それは違う。オレがこの悪霊に身体を与えたのは、フロリスちゃんを守るためだ」


 獣人の姿のぷぅちゃんは、真面目な顔で、そう言った。身体を与えた? ぷぅちゃんって一体……。


「キミは、悪霊に身体を与える力があるの?」


「ふん、オレは、ハンターだからな」


「えっ? ハンター?」


 ちょ、何それ、羨ましいんだけど。そう思っていると、奴はニヤッと笑った。ぷぅちゃんも性格悪いよね。




 赤いリボンのラフィアさんが口を開いた。


「ここにいる皆さんにお話しておきたいことがあります。聞いていただけますか」


 僕達は、静かに頷いた。アラン様がめちゃくちゃワクワクしている。逆に、マルクは険しい表情だ。



「私に与えられた使命は、神殿守です。あちこちにある神殿には、神殿守がいます。使命を持たない獣人が、神殿守を支えています」


 僕は、まわりを見回した。たくさんの獣人の姿の天兎がいる。神殿守の使用人という感じかな。


「地上には、多くの使命を持つ天兎が、人間社会の中で暮らしています。その者達から、私達は情報を得て、神に伝えているのです」


 えっ? 天兎って神様の情報網?


「いま、ご存知のように、この世界の影の住人が、この世界を潰そうとしています。影の世界がこの世界を、のみ込むつもりなのです」


 はい? そんなこと、知らない。


「あっ、ご存知ない方もいらっしゃるようですね。影の世界というのは、この世界の住人が異界と呼ぶ世界の一つです。この世界で生まれ変わることのできない者が棲む、影の世界なのです」


 異界の番人がいる世界か。


「影の世界の者は、この世界での姿を持たないはずでした。ですが、堕ちた神獣ゲナードによって、大きく歪められてしまったのです」


 確かに、アイツは、普通の人の姿をしていた。


「影の世界の者には、ほとんどの精霊の力は及びません。そこで、私達、天兎がそれに対応するしかない。いま、この世界でいびつな大量の精霊イーターが作り出されています。あれは、この世界を潰す兵器です」


 あの精霊イーターは、魔物も人間も喰うもんな。スキルを奪いたいみたいだけど……。


 精霊は、影の世界の住人に負ける? 影の世界って……堕ちた神獣が棲む世界なら、悪霊だらけなのかな。


 すると、赤いリボンのラフィアさんは、僕の方を向いた。僕の考えが、話の邪魔をしてしまったか。


「ヴァンさん、貴方が契約する不思議な妖精は、影の世界にも影響力があります。だから、ノレアの坊やは、恐れているのでしょうね」


「ラフィアさん、すみません。話の邪魔をしてしまいました」


 彼女は、やわらかく微笑んだ。許してくれたのかな。



「皆さんの考えの誤りを、少し整理させてもらいます」


 そう言うと、彼女は、僕達の顔をグルリと見回した。マルクとテトさんは驚きの表情だ。マーサさんは首を傾げている。アラン様は頷いた。何かの思念伝達だろうか。


 僕には、何も届いていない気がする。



「私達は、この世界を維持しなければなりません。ノレアの坊やは勘違いをしている。堕ちた神獣ゲナードの策略にハマっているのです」


 ノレア様が騙されている?


「すべての闇の精霊は、この世界と影の世界とを隔てる番人でもあります。ノレアの坊やは、闇の精霊が人間をそそのかし、精霊が支配する世界を終わらせようとしていると考えています。すべては、ゲナードの策略です。再び、この地を戦乱に向かわせようとしている」


 元凶は、堕ちた神獣ゲナード?


「ゲナードは、神官家のベーレン家の不安を煽り、その技術を利用して、下僕となる神獣を創らせています。そこにいる黒い兎も、そうやって創り出されたモノでしたね」


 神官のジョブを持たないベーレン家を操っているのが、ゲナードってこと?


 彼女は、軽く頷いた。そんな黒幕に、あんな傷を負わせるぷぅちゃんって……。


「そこに立つ彼は、ハンター。影の世界の住人に対しては、絶対的な力を持ちます。そして、影の世界の住人を眷属けんぞく化することができる。その黒い兎は、彼の眷属としての姿ですが……」


 えっ? なぜか、みんなの視線が僕に……。


「ヴァンさんが、従属にしたことによって、貴方に支配権が移動したようです。従属関係が消えると、彼の眷属に戻りますが」


 黒い兎は、だから喜んでいたのか。



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